第20話 旅立つ理由があり
早いもので、村の子供達も立派なオジサンに近づき、早い子は髭も生え始め狩りの練習を始める季節になった。
子育ても一段落して、後は村の皆さんから狩りやサバイバル技術を学び、食べられる野草などの知識や獲物の解体方法やその獲物の毛皮を使った革細工などの作り方を実践形式で身につければ晴れて一人前のオジサンとして巣立つ事になり、普通であればママさんをしていたオジサン達も自分の旅支度を整えるのであるが、今回のこの村は少し様子が違うのだ。
村のがある場所から片道一時間程の塩焼き小屋までの移動が不便で、一度行ったら数日現地で寝泊まりし塩を作るというローテーションを組んだのであるが、やはり自宅から遠いのはネックである為に、村長さんが出した決断というのが、
「塩焼き用の集落をつくるゾイ」
というものである。
塩焼き小屋の建物で学んだ技術により大木や穴が掘れる斜面が無くても家が作れる様になり、集落作りと塩焼きスタッフとしてママさんだったオジサンや、希望が有れば今年巣立つ子供オジサンも若干名は、ママと同じ塩焼き集落に新しく出来る予定のベェ牧場のスタッフとして家を建てて住めるのだ。
近親交配を避けて別々の方向に旅立つオジサンであるが、同じ村や集落での巣持ちのオジサン同士のカップリングはご法度である事と、近隣の集落といえど巣持ちのオジサンが巣持ちのオジサンにアタックする事は出来ない為に、【親子で…】という事は無く、決闘に負けて今シーズンはこの村でママをしているオジサン達も、念願の巣を持ち、野生のオジサンからの求婚を受けて良い立場になるのだが、
【弱いと負けて巣を奪われる…】
という掟ゆえに早朝、村のあちこちからブンブンと棍棒を素振りする音が聞こえたかと思うと、その後、新しい集落の方では石斧で木を切る音が鳴り響き、塩焼き集落に同じような家が建ちはじめる頃には、連日の作業からかママさんチームの中に【二の腕パンパンオジサン】が増えた気がする。
炊事などをする塩焼き集落の集会所的な建物は塩焼き小屋と同じサイズであるが、巣に使う個人の家はかなり小さい為に比較的すぐに建ち、村から子供が巣立つ度に、塩焼き集落の住人が増えて行き、塩焼き集落のみで塩の生産スタッフが回せる様になれば、子育ての終わったパパさん達が、村と塩焼き集落の牧場エリアの柵や、野生動物から家畜の被害を避ける為に石垣や丸太を組んだバリケードなどを作り始めている。
そして村長さんは次期村長さんに村の運営を任せて、塩焼き集落の長として新しい村長さんをサポートしつつ、薬草園を塩焼き集落でもつくり、次の代の塩焼き集落の長の育成に励むのだそうだ。
それなら…という事で俺は地底湖での不味い草だが食料として日陰苦草に助けられた記憶から、
「食べられるクサもソダテては?」
と提案すると、村のママさんから塩焼き集落の住民オジサンになった方が、
「はい、自分は南の集落出身でして、幾つかの作物の育て方は知っていますし、種も南の集落を回れば物々交換にて手に入ると思います」
などと手をあげてくたのである。
『へぇ…村長だけでなく村で農業をやってる地域もあるんだ…』
などと俺が感心していると、他にも、
「ワイは北の村の近くの集落の生まれだからベェの世話は得意だぁ」
などと各地方の特産品の生産知識の有る人物が村に居ることが解り、
『これは一気に文明が進む!』
と横穴住居から、縦穴住居…というか平屋の小屋っぽい住宅まで文明が進みつつある村は狩猟採集から農業へと向かいそうなのだが、残念な事に東の村の特産品である黒曜石の武器の作成技術は門外不出なのか東の村の周辺から来たオジサン達に技術者は居なかったのである。
しかし、元々俺としても強くなって装備を整えたいという目標があり、
『打製石器の作り方の動画を見たことはあるし、実際に作っているから要領は分かる…その先の技術が滑らかに磨いて仕上げる磨製石器である事も知っている…黒曜石が比較的安全に採集できる産地でなくともこの村の近くの石でも何とかなるのでは…』
という事で俺は、生前の趣味であるプラモなどで手先はそこそこ器用な自信は有るし、磨きについても其なりの知識は有ると思うので、
「一緒に強くなる!」
と言ってくれたキヨさんとガリさんとで村の主要遠距離武器であるブンブンと振り回すタイプの投石武器から、ブンブン振り回す予備動作なく獲物にダメージが与えられる可能性がある弓へと文明を進める研究に入る事にしたのであった。
さて、それから1ヶ月余り…現在俺は村の東にそびえる山にある【神々の墓】と呼ばれる洞窟を目指して旅をしている。
弓はまだ試作品であるが十分狩りに使える物が出来上がったのだが、使い手がまだまだ訓練が必要なレベルである。
そんな弓や非常食を担ぎ、なぜこの様な場所に来ているかというと話しは半月ほど前に遡る。
初めての産卵から2~3年は発情期のムラムラがきつくなるオジサンの性により、前回の発情期の経験から、
『巣立ちの次期から2ヶ月程でアレのシーズンか…この村に居たらムラムラした俺のせいで村に問題を起こすかも…』
という未来が見えてしまい、かと言ってガッツリ本能に任せて繁殖期をエンジョイするつもりも無く、いま俺の家の有る塩焼き集落の長になった前村長さんに、
『村の大事な時期ですので…』
という理由から相変わらず喋り難いが頑張って、
「卵、ウミたくないデす…武器のケンキュウが、だいじデスので…」
と、繁殖期が終わるまで身を隠したい旨を伝えると村長さんは、
「うん、わかったゾイ…その代わりに村とシュウラクの為に長になる資格をシメす試練を受けるゾイ」
と、俺の気持ちを理解してくれ、オジサン種の村長になる為の第一関門とも言える儀式として東の山の神々の墓と呼ばれる洞窟内に入り、洞窟の奥深くに安置された神の像の前で最低でも3日は一人で過ごさなければならないという試練を受けるならば、村長に代々伝わる秘伝の【心が落ち着くお薬】なる、何か微妙にヤバそうな名前のお薬を持たせて旅立たせてくれるらしく、それがあれば水なしでも安心、ムラムラしてからでも大丈夫でスッとムラムラが1日一粒で治まるらしいのだが、
『いや、普通に前回の地底湖でも…』
と俺は『村長コース』の第一歩というのが非常に面倒臭く思ったのだが、
「試練をウケたからとイッて、長に必ずなる必要はないゾイ」
という前村長の言葉と、俺の試練の一番の目的は新村長が秘伝の逆バイアグラ的な発情期も萎え萎えで普通に生活出来るお薬とやらの調合の練習がメインなのだそうだ。
しかし、一番俺がこの試練に挑もうと思ったのが、なんと神々の墓という洞窟自体も神々が作ったとしか思えない程に滑らかで、中には不規則な柄の硬い板が、村の有力者の墓の様に並んでいるらしく、
『文明の手がかりかも!』
と考えた俺は二つ返事で試練への挑戦を了承したのであった。
【ただ、ムラムラ期に誰にも会わない為…】
という恥ずかしい理由の旅立ちなのだが、村や集落の皆は俺が試練に挑むと知ると、
「兄貴さんが次期長候補だ!」
「アニキ凄いや!」
「これでこの村も安泰だ!!」
などとお祭り騒ぎとなり、村の集会所に飾ってあったガボの毛皮…それも一番大きなママの毛皮で試練に向かう俺の服を作くろうとしてくれるのだ。
「いや…ソレは村長に…」
と断ろうとすると、新村長さんは、
「良いの、良いの…私はこの片目に君のつけた傷のあるヤツを貰うって決めてるから…」
などと、色や毛並み重視で既に予約していたらしく、目的地の山は地上より寒いらしく、試練の経験のある村長さんのアドバイスでは大きめの毛皮で袖をつけたりしないと冷えてしまうそうなので渋々ではあるが、俺はガボのママの毛皮を頂戴することにしたのだ。
さて、試練については何の文句もないのであるが、問題はキヨさんとガリさんの二人である。
「兄貴について行きます」
「オイラ達では頼りないかもしれませんが、兄貴の作ってくれた弓が有れば荷物持ちぐらいの役には…」
と言って聞かないのである。
『いや…二人が来たらムラムラした俺を見せる事に…もしかしたら!…』
と、笑顔でそれぞれの卵を温めながら見つめ合う俺達三人のイメージが頭に過り、二人はまだ卵を産んだ事がないからムラムラは来ないけど…お薬があるらしいが俺は完全にムラムラしちゃう体…それに…
『なんやかんやであの二人はカリパク事件で肉体関係予備軍かもだし…』
と不安しかない俺だったのだが、村長さんは、
「ついでに二人も試練を受けてくれば良い…」
などと言い出し、前村長さんも、
「候補者が多い方が村も安泰ゾイ」
などと気楽に言っている。
『それだけムラムラ止めの薬に自信があるという事なのだろうが…』
とまぁ、そんな不安に満ちた旅に出発した俺達三人は時期的にギリギリムラムラが始まるかどうかというタイミングで神々の墓が見える山の中腹まで到着したのである。
読んでいただき有り難うございます。
頑張って書きますので応援よろしくお願いいたします。




