第13話 わかるぅ…その気持ち…
俺は今、この世界に来て初めて【オジサン】以外の人間と対峙している。
いや、オジサン種って魔物かも…とは思うが、目の前のこの村の村長さんは確実にオジサンを超越した【お爺ちゃん】なのだ。
そのお爺ちゃんは、素焼きの壺を小脇に抱えて俺の前に現れたかと思うと応急処置がされた俺の足を確認し、
「う~ん…これは、治るマデかなりかかるゾイ」
と俺の犬っコロに噛られて傷ついた足に何やらその壺に入っていた微妙に粘性の高い秘伝の薬を「ベチョリ」塗りながら、かなり流暢にしゃべっており脳に直接語りかけて来ない。
「アリがとウ…」
と俺が感謝を伝えると村長さんは、
「キにする事はないゾイ、ウチの若いのがたくさん食われたガボを倒すキッカケを作ったユウシャじゃから…」
と長文もスラスラである。
村のオジサン達は俺の喋り難いのと村長が「一緒」と言っていたので、オジサン達には脳に直接が【普通に喋る】という認識なのかもしれないが、
『あれだけ喋れるまでにかなり努力したのだろう…』
と、今日はじめて会った村長さんだが、物凄く尊敬してしまう自分がいたのだった。
そんな村長さんだが、やはりお歳らしく俺の足に薬を塗り終わると、自分の腰を「トントン」と叩き、この村まで俺を案内してくれた二人に、
「アトは任せるゾイ…ワシは寝る…」
と言って俺の傷口に葉っぱを巻き付けて秘伝の薬があちこちに着かない様になのか、
【それ、巻いといて…】
みたいなジェスチャーをされた後に村の集会所として使われるこの洞窟の奥にある自室に『疲れた…』みたいにヨボヨボと重たい足どりで入って行かれたのである。
それにしても、この村は俺が去年居た集落とは規模が桁違いであり【村】と呼ぶのに相応しい人数が暮らしているようである。
俺が、
「タスかりましタ…」
と村までの案内と、傷の手当てのお礼を改めて伝えると、二人は俺の足に葉っぱを巻き付けながら、
「礼を言いたいのはオイラ達だよ」
「そうそう」
と二人でウガウガと頷きあっている。
その後に話を聞けば二人とも昨年の巣立ち前に狩りに出かけたパパオジサンをガボと呼ばれているあの犬型の獣に食われ、片方の気弱そうな若いオジサンのママオジサンは新たな巣の主としてパパの代わりに狩りチームに入りパパのあとを追うようにガボに襲われ、もう一人のヒョロガリな若いオジサンは【この村は危険】と判断したママオジサンが彼に巣を託して旅立ったらしく、巣は持っているが経験も力もマダマダなヒョッ子なオジサンなのだそうだ。
他にもガボの親子に襲われた仲間がいるのだが、一番気の毒なのは巣立ちの直前の狩りの練習中の子供のオジサンが俺の様にあの二匹の犬っコロの狩りの練習台にかなりの数されてしまったらしく、オジサンとして羽ばたく前にその命を摘み取られたのだそうだ。
なので今日出会ったオジサンチームの中にはガボの奴らを心底憎んでいる者も多く、敵の住みかも分かってはいるが、奴らも気ままに出歩く為にどこで待ち伏せているか分からないから避けて暮らそうとしても上手く行かずに、狩りの度に気が休まる事がなく、村の総力を上げて仇討ちに向かうにしてもかなりの被害が予想され、なかなか打って出れずに困っていた所に単身で俺が喧嘩を売っていたのを見て村のオジサンチームのやる気に火をつけた…という流れらしいのだが、俺としては、
『どうせ殺されるなら最後っ屁を喰らわせてやろう!』
といった具合で半ばヤケッパチでした行動なだけであり、まともな喧嘩ではなかったと思うし、いま冷静に考えると自分でも…というか、誰がどう考えても【頭のおかしい作戦】であり、誰かに「もう一回お願い」などと頼まれても全力で拒否するか、言ったその誰かを怒りのまま、
「お前が勝手にやれやボケナスぅ!」
と言ってブン殴る自信まである。
その後も二人とお喋りしたのだが、かなり久しぶりにこれだけ長く他人と話した為に、俺が念話みたいな能力が使えずに話し難そうにしているのを気にしてくれて、向こうが話題をふってくれている間は良いのだが、その二人の話題が切れたのか軽い沈黙の後で、淀んだ場の空気を変える様に俺の事を聞かれてしまったのであるが、
【つい最近まで地底湖のほとりで隠れて淫らに暮らしてました】
とは流石に言えないし、
【実は他人の体を借りて、此方の世界に調査活動に来てます】
なんては絶対言えない為に、
「えぇ前の集落カラ出たアト…最近マデ…ひとりデ…」
と、喋り難い事を良いことに濁しに濁しまくって短く俺が話すと二人は何か察してくれた様で、
「僕たちは未だ弱いし、下手に決闘しても負けて巣を取られるからって今年もだけど、多分来年も求婚しないつもりなんだ」
とヒョロガリの若いオジサンが俺に言うと、隣の気弱そうな若いオジサンも、
「先輩方が言ってたけど、初めて子作りしてから…その…二~三年ぐらいは産卵のシーズンに…あれだ…大変なんですよね…」
俺に聞き難そうにだが、凄く興味あり気に質問してくるので、
『あぁ、性の質問がしたい瞬間にはパパとママが居なくなったり、村があの犬親子の犠牲者がいっぱいになって質問出来る空気じゃなかったんだな…』
と気がついた俺は、比較的年齢の近いお兄ちゃん的なオジサンとして、質問に答えてあげる事にしたのだが…二人の質問としては、
「多分僕たち弱いから巣を奪われて卵を産まされると思うから…」
という予想から【卵を産む辛さについて】の疑問には、
「だいジョーブ、求婚の、けっとうでシナなけレバ、その時の痛ミぐらイ…」
と教えてあげると二人とも微妙な顔をしていた。
『まぁ、卵を産むのも大概痛いが、気絶するまで頭を殴られた後に穴るまで…色々痛いのは変わらないからな…』
などと思いつつ掛ける言葉が見つからない俺は、自分がこの一連の流れを知らずに受けたことが、『逆に良かったのでは?』とさえ感じており、知った上で初めての子育てなどはこれ程の不安なのだという事を二人の反応から察したのである。
次に二人の興味としては、初産の次の発情期について、村に居る産卵経験のあるママさんのオジサン達から、
「産卵の辛さから次の求婚を避けるけど、結局は凄くムラムラして、その苦しさから逃れる為に誰かれ構わず決闘を挑むんだよ…」
と聞いていたが、俺がこの時期に卵を温めておらず、また、「ずっと旅をしていた」とも言わずに隠れ住んでいたという情報から二人は、
【発情期をやり過ごしたんだ…】
と判断したらしく、どちらかというと、そちらの方を聞きたそうにしていたので、
『どう言ってあげたら…』
と悩み、凄く言葉を選んだ後に、
「凄ク、大変…ホカの人にハ…見せレナい…」
とだけ、真剣な顔で伝えると、俺の表情や声の感じから【とんでもない事なんだ…】と二人は理解してくれた様であり、
「ありがとうございます…先輩」
「大変参考になりました」
と凄く感謝されたのであった。
巣を奪ったり、巣を守る事だけ考えれば良いだけの強いオジサンには解らない、巣を持っているが一人前のオジサンになる為に求婚の決闘を受けたとしても強いオスに巣などを奪われ、産卵を終えて巣を離れて放浪しても先の不安しかない弱いオジサンの悩み…
『どこの世界も色々あるんだな…分かるぅ…今も昔も底辺オジサンだったから…』
と理解した俺は、同時に、
『二~三年はきつい発情期が来る…みたいに言ってたけど…最大であと二年はアレか…』
と、地底湖での生活を振り返り、
『もう丸々何年か地底湖で暮らすか?』
などと、産卵して10ヶ月誰かの嫁オジサンをするならば、年に2~3ヶ月という期間だけ人様に見せられない生活をすれば自由時間が沢山作れるのでベースとして地底湖に戻って数年過ごす選択肢も頭の隅に置いておく事にしたのである。
『何より発情期のムラムラに負けた場合は瞬間的に誰でも良くなるとはいえ、そんな趣味など無いはずなのに毎年違ったオジサンに解らせられる生活なんて、俺の心とお尻の穴が持たない…』
という事で、俺も弱いオジサンの部類として彼らが不安に思う気持ちがとても解るのであった。
読んでいただき有り難うございます。
頑張って書きますので応援よろしくお願いいたします。




