猫、夢をみる
沈む太陽が全部溶けて、赤い色だけになった空の頃。
ヤドカリノホームズにさようならして、僕はミサさんのお家に戻った。最初に飛び出た時と同じ場所。ミサさんが屈まないと出られないくらいの扉は、僕が戻ってくるのを待っていたかのようにして開く。
僕も当たり前のように、その扉をくぐる。
ミサさんのお家は、いつもそう。
ただいまぁ。
たくさんのことを新しく覚えた僕の声は、自然と弾む。
ミサさんの声はいつも通りで、つまらなそうな短い言葉で。だけど、ちゃんと僕を迎える。
「あぁ」
ミサさんはいつも通り手紙を書いている。
誰に書いているのかと聞くと『客』と言っていたもの。
あのね、ミサさん
『客』さんへの手紙から目を離すことのないミサさんもいつも通り。だから、僕もいつも通り話し始める。
あのね、ミサさん
今日はね、海を知ったの。
海ってね、すっごい大きな水たまりでね、きらきらしててずっと音が鳴ってるの。
あと、海にある砂は、パクって僕の足を必ず食べる。痛くないけどね。
それと、海の中には鬼に捕まった魚がいてね、僕が助けてあげたら「ありがとう」って言ってくれた。
それからね、大きな鳥のペリカンの口にあった針を取ってあげた。
ヤドカリノホームズがね、大切にしていた古いお家をくれたんだ。宝物にする。
そうだ。太陽って夕方になると海に溶けちゃうんだよ。
僕のお話はたぶん『にゃあ』としか届いていない。
だけど、ミサさんだからずっとおしゃべりができる。
たくさん「ありがとう」も言ってもらったよ。役に立ったんだ、僕。
ねぇ、ミサさん、僕人間になれるかな?
「なんども言わせるな。わたしゃ、忙しいんだよ」
ずっと僕を見ないミサさんは、そんなことを言ったけれど、僕はもう半分夢の中だった。
全部いつも通りで、何も変わらない。
だけど、僕が見た夢はいつもとちょっと違っていた。
僕が、人間のお母さんのお手伝いをして、お母さんがにっこり笑ってくれる夢。
だから、僕は人間になるために、頑張らなくちゃならないんだ。




