第50話 ただの領主が人間を辞めた件
悪魔から強力な魔法が放たれる。一応気は遣っているのか客席は巻き込まないようにしているようだ。
「この程度か?」
「あら、思ったよりも強いのね。手加減してあげたとはいえ無傷だなんて。」
「こっちも意外だよ。まさか客席の人間を巻き込もうとしないなんてな。」
「巻き込もうとしても無駄でしょ?あなたのお仲間が結界を張ってるみたいだし。」
「そのくらいはわかっているようだな。だが、本音は違うだろ?恐怖の感情がお前を強くするのならそれを発する人間が減ればその力は弱まる。」
「それも正解ね。でもこの力は一時的なものだからさっきまでにもらった分であなたを殺すのには十分ね。」
「相当俺のことを低く見ているようだな。さすがは悪魔階上位の悪魔だ。」
「あら、そのことについて知っているのね。いえ、ネビロスちゃんがしくじったんだし知っていて当然よね。」
「ネビロスを下に見るということはお前は第2位か?」
「いいえ、第2位の地位の子は異世界に封印されちゃっているもの。そして勘違いしているみたいだけど、ディアブロ様は悪魔階なんて階級に属していないわ。私は悪魔階第1位変わり身のロアンですわ。」
「二つ名を持つか。さすがは魔王を除いた最上位というべきか。いや、魔王とてお前に負ける奴もいるだろうな。」
こいつは確実にサノイよりも強い。サノイはその物量がある以上軍との戦いとなればサノイが上回るだろうが、本人の実力、個の戦闘であればどれだけ魔物を呼び出したところでサノイはこいつに敵わないだろう。
「そうね。軍を率いると話が変わっちゃうかもだけど、あなたが倒した魔王サノイくらいなら相手にならないでしょうね。」
「だろうな。」
まだ実験段階だがこれを使うべきだろうな。神盾のストックもほとんどない。やるしかないか。
「挑戦者をなめていたようだし、準備は万全じゃないのでしょう?速攻で殺してあげる。」
「お前こそ、サノイとの戦いの後から俺が成長していないとでも思っているのか?」
「さすがにそこまで驕ってるわけじゃないわよ。でも、今のあなたから感じる力はあまりにも弱弱しいわ。特に魔力が。」
今俺の魔力は地中に埋めた大量の神蔦を流れている。俺自身の魔力が少なく見えるのは当然か。地中までは観測できないようだな。
「でも不思議ね。あなたの魔力は外に流れているのに減る様子が見えないわ。気になるし、殺さずに研究材料として持ち帰っちゃおうかしら。」
「俺は体質で無限に魔力が湧き続けるんだよ。だからよほどのことがない限り俺は魔力切れを起こさない。流れ出てるのは体が爆発しないよう代謝みたいなもんだ。これで納得か?」
「あら、自分でその仕組みがわかってるのね。ますますあなたのことが欲しくなってきちゃった。ねぇ、私と契約しない?」
「すると思うか?」
「でしょうね。でも内容は魅力的なはずよ。今から私とあなたで戦って勝ったほうが相手に服従する。どう?」
「勝利条件は相手を戦闘不能にすること。」
「え?」
「これを追加するのなら受けてやる。」
「いいわよ。もともとそのつもりだから、ね!」
火球が飛んでくる!だが、もう関係ない。
「植手流 冬虫夏草」
とある世界では虫に寄生する不思議なキノコがあるという。その名を冬虫夏草、そしてその名を冠するこの技は・・・
「その姿は・・・」
「驚いたか?さっきお前は俺の魔力が少ないといったな?それはこの蔦たちを俺の魔力が流れていたからだ。そしてこの蔦は地中に埋まっていた。そしてその蔦を俺に寄生させた。」
もはや人を辞めた新たな力だ。樹人に比較的近い組成ではあるが、人としての構造も併せ持つ。
「樹人?いえ、樹人と人の間のような存在ね。」
「よくわかってるじゃねぇか。3つお前に絶望の宣言をしておいてやろう。1つ、俺の仲間の結界によりこの場からお前は逃走できない。2つ、俺はどれだけ傷つこうと魔力がある限り樹人の力で再生できる。3つ、これは俺の流派の技だ。」
「それが何だっていうのよ。」
「技の1つが俺の体に寄生しているんだ。俺の意識が途絶えようとこの体はお前を戦闘不能にするまで戦い続ける。行くぞ!」
全身が神蔦で覆われ神蔦で作られた剣を持ち、自在に植物を操る無限に魔力を持つ勇者の俺と、様々な存在を模倣し、自在に魔法を操る魔力が有限の悪魔ロアンの戦いが今始まる。




