猫とペリカン
あれ、なんだか『海』が小さくなったみたい。それに、魚たちもいない。黄色い枠に囲まれた小さな水たまりの中に、なぜか僕はいる。
不思議に思っていると、空気の帽子がパチンと弾けた。
あ、取れた。
と思ったら、急に真っ暗になって、僕がいる小さな水たまりが傾いた。
「えっ、わぁ、なに?」
慌てて小さな水たまりの端っこの黄色いところに爪を立てると、その端っこが僕を振り落とそうとぶるぶる震え出した。僕は振り回されながら、下を見る。真っ暗な穴が開いていた。ぜったいに落ちるもんか。
だけど、その奥になにかぴかりと光るものが、一瞬見えた。
あれって、もしかしたらヤドカリノホームズの新しいお家になるんじゃない? そんなことを思ったけれど、その考えはすぐに吹っ飛んでしまった。
爪を立てながら必死に掴まり、頭を振り回されること、たぶん十秒。
たぶん……そのくらい。
ぱかりと黄色い端っこの蓋の部分が開いた。だから、僕は慌てて外に飛び出して、その蓋の上に掴まった。目の前にはのっぺりとした小さな頭。そして、海の中にいると思っていたのに、そこは空の中だった。風が僕の毛を逆立てて流れていく。
僕がびっくりしていると「お前、なんだ?」と、怒った声がした。
怒った声の方には、黄色に縁どられた黒い目と、やっぱりのっぺりとした小さな頭。耳はないから猫じゃない。その猫じゃないものがもう一度、僕に尋ねた。
「お前、魚じゃないな?」
「うん、僕は猫」
そう、僕は猫。魚じゃない。まだ人間でもない。
だから、こうやってずっと掴まっているのも疲れてくる。
「猫はいらない」
「あ、あ、首は振らないで。落ちちゃう」
そう言うと、大きな鳥は首を止めてくれた。案外いい奴かもしれない。そう思って、彼のことを尋ねると、彼は「ペリカンだ」と教えてくれた。
「何で猫が海にいる?」
「うーん、分かんないけど……」そう言いながら、僕はペリカンの口の中に戻ろうと思った。
「ねぇ、君の口の中にもう一度入れてくれない? 僕の探し物があったかもしれないから」
結果から言えば、喉の奥のそれはヤドカリノホームズのお家にはなりそうにもなかった。
きらきらしていてきれいだけれど、先っちょがとんがっているところは、とんがり帽子の貝殻と同じだけど、きっと駄目だって言われそうなものだった。
それにこれは、ミサさんが使う『針』に似ている。とんがった方とは反対に糸がついているから。
だけど、ペリカンには「ありがとう」を言われた。
ずっと喉の奥が痛かったんだって。
「お前は良い猫だな」
ペリカンの喋り方はずっとミサさんに似ていて、ミサさんよりものっぺりしていた。
頭の形と一緒。
まっすぐお喋りしているし、喜んでいるのか悲しんでいるのかは分からない。
怒っている時だけ分かるのも、ミサさんと同じだけど。
その針を取る時だけ、大きな声で叫ばれたけど。
「うん。僕は人間になるためにいっぱい勉強中なんだ。『お母さん』のお手伝いしたいの」
そう言うと、ペリカンが「お前は変わった猫だな」と言葉を変えた。




