第16話 二人の背中
さて、足は万全の状態に戻った俺であるが、新米ママさんのオジサン達には子育て経験のある歳の近い先輩であり、今シーズンは子育てをしていない俺は、子育ての相談事から子育ての助っ人まで、村のベテランママさん程ではないが、集会所で寝泊まりしている為に気楽に声がかけられるからと何かと重宝されている。
それにそんなママさん達の子供も連日子守唄の歌い手としてあやしていた俺に懐いてくれて可愛く感じている。
そしてママさん達の助っ人をしている俺にパパさんチームも何かと気を遣ってくれているし、秘伝の薬の少しアレな作り方を知ってしまったとはいえ、村長さんにも恩義を感じている俺は、
『何か恩返し出来ないものか…』
とここ最近はずっと考えているのである。
キヨさんとガリさんの二人は、
「いや、ウチの村が兄貴に恩を返している最中だから…」
「そうそう、むしろ兄貴が色々してくれるから皆が恩返しが追い付かないって、困っているぐらいで…」
というが、俺的には、犬…いや、狼のガボだったか…の件は足の治療に加えて、俺を傷つけた奴らへの制裁も代わりにしてくれた計算だし、その後も集会所にて寝泊まりさせて頂き、三食きっちり食べさせてもらっていたので、子育ての助っ人なんてやって当然であり、むしろ色々と村の皆さんに気を遣って頂いた分、俺が貰いすぎな気分なのである。
『俺の本業である観察業務のヒントになる情報も村長さんの昔話から聞けたしこれは何か俺にも出来る恩返しを…』
ということなのだ。
そんな事に悩んでいたある日、東の山から見て北側に位置する村のオジサン達が毛の長い牛?…の様な家畜に荷物をくくりつけて、この村に物々交換にやって来たのであるが、相手の品物は岩塩のみで、それを元手にこの村の名物とも言える粘土細工の壺や東の山の危険な獣のうろつくエリアで採取出来る黒曜石など1頭の牛の背負える岩塩で牛4~5頭分の特産品をせしめて行ったのである。
俺は村長さんに、
「不公ヘイでは…」
とあまりの交換レートに怒りを覚えて聞くのだが、村長さんは寂しげに、
「この村は先祖のオカゲで何代も岩塩のサイクツで潤っていたら…ワシらも今サラ塩味を薄くは出来ないから…仕方ないゾイ…」
と、不公平な交換レートでも今は採掘出来なくなった岩塩を手に入れる為に他の村と物々交換をするしかない事を教えてくれたのだった。
『塩の産出地方だったから食事の味付けが俺の居た集落より確りしていたのか…』
とは思うが、岩塩なんて元を辿れば海の幸だから千年や二千年でこの村の規模のオジサンが使いきるには、たとえ物々交換の品物として各地に出したとて無くなるなんて考えてられないのだが、次期村長さんもこの問題に頭を悩ませているらしく、
「岩塩を採掘していた場所からはもう岩塩は採掘出来ませんが、塩気の強い土はありまして…いずれかに掘り進めればまた岩塩があるかもしれませんが、我々も日々の狩りなどで忙しく、出るか出ないか分からないのに採掘している訳にも行きませんので…」
と、悔しそうに語るのであるが、俺の頭にはハテナが飛び回っていたのである。
『えっ?塩気のある土って…普通に塩が作れるのでは…』
と…それもその筈で、つい2~3ヶ月前に俺が地底湖にてやっていた手法で塩分を含む地層から、ゴロゴロと岩塩の塊の様には行かないが、気長に製塩すればこの村の塩を賄う事ぐらいは可能だろうし、元は岩塩がゴロゴロ出てきた地域ならば塩分のある地層を砕いて製塩しているうちに岩塩の層にぶち当たる可能性もゼロでは無いのである。
俺は集会所の俺の寝床横に吊るしてある俺の革袋の中から塩の詰まった革製の巾着を1つ取り出して村長さん達に見せて、
「この、塩ナラ、塩の地層から作れマス…」
と伝えると、次期村長さんは、
「あぁ…塩に土が混じるどころか、土に塩が混じっているような物だろう…」
と、少しガッカリしながら俺の渡した巾着の紐をほどくと中から出てきた白い塩に、
「えっ!?」
と驚いた後に、村長さんと暫く顔を見合わせた次期村長さんに、
「皆をアツめて欲しいゾイ…」
と村長さんが指示を出し、次期村長が物々交換で手に入れた岩塩を村の集会所奥の倉庫に運ぶ村人達に、
「皆、ちょっと集まってくれるか!?」
と、声をかけ集会所の中央にて急遽【村の塩問題についての会議】が開かれたのであった。
「恩人殿がこのような塩が塩気のある土から作れると言っておるのだが…」
と村人達に言うと、
「そんな事が出来るなら北の村の奴らとふざけた岩塩の交換をしなくて済むが…」
と村人達は、
『本当ならば素晴らしい話だが…』
という雰囲気であるが、それもその筈で、もしも俺の話が嘘だった場合、北の村との岩塩の不公平な物々交換レートの為の物品を用意しながら食料の為に狩りもしなければならず、無意味な採掘や製塩などに時間を割けばそれらのうちの何れかが足りずに必要な塩が村にストック出来ないという最悪な未来が待っているのである。
俺の居た集落と違い、何世代も塩が当たり前の食生活だったこの村は、今さら自然なお味がメインの食事には戻れないのだろう。
話し合いの内容も、初めは皆濁していたが、
「上手く行かなかったら…」
とか、
「本当かどうかも分からないから…」
などと、かなり直接的に
『俺の話を信じられないから不安だ…』
という風に村人達は俺に直接言わないだけで、周りの村人とヒソヒソとウガっていたのであるが、脳に直接聞こえる能力が裏目に出て、あまり小声の意味がなく、
「嘘だったら村が終わるぞ…」
「いくら恩人様でも信じれないな…」
「本当ならば嬉しいけど…なぁ…」
と、全員「ウガッ」と鳴いており俺の頭には一斉に声が届く為に『誰が言ったか…』は方向が曖昧になり分からないが、『何を言われたか…』はかなり鮮明に理解出来たのである。
『はぁ…心が痛い…逃げ出したい…』
と俺のガラスのハートが今にも砕けそうになった瞬間である。
「黙って聞いてりゃ何なんだよ!」
「そうだそうだ!兄貴はオイラ達の為に知恵を貸してくれたんだろ…オイラもこの塩が出来る所は見てないけど、兄貴が言うならきっと出来る!!」
と、俺の前にキヨさんとガリさんの二人が立ち上がり、辺りの村人達を黙らせたのである。
『もう、変な提案は止めよう…』
と自分の殻に閉じ籠ろうとした俺に、
「善意で出した提案を調べもせずに疑う奴らなんか放っておいて、兄貴…オイラ達にコレの作り方を教えて下さい」
と言ってくれたヒョロガリのガリさんは何時もより逞しく見え、
「そうだぜ、バンバン塩が出来ても今兄貴を嘘つき呼ばわりした奴らの顔は覚えたから、一つまみの塩も分けてヤらない…北の村に良いように搾り取られてろ!」
と怒ってくれた気弱そうなキヨさんはソコには居らず凛々しい顔つきの立派なオジサンが俺という情けないオジサンを守るべく普段は一切他人に剥かない牙を剥いてくれたのである。
昨年生まれた若いオジサンとはいえ、幼い頃より二人の気質を知る村の巣穴持ちのオジサン達は彼等の普段は欠片も見せない剣幕に気圧され、
「いや…嘘とまでは…」
などと言い訳を始めるが、俺は二人の優しさと共に、
『オジサン種は強いものが偉いという種族だと認識していたが…それは腕力だけの強さに限らないのだな…』
と鑑定にてレベル5という周りのオジサンの半分の強さであるが、俺というオジサンを信じてくれる強さはこの集会所のどのオジサンよりも強く、そして、そんな二人の背中は眩しかった…
『いや…本当に…発情期なら完全に堕ちてたかも…ってぐらい格好良かった…』
と、俺も噂でしか聞いた事のない吊り橋効果とやらで時期が時期ならお尻を差し出す為に求婚の合図となる雄叫びを武器を掲げて叫びたくなる光景であった。
読んでいただき有り難うございます。
頑張って書きますので応援よろしくお願いいたします。




