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見てくるだけの簡単なお仕事  作者: ヒコしろう


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第8話 目指す場所はまだ遠く

季節性の良からぬ病気にかかったかのような何とも言えない感覚を残した、あの右を見ても、左を見てもオジサンしか居ない生活を離れて数日…冷静になればなる程に、


『なんという体験をしたのか…』


と今ごろになりジワジワと言語化出来ないような感情が込み上げてくる…


『あれは…この体の持ち主だったオジサンの霊に体を奪い返されていたのかも…』


などと、悪い癖で人のせいにしてスルーしようとするが、息子の成長を思い出すと胸がキュッとなるし、旦那の事を思い出すとお尻がキュッとなるので、


『やはり俺が体験した事実なんだ…』


と、急に始まりそして急に終わりを告げた子育て経験という生前の俺には思い付かない不思議な体験をどう言って良いのか分からない気持ちのままで、俺は森の東を目指しながら安心してレベル上げが出来るような拠点の作れる場所を求めて移動しているのである。


旅立ったのに集落の近所で暮らすのは、ちょっと違う気がするし、色々な集落からの旅の途中でパートナーに気絶させられ、あの集落で一緒に子育てをしたママ友のオジサン達に獲物の解体などを含め色々なサバイバル術も学んだので、ゼロから作り方を習った水袋や革袋など装備も充実している旅の不安はお尻が純潔だったあの頃よりは無くなった…と思う。


まぁ、一番の不安材料である【俺が弱いまま】という問題だけは何としてもクリアせねば集落に属さずに森で生きていくことさえ難しいのだが…


『神様からのお仕事をするにも強くならねば…』


ということで、一つ目の目標は、【元の集落から離れた場所へ移動】となり、これは旦那とバッタリ出会った場合に気まずいという事と、また心がざわつき、


『卵…もう1個ぐらい…産もうかな?』


などという俺の中に芽生えた事に気が付いてしまったメスのオジサンとしての気持ちが暴走するかもしれない恐怖からである。


『見た目はオジサンだったけど、子供って可愛いんだよ…』


と今でも息子について熱弁できる自信のある自分が一番怖い…というか前世では金はあったが、頭の出来の悪い俺に興味が薄い家族からは摂取出来なかった何かがあの場所には確かに有った気がする。


しかし、それを再び求めるにはオジサン種はハードルが高い!


『だって、オジサンに穴るか穴られないと駄目なんだよ…気を失なって掘られるのも嫌だし、気絶してグッタリしたオジサンに…なんて更に無理だ!』


という事から何が何でも遠くに行き、出来るだけオジサン種の集落の無い地域で強くならなければ次に進めない気がするのだ。


東にひたすら進みながら野草を摘み、木の実を集め、牙ネズミの巣を見つければ罠を巣の入り口に仕込み蔦を編んだ罠のロープに足を取られた獲物にトドメを刺すと、数日その付近でキャンプをしながら獲物を解体して毛皮の処理と、ただ乾かしただけの干し肉を作ってみる。


東にある大きな山の麓あたりの集落から来たというママ友のオジサンから、


「僕の生まれた集落にはいっぱい有ったけど、ここら辺ではあまり見ないから…」


という黒曜石のナイフ…といってもナイフの形では無くて手頃なサイズの黒曜石の片方を叩いて角を鋭くしただけの物であるが、そんな貴重な物も【歌を教えてくれたお礼】として頂き、それのお陰で旅先の今も肉を切り分ける事が出来ているのだが、


『黒曜石がいっぱい有ったら鋭い矢じりとか出来そうだな…東の山か…』


などと考えるが、やはり狩りの精度を上げる弓矢よりも、


『まずは塩が欲しい…集落にも少量の岩塩が有ったから採取出来る場所があるか、他の集落から来た人と物々交換したかだろうが…もう、素材そのままの野草と焚き火の熱で乾かしただけの日持ちのしない干し肉のスープでは…』


と、折角倒した獲物も食べきる前に腐らせたりして持て余す状況にうんざりしていたのであった。


『塩さえ有ればもっと長期保存が出来るし、何より味が良くなるのに…』  


という事で、【塩】【水場】【黒曜石】が有る場所を探しながら東の山を目指してバカみたいに続く森を旅する俺であった。


集落を出て1ヶ月余り…これだけ歩けば俺は目指していた山の近くまで移動しるはずだが、まだまだ山は遠くに見える気がする。


しかし、ここまでの道中で集落のママ友のオジサン達から聞いた、


「大きな池などは強い生物の水の場になりやすいから近づいちゃダメ」


というアドバイスを守りながら何とか、危険な生物を避けてはこれている。


この森で単体では平均よりちょっと下の強さのオジサン種が近づくには修羅の集まる水場は危険であり、特に深い池にはヤバいのが居る可能性が高い為に、水が欲しければ地面を根気強く掘って井戸を作るか、森の実りから水分を摂取するのが一番安全であるが、


「多少汚れてても浅い水溜まりのような水源や細い小川なら比較的安全に水が汲めるから…」


という先輩からの教えと、ようやく上手い使い方が解ってきた鑑定スキルのお陰で、森の中の足跡や糞を鑑定すれば種族名が解り、知っている獲物なら跡を辿れば食料になるし、知らないヤツは足跡や糞の大きさで判断して縄張りから遠ざかるという目安になり、森でバッタリ肉食の方に出会うリスクは減らせていると思う。


鑑定して、【生物の糞】【数日前】などと鑑定結果の出たソレをペロリとでもすれば食べて解析スキルさんが全て正確に教えてくれるだろうが、特別な訓練でも受けたかの様な上級者しかチャレンジしない性癖っぽい経験はもう穴るで十分であり、名前なんて知らなくても大きな糞がこける強そうなヤバいヤツは、


『どれぐらいヤバいかなぁ?』


なんて気にせずに【逃げる】コマンドの1択である。


強いヤツに挑んで死んだら、教会に飛ばされて、


「おぉ、死んでしまうとは情けない…」


と復活出来る訳でもなく、俺の場合はボクチン神様の前に飛ばされて、


「おぉ、死んでしまうとは情けない…」


からの業務報告を神様にしてから再び現地調査に向かわされるのだが、その時の赴任先がこの世界か…たとえ同じ世界だったとしても次はどんな生物かも分からない博打要素があるのである。


オジサン種もかなりキツいが、神様も長年放置した異世界…どんな悲惨な生物が繁栄している世界かも知れない…例えばゴキ人間とか…いや、最悪の更に先を想像してもまだ足りない可能性はゼロではないのである。


だから俺は、


『この世界を無事にオジサンボディーで巡り、この世界で文明を築いている人類を探して神様に満足してもらい早めにこの仕事から解放して貰わなければならない!』


という大きな使命があるのでリスクは出来るだけ避けているのだが…困った事にどうやらそろそろオジサン種の繁殖のシーズンに入りそうなのである。


武器を掲げて叫ばなければ大丈夫だろうが、どんなアクシデントで違うオジサンと一騎討ちにハッテンして【やらないか?】の流れに成らないとは言いきれない…


『俺が強ければオジサンの流儀には反するが気絶させて放置して離脱』


という手も使えなくはないが…


『やっとレベル8…だから、あの時の旦那にも勝てないかも…』


という状況である。


旅を優先して狩りをろくにしていなかったのが原因であるが、強さこそ正義のオジサン種の中で俺はまだまだ弱い部類であり、下克上をされる性格に難のあるオジサンも居る事から、


『求婚の決闘なんて無視して、弱いオジサンと見るやヒャッハーしてお尻を狙ってくる無法なオジサンが居ないという保証はないぞ!?』


という答えにたどり着いてしまった俺は、


『近くに小川も有るし…』


という理由だけでこの周辺で求婚シーズンから卵を産むであろう時期が終わるまで隠れ住む事に決めたのだった。


『俺も経験したから分かる…』


求婚の決闘のシーズンは約1ヶ月…これは集落の早いお家の孵化と、後生まれだったウチの息子の差が大体1ヶ月であり、穴るから卵を産む迄も約1ヶ月だった事を考えて、


【最低でも2ヶ月…安全の為に前後半月を見て3ヶ月程は隠れる】


という事に俺の脳内会議でこの緊急議題は可決されたのであった。


『これは目的の山までの旅の予定がかなり狂いそうだ…』



読んでいただき有り難うございます。


頑張って書きますので応援よろしくお願いいたします。


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