青春
連作
――――声が聞こえる。
澄み切っていて、なのに妙に力強い声が。
誰よりも聞きなれた声が。
誰よりも聞いてきた声が。
――――またか。
この声は、きっと俺を呼んでいて。
この声は、きっと俺を責めていて。
この声は、きっと俺にしか止められない。
自惚れかもしれない。
勘違いかもしれない。
願望、かもしれない。
でも、行かないとな。
吐息が漏れる。
ずっと、ずっと待たせていたけれども、覚悟を、決めた。
無理なんてさせない。
無理なんてしない。
ただ、零れ落ちた幸せを、届けに行こう。
――――――――――――――――――――――――――
「君はもっと強い女性だと思っていた」
何が強い女性だ。そんなの、おまえが勝手に受けた印象じゃないか。私だって人間なんだ、女なんだ。
強い訳ないじゃないか。
「もっと頼って欲しかった」
なんだよ。 強い女性じゃだめなのか。私がどれだけ無理したと思っているんだ。頼りたくても、助けてほしくても我慢したのに。
「なんか〜重いっていうの〜? 無理」
こっちから願い下げだ!
「バカヤローッッ!!」
私だって甘えたい時もあれば一人になりたい時だってあるさ。
都合のいい女になりたい訳ないだろ。
都合のいい男が欲しい訳ないだろ!
「ばっかやろおぉぉお!!!」
私は……ただ、ただ単に…
「…っ! ……はぁ」
足元の猫が、驚いて逃げてった。
零れ落ちた幸せと一緒に。
あぁ、私は独りなんだな…
「近所迷惑なんだけど」
後ろからの声。
疲れたような、滲みてくる声。
お馴染みの、声。
「……ここは河原なんだから、迷惑じゃない」
「すぐ上、俺ん家なんだけど……」
「おまえの家しかないんだから問題ない」
「いや、俺ん家には迷惑だから」
「おまえしか居ないんだから問題ない!」
呆れたようなため息が聞こえてくる。
独りだと思ったのに、思っていたのに、聞こえてくる。
「またふられたのか?」
「別れたんだ」
「一緒じゃないの?」
「別れたんだ!」
「あっそ」
やめてくれ。
傍に居ないでくれ。
無言で隣に座らないでくれ。
「帰ってくれ」
「やだ」
笑顔なんて、見せないでくれ。
「ばかやろぅ」
違うから、そうじゃないから。
君は、優しい、から。
「夕日に向かって『バカヤロー』か。青春だね」
「うるさい」
分かっているんだ。だから、努力しているのに。
「たまには違う台詞にしてみたら?」
「……他に言うことがない」
君を好きになりたくないから。きっと、私みたいな女は嫌われるから。
「あるよ」
「え?」
立ち上がる君から、目が離せなかった。
微笑む君に、心を奪われてしまった。
違うって言い聞かせていたのに。
「好きだあああああ! 大っ好きっだあああ!!」
声が出ない。
頭が働かない。
違うんだ、これは違うんだ。
私のことじゃない。
私の……ことじゃ。
「恥ずかしい奴だな、君は」
「こっちの方が青春っぽいだろ」
「そうかな」
「そうだよ」
あぁ、駄目なんだな…
不思議と、頬が緩んでしまう。
いや、不思議じゃない。分かっているんだ。
恋人を作っても、すぐに別れてしまう。
相手に合わせても、相手を合わせても。
『君は本当に僕が好きなの?』
答えられないんだ。
そして叫びに来てしまう。
「ばかやろう…」
「笑って言うことじゃないだろ」
私はきっと、此処が好きなのだろう。私でいられる、此処が。
好きなように叫んで、好きなように笑える所が。
昔から変わらない、君が。
「……き…」
「え?」
「大好き!!」