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見てくるだけの簡単なお仕事  作者: ヒコしろう


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第6話 溢れる思い

季節がらなのか日中は暖かく四六時中卵を温める必要は無いが、夜間の冷え込みは厳しく、旦那であるオジサンが巣に用意してくれていた毛皮なども使い夜通し俺が体温で卵を温めては、日中にしっかりと体を休めるという流である。


オジサン種のオスはというと、個体差はあるが一般的には巣に残したメスのオジサンが脱走をしない様に、はじめのうちはメスのオジサンにベッタリで巣や集落で蓄えていた美味しくて栄養満点の食事を集落の旦那組合のオジサン達と協力しながら用意してメスのオジサン達の胃袋を掴んだむ事に専念する。


そして卵が産まれると、メスのオジサン達が母性に目覚め卵を残して脱走をする心配はかなり低くなるのだが、ここで気を抜くと卵が孵った時に妻のオジサンから下克上の決闘を挑まれる為に、巣の家事全般もやってくれ、何かにつけて「ウガッ?」、「ウガッ?」と、


「卵の調子はどう?」


とか、


「何か困った事はない?」


などと声を掛けて気遣ってくれたりするのだが、オスのオジサンの中には日中の狩り等で日々鍛えていたり、


『あの時勝ったんだから…』


という自信からメスのオジサンにかなり横柄な態度になるオスのオジサンも居るらしく、そんな場合は離婚と巣を掛けた下克上の決闘が行われるのだそうだ。


オスのオジサンは負ければ巣からも集落からも追い出され野生のオジサンとなるのだが、メスのオジサンが返り討ちで負けた場合は最悪である。


『あれだけ尽くしたのに下克上か!』


とばかりに、只でさえ強さにアドバンテージが有ったオスのオジサンの逆鱗に触れて決闘にて命を奪われる…というのは【嫌なアイツと別れたい】という願いだけは叶う為にまだ幸せであり、最悪なのは負けて命のある場合である。


オジサン種の下克上チャンスとしては、求婚、孵化直後、子供の巣立ちという三回のうち最大で二回というルールがあり、既に全員求婚の時に決闘をしている為に、孵化した時に下克上チャンスを発動して負けた場合は、


『お前…下克上するタイプのメスのオジサンだったんだな…』


という事実から、以後の下克上が出来ない状態で死ぬより過酷な【旦那にいびられながらの子育てライフ】へとシフトしてしまうのである。


辛くても子育てが終了して子供が巣立つ時まで下克上チャンスを温存すれば、


『コイツ…最後に牙を剥くかも…』


という面倒臭い決闘を恐れて、かなりの場合でオスのオジサンは友好的にメスに接してくれるらしいが、色々あり今はメスにされているとはいえ元は同じ野生の立派なオジサンであったプライドもあり、


「舐めた態度が気に入らない!」


と一定の確率で孵化後の下克上チャンスに決闘が行われるのだそうだ。


ちなみに下克上で負けたオジサンの多くは悔しさからか修行を積み、強い野生のオジサンとなり次の繁殖シーズンには巣を持つオジサンに求婚の決闘を挑み他の集落で新たな巣を勝ち取る事が多いそうだ。


あと、希ではあるが集落自体を作る為に野生動物と戦って縄張りを手に入れて、巣を一から作る…というパターンもあり、この縄張り争いの相手次第では生死をかけた大勝負を勝ち抜いたオジサンなどはレベルが爆上がりしており、その後の繁殖シーズンに気合いが入りすぎて求婚の決闘相手を気絶では無く撲殺してしまう事はママさん組合のオジサン達の井戸端会議で聞いたのだが、「あるある」らしい…


『俺の体の持ち主だったオジサンも下克上の恨みからムキムキにビルドアップされたオジサンの愛を受け止めきれずに死んだのかも…』


と、ひょんなタイミングでこの体の死の真相に近づけた気がして、


『確かに森で死んでたんだけど…獣に負けたのなら美味しく頂かれてるもんな…』


と変な納得をしてしまったのであった。


さて、我が家の旦那が狩りに料理にと忙しく働き、俺は巣穴にて出された食事を食べては卵の世話をする事、1ヶ月程…面白いもので中身は日本のオジサン(人間)であり、種族としてのオジサンの卵の世話の方法など知らないはずであるが、何故か卵を見ていると、


『あっ、そろそろコロンと動かしてあげよう…』


とか


『今日は雨か…ちょっと寒がってるからお昼頃まで温めてあげよう…』


などという思考が脳では無く、【種族としての刻まれた記憶】みたいなモノから自然に溢れだし俺を動かすのであった。


そして、その日はやって来たのである。


卵の中でスクスクと育ち、殻を突き破る力と体格を手に入れた俺の愛おしい小さなオジサンが、


「おっ、あぁ~」


と湯船に浸かるオジサンみたいな声を出しながら…というか卵の上部を背伸びする様に取り外して、卵の下半分はそのままで、その中で湯船に浸かってるみたいに座ったままで殻の縁に肘をチョイとかけて、


『で…どっちがママさん?』


みたいにこちらを見つめている。


今日だけは朝から狩りを休み一緒に卵から出てくるのを見つめていた旦那と俺を交互に見ている姿は間違えなく裸の小さいオジサンであり、生まれたてのオジサンを二人のオジサンが見つめるという…かなりカオスな絵面ではあるが、何故か俺は感動で視界が潤みながら、その生まれて来てくれた小さなオジサンを抱き抱えて頬擦りするのであった。


勿論旦那も飛び上がる程喜んでおり、生まれたてのその子をこの時のために用意していた【飛びリス】というボクチン神様からもらった鑑定でも【最上級の毛皮…】と出るぐらい此方の世界ではポピュラーな高級毛皮でクルリと巻いてあげると、「ウガッ」と優しく吼え、


「この子の食べる物を取ってくるぅ…」


と風の様に巣穴から外へと走り出して行ったのであった。


ちなみにではあるが、ウチの旦那はオジサンの中でもかなり優しい部類のオジサンらしく、近所のママさん達からも羨ましいがられているのだが、いつも隠れて素振りをしていた下克上を狙うママさんであるオジサンは数日前に卵が孵ったのを合図に案の定かなり横柄だった旦那に決闘を挑み、腕の骨を折られながらも放った攻撃が旦那のコメカミにクリーンヒットして気絶させ、ご近所の巣を持つ旦那組合の立ち会いの元、正式に決闘の勝者となったママさんは新たな巣のオーナーと認められ、旦那だったオジサンはお情けで手当てされた後に離婚…今では野生のオジサンとして何処かの森の中で体を鍛えている頃であろう。


という事があった集落は現在孵化ラッシュに沸いており、我が家は一番最後の部類だった事もあり、


『無事に孵化するだろうか…』


という心配もあった為に、今、俺の腕の中でモゾモゾと動く元気なオジサンを見るだけで涙と母乳が溢れそうになる。


『あっ、母乳は出ませんよ…オジサンですし…』


という事で、生まれたてのオジサンは何を食べるかというと…虫である。


もう、文面から気持ち悪くなりそうであるが、この時期しか手に入らない栄養食品である幼虫が【ズク】である。


鑑定スキルさんからの情報ではボクチン神様の世界で【倒木漁り】という甲虫に近い種類らしいが、何故今回に限り(仮)の命名でなはないかというと、大木のウロをベースにした我が家で煮炊きをするのは危険な為に小さな池がある集落の共同の調理エリアにて食べ物は旦那達が料理をして各自の巣穴に持ち帰るのだが、


「今日は初物のズクのスープだよ」


とウチの旦那がルンルンでウガッウガッしながら渡して来たスープを飲んだ為に、俺の食べて解析スキルが、


【倒木漁り亜種】

【現地名 ズク】

【枯れ木に産卵する甲虫の一種…】


などと食べる前ならまだしも、俺が食べ終わって、


『なんかシットリしてホクホクと…ジャガイモの親戚かな?』


と、久しぶりに少し甘味の有る後味を楽しんでいたのにもかかわらず、


『やーい、やーい! お前の食べたのは虫でしたぁ~』


という具合に嫌な報告をしてくれたのである。


だから既に【ズク】というパチもんプラモのザクみたいな名前の虫の幼虫の存在は勿論、味さえも理解しているのである。


オジサン種は卵から生まれる為に孵化してすぐでも柔らかい物ならば問題なく食べられる。


なので加熱すれば芋の様な食感になるズクは持ってこいな食材であり、オジサンの繁殖は長年このズクが支えてきたらしく、森の中で暮らしているのもズクが豊富だという事もあるらしいのである。


旦那は、


「ズクは獲れたてを踊り食いが…」


などと気持ち悪い事を言っていたが、オジサンの間では通な食べ方らしいが…俺は遠慮したい…


「ボクちゃんモ、生ズクは食べナイよネー」


と、腕の中のかわいい小さなオジサンに語りかけると、


「キャッキャ」


と楽しげに笑う口元には既に数本の歯が見え、


『生えかけなんだろうけど…抜けた末路にも見えるな…』


と、かわいい筈のツルツル卵肌の小さなオジサンが一瞬ちゃんとしたオジサンに見えたのは俺の魂が汚れているからかもしれない…



読んでいただき有り難うございます。


よろしけれはブックマークをポチりとして頂けたり〈評価〉や〈感想〉なんかをして頂けると小躍りする程嬉しいです。


頑張って書きますので応援よろしくお願いいたします。


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