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事故の件を  作者: あこう
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第一章 2


此事は初めてではない。以前から悪夢らしきものは見ていた。誰かに襲われ殺される夢、手術される時意識がある夢など目覚めた時には汗だくであるようなそんなものを見ていた。医者は詳しくはわからないと言った、多分精神的なストレスによるものだろうと睡眠薬を処方された。自分自身そんな医者にも原因が分からない夢は最初の内は嫌で嫌でしょうがなかったが、もう半年も過ぎると慣れてしまったようだ。勿論見ない日もあれば楽しい夢の日もあったので、最近では殆ど気にしていなかった。しかし、家族とのいざかいの夢など初めてだった上に、壁まで壊してしまってはと自分でもおかしくなったんじゃないのかと苦笑していた。そうして自分の住むアパートの部屋の壁をダンボールで応急処置的に塞ぐと、少し昨日の夢について考えたくなった。何であんな夢をみたんだろうか。自分自身家族とのいざかいは無いとは言わないが、殴り合いになるような酷いことはしたことはないし、虐待もされていない。夢のなかのように、本当に答えに出口が無い。そうして考え込んでいると机の上の携帯が振動し音をたてた。そこで私ははっとし、しまったと感じながら電話に出た。

「もしもし、えーと…バイト忘れてないかい?」

やはりそうだったのだ。今日は仕事のシフトが入っていたのがすっかり頭の中から抜けていた。

「すいません、すっかり忘れていました」

「どうしたんだ、君らしくもない」

「寝坊してしまいまして、今からでもシフトをずらして行きましょうか」

変な夢を見たので考え込んでいました、などと到底言えるわけもなかった。誰が信じようか。しかしあからさまな嘘を付くのは何だか気が引ける。寝坊というのも嘘ではないだろう。

「いや今日はもういいよ。普段勉強とバイトばっかりで疲れが溜まっていたんだろう。ゆっくり休みなさい」

この店長は本当に優しい人だと思いながら感謝を言い電話を切る。ついでに時計を見ると、もう二時が来ようとしていた。我ながら情けない、変な夢で寝坊し、挙句の果てそれについて考察しバイトをすっぽかすとは何とひどい。しかしイレギュラーとはいいせっかく休みを貰ったので、何か有意義に使おう。そう思い、進み具合の悪い英語の勉強でもやろうかと思った時、インターホンが鳴った。立て続けに2回。今日は何だか自分のペースが世界の歯車とかみ合っていないような気がした。ドアを開けると、郵便配達員であった。速達ですと言い茶封筒を手渡す。そうして頭を下げると、帰っていった。自分はドアを締め、玄関に行った際に付いた足のゴミをもう片方の足で落としながらベッドに戻ると茶封筒を見ているとその手紙は実家からであった。ベッドに座り、封筒の上端を千切り手紙を取り出すと、三つ折りにされた手紙が二枚ほど入っていた。中身の内容は、どうにも私の高校のことと一度実家に帰ってこいということだった。昨日の夢と照らし合わせ、母の身に何かあったのではと焦ったが、手紙には母親が倒れたとか危篤であるとかなどの内容は無く、むしろその手紙自体母親のものであったので、正夢などといった事を一瞬でも信じた自分に呆れた。そうして手紙を読み終えると、ベッドから降りカーテンを開けて日の光を浴びた。目の前には桜の木があったがまだまだ咲いていない様子でハゲ坊主であった。しかし、日の光は暖かくもうすぐ春だなと感じた。昨日の夜はうんと冷えて布団が二枚で無かったら風邪を引くのではないのかと思うくらいであったので、春の訪れに少し胸が踊った。このイレギュラーな休暇の有意義な使い方を見出した私は、服を着替え始めた。普段は適当な部屋着で殆ど一日を過ごすことが多いし、自分もインドアの方が好きであった。しかし今日は少し違った。悪夢を見て、バイトをすっぽかし、勉強をしようと思ったら親から手紙が届く、こんな日は散歩にでも出かけた方が何だか少しでもより安全に快適に過ごせると感じたのだと言うのは良い格好の建前で、勉強から逃げたかっただけなのかもしれない。そうして私は靴を履き、ドアを開けた。

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