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外はさっき感じた日光の通り、とても柔らかい温かみを自分の肌に伝えた。私のアパートは何処にでもありそうな風体で、各階に一本通路があり、5部屋ぐらいが横並びになっている形のものでそれが二階建てになっていた。私はすぐに右手の方にある階段へと向かう。風が何となしに吹く。しかしやはり寒くはなく、温暖な春の歓びをパーカーを伝って身体に伝わってくる。階段を降りると、私は少し何処へ行こうか迷った。市街地まで出るか、それとも近所の街並みを通るかで一瞬どうしようか考えた。自分の住んでいるところは一応は東京であるが、田舎の方である。かといって市街地まで出ると、人混みに巻き込まれて鬱々な気分になるのは目に見えたので、近所を歩くことに決めた。田舎の東京も別段悪いものでも無いなと歩きながら思っていた。自分が一歩踏み出すたび、新たな自然が見えてくる。梅の花は咲きほころび、桜もちらほら芽が吹き始めている。
「おぅ散歩かいねぇ」
こうして自然を堪能していると、突然誰からか話しかけられた。今まで意識は自然の方に向けられており、自然の裏に人間がいるとはまるで気づかなかったのだ。人間が自然の裏から出てくると、私にも正体が分かり胸の鼓動は和らいだ。
「こんにちは、相変わらずお元気ですね」
「そりゃあ、おめぇさん。寝たきりなんかにはなりたくねぇからのぅ。こうやって毎日動いてないとな」
このおじいさんは、僕が東京に来て間もない頃道に迷って困っている私を助けてくれた、いわば命の恩人だ。こうやって時々散歩しているとよく庭いじりをしている所に遭遇することが多い。
「そりゃあ結構なことです。でも無理はしないでくださいね」
「はは、心配ご無用だ」
続く