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王子が多すぎる!〜ここって何の世界ですか?〜

掲載日:2026/07/06

 この状況、やばいかもしれない。

 今までなんの疑問も持ってなかった。むしろ自分の髪は珍しい色だから気に入ってた。でもさっき自室の何もない所で(つまず)き、転んだ拍子に思い出してしまったのだ。


――前世、日本人だったことを。


 よりによってなんでこのタイミング? 明日は貴族の子女が通う学園の入学式だというのに。 だってさ、このピンクのふわふわした髪にグリーンの瞳、癒しの魔法が使えておまけに男爵家の娘とくれば、ゲームや小説では定番のヒロインじゃない! こんなことなら、学園には入らずに邸で家庭教師についてもらうんだった〜!

 

「絶対いやよ! 私は分相応で平凡な生活がいいの!」

「ニーナ、どうした?」

「お、お兄様、なんでもないわ。明日からのことを考えると、少し不安になっちゃって」

「大丈夫だよ。ニーナはかわいいからきっとすぐに友達もできるさ。だが、モテすぎるんじゃないかと兄様は心配だよ」


 私の部屋を覗き込んで心配そうな顔をしたお兄様に、へらりと笑い返した。ですよねー。絶対モテるわ、この顔。きっとあれでしょ? 王子とか騎士とか優等生とか色んなタイプの男子が出てきて、攻略していくやつ。昔ゲームや小説で読んだから知ってるわ。

 

 だけど……なんのゲームだろう。いや、漫画かもしれないけど、私ニーナ・ラッセルが主人公の物語なんてあったかな? 全く覚えがないわ。

 下手したら悪役令嬢が主人公の小説かもしれないわね。定番じゃない? 転生ヒロインが何もしていない悪役令嬢に濡れ衣を着せて、逆に断罪されるやつ。もちろん、転生ヒロインとは私だ。


「……それはまずいわ」

「ニーナ、本当に大丈夫かい? 顔色が変だよ」

「えっ、本当?」


 鏡を覗き込むと、そこには顔が緑色になった美少女が映っていた。わしゃゾンビか! なんで緑色やねん! だけどそのおかげで少し冷静になれたわ。やっぱりここは何かの物語の中なのよ。でないと、こんな変な顔色ありえないわ。


 「お兄様、大丈夫よ」

 

 私は拳を握りしめると、安心させるように力強く頷いて見せた。お兄様は私の頭をポンと叩くと、苦笑いで部屋を出ていった。

 

 のんびりしてる暇はないわ。なにか対策を考えないと、学園に入った途端に何らかのイベントに巻き込まれて望んでもいない恋が始まってしまう。

 ましてや逆ハーレムなんてとんでもない! こう見えても私、好きな人には一途な質だし。

 

 そもそも王族の嫁や高位貴族の嫁になんてなりたくないのよ! 男爵家というのも名前だけの末端貴族だしね。お父様は領地のない宮廷勤めの役人なのだ。貴族街にこじんまりした邸はあるが、生活は特別裕福というわけではない。そんな家の娘が王族や高位貴族の嫁になどなれるわけがないでしょ。身分が合わないだのマナーがなってないだの言われて、苦労するのは目に見えている。

 

 それよりも私は、田舎に移り住んでスローライフを送るのが夢なのよ。領地がないから産まれた時から王都育ち。他の貴族みたいに領地に帰るのが憧れだった。小さい頃、お母様に駄々をこねたこともあったわ……


「私も領地に帰って、羊やヤギと遊んだり、畑を耕してもぎたての野菜を食べたりしたいの!」

「ニーナ、あなた激しく間違ってるわ。貴族は領地に戻ってもそんなことはしないのよ」

「それでも! 領地に帰りたいの!」

「ごめんなぁ、ニーナ。私がしがない役人だったばっかりに」

「あっ、お父様……ごめんなさい」

 

 優しいお父様をしょんぼりさせてしまって、それ以来ワガママを言うのを止めたわ。だけど、田舎でスローライフは今でも憧れなのよ。いつかその夢を叶えるためにも、王子や宰相候補みたいな都会の男に捕まるわけにはいかないの! さて、どうしたものか……



◇◇◇◇

 

「ニーナ、本当にそれで行くのかい?」

「ええ、勉強をしに行くのですからおしゃれなど不要です!」

「そ、そうか。気を付けて行くんだよ」

「はい、行ってきます!」


 フフフ、家族は困惑していたけれど、どうやら私の作戦は上手くいきそうね。ふんわりカールした長い髪には、今までなかった前髪を作った。ぼってりと厚いので野暮ったい。後ろはぴっちりと三つ編みにしてピンクの面積を減らした。おまけに昨日急いで探してきたダサい伊達メガネで、グリーンの美しい瞳を隠す作戦だ。制服もスタイルのいい体の線がわからないように、サイドの補正を解きもっさりさせた。

 今の私はモブの中のモブ! これなら目立つこともないはず。私はほくそ笑みながら馬車で学園へと向かった。

 


 

「きゃっ!」


 私、なんでいつも何もない所で転ぶのかしら? 馬車から降りて入学式の会場へと向かう途中、何もないのに(つまず)いてしまった。景色がスローモーションで落ちてゆく。あーこれ顔から地面に激突するわ。

――ポスッ


「君、大丈夫かい?」

「えっ」 


 鼻血で済んだらいいなと思った瞬間、誰かに抱きとめられた。よかった、激突は免れたわ! どこのどなたか存じませんが、ありがとうございます! そう口にしようと顔を上げて固まった。


「ゲッ!」

「どうした? 足を捻ったのか?」


なんだこのキラキラした男子は! 金髪碧眼、背も高い。もちろん顔もいい上に、なんかいい匂いまでする。これ絶対王子やん! まずい、まだ入学式も始まっていないのに、王子っぽい人に助けられてしまった!

 

「保健室まで連れて行くよ。君、新入生?」

「いえっ、お気遣いなく! どこも悪くありません。ぶつかってしまい大変失礼いたしました!」

「あっ! 待って」


 私は頭を深々と下げて全速力で逃げ出した。あっぶな! イケメンに関わったら終わるところだった! あの人、私をお姫様抱っこするつもりだったよね? こんな野暮ったい女子にまで親切にするなんて、絶対モブじゃなくて王子だわ。ふぅ、まさかこんなに早くイベントが発生するとはね。油断は禁物、気を引き締めていかなくちゃ。


 その後の入学式で、生徒会代表として挨拶をしたのはさっきのイケメンだった。やっぱりこの国の王子やん。しかも王太子殿下だって。末端貴族だから王族の顔も知らなかったけど、すぐに逃げる判断をした私グッジョブ! 私はクラスメイトに紛れながら、コソコソと小さくなって今日からお世話になる教室へと向かった。


 教室に入り私の名前の書いてある一番後ろの席に座ると、ホッと息をついた。最初の試練(イベント)はなんとか切り抜けたわね。教室でもなるべく目立たないようにしなくちゃ……

 

「やあ、初めまして。僕は隣国からの留学生で――」

「わわ、すみません、私ちょっと先生に用事があって! 先生! 私目が悪いので一番前の席に座りたいのですが」

「私、代わりましょうか?」

「助かりますぅ! では、失礼!」

「あ、あぁ」

 

 席に着いた途端、黒髪のイケメンが話し掛けてくるなんてね。ホッとしてる場合じゃなかったわ。隣の席にいるイケメンなんて、攻略対象以外ありえないでしょ。しかも隣国からの留学生? 絶対王子のパターンやん! 一番前の席にいた令嬢が代わってくれて助かったわ。うんうん、とてもお似合いよ。是非ともおふたりで愛を育んでくださいな。

 私はその令嬢に深々と頭を下げると、一番前の席へと移動した。ここなら周りは女子ばかり、安心するぅ〜!


 今日は初日ということで、ひとりひとり自己紹介をすることになった。ほら、やっぱり先ほどの黒髪イケメンは隣国の第二王子だったじゃない! あっぶな! さっそくお隣に座ったご令嬢と親しげに言葉を交わしているわ。席を代わらなかったら、あれが私だったのよね……すぐに前の席に移る判断をした私グッジョブ! 隣国の王族なんてとんでもないわ。

 

 こういう場合、側近(もちろん攻略対象)がいるのもお約束よね。教室をゆっくり見渡したけれど、第二王子以外にキラキラしたイケメンはいなかった。たぶん、大丈夫。教室ではあの隣国の王子さえ避ければなんとかなる。

 今日は授業もないので、長居は無用と教室を後にした。



 時間が読めず帰りの馬車は頼んでいなかったので、歩いて帰ることにした。普段から街歩きをしている王都っ子だもの、ひとり歩きは慣れたものだ。人の多い通りを歩けば危険もない。無事に初日のイベントを切り抜けたことで気分も良く、鼻歌交じりで歩いていると、目の前にいた荒んだ雰囲気の男がいきなり走り出した。


 えっ、なに? 走って行った先を見ると、ちょうど冒険者ギルドからあご髭を生やしたワイルド系細マッチョのイケメンが出てくるところだった。件の男はギラリと光るナイフを取り出すと、ワイルド系イケメンに向かって振りかざし叫んだ。

 

「しねぇー!!」

「殿下! 危ない!」


 ワイルド系イケメンはどこかから聞こえた声に反応してサッと身を翻したが、ナイフがわすがに掠ってしまったみたい。袖が切れて腕に血がにじんでいた。

 足元を見ると、襲った男はどこからともなく現れた男に取り押さえられている。


「殿下、ご無事ですか!?」

「あぁ、大したことはない。かすり傷だ」


 わわ、どうしよう。あれくらいの傷なら、私のしょぼい癒しの魔法でも治せると思う。でも、あの人さっき『殿下』って呼ばれていたよね? それもう絶対王子やん! そういえば……噂で聞いたことがあるわ。この国の王弟が道楽者で、冒険者の真似事をしているって。密かに護衛がついているところを見ても、間違いないと思う。王弟=元王子ってことでしょ。いやだ! 絶対関わっちゃ駄目なやつ! そもそも、人から刺されそうになるほど恨まれてるってどういうこと!?

 護衛っぽい人は男を縛るのに手を取られてるし、このまま怪我人を放ってはおけない。どうしよう。


 辺りをキョロキョロと見渡すと、少し離れたところに白衣を着た男女が見えた。やった! あれって治癒師だよね? どこかから往診の帰りなのか、白衣を着ていてくれて助かったわ。私はその男女に向かって走った。


「あのっ、あそこに怪我人がいるんです!」

「なに!? 急いで行こう」

「はいっ!」

 

 白衣の男女はギルドの前に向かうと、王弟(推定)の傷を見てすぐに治療を開始した。はぁ〜よかった、無事に傷は塞がったみたい。怪我人を見殺しにするなんて後味が悪いもの。私はこれ以上イベントに巻き込まれないように、急いで邸に帰ることにした。



◇◇◇◇


 学園生活が始まって二週間、私はとにかく目立たないようにすごした。運動も勉強も得意だけど、先生に指名された時以外は発言をしない。移動教室は、存在感を消し背後霊のようにクラスメイトについて行く。だって下手にひとりになったら、また転びそうになってイケメンに抱きとめられたら困るもの。転びやすいのも、きっとヒロイン仕様だ。

 

 お昼休み、ランチはカフェテリアの隅っこで食べる。だって人目を避けようと下手に裏庭なんかに行った日には、キャーキャーと騒ぐ令嬢を避けたイケメンがこっそり昼寝をしているかもしれないし。人けのないところに隠れてるのは漫画では定番だもの。攻略対象っぽいイケメンに出会うわけにはいかない。


 今日も隅っこでひとり静かにランチをしていると、カタリと椅子が引かれ隣の席に誰かが座る気配がした。

 

「ねえ、なんでそんなに地味にしてるの?」

「えっ?」

「そろそろ僕のところに来るかなってずっと待ってたのに、全然来てくれないし」


 声がした方へ恐る恐る顔を上げて見ると、 眼鏡を掛け焦げ茶色の髪をした男子生徒が頬杖をついてこちらを見ていた。でもたぶん攻略対象ではないな。普通、めちゃくちゃ普通。イケメンでもなくブサメンでもないあっさり顔。なんというか、落ち着く感じ。よかったー、攻略対象じゃなくて! でもこの人、待ってたって言ったよね?

 

「えっと、どういうことでしょうか?」

「君、ニーナでしょ? 『ドキドキ♡プリンス学園』のヒロイン、ニーナ・ラッセル」

「ドキドキ? え? ニーナ・ラッセルなのは合ってますけど」

「あれ? 転生ヒロインじゃないパターンか、これ……」

 

下を向いてブツブツ言ってるけど、ちょっと待って。今この人『転生ヒロイン』って言ったよね。この世界のこと知ってる人ってこと!? 私は声をひそめ内緒話の距離で聞いた。


「あのっ、ここってやっぱり小説とかゲームの世界なんですか?」

「やっぱり転生者か。そうだよ、通称『ドキプリ』って乙女ゲーム。前世でやってなかったの?」

「それがさっぱり覚えがなくて。あなたは何者ですか?」

「僕はジミー・コール。この学園では図書委員をしている。いわゆるお助けキャラってやつ」

「ゲーム内で困った時に助言してくれたりするアレ?」

「うん、それ。なのに全然図書館に来てくれないからさぁ~僕の方から来ちゃった」


てへっと笑うジミーだけど、来ちゃったってアンタ。この人もゲームの流れを勝手に変えていくタイプか。それなら私にとっても都合がいい。仲間になってもらおうじゃないの!


「ジミーさん、私この世界のこと全然知らなくて。詳しく教えてもらえますか?」

「もちろんだよ! もう昼休みも残り少ないし、放課後に話そうか」

「わぁ、ありがとうございます!」

 

 放課後に校門で待ち合わせすることにして、ジミーさんは去っていった。学園では人と深く関わるのを避けていたから、話ができる人がいてくれただけでも嬉しい! 私はウキウキとした心を顔に出さないよう気を付けながら、午後の授業へ戻った。



◇◇◇◇


「はいこれ、りんごジュースでよかった?」

「ありがとうございます」


 放課後に落ち合うと、一緒に近くの大きな公園へ向かいベンチに腰掛けた。ここならベンチとベンチの間も広いし、人に話を聞かれる心配もない。ジミーさんが屋台から飲み物を買ってきてくれた。さすがはお助けキャラ、気が利く人だわ。

 

「さて、君はどこまで把握してる?」

「ゲームについては、ほとんどわかってないんです。ただ前世が日本人であることを思い出したので、ピンク頭に男爵令嬢なら何かのヒロインに違いないと思っていました。でも設定がわからないから……」

「ククッ、それでそんな地味な格好をしてたの?」

「そうですよ! だって王族や高位貴族と結婚なんて絶対嫌だったんだもん。乙女ゲームなら、王子や高位貴族と恋愛関係になるんでしょ?」

「う〜ん、それは半分正しいかな」

「半分?」


 ジミーさんは困ったような顔で私を見つめていた。


「さっき、『ドキドキ♡プリンス学園』というゲーム名だって言っただろう? それにはサブタイトルがあるんだ」

「サブタイトル?」

「そう、『〜王子様がいっぱい〜』」

「ブッ、はい?」


 ジュース吹いちゃったよ。ジミーさんがハンカチを取り出し、私の濡れた眼鏡を拭いてくれている。面倒見がいいな。それより、なんか変なこと言わなかった? ダサいゲーム名に気を取られていたから、よく聞こえなかったのかも。たしか王子様がいっぱいとかなんとか。


「攻略対象が全員王子様なんだ。あるメーカーで作られた各ゲームに出てくる王子様を、全員集めて攻略対象にした夢の乙女ゲームという触れ込みだった」

「はあ?」

「他のヒロインとくっつくなんて解釈違いだって、原作ゲームファンからは不人気だったけど。一部のマニアの間では有名なゲームだよ」

「えっと、つまり私の相手は全員王子様ってことですか?」

「そうだよ。誰とくっついても私だけの王子様♡ということらしい」

「どうりで……イケメンの騎士とか側近が出てこないから、おかしいと思ったんですよ」


 しかもやたら王子に遭遇するしね。普通に生活してたらありえないでしょ、そこら辺にゴロゴロ転がってるなんて。登場人物に王子が多すぎる!

 

「うん、側近はモブだね。あと、その攻略対象が全員チョロすぎるのが人気が出なかった原因だ」

「クソゲーかい!」

 

 思わず前世の言葉でツッコんでしまった。ジミーさんはキョトンとすると、腹を抱えて笑い出した。


「アハハッ、たしかにクソゲーだね。すぐに攻略できちゃうから、僕も全ルートクリアしたし」

「ジミーさんはなぜ乙女ゲームなんか……」

「オタクだったから。ヒロインがかわいかったんだ」

「そうですか」

 

 あまり深く聞かないでおこう。人には聞かれたくない前世だってあるだろう。


「だからさ、僕がお助けキャラに転生したのも納得してるんだ。全ルート知ってるから助言もできる」

「たしかに」

「それで君はどうするつもり?」

「今のところ、この国の王太子と隣国の第二王子、この国の王弟にニアミスしています。他にも攻略対象がいるなら全部イベントを避けたいですね」

「せっかく男爵令嬢から王族になれるのに、本当にいいのか?」


 ジミーさんは首を傾げていた。そりゃあゲームならいいだろうけど、現実だったらみんながみんなお姫様になりたい訳じゃない。王族に嫁ぐための妃教育なんて、断固拒否したい所存です。


「私は、田舎でスローライフをするのが夢なんです。それにキラキラしたイケメンも、現実で見ると眩しすぎるというか暑苦しいというか。できれば容姿は普通で、同じくらいの身分の人の方が苦労しなくて済むんじゃないかと思うんですよ」

「ふ〜ん、田舎が好きなんだ」

「はい! うちは領地がないので王都から出たことがないんです。でも家庭菜園とかやりたかったんですよね〜牧場があって空気もきれいだったら最高!」

 

 私が夢を熱く語ると、ジミーさんは少し考え込んだ後にっこり笑って言った。


「わかった。君の夢が叶うように協力するよ。まずは攻略対象から逃げ切るところからだな」

「ありがとうございます! うぅ、なんていい人」

「いい人、か。前世でもよく言われたなぁ、主に女子から……ハハ。それはいいとして! 最初の三人の出会いは自力で避けたみたいだから、残りのイベントは一緒に切り抜けような」

「お願いします!」


 

◇◇◇◇

 

 ジミーさんは同じ学年だけど、クラスが違っていた。だけどなるべく一緒に行動した方が安全だからと、ランチは一緒に食べるようになったし、図書委員も一緒にやることにした。もちろんひとりにならないよう、当番は同じ日にしてもらった。登下校で攻略対象に遭遇するのも避けるために、毎日馬車で送り迎えまでしてくれている。


 こんなにお世話になっておきながらも、疑り深い私はちゃんとジミーさんに確認をしていた。


「ジミーさんって、実は王様のご落胤で隠れ王子とかじゃないですよね?」

「ないない。正真正銘のお助けキャラだよ。うちは子爵家だし、僕は父親とそっくりだから」

「は〜、よかったぁ」

「こんな地味な王子がいるわけないだろ」

 

 ジミーさんは名前の通り地味だ。だけどそこが落ち着くんだよね。頑張らなくていいっていうか、素の私でいられる。きっと、キラキラ王子といたら気疲れしちゃうと思うの。


「地味って最高じゃないですか」

「ニーナは本当に変な子だな」

 

 ジミーさんは眼鏡をクイッと上げて横を向いたけど、あれは照れているな? いつしか、そんな彼の表情の変化にも気付くようになっていた。


 

◇◇◇◇


 学園に通い出してしばらくすると、校外実習が始まった。学園内や登下校中はジミーさんのおかげで攻略対象を避けられたが、このイベントだけは避けられなかった。魔法薬の材料となる薬草を森に採取にいく実習は、サボると単位をもらえないという半強制的なものだったからだ。

 攻略対象は避けたい、でもきちんと学園も卒業したい。それらを天秤にかけて泣く泣く参加することになった。


 実習ではふたり一組となって森で薬草を探すんだけど、その途中で生き倒れになっている遠い国の王子を私が見つけて、癒しの魔法で助けるというシナリオがあるらしい。本当に無茶苦茶だな、このゲーム。王子を出せばいいってもんじゃないでしょ。


「なんで遠い国の王子が生き倒れになるんですか」

「なんでも、社会勉強のために近隣諸国をお忍びで旅してるらしいよ」

「そんなの自分の国内でやってくれんかな……」

「言えてる」


 文句を言いながらも、私達は抜かりなく計画を立てた。まずはペアの相手だ。本来なら同じクラスの人同士で組むところだけど、私達は一緒にいた方が攻略対象を避けやすい。普段から地味で存在感を消していたおかげで、クラスでひとり余ることができた。ジミーさんも右に同じ。


「先生、僕達はクラスに組む相手がいないので、ペアになっていいですか?」

「あらっ、気付かなくてごめんなさいね。もちろん単独行動は危ないから、ふたりで組んでちょうだい」


 フッフッフ、計画通りだ。別のクラスにも関わらず、ジミーさんとペアになることができた。


「一応ニーナには認識阻害の魔法をかけておこう。これなら王子と出会っても一目惚れは避けられる。顔がはっきり認識できなくて曖昧な印象になるんだ」

「えっ、そんなすごい魔法が使えるんですか!?」

「この世界に転生したと気付いた時、魔法があることにテンションが上がってさ。本で調べながら色々試してたら、できちゃったんだよね」

「おぉ、さすがは元オタク」

「いや、やるだろ普通? 本物の魔法だぞ? 右手が疼くだろ?」

「お、おぅ」

 

 若干中二病を発症しかけているジミーさんに認識阻害の魔法をかけてもらい、森の中へ薬草を探しに出かけた。生徒は全員、魔物よけのお守りを着けているので一応は安全らしい。先生方も森の中で巡回してくれている。

 私達は課題の薬草を採取しつつ、いつ攻略対象の王子に遭遇してもいいよう備えた。さすがに生き倒れの人を放っておくわけにはいかないもの。


 そんな事を考えながら森の中を歩いていると、ジミーさんに教えてもらった通り王子が生き倒れているのを発見した。


「うぅ……」

「ジミーさん、あそこ! 人が倒れているわ!」

「例の王子か。ニーナは僕の後ろにいてくれ」

「わかった」


 なんで他の生徒は気付かないんだろう。旅人のわりに仕立ての良い服を着た、キラキラしたイケメンが転がっているというのに。これがヒロイン補正ってやつなのか。

 恐る恐る近付くと、ジミーさんが王子(推定)の肩を叩き声を掛けた。

 

「あの〜大丈夫ですか? 意識はありますか?」

「うっ、ここは」

「王都の郊外にある森です歩けそうにないならこれを飲んでください。あ、決して怪しい者ではありませんよ僕はこの森で実習中の学生です。これは体力回復効果があるポーションですから飲んで少し回復したら先生を探してきますので安心してください」


 ジミーさんはほとんど息継ぎなしの早口で(まく)し立てたので、ものすごく怪しかった。しかし見た目が眼鏡の真面目そうな学生だったので、王子(推定)は素直にポーションを飲んでくれたらしい。

 その間に私は近くを通り掛かった養護教諭を呼び止め、王子(推定)は無事に先生の治癒魔法で回復することができた。私の出番はなし。もちろん恋も始まっていない。よかったー!

 

 

◇◇◇◇

 

 実習の後、いつものように邸まで子爵家の馬車で送ってもらう。近頃ではおしゃべりが楽しく盛り上がるので、隣同士に座ることも多くなった。お互いのボケにツッコむためだ。なんでやねーんとエセ関西人のごとく肩を叩くのがお約束になっている。

 

「ジミーさん、今回も助かりました。本当にありがとう」

「いいんだ、無事に避けられてよかったよ」

「でも、卒業するまでずっとこんなことが続くんですよね?」

「そうだねー。ちなみに全ルート攻略すると、隠しルートも出てくるよ。王様とメイドとの間にできた子供で、市井で生活しているシークレットベビーって設定の王子が」

「まだ王子がおったんかーい!」


 王子はもういいです。お腹いっぱいだから。

 思わずツッコミを入れると、ジミーさんはおどけたように私の顔を覗き込んで言った。

  

「手っ取り早く誰かと婚約するって手もあるけどね。さすがに婚約者がいる令嬢に王族が手を出せば、大スキャンダルになるだろうし」

「たしかに、王家もスキャンダルは避けたいでしょうしね」

「じゃあ、とりあえず僕と婚約する?」

「えっ?」

「顔は普通だし、身分も子爵家で近いし、うちの領地は羊毛が特産品だから牧場もあるよーなんて、冗だ――」 

「それだわ」

「えっ」


 なんで今まで気付かなかったのかしら。フツメンの中のフツメン、身分もあまり差がなくて田舎に領地があるなんて、私の理想の男性じゃない! しかも一緒にいてすごく落ち着く。私のピンチを全力で助けてくれるところも素敵だし、笑いのツボも合う。これを逃す手はないわ!

 私はジミーさんの手を取り、心からのお願いを告げた。


「ジミーさん、私と結婚してください!」

「えっ、は? ニーナ何を言って――」

「私気付いたんです。ジミーさんこそが私の理想の男性だと!」

「こんなモブ顔の地味な男なのに? しかもオタクだよ?」

「そこがいいんじゃないですか。それとも、こんな地味な女は嫌ですか?」

「いやいや、ニーナは本当はかわいいでしょ。それこそ王族に求婚されるくらいに」

「それは絶対嫌なんです! もしジミーさんが嫌じゃないなら、ぜひ私と婚約者に」

「嫌なわけないだろう! 僕はただのモブだし、ヒロインである君とどうこうなれるとは思ってもみなかったから……本当は、ずっと前から君が好きだよ」

「私もです! 優しくて頼もしいジミーさんが好きです」

「そ、そうか。やっぱり、ニーナは変わってるよ」


 ジミーさんは照れ隠しなのかフイッと目を逸らしたけれど、私の手をギュッと握り返してくれた。耳が真っ赤に染まっていて、そんなところもかわいい。


「本当にいいんだな? 親に話して君の家に婚約の申し込みをしたら、後戻りはできないよ?」

「望むところです! すぐにでも申し込んでください!」



 

 こうして私達は家族にも祝福され婚約者となり、平和な学園生活を取り戻した。

 これで王子達から求婚される心配はなくなったはず……でも私が離れたくないから、今まで通りいつも一緒にいるんだけどね。なにより彼の隣は落ち着くし。ジミーさんも前より一層、私を大事にして守ってくれている。お助けキャラ改め、私専属ナイトかな?

――なのに、最近は少しドキドキすることが多くて困っている。


最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

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