第17話 思ってたのと違う…
さて、俺は村のから一時間ほどの昔は岩塩を採掘してたという秘密の採掘場にやって来ているのであるが…思っていたのと違い、
『いや、どんだけ掘り返せばこうなるの?』
というぐらい見事な湖が目の前に広がっているのである。
どうやら地殻変動で陸地に閉じ込められた海水が凝縮した干上がった塩湖か何かから露天掘りでもしたらしく塩を取りつくした場所が窪地となっていたらしい。
『いや、勝手に地下の坑道みたいな採掘場をイメージしていた俺も悪いけど…』
と思いつつ覗き込んだ湖はかなりの水深がある。
もうこの採掘場は百年近く放置されていたらしく、この採掘場から取れた最後の岩塩は長年集会所の洞窟の奥にパンパンに詰められて、それを他の村にも分けずに備蓄の塩として使っていたらしいのだが、それも村長さんの前の代には底をついたらしく、村長さんは就任後にそれはそれは塩の確保で難儀したそうなのだ。
『塩湖とかだったのなら今も周りの土壌に塩分が有ってもおかしくないが…水が流れ込んでいるからなぁ…』
と、見事なまでに水を湛えた湖を眺めながら、
『これは周辺の土の塩気が全部染み出てないかな?』
と、この湖の水を全部煮詰めるしか塩を手にする方法が無いかも知れない事に絶望しそうになる。
『地底湖の時みたいに採掘場の周りの土から製塩出来ると思ってたよ…』
と、心の中でボヤきながらも試しに湖の水を軽く舐めると微かに塩気を感じるのだがゴクゴク飲めそうな水である。
ちゃんと鑑定スキルさんも、
【水】
【飲用可能】
と言っているので、ミネラルを含む程度なのかもしれないがバケツで汲める辺りからは塩は取れそうもない。
『湖底付近の水なら煮詰めたら行けそうだが…汲める場所の水はほぼ真水だし…』
と頭を抱えている俺にガリさんが、
「大丈夫ですか?…兄貴…」
と心配そうに声をかけてくれて、キヨさんは、
「兄貴っ!良い粘土がありました。壺が焼き放題になりますよ…」
と、どう考えても採掘場の壁面の土から塩を含む地層を採取出来そうにはなく、塩が有りそうな場所を新たに見つけて掘るしかなくなった現実に項垂れる俺を何とか励まそうと、二人は違った角度からアプローチをして来てくれているのである。
さて、何故この三人でココに来ているかというと…まぁ…売り言葉に買い言葉といいましょうか…俺を擁護してくれた二人が、
「ならば、実際に塩を作ってみんなに見せてやるよ!」
と啖呵をきると、
「では…どうぞ…」
とばかりに会議は一旦お開きとなり、実際に俺の言った通りに塩が作れると証明出来てからの再開となったのであるが、
『地底湖でもやった簡単なお仕事!』
と甘く考えていた俺の思いを打ち砕く様に採掘場はこの有り様である。
『地底湖が奇跡的な立地だったのか…』
と思うが、確実に製塩出来るあの地底湖までは片道1ヶ月程…流石にこの村があの場所を所有するには距離があり、途中や地底湖近くのオジサンの集落と揉めるのは確実である。
『いや、別に俺の言った方法で塩が出来るのを証明出来たら良いだけだから、湖底の塩分の濃い水を壺一杯分だけ汲み上げて目の前で煮詰めて塩を作れば…そうだ、ワザワザ村の未来の為に製塩施設を作るって話じゃないし…』
と、悪い癖で【楽できそう】という理由だけで逃げ道を作りそうになるが、それでは昨日の会議にて俺の為に啖呵を切ってくれたキヨさんとガリさんの二人に顔向け出来ないのである。
『そうだクヨクヨしている場合じゃない!』
と、自分を奮い立たせ、採掘場の視察に行くからと念のために担いで来た愛用している【俺の革袋】…というと若干卑猥に聞こえるが、ただの牙ネズミの革を集落の先輩ママから教えてもらったやり方で鞣した普通の革製の袋から、その革細工が得意な先輩ママオジサンのお手製の革製の水袋を取り出した俺は、キヨさんとガリさんに、
「オレ、ちょっとイッてくル!」
と伝えると、一張羅である毛皮の服をポイと脱ぎ捨てたのである。
キヨさんは、
「兄貴、イッてくるって…裸で!」
と焦り、察しの良いはずのガリさんまで、
「そうですね…兄貴だってヤケになって脱ぎたい時だって、ヌキたい時だって…」
と冷静な感じではあるが、目は完全に泳ぎ的外れな事を言っているので、彼なりのパニック状態なのであるが…
『いや、ヌキはしないよ!』
と突っ込みたい気持ちを…いや、突っ込むとかいうと、それはそれで卑猥に聞こえそうではあるが、俺はプチパニック状態の二人に【兄貴】として落ち込む情けない姿を見せてしまった事を悔やみ、精一杯のキメ顔で、
「ダマって見てて、今からこの袋パンパンにシテくるカラ…」
と頑張って長文を喋り、水袋を手にビシッとポーズを決めたのであるが…俺はすっかり忘れていたのである…オジサン種の毛皮の服の下はノーパンだった事に…
「はい、見てます…兄貴のはご立派です」
と言うキヨさんと、
「パンパン…」
と一言だけウガったガリさんの目線も俺の巣立たない方の息子さんに集中しており、
「ん?」
と首を傾げて二人の視線の先を確認した俺の脳には一瞬、脳内会議のメガネ担当である俺が床に訳の分からない計算式を書くイメージが流れた後に、【実に恥ずかしい…】と思わず言いたくなる真実に辿り着くのであった。
『いや、息子を見せたい訳でもないし、水袋パンパンになるまでヌクわけも絶対ないだろ!?』
と弁解したいが声帯の事もあり、長文を話しにくい俺は、
「違うカラ!」
とだけ叫び、頬をほんのり桜色に染めたまま湖に飛び込んだのである。
飛び込む瞬間に、
「兄貴!早まらないでぇ…」
「生きて!!」
と言う二人の勘違い丸出しの声が脳内に直接聞こえたが、完全に水の中に入ると二人の声は脳内からも遠退いて行った…
『あぁ、【ウガッ】ていう声が完全に遮断されたら脳内に言葉が届かないのか…』
と、要らぬ事を考えてしまった俺だったのだが、
『いや、今は集中、集中…』
と、中に入っていた水を完全に空にした水袋を手に、湖の底を目指して潜り始めたのだが、順調に潜れたのは最初のうちだけであり、次第に塩分濃度が濃くなると浮力で体が押し戻され、焦って踠くうちに酸素がヤバくなり湖底とは程遠い中層手前で危うくボクチン神様に業務報告に戻りそうになってしまったのである。
しかし、俺はそんな危機的状況の中でも、
『慕ってくれている二人に、これ以上恥ずかしい姿は見せれない!』
と、数秒前に嫌という程に恥ずかい部分をさらけ出しながら、【これでもか!】というぐらいの恥ずかしい姿を見せたばかりではあるが、
『村の皆から俺を庇ってくれた二人を笑い者にする奴が出てくるのだけは許せない…』
と必死に水袋に少しでも塩分濃度の高い水を入れようと奮闘するのだが、水圧によりイメージ通りには採取出来ない…
『何とかせねば!』
と焦りながら水中で水袋を動かすうちに、脳と体が大量の酸素を必要としたらしく、危うく俺の為に啖呵を切ってくれた二人ごと、
【お前らの兄貴は出来ない嘘を言ったから自殺した…】
などと村人達の笑い者になってしまうところであったが、俺は何とかギリギリで水面へと浮上し、
「ばだイバぁ!」
と溺れかけたまま帰還の挨拶を二人にしたのだが、陸では毛皮の服を脱ぎ捨てた二人が、
「オイラがイクッ!」
「冷静になれよっ、お前泳げないだろっ!」
と揉みあっているという何とも言えないビジュアルで出迎えてくれたのである。
『いや…何してるの?』
とは思うが、新鮮な酸素を取り込めた脳が、
『あっ、俺が自殺したと思って救出しようとしたのか…』
と理解し、俺の帰還の挨拶が自分達のウガウガと叫んでいる声で聞こえなかったらしい二人に向けてもう一度、
「ただイマっ!」
と頑張って叫んでみたのである。
すると裸のガリさんが腰の辺りにしがみついたまま、泳げないらしいキヨさんがスッポンポンで湖に飛び込もうとしていた姿ので固まり、俺を数秒凝視した後に、
「良かったぁぁ!」
とキヨさんは振り向き相棒であるガリさんを抱きしめようとし、腰の辺りにしがみつき軽い体重の全てを使いキヨさんの飛び込みを阻止していたガリさんは、
「生きてた…」
と力が抜けた様に地べたに座りこんで脱力したのであるが、間が悪いとはあの事であり全裸で振り向いて相棒を抱きしめようと半歩進んだキヨさんのキヨさんが、地面に座り込み脱力して半開きのガリさんのお口ソッと口づけ…いや、ほんの先っぽだけ進入を…
「ウガッ…」
「ウッ…ウガ…」
と、何故か脳内に声は届かなかったが『ゴメン…』『うっ…ウン…』みたいにモジモジしながら頬を染めている二人の若いオジサンを見て、
『青春…とか…まぁ、そんな感じに理解して良いのかな?…同じ村で育った幼なじみ同士の淡い体験…みたいな…』
と、見た目はオジサンであるが恋愛対象にもなり得る性別など無い種族であり、同じ村の巣持ち同士のカップリングはご法度という集落にも有ったルールはこの村にも有るようなので【許されない恋…】などに発展すればロミオとジュリエットみたいな悲劇にも成りかねない…しかし、ビジュアルの破壊力と情報量の多さに一瞬泳ぐのを止めていた俺は再び軽く溺れそうになったのだが、モジモジしている二人は完全に俺の存在を忘れている様子である。
なので、俺はこの思っていたのと違う展開に対して、二人の淡いメモリアルな時間を邪魔しない様に静かに泳ぎ陸に上がたのであった。
読んでいただき有り難うございます。
頑張って書きますので応援よろしくお願いいたします。




