第22話 誰かの記録
あまりに怖かったので、二人にもムラムラ止めを数粒ずつ渡し、
「ヘンだなぁ~、と感じタラのむこと!」
と指示を出したのであるが、これで俺のムラムラが押さえられる日数が少なくなった為に、出来るだけ我慢するか、または試練終わりに下の森辺りで二人とは離れて一人で数日過ごすしか無くなったが、
『さっきの事が頭に残り不安しかないからなぁ…』
と、まだ鮮明に思い出される裸で放心していた二人のほんのり火照った顔がちらつき、覚悟を決めた俺の背後では、
「兄貴…こいつ…なんて生き物です?」
「食べたこと無いヤツだ…」
と地元っ子の二人も言っている為にかなり希少な生物なのだろう。
しかし、
『えっ、食べれない生き物だから食卓に上がらないとか?』
という不安が頭を過り、二人が相談しながら丁寧に解体している後ろ足と体のバランスが気持ち悪い生物の肉を一切れ切り取り焚き火で炙って食べてみる。
「兄貴ったら…お腹空いてるんだね」
「よし、兄貴にはこのムキムキな足を丸々一本焼いてあげますから…」
と腹ペコキャラ扱いであるが、毒でもあれば全滅の可能性もある為に、
『もしもの時は俺だけ苦しめば…いや苦しいのは嫌だが…でも苦しむ前に即死なんてのはもっと嫌だし…ダメでも下痢程度で許して下さい…お願い…』
などと祈っていると、
【キモいバランス(仮)】
【跳ね鹿からの進化種、食料が少ない地域でも暮らせる様に小型化し、また不安定な足場も軽々跳ね回る強靭な後ろ足を手に入れ、脚力の強いオスが脚力の強いメスを勝ち取るといった習性から徐々に発達し過ぎた後ろ足の個体が…】
という解析結果が浮かんだのだが、俺はコイツが【鹿】とはとても信じられなかったのである。
フォルムとてはウサギの後ろ足がカンガルーほど発達し、バランスを取るシッポが無い為に前傾姿勢が取りにくいのか草を食べる為にバクやゾウの様に鼻が長く進化し、前足は棒みたいで杖の様に使い静止する時のスタンド代わりにしている様子であったのだ。
鹿からの進化…というより鹿の奇形種と言った方がまだ納得できそうな姿…
『まぁ、毒は無いみたいだけど…鹿?』
と納得出来ない結果だったのであるが、問題はその後であり、
『筋肉質過ぎて食いづらいが…新鮮な肉だし…』
と、俺が大きな後ろ足をモシャモシャしていると、焚き火の反対側で食事をしていたキヨさんとガリさんが申し訳なさそうにこちら見ており、キヨさんが、
「兄貴…食べ終わってから言うのは何なんですが…」
と切り出すとガリさんが、
「オイラ達、足以外の場所を食べたんですが…ちょっと足りなくて…」
いうので、俺は、
『気にせずもう一本ある後ろ足を食べたら良いのに…』
と、思い、
「二人デ、残り、タベチャって…」
と伝えると、すでに二人は大きな後ろ足を切り分けて食べ初めていたらしく、
「それが…食べた肉が凄く美味しくて期待してましたが…」
とさらに申し訳なさそうなキヨさんの隣で我慢できなかったのかガリさんが、
「兄貴、ごめんなさい…後ろ足は大きいだけで固くて不味いです。オイラ達ばかり美味しい部位を食べちゃいました」
と謝るのである。
そして二人の証言から
「鼻が一番旨い…」
との、新事実が…
『ほら、食べて解析スキルさん…【鼻が美味】らしいですよ…』
ということで固い肉を何とか食べ終わり、キモいバランス(仮)の情報に新たな一行が追加された後に俺は、焚き火の番として二人を残し、ムラムラから二人に襲いからない為もあり松明を片手に二人から離れてこの空間を見て回る事にしたのである。
するとドミノの様に並ぶ鉄の板にはビッシリと文字が書かれていたのだ。
【不規則な模様の硬い板…】
と村長さんが言っていたのはどうやらドワーフ族の誰かから、この文字が読める誰かに向けた手紙であり【ドワーフ文字】にて書かれていた悲しい真実であったのである。
【ドワーフ王歴1020年、我々はエルフの汚い遣り口に我慢出来ずに世界樹のあるエルフィリアに向け我がドワーフ王国の最高戦力である飛行戦艦三隻にて進軍…しかし、エルフィリア目前に神の声が響き、我々はこの世界に…】
という書き出しを見た俺は、
『あぁ、エルフ贔屓のボクチン神様に飛ばされたドワーフさんの拠点か…』
とすぐに理解出来たのであるが、碑文となっているこの鉄板を読んで行くと、ドワーフさんの言い分ではあるが、それを差し引いてもエルフの人達は攻め込まれても仕方ない程に酷い奴らの様である。
「兄貴、疲れたでしょ?」
「一旦寝て明日にしませんか?」
という二人に、
「サキに寝て…」
と伝えた俺は、この記録を読み進めると、どうやらドワーフ王国は同盟国のヒト族の国と協力し空飛ぶ戦艦を完成させたのだが、魔石なるエネルギー源の燃費が悪く魔法技術に長けたエルフ王国に技術協力を求めたらしく、ドワーフ王国は対価として王国の鉱山から採掘されドワーフ族が唯一満足に加工が出来ないミスリル鉱石を大量に支払って、【魔力増幅技術】を手に入れたのではあるが、次に種族的に防御力が弱いエルフ族の王が、
「ドラゴンにも一騎討ちで勝てる甲冑を…」
という依頼にエルフの魔法技術とヒト族の魔道装置とドワーフ族の鍛冶技術の全てをつぎ込み魔道甲冑なるモノを三体作ってエルフの国に納品したのだが、
「我らの技術のおかげで完成したのだから…」
とエルフの王が言い出し、代金を一切払わなかった上に、魔道甲冑や飛行戦艦にも使われる魔力増幅装置であるミスリル製の魔道回路の出荷を永久に凍結したらしく、新たな飛行戦艦や魔道甲冑が作れなくなった所に、エルフ王国がある世界樹の森で暮らしている事が普段から気に食わなかったらしい獣人族の集落を魔道甲冑にて滅ぼしたのだそうだ。
『悪いのはエルフじゃないか!』
と思うが、エルフ贔屓の目には、
【エルフの国に攻めてきた悪いヤツ】
と映り飛行戦艦を丸ごと異世界追放…という流れだったらしいのだ。
よっぽとエルフに恨みがあったのか、暫くはエルフへの愚痴や恨み事が続いたのであるが、次の碑文には、
【どうやらこの世界には魔力が無いらしい…この世界に飛ばされて直ぐに飛行戦艦は魔石の魔力を大気の魔力を使い増幅させるという魔道回路が全く機能せず、飛行能力を失いただの船となり果て、我々のスキルも使えなくなったり、騎士団の身体能力強化も使えず非常に弱体化している…他の二隻の行方も念話スキルすら使えず分からなくなった…】
などといった事が綴られていたのだった。
ほとんど寝ずに金属板の碑文を読んだのであるが、まだ目を通せたのは碑文の一部だが、その内容の殆どがエルフへの恨み節であり、
『どんだけ嫌いなんだよ…エルフ…』
としか思えないが、どうやらこの金属板はこの山に座礁した飛行船艦の装甲板だったらしいという事はたまに挟まるエルフへの恨み以外の情報から読みとれたのである。
魔力の十分に無いこの世界ではドワーフ鋼を打ち直すと混ぜられた魔鋼から魔力が霧散し只の不純物の多い粗悪な金属となる為に空も飛べず、海からも離れた山に打ち上げれた為に分解して必要な金属や装置をこのシェルターに使って、残った装甲は扉などに使った他はこうやってエルフへの恨みを綴る物へと使われたらしいのだ。
『こんないっぱい金属板を並べたら生活し辛いだろうに…それに飛べなくなって船として海で使ってたのに何で山に…』
と、不思議には思うが、その秘密を知るには、まだまだある碑文を読み解く必要がありそうであるが…
『エルフへの恨みの下りを読むのが…正直しんどい…』
という事で一旦読むのを諦めて、俺はチャッチャと村長さんからの試練を済ませてしまう事にしたのであった。
読んでいただき有り難うございます。
頑張って書きますので応援よろしくお願いいたします。




