第6話 ただの領主に絶望が降りかかった件
光が止んだ。まだ目がチカチカするが、視界が少しずつ戻ってくる。
なんとなく嫌な予感がしている。目の前にぼんやりと地面に倒れているような人影が見える気がする。嫌な予感しかしない。まさかレンゾが耐えられないレベルだったとでもいうのか?俺が耐えられているのは大楯のおかげだ。レンゾの盾はサイズこそ大楯と変わらないものの、機動力を落とさないよう俺のものほど耐久性も防御力もない。
体に触れている感覚からヒナツが無事なのはわかる。だが、俺の服を掴んでその手は震えている。俺だって全身の震えが止まらない。みんなにもしものことがあったりしたら、そしてこんなことをやったやつがまだ近くにいると考えると恐怖しかない。
少しして視界がさらにはっきりとしてきた。目の前には間違いなくレンゾ、レナ、チョスが倒れている。息をしているかの確認ができるほどまだ視界ははっきりしていない。だが、かなりの深手であることはぼんやりとした視界の中でもはっきりと分かるくらいにはひどい傷だ。
数分後、視界が完全に戻り、目の前には黒焦げになった3人。そして少し離れたところに俺たちの視界が戻るまで待っていたかのような黒いローブの存在。
「ヒナツ、3人を頼む。」
多分ヒナツもわかってくれる。生存確認と生きているなら緊急の処置が必要だ。
「おっと、俺を無視とはいい度胸をしてるな、人間。」
「ってことは人間じゃないみたいだな。何者だ!」
「まぁまぁ、そう苛立つな勇者様。いくら仲間を3人殺されたからといって。」
ヒナツのほうを見ると、首を振る。3人とも息がないということか・・・
「質問に答えろ。」
「まぁ、答えてやろう。俺は異界より舞い降りし魔王、ナスクだ。せっかく街を落とそうと用意していた大軍を消滅させられてしまったからな。そのお返しといったところだ。それにしても貴様、よく耐えたな。勇者といえど、そう耐えられるようなぬるいものではないのだがな。まぁいい。どちらにせよここで始末するのみ。」
苛立ちと憎悪の感情に飲まれそうだ。だが、まだ後ろにヒナツがいるんだ。せめてヒナツだけでも守らないと。それにはどうすればいい?今の俺にこいつに太刀打ちできるほどの力はない。それならば・・・
「なんだ!?」
俺の背後に巨木が生える。魔王がそれにひるんだ一瞬の間に!
シュッ
巨木の中からアルラウネが操ることができる太いツタで俺とヒナツ、そして仲間たち全員を巨木に向かって引っ張る!うまくいってくれ!
「きゃあ!」
「大丈夫だ!」
そういいつつ、ヒナツの手を握る。急にこんな雑に扱って申し訳ないが、生き残るためだ。
「ここは?」
「あの木の中だ。あの場所にあった木はすでに消滅している。」
「どういうこと?」
「この木は歴史上では存在していた時期もあるとされている世界樹だ。世界樹は突然世界のどこかに根を下ろし、巨大な幹を生やす。それを強制的に呼び出したんだ。世界樹の中はダンジョンになっていて、そのダンジョンの中にいたものは世界樹が突然消滅した場合、中に取り残され、再び世界樹が生えるまで外に出ることはできない。」
「ってことは私たちまた生えるまで出られないの?」
「それは試してみないとわからない。それよりもみんなは?」
「まだギリギリ息はあったんだけど、もう助からない状態だね。体中があいつの魔力に汚染されて私の魔力が妨害されてるんだ。」
植物に詳しい俺でも魔力を打ち消すような植物は知らない。どうしようもないってのか・・・
「アランが世界樹に引っ張ってくれるちょっと前にみんな息が途絶えたよ。」
「そうか・・・」
沈黙が流れる。俺らしくないが、怒りがあふれて止まらない。あいつを殺さないと気が済まない。植物のことしか考えてこなかった人間がたった1年でこんなにも変われるものなんだな。そんなことはどうでもいい。今すぐにでもあいつを殺したい。
「アラン、どうするの?」
そんな俺のことをわかってるんだろうな。ヒナツのほうがみんなといた期間は長いからつらいはずなのに。
「とりあえず王都に戻る。ちょっと強引ではあるが、町から少し離れたくらいの安全な場所に世界樹を生やす。」
この中から遠隔でそんなことができるのかはわからないまま中に入ってしまった。だが、こうするしか逃げる手段もなかった。
いや、できる。感覚でわかる!
ドドドドドドドドド
「何!?この振動!」
「世界樹が生えてるんだ。王都まで徒歩で20分といったところだな。」
「そんな近い場所に生やして大丈夫なの?」
「出たら消すから大丈夫だろ。仮に聞かれたら正直に答えるさ。」
色々な植物を合わせて3人の遺体を丁重に運びながら王都へと帰還した。その間に俺とヒナツの間に言葉はない。
「勇者とあろうものが何たる様よ。」
チッ、これだから国王との謁見は嫌なんだよ。なんで不意打ちで仲間が死んで叱責を受ける必要があるんだよ。こっちだって死なせたくて死なせたわけでもないし、守れるのなら守りたかったってのによ。
この国王、殺してしまいたくなってくるな。
ポン
ヒナツが肩に手を置く。押さえろってことだよな。わかってるさ。
「しかも討伐できず、逃げかえってくるとは・・・優秀だと思っていたが貴様も地に落ちたものよのぉ」
こいつ調子に乗らせておけばどこまでも言ってきやがるな!
シュッ
国王と衛兵全員の前にニードルプラントの棘を出現させ、眉間の手前まで迫らせる。
「何のつもりだ!」
「こっちだって仲間を失ってるんだ。正気だと思うか?俺を責めたいのならせめて勇者として覚醒する環境くらいは作りやがれ。」
「早くこれを下げろ!さもなくば死罪にするぞ!」
「いいのか?今この世界に俺以外に勇者の種を持つ者はいないらしいぞ?今生まれたとしてそいつが育つまでこの世界は生きてるのか?」
「ぐっ・・・」
「仮に勝手に勇者を殺したとあらば他国から攻められるのはテメェだ。わかったらさっさと俺を覚醒させる環境を整えやがれ。」
ヒナツは少しおびえたような不思議そうな表情をしている。そりゃそうだよな。覚醒するなんて意味の分からないことを言っているのだから。
王城から逃げるように拠点へと戻った。遺体は教会で埋葬をお願いした。
「これからどうする?」
「お前はどうしたいんだ?俺は戦う運命から逃げることはできないし、逃げる気もない。」
「アランがそう決めたなら私はアランについていくよ。」
「いいのか?今回みたいなことが起きるかもしれないんだぞ?」
「それはその時だよ。それにアランならきっと守ってくれるって信じてるから。」
「そうか。それなら答えてやるのが筋だな。申し訳ないが、明日からしばらくは町の外には出ない。俺自身を鍛える時間をくれ。ヒナツのことは絶対に死なせない。」
「私はどうすればいい?」
「好きに過ごしてもらって構わない。ヒナツが新たな仲間が欲しいのなら探してもらってもいい。新たに仲間を募るかどうかはヒナツに一任する。それがないのなら休養してもらってもいいし、ついてきたければ俺についてきてもいい。だが、あまり気持ちのいい思いはしないと思ってくれ。」
「アランだけが嫌な思いするのは嫌だし、私もついていこっかな。仲間は・・・その、まだ気持ちの整理がつかないや。」
「それもそうだな。俺も同じだ。」
「2人で頑張っていこ。」
「だな。世界を救う、いや、あの魔王に復讐を果たすために。」




