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見てくるだけの簡単なお仕事  作者: ヒコしろう


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第3話 悶え苦しむ

木屑をペロリとして数十分…俺の中に何かが流れ込む様な感覚があり、


【棍棒の木(仮)】


【土壌の汚染物質などを吸収・浄化する性質を持つ】


【どうしても浄化仕切れない毒素を特定の幹に溜め込み、その枝を自切させる事により土壌の浄化を進め、再び土に毒素が戻らない様に進化した樹木である】


【切り落とされた枝は毒素を圧縮させている為に非常に固く棍棒として最適である】


という文字が頭の中に浮かび、


『凄い!本当に棍棒になる為に進化したみたいだ!!』


と俺が浮かれていたのも束の間…


【素材としては毒素の塊の為に注意が必要であり、熱を加えたり煎じた物を服用すると酷い下痢に…】


という文字が頭に浮かぶのが早いか、急な差し込みに襲われるのが早いか…俺は見ず知らずの異世界の森の片隅で、下っ腹に力が入らなくなるまでグルグルピーし続けるのだった。


『いや、毒なら【毒】って解らないなりにも注意喚起してくれるって話でしたよね…鑑定スキルさんよぉ!』


と森の木にしがみつきながら力の入らない足腰の為に膝立ち気味に崩れ落ちながらも続く下痢に、


『ヤバい…脱水で死ぬかも…』


と焦るが、俺はまだ動けそうも無い…あとどうでも良い話になるが、毛皮の下はノーパンだった為に、


『色んな意味で助かった』


とだけ報告しておくが、現在の俺はワンピース状の毛皮の服を胸元辺りまでたくしあげ、下半身丸出し気味に木にしがみつき…とまぁ、それ以上はご気分を害する可能性しかないのであえて黙っておく事にするが…ただ、


『あれか…石に擦り付けて削った時の摩擦熱でか…』


と要らぬ分析を最後に日暮れまで軽く灰の様になり項垂れていた事だけはお伝えしておこうと思う。


…腹の中を全て木の根元に産地直送の肥料として出しきり、やっと一息ついた頃には辺りは薄暗くなり、とある理由から俺の喉はカラカラで腹もペコペコなのであるが、


『食いもの…よりは水が欲しいな…』


と思うが、日中でさえ安全かどうかすら怪しい森を暗くなってからウロウロするほど俺はチャレンジ精神に溢れた人間ではないのである。


どうやらこの森の土壌には何かしらの毒素がある為かあまり種類豊富で無い木々の中でも俺が解析して仮の名前として【棍棒の木】と命名された樹木は根元の土から毒素を吸い上げて浄化しているからか根元周辺にはボクチン神様の世界にも存在する食べる事の出来る野草が生えているらしく、俺の鑑定スキルには、


【ドワーフ草】

【肝臓の働きを助けて、酒の分解を促す】


とか、


【日陰苦草】

【苦いだけで無毒であるが独特な香りには虫除け効果がある】


などと、何とか食べられそうな名前が並ぶが、木の根元の食べられそうな野草には俺の産地直送の肥料がかかり、鑑定スキルを使うまでもなく、


『ここら辺は汚な草だから別の棍棒の木の根元を探すか…』


という事となり、今夜は俺がこの何時間も抱きしめつつ涙とナニかを垂れ流しながら過ごした棍棒の木を目印として、この辺りで一夜を過ごす事に決めたのであるが、早速困った事が出てきたのである。


薄暗く視界が効かなくなる前に火を起こしておいた方が良いだろうと、正式なサバイバル知識の無い俺でもゲームから吸収した知識により何となくホワッとは解っているのではあるのだが、しかし、いざ実践となると、


『いや、火ってどうやって着けるの?』


という問題にブチ当たり、どうしようも無いので俺は、汚なく無い近場の棍棒の木の根元にしゃがみながら、食べれそうな草を引き千切っては、


「モシャモシャ…」


と食べてみる。


『う~ん、不味い!』


とは思うが、微妙な水分とカスみたいだが腹の足しになる草を食べる手を止められないまま、


『もう火は諦めよう…もうクタクタだ…でも寝床も無いし…野生動物も怖いよな…』


などと、軽いトラブルによりお腹の中がスッカラカンとなり、大合唱で騒いでいた俺の腹の虫達が、不味いが食えた生の草のお陰で多少満足したらしく大人しくなったと同時に色々な不安が押し寄せてきたのである。


そして、生の草を食べた事により解析スキルが発動し、


【ドワーフ草亜種】

【厳し環境の中で毒素を排出する効果に長けた進化を果たした品種、毒消し効果も見込める】


という文字が見えた途端に、


『毒消し効果…下痢してる最中に教えてよ…そしたら何時間も苦しまなくて済んだのにぃ~』


と、ワンテンポ遅い事についてやり場の無い苛立ちを覚えるのであった。


しかし、イライラしているのは生の草達のお陰で多少はマシというだけで、マダマダ腹ペコなのが主な原因であり、


『何でも良いから腹一杯食べたいが…草はもう要らないや…』


と、冷静になれば味付けも無く生でモシャモシャする物ではないと判断された生の草達を地べたに座り眺めながら、


『こりゃ、文明がどうのこうのの前に普通に死んじゃうかも知れないな…俺…』


と、能力不足の自分が不安になり、いつもの癖で、


「もう、ヤめタイ…」


と呟いて初めて、


『あれ?喋り難いな…』


と気がつく。


一人暮し…というか生前は引きこもり生活の為に宅配業者さんに、「はい」と「どうも…」だけで大概済んでいた為に、よっぽどの事でもない限り面倒臭いので喋らない方ではあったが、この世界に来てからを思い返しても、「ヨシ!」と気合いを入れた以外は全て脳内での呟きであった事を知り、


「ふだんカラ、こえヲダサない…カラか?」


とワザと声にだしてみるが微妙にカタコトである。


『どうなんだろう…借り物の体が馴染んでないだけか…そもそもこの体の持ち主さんの言語では使わない発音とか有って舌の筋肉的に…』


などと考察するが、それすらもやや面倒臭くなり、


『まぁ、ここまで他の人も見かけなかったし、出会って髪の毛を1本ばかり食べさせて頂くまでは会話すら出来ないだろうから…』


という理由から、この問題を一旦棚上げし、


『問題はどうやって明日の朝まで過ごすかだな…』


と、現在の一番の問題に向かい合う。


日中の移動中は有難い事に握り拳ほどの何とも言えない虫が居たぐらいで草食も肉食も動物の類いを見かけなかったが、野生動物なんて大概は夜行性だろうという偏見もあり物凄く夜が不安なのである。


『火がおこせれば…』


とも思うが、落ちている木に手頃な枝を押し当ててコスコスと手でキリモミスクリューさせて火を着ける技術なんてある訳もなく、とりあえず落ち葉や枝を軽く集めてから、


『一応ここは剣と魔法の世界のパラレル異世界だし…』


という事で俺はその落ち葉の小山に手のひらを向けて、


「エい!」


と炎を出そうと気合いを入れるが…何も起こらない…


『フッフッフ…無詠唱なんてやはり無理なだけか…』


と誰も見ていないのに薄っすら恥ずかしくなる自分を励ます様に数少ない楽しかった事を必死で思い返し、


『大丈夫、大丈夫…』


と一旦心を落ち着けてから、


『大気に漂う炎の精霊よ…』


などと、それっぽい詠唱でもしようかとも考えたが、それで何も起こらなかった場合に恥ずかしさで悶える未来しか見えない…


『幼い時に真剣に裏庭で【なんちゃら波】を撃つ練習を見られた時のトラウマが…』


と、既に一回目の失敗でトラウマが燻る俺だったが、


『でも火は欲しいな…』


と諦めきれずに落ち葉の小山に指を近づけ、


『ほら、生活魔法とか良くあるよね…』


と自分に言い聞かせながら、


「チゃッ火」


とカタコトで着火と言いながら指をペチンと鳴らす…しかし、暗くなった静かな森に俺の指から発せられたペチン音は、スゥーと吸い込まれ、再び耳鳴りがする様な静けさが…


『恥ずか死ぬ…』


と客観的に今の自分を見てしまった俺は、暫く悶え苦しんだ後に、


『アホ臭い…寝る!』


とふて寝を極め込む事にしたのであるが、そもそも寝る準備として火が欲しかった事を思いだし再び頭を抱えて暫く悶えてしまう。


『どうすりゃ良いのよぉぉぉ!』



読んでいただき有り難うございます。


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頑張って書きますので応援よろしくお願いいたします。


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