第20話 ただの領主が馬車の護衛についた件
出立のタイミングで武器屋に顔を出した
「おぉ、アランか。頼まれてたもん、できてるぞ。」
親父が出してくれたのは俺が見たことがないほどいい双剣だ。貴族だったこともあっていろんな高品質の武器を見てきた。そんな俺でもこれまで見たことがないほどにいいものだ。
「魔王様が使うっていうことだからな。せっかくならと見た目にもこだわった。素材は黒曜石とミスリルを混ぜた特別な金属だ。」
「ちょっと待て。黒曜石と金属を混ぜた!?」
「俺のスキルだ。金属と石を自在に混ぜることが出来る。これまで黒曜石は高いからチャレンジしなかったが、今回はせっかくだしチャレンジさせてもらった。その分いいものはできたぞ。さしずめ黒曜ミスリルの双剣といったところだな。」
黒光りする金属質の刃が特別な雰囲気を感じさせる。
「具体的にどんなものなんだ?」
「そうだな。魔法を込めているわけじゃないから特別な力はない。だが、黒曜石の持つ鋭さと硬さにミスリルの持つしなやかさが合わさることで刃こぼれすらしないほどに頑丈で金属質でありつつ黒曜石の鋭さを持った刃が完成した。見た目ではわからないが、それぞれの刃で黒曜石とミスリルの配合の割合が違うんだ。右の剣が刃の鋭さ、左が丈夫さにそれぞれもう片方よりも重きを置いて配合した。左で攻撃を防ぎ右で一撃必殺の刃を突き出す。人間の身にはありあまる武器だが、魔王様の身体能力があれば十分に扱いきれるはずだ。」
「ありがとー。説明はよくわからなかったけど、右手で切り付けて左手は防御って感じでいいんだよね?」
「大体はな。あとはお嬢ちゃん自身で戦い方を身に着けるんだ。」
「うん!」
「ありがとな、親父。」
「どうってことないさ。金のほうはどうする?」
「いつも通り国王に請求しといてくれ。」
「分かったよ。魔王アラの武器って素直に申請すればいいか?」
「あぁ。万が一無理って言われたらこっちに帰ってき次第すぐに支払うよ。」
「頼むぞ。一応材料費だけで考えても結構かかってるからな。」
「あぁ。いくらだろうと支払う金はあるさ。」
「元貴族様はうらやましいねぇ」
「その貯金をはたくって言ってんだよ、感謝しろよ?」
「言っとけ。それじゃ、無事に帰って来いよ。」
「あぁ。魔王くらい蹴散らしてきてやるよ。」
親父さんも待ってるんだ。負けるわけにはいかなくなったな。
「それじゃ2人とも、行くぞ。」
「はーい」
「うん」
現在地からブレクルスの王都までは馬車を乗り継いで約10日ほどかかる。旅の間に厄介ごとに巻き込まれなければいいが・・・
「お兄さん、冒険者かい?」
馬車の席を買おうとしたら声をかけられた。
「あぁ。そうだが・・・」
「ちょうどうちの護衛をしてくれる予定だった冒険者たちが全員流行り病で無理になったって言われたんだ。引き受けてくれないか?」
「ギルドには言ったのか?」
「その返事待ちなんだがなかなか遅くてな。」
「そうだな。こいつを乗せてくれるなら相場で引き受けてやる。」
ヒナツにはさすがに徒歩で馬車を追いかけるのは厳しいだろう。アラと俺なら護衛をしつつ追いつける。
「いいよ、私も歩くし・・・」
「乗り継いでしばらく旅をするんだ。休めるときに休んどけ。」
「1名を無料でお乗せして相場の護衛量をお支払いすればいいのんか?」
「あぁ。あと、荷物も任せたい。」
「もちろんだとも。それでは前払いにて支払おう。」
気前がいいな。ギルドにもすぐに伝達ができるみたいだし、出発まで待つか。
「すみません。今よろしいですかな?」
「えぇ。なんでしょう?」
明らかに身なりがいい。おそらくこの馬車の持ち主の商会の人間だろう。
「護衛を引き受けていただいたマイ商会の使いのジスと申します。うちの商会では優秀な冒険者様には今後優先的にご依頼を出させていただいたりするために共にお仕事をしていただいた冒険者様のお名前をお聞きしているのですが、今回緊急ということですのでよろしければでいいのでお名前をうかがえないでしょうか?」
「今からする質問の答え次第だな。そちらの商会でドルマニス国王とのつながりは?」
「国王様とは直接のお取引もございませんし、わが商会のトップ、マイ様も国王様とは面識がございません。」
「なら教えてもいいな。俺はアラン、馬車に乗せてもらうほうがヒナツでもう1人がアラだ。」
「なんと、勇者様御一行でしたか。知らなかったとはいえこれはご無礼を。」
「いや、馬車代を浮かせられるなら護衛くらい引き受けるさ。少し長旅なのでな。」
「そういっていただけてありがたい限りでございます。ちなみにどちらに向かわれるのですか?」
「ブレクルス王からの招待でブレクルス王国に。」
「それなら問題ないですね。」
「何かあったのか?」
「この街より北で流行り病が蔓延しておりまして。ですがブレクルス方面となると西ですし問題ないでしょう。」
「そうだといいな。」
「流行り病といいましてもほぼ全員が1週間程度で自然に良くなるようなので命にはかかわりませんし、心配するほどでもないと思いますよ。」
「それなら安心して旅をつづけるさ。」
「そろそろ出発のお時間ですね。護衛、よろしくお願いします。」
「あぁ。引き受けた。」
「ご主人ー、なんで僕は歩きなのー?」
「護衛を頼まれたんだから仕方ないだろ?」
「ひなっちゃんはー?」
「ヒナツは襲撃とかに会った時に中の人を守るためだ。お前よりも人を癒すことが出来るヒナツが適任だ。」
「そうだけどさー」
「そもそもお前俺より体頑丈なんだし体力もあるんだから文句言うなよ。それにモンスターでも出てくれればあの双剣を試せるだろ?」
基本的に馬車旅はモンスターとの戦闘がつきものだ。だから町の人間がほかの町に渡るときは必ず冒険者の護衛がつく。馬車旅の護衛は基本的にCランク相当の依頼だ。
「そうだけどさー・・・」
「それにこれからアラは冒険者として生きていくんだから依頼のこなし方も知っておくべきだろ?」
「それもそうだし、ご主人の言うことだから従うけどねー。」
そんな感じでアラはだらだらと歩いてはいるがちゃんとやることはやっているようでアラの探知網が張り巡らされているのが植物たちから伝わってくる。俺が遠くの植物たちを使って事前にモンスターを追い払っているから酔ってくるようなモンスターもいない。アラもそれがわかっているからか双剣を試せることに対して期待はしていないみたいだ。
そんなこんなでモンスターとの戦闘がなかったこともあって翌日昼前に到着予定だった馬車は夜には目的の町まで到着した。
「ありがとうな。モンスターが出ないとはこんなこともあるんだな。」
「事前に俺たちが追い払ってたからな。」
「馬車から離れずにか?」
「そういうスキルがあるんだ。それよりもブレクルス方面行きの馬車を知らないか?」
「それなら俺が担当だ。明日の昼過ぎ出発の便だな。というかブレクルスならずっと俺の担当便に乗るといい。今回の護衛のお礼だ。全部の便で席をとれるよう配慮してやるよ。」
「いいのか?」
「もちろんだ。こんなに早くつけたのもお前さんたちのおかげだしな。明日以降は護衛の冒険者がいるから安心してくれ。」
「分かった。それじゃ護衛料はありがたくいただくが、先払いで全員分の席を取らせてくれ。」
「分かった。それじゃ護衛料で私多分ちょうどでいいぜ。」
「随分と安くないか?」
「俺がこの町で休憩できる時間をくれたんだ。そのくらい安くしてやるよ。」
「助かる。それじゃ明日からも頼むな。」
「あぁ。その分万が一のことがあったら助けてくれよ?」
「もちろんだ。」




