第21話 神様の墓って…
神々の墓と呼ばれる洞窟は山の下から見上げてもなかなか分からない位置であったが、近くまで来ると人の手で掘られた洞窟…というには綺麗すぎる【小ぶりなトンネル】の入り口の様なものが口を開けていたのである。
俺は、入り口から一歩入ったトンネルの内部の天井を見上げながら、
『コンクリートかな…舗装されているけど…明かりも無いし深そうだ…』
と、普通なら等間隔で設置されていそうな灯りが無い事に少しがっかりしていると俺の少し後ろから、
「兄貴…とりあえず、もっと中に入りませんか?」
というキヨさんの声と、
「兄貴…オイラ達はお情けでガボの毛皮のマントを貰って肩辺りはポカポカですが、兄貴と違って足元はスースーなんですから…」
と寒さを訴えるガリさんの声が…まぁ、ウガウガ言いたい気持ちも解るのは俺の毛皮の服を膝下丈のロングスカートとするならば、彼らの服装はいつもの牙ネズミの毛皮の服でありミニスカート丈なのである。
そこに襟巻きトカゲ程度の下痢ガボの毛皮のポンチョみたいな物だけでは見ているだけで寒そうなのだ。
二人は、俺の指示で俺がムラついて襲ってきた場合に逃げれる距離を保ちつつ後ろをついて来ている為に今も入り口の外にて冷たい風に吹かれたまま入り口付近で呆けている俺に、
『もっと奥へ行け!』
という気持ちをとてもマイルドに言っているが、振り向いた時に見た顔は【必死そのもの】という顔つきであった。
「すまン…」
とだけ答えて暗いトンネルに入って行くのであるが、やはり基本的に巣穴で暮らすオジサン種は暗闇に適正があるのか、ゆっくりと暗いはずのトンネルの中でも見えてくるので不思議である。
『少し見えてきた…』
と生前、夜に電気をつける一手間を面倒臭がり豆電球の明かりでトイレ向かう時ほどの視界がこの暗闇で確保出来た事に驚く俺の後方では、
「あったけぇぇ!」
「風が無いだけでこんなに違うんだ…」
などと、違った驚きにウガウガ言っている二人が居る。
しかし、二人はまだ目が馴れていないらしく直ぐに、
「兄貴ぃ…居ますかぁ?」
「置いていかないでね兄貴ぃ…」
と暫く騒いでいたのであった。
目が馴れてきた二人は、
「兄貴、入ったすぐは暖かいと思ったけどあれは外が桁外れに寒かっただけで中も結構寒いですね」
や、
「もう、兄貴が発情したら逃げるって言っても一本道だし、村長の薬も有りますから三人でくっついて歩きませんか?」
などと言ってくる。
どうやら二人はこの登山にて体の芯から冷えているらしく気の毒には思うが、
「ダメ…襲っタラ大変だ…」
と押しくら饅頭しながらの移動を却下するとキヨさんは、
「別に兄貴なら殴られて孕まされても…」
などと怖いことを言い、ガリさんまで、
「だめだめ、先に兄貴に孕まされる順番は譲れないよ…」
などと張り合っている…
『やめて…俺を取り合って喧嘩しないで…』
などと馬鹿みたいなセリフが頭を過るが、ここはオジサン種の聖域であるらしいが、寒さを避けて野生の肉食獣が住みかにしていないという保証は無いのである。
「二人トモ…」
と呆れながら二人に注意を促すと、何故か後方では、
「えっ、そんなのアリなの?」
「…でも、兄貴なら二人いっぺんでも…」
などとヤバい勘違いをしながらも、ガリさんが、
「あれ?なんかお腹のあたりがポカポカしてきた…」
と怖いことを言い出し、キヨさんまで、
「オイラもだ…兄貴の事を考えただけなのに…」
と、まだ本格的なムラムラではないにしろ野生の本能が軽く目覚めたのかも知れない発言に、
『良いから二度寝しててくれ…二人の本能…』
と祈りながらも腰のベルト代わりの紐から下げたムラムラ止めの薬を触り、
『うん、有る…最悪二人にも飲ませて距離を取ろう…』
と、念のため薬の存在を確認し、いざという時の行動を確かめるのであった。
後ろの二人は呑気に、
「立派な巣穴だよなぁ…なんで誰も住んでないんだろう?」
「そんなの薪になる木を取ってくるのも坂道をかなり歩かないと、ろくに木も生えてない場所だからだよ…寒いのに…」
などと騒いでいたいたのであるが、二人は俺に続いて到着したトンネルの先に広がる空間の異様な光景にピタリと無駄話を止めて、立ちすくんでいたのである。
そこには金属の板がドミノの様に並べられた回廊があり、その先にはまだ先に伸びる坑道のような土壁の穴が続いており、この広い空間には何かしらの作業をしたであろう物が壁際に転がっていたのである。
村長さんや、前村長さんの話では、神々の墓と呼ばれるこの空間が、試練を見届けるために付き添った村人の待機場であり、
「水場もアルから干し肉や、干しや草さえ有ればカマドもあるから温かい汁物が楽しめるゾイ」
と言っていたのだが、多分であるがアレはただの竈門では無い…いや、正式な使い方を知らずに薪を燃やした形跡はあるが、あれは鍛冶場であるはず…何故なら金床が隣にあるからである。
「兄貴、ここで薪が燃やせるみたいです」
「下の森から薪になる枝を背負ってきて良かったね…早速火をつけよう」
などと、ようやくこの空間に馴れたのか嬉しそうに暖が取れることにはしゃぐ二人を他所に、俺は吸い寄せられる様に【文明】を感じる金床に近寄る。
誰も使わず長年放置されていたはずなのにピカピカと輝く金床を鑑定すると、
【ドワーフ鋼の金床】
【ドワーフ族秘伝の合金であり、固くて錆びないという特徴がある】
という鑑定結果が現れたのである。
『ドワーフ…』
と、この世界に来て初めてまともな人類の痕跡に触れた俺は、ここまでのオジサン種としての人生の中で『ドワーフ』に関する何かがなかったかを思い返したのであるが、ドワーフの【ド】の字も出てこずにオジサンの一色な事に、
『何で…』
と首を傾げていたのだが、後ろの二人はそんな事はどうでも良い為に、
「よし、火が着いた…あったけぇ…」
「良かった。本当に綺麗な水が湧いている…」
などとウガッた後に、キヨさんが、
「兄貴、どうします?…もう神様の像の部屋とやらに向かいます?」
と俺にたずね、そしてガリさんが、
「それとも今から干し肉のスープを作りますから暖まってからにします?」
と、【お風呂にします?…ご飯にします?】みたいに俺に聞いてくるのだが、
『それとも、わ・た・し?…とかは言わないよな…』
と思いながらも、俺は
「二人は、暖まッテおイテ…薪取ってクル」
と言って荷物を下ろして、石斧を腰に差し弓と矢筒にロープという軽装にて、草木も無いが敵となる動物も見なかった為に来た道を戻って下の森の端っこで薪を集めてくる事にしたのである。
持ってきた薪では明日までがやっとの量であり、最短でも3日ずつの三人…つまり9日は地下空間で過ごす事になり、どう節約しても足りない上に、松明などの明かりを使って、もっとしっかり調査したいからである。
『ついでに新鮮な肉が手に入れば言うことないが…まぁ、無理そうなら新鮮な草でも良いか…』
などと思いながらもドワーフの村やその他の痕跡が近くに落ちていないかもチェックしながら片道一時間ほど下った森にて倒木の枝を石斧で払い、その枝を薪として集めてロープでまとめて背中に背負い、木の実を探している時に後ろ足が異様に発達している何とも言えない気色悪いバランスのワラビーの様な生物がピョンピョンと無警戒に飛び出てきて、長い鼻で草を千切り美味しそうに食べていたので、何時もの癖…というか日頃の訓練の賜物というか、気がついたら弓にてスパンと仕留めてしまっていたのである。
『村の周りでは勿論、来る時にも見た事無い動物だけど…希少生物とかならどうしよう…』
などと思いながらも、仕留めしまった責任なので美味しく頂く為にソレを担いで再び山を登り二人の待つ洞窟へと向かったのだった。
しかし、行きも帰りもドワーフさんご本人は勿論、その村や生活の痕跡すら見当たらず、
『ドワーフの方々は何処に…』
と、見晴らしの良い山の中腹から辺りを見回したのだが、嫌気のする程の森が広がっているばかりだった。
そして、夕暮れ前に俺が再び洞窟の中へと帰ってきた時には、何故かキヨさんとガリさんの二人は裸で焚き火の前でお互いに放心したように天井を見上げていた…
『しまった…薬を先に飲ませておくべきだった!』
と焦った俺だっが、どうやら俺の心配したような事ではなく、
「あぁ、兄貴…お帰りなさい。兄貴も体を洗ってサッパリします?」
「オイラ達神様のお墓にお邪魔してるのに薄汚いままでは…って水浴びをしようとしたんですが、寒くって…」
と、水場の綺麗な水で体を洗って身を清めようとしたのだが冷たくて、煮炊きをする為の壺でスープを作る予定のお湯で体を洗って、ホッコリと焚き火で暖まりながら体を乾かしていた…という事らしい。
『まぁ、タオルどころか布の文化が無いからフンドシもなく毛皮の下はフルチンだしね…乾かしているだけで良かったよ…』
と事後のまったり時間ではない事を安堵した俺であった。
読んでいただき有り難うございます。
頑張って書きますので応援よろしくお願いいたします。




