ヒロインはどっち?
貴族学校には二人の異質な女生徒がいた。
一人は幼少時に行方不明となってようやく、見付かった伯爵令嬢。
もう一人は養女になったばかりの男爵令嬢。
二人は淑女らしからぬ奔放さで、王子とその側近たちの心を惹きつけていった。
伯爵令嬢は高位貴族なので平民だった時と同じように。
男爵令嬢は元平民の奔放さを覗かせつつも、すぐに我に返って恐縮して。
いくら恐縮しても、貴族令嬢の慎ましい恐縮とは違い、令息たちにとってはドジっ子メイドのように愛らしく映った。
そんな二人の令嬢を、王子や側近たちの婚約者は冷静な目で見ていた。
「ちょっと、あなた! 男爵令嬢のくせに、王子様に近寄りすぎよ! あなたみたいな男爵家の養女が王子様の世話になるなんて、分不相応だと、思わないの?!」
同じ元平民生活をしていたにもかかわらず、伯爵令嬢は男爵令嬢に詰め寄っていた。
王子の婚約者からしたら、お前が言うなの発言である。伯爵令嬢は元々、平民育ちで、貴族としての意識やマナーが身に付いていない状態で、学園にねじ込まれた。そんな高位貴族の令嬢の将来を慮って、学園長が王子たちの婚約者に高位貴族の心得やマナーのサポートをして欲しいと請われた結果、何故か王子たちもサポートをし始めて、伯爵令嬢に侍るようになった。
そして、今度は男爵家の養女。彼女も王子たちの婚約者にサポートを任せられ、王子たちも手伝うことになり、伯爵令嬢と同じ扱いを受けるようになった。
「ごめん・・・なさい」
育ちが同じ平民とはいえ、相手は生粋の伯爵令嬢。男爵令嬢は謝ることしかできない。
王子たちの婚約者が傍にいたのなら、男爵令嬢を庇うこともできたのだが、彼女らは王子たちに近寄るな、と牽制されている。
サポートを頼まれた王子たちの婚約者が悪いわけではなく、勝手にサポートを横取りして、近寄らせないようにした王子たちが悪い。
代わりに王子たちの婚約者から事情を説明されて、男爵令嬢を気にかけていた女生徒が、伯爵令嬢に連れて行かれる様を見て、王子たちに助けを求めに行っていた。
「あなたと違って、伯爵令嬢のわたしは王子様と結婚できるんだからね! せいぜい、愛人どまりの男爵令嬢は、王子様の婚約者にでも泣きついて、マナーでも教えてもらったら?」
貴族学校のマナーの教師が聞いたら、お前が言うなと言うだろう。
平民育ちで、片やマナーがまったく身に付いていない伯爵令嬢。もう片方も、付け焼刃のマナーがボロボロ落ちまくっている男爵令嬢。
伯爵令嬢は長い間、行方不明だった愛娘を目に入れても可愛い両親に、蝶よ花よと可愛がられて、数か月経っても、マナーの教育はまったくされていない。
男爵令嬢は養女になって、一日だけの8時間で詰め込まれたマナーだけ。それの身に付いているところだけなので、侍女やメイド、同級生たちのマナーを日々、真似てどうにかしている。
貴族学校の卒業単位稼ぎのマナーの授業を、男爵令嬢は死活問題とばかりに必死に取り組んでいるが、成果は思わしくない。ちなみに、伯爵令嬢は叱られてばかりでつまらないからと履修していない。
「ごめん・・・なさい」
王子たちが駆け付けた時に見た光景は、がなりたてる伯爵令嬢と背中を小さく丸めて謝り続ける男爵令嬢。
「何をしている?!」
悪いのは、どう見ても、奔放な伯爵令嬢だ。
彼女の淑女らしからぬ言動を好ましく思っていた王子たちだったが、王子目当ての他の貴族令嬢と同じ生き物だったことを知って、一気に幻滅してしまった。
そして哀れなドジっ子メイド属性の男爵令嬢の可愛さが天元突破する。
が。
結論から言おう。
ドジっ子メイド属性の男爵令嬢は王子たちを選ばなかった。
彼女は愛する男性と結婚する為に男爵家に養女にしてもらっていただけで、王子たちより五歳も年上だった。
男爵令嬢曰く『五歳も年下はちょっと・・・。五歳も年下の同級生たちと同じノリだったら痛いだろうし、貴族学校は辛かったわ・・・』と、遠い目をして語ったそうな。
彼女が男爵家の養女になる手助けをしたのは、王子の婚約者である。
たった数週間で、躾のなっていない伯爵令嬢に危機感を持った王子の婚約者は、身分違いの結婚をしようとしていた二人のことを聞き、貴族学校に在籍することと引き換えに、男爵家の養女にしてくれたのである。
そして、ご覧の通り、伯爵令嬢は自滅した。
貴族学校を卒業した男爵令嬢は身分違いだった恋人と晴れて結婚した。
その頃には、男爵令嬢として振舞うだけのマナーはしっかり身に付いていて、彼女が高級娼婦ではなく、ただの娼婦だったことなど、言われなければ誰も気付かなかっただろう。




