第14話 療養します
村の集会所の隅にて療養中の俺は現在、大変面倒臭い事になっている。
例のガボとこの辺りで呼ばれているの犬っコロの親子三匹を狩りチームの誰ひとり失う事なく見事に討伐して帰ってきた為に、この村は今はお祭り状態なのである。
いや、いくらお祭りを開催して頂いてもいっこうに構わないのであるが、
「うちの息子の仇討ちが出来た…」
と、俺の手を握り泣くパパオジサンと、去年のパートナーとの間の子供が食べられたとパパオジサンから聞いて、『ウチ子も危ないのでは…』と心配していた今年のママオジサン達も、卵を温める合間に俺に会いに来て、
「これで安心して子育てに専念できる」
と感謝されたりするのを、
「はい、順番に並んで下さい」
「兄貴は怪我してるので手短にお願いします」
などと、親をガボに食われた気弱そうな若いオジサンとヒョロガリの若いオジサンが、知らない間に俺を「兄貴」と呼び初めて、面会に来る村のオジサン達の整理をしてくれているのである。
しかし、ここが村の集会所という事もあり、倒した犬っコロから解体された毛皮を3つ並べて、パパ達は討伐の時の話で盛り上がり、ママ達はガボのお肉を各自の巣にて食べた感想を自分達の卵を温める合間に来ては、
「美味しかった…」
と、パパに報告しに来たついでに何故か俺にまで報告しに来たりしており、パパはパパで、
「仇討ちだ、もっと食ってやれ…なんなら本人の目の前で食ってやれ!」
と、趣味の悪い仕返しを薦めたりしているカオスな状況であるが、それほど迄にアイツらがこの村に残した傷が深かったという証拠なのだろう。
勿論であるが、俺も討伐組として、目玉を潰したり、牙でガジガジした摩擦熱で毒素が活性化した棍棒で奥歯を歯磨きしてやった一匹は既に巣でグッタリする程撒き散らしたらしく無力化できており、撒き散らされたのを掛けられたか、心配して舐めたであろう母親と片目の兄弟も足腰に力が入らない程にお腹を下しておりスピードは激減して、投石攻撃も楽々当てられる程に弱っていたらしく【一番手柄】として俺には一番大きなママの心臓が運ばれて来たのであるが、
『ヒィィン…普通のヒレ肉とかにしてよぉ…』
と思いつつも、討伐チームのオジサンたちから、
「栄養満点だから…」
や、
「これを食べたら怪我なんてすぐ治るから…」
とか、
「凄くキクよ…もう、すぐに《《タッチャウ》》から…」
などと、若干怪我した足の話では無いニュアンスのセリフも混じっていたが、集会所のオジサン達が、俺の為に希少部位をくれた上で、俺の食レポやリアクションをキラキラした瞳で見つめて「さぁ、ガブリと…」とウガウガと急かしている為に、
『解ったよ!』
と覚悟を決めて、犬のハツの丸焼き(塩)にかぶり付くと、
「あっ、ウマい…」
と、普通に声が出る程にコリっと噛みごたえのある食感に、特別な獲物の為なのか俺が居た前の集落では考えられない程にしっかりとした塩味がついているので塩ホルモン焼きの様な趣がある味に満足している俺の姿を見て、集会所のオジサン達も、
「おぉ、気に入ったか!」
などと盛り上がり、俺の隣では村長さんが、レバーと野草のスープを
「有難い…寿命ガのびたゾイ」
とニコニコしながら飲み、村人からは、
「村長は本当は腸の炒め物がお好きでしょうに…残念でしたね、今回は倒し方が、倒し方ですから胃と腸は捨てましたよ」
と、棍棒の毒素が残っていそうな部位は諦めたらしく、
「ワシはもう噛めないゾイ…」
と好物を食べられない歳になった村長さんがチョッピリいじけるのを村人達は楽しげに笑っているのだが、俺としては頭の中に、
【ハンターウルフ亜種】
【地方名 ガボ】
【家族単位で小さな群れを作り母親が子供に狩りを教えこむ習性があり、代々メスがリーダとなる為に比較的早く巣立つオスよりも群れに残り続けるメスの個体が強いとされている…】
などと、食べて解析スキルさんからの報告を見ながら、
『犬じゃなくて、狼さんなんだ…三匹ともメスなのは別に良いけど…棍棒の毒素って胃や腸を避けるだけで大丈夫?』
などとあの日、木にしがみつきながら撒き散らした過去を思い出した俺は、
『血液中に毒素が入って心臓とかに残留してない?』
とかなり不安になっていたのである。
足の怪我の為に集会所からトイレに行くのも大変であり、
『大丈夫かな…お腹ピーピーしないかな?』
と不安で眠れなかった俺なのだが、どうやら心臓に棍棒のピーピー成分は無かった様で無事に朝を迎える事が出来たのであった。
そして翌日もまだあるガボの肉を骨を煮込んだスープに入れて村人皆で集会所に集まり食べたのであるが、村長さんからも村の皆さんからも、
「怪我が治るまでゆっくりすると良い…」
と有難い提案をしてもらい、俺が、
「感シャしまス」
と頭を下げると、
「よして下さい…仇討ちの切っ掛けと協力までしてもらった村の恩人なんだから…」
や、
「そうそう、怪我をした恩人を放り出したら、ご先祖様と、コイツらに食われた息子に合わせる顔がなくなるってもんです」
などと俺を囲み優しくウガってくれたので、俺はご厚意に甘えて足の怪我が治るまでこの村に滞在する事になったのである。
だがトイレなどの度に俺を【兄貴】と慕ってくれている二人の若いオジサンの肩を借りるのは心苦しいので、あの日、死を覚悟して投げつけた革袋も有難い事に回収してくれており、俺はそこから黒曜石のナイフと蔦を煮て取り出した繊維で作った罠用のヒモを用意し、
「兄貴の足が治るまではオイラ達が兄貴の代わりに走り回ります!」
と言ってくれた二人に枝分かれした手頃な太さの頑丈な木を取ってきてもらい、集会所の端でシコシコと本格的な松葉杖とはいかないが、簡易のお手製の松葉杖モドキ…というか、物干し竿を掛ける時の竿上げ棒の様な物を2つ作り、脇に当たる所には牙ネズミの毛皮を巻き付けてヒモで縛り痛くない様にした杖が完成したのである。
ギリギリ片方の杖だけでも移動は出来るが、村のトイレなどて用をたす時に安定感が必要となるので2本有る方が心強い。
『基本的に草むらに穴を掘っただけのトイレだからふらついて落ちたら目も当てられない…』
これで二人の手を煩わせずにトイレに行ける様になったのであるが、
「まだまだ弱いから、狩りは任せて恩人のお世話係を…」
という理由で狩りに行かずに村に残ってくれた二人は、
「もしかして…って事がありますから…」
と杖が出来てからも俺のトイレに付き合ってくれ始まりから終了までを見つめてくるので、
『恥ずかしいったらありゃしない…』
とは思うが、親切心からの行動を断るのもの心苦しく、俺はこの二人に1日のトイレ回数は勿論、健康チェックとばかりに毎回俺の産み出した作品を吟味されるという中々な羞恥プレイな日々を送っているのであった。
さて、俺がこの村にお世話になって数日…村で今シーズン初めての子供オジサンが孵化した。
この村は、生まれた子供達を集会所となるこの広い洞窟でパパが狩りに出掛けている間は子供が孵化したママさんオジサン達が協力し、半分は子供達の世話で、もう半分が村の周辺の森に野草や、倒木などから簡単に採取出来るズクと呼ばれている虫の幼虫など肉以外の食料を探しに行くというので、
『怪我が治るまではこの集会所の隅に寝泊まりしてるし…』
という理由から、
「子ドモ、見ててアゲる」
と、ママさんチームの助っ人として俺は手を上げたのであった。
少し前までは、狩りに行くには体力的に不安になってしまった村長さんも手伝ってくれていたらしいが、今では朝に俺の傷口に新鮮な秘伝の薬をペチョンと塗ると、
「はい、今日のシゴトはおしまい…少し休むゾイ…」
と自室に帰って行かれるので、その村長さんの代打として俺は怪我が治るまでは満足に歩けないにしても座ったまま抱っこしてあやす程度ではあるが、
『少しでも役に立てば…』
という軽い気持ちだったのだが…何故だろう…生まれたばかりのオジサンを抱くと、お腹がジンワリ熱くなる様な感覚と共に、元気に巣立った息子の顔がちらつき、俺の胸でスヤスヤ眠る小さなオジサンに自然に笑顔になるのに、目には涙まで…
『俺の中のメスのオジサンとしての本能が…』
と、自分でもかなり変な事を云っている自覚はあるが、そうとしか説明出来ない感情が溢れてくるのであった。
読んでいただき有り難うございます。
頑張って書きますので応援よろしくお願いいたします。




