第5話 自分が宝
屋根裏部屋の窓辺に、淡い星明かりが差し込んでいた。黒猫のニィは、ぐでぇ〜っと仰向けになり、しっぽをピコピコと揺らしている。
ペイジン「ねぇ、ニィ。……さっきの続き。
君が“宝”って言われた理由。
ちゃんと教えてよ」
その声は、まっすぐだった。
けれどニィは……急に深刻な表情を浮かべ、ポツリと呟いた。
ニィ「……僕は、昔……タモちゃんという存在だったタモォ〜……」
ペイジン「……違うでしょ〜っ!!」
すかさず鋭いツッコミ。
ニィ「じゃあ、伊藤翔太っていうカッチョイイスポーツマンで〜、女の子にモテモテの〜」
ペイジン「なわけないでしょ」
目を細めてジト目で睨む。
ニィ「じゃあ……ウェルカムワイルド〜☆」
両前足を広げてポーズ!
ペイジン「それ古い作品でしょ、もはや伝説級の!w」
※しかも姉妹作www
ニィ「チャーハンマグロ!」
ペイジン「……なにそれw」
思わず吹き出す。
※今度リメイクするやつの元ネタだ!w
すり替えてます!ww
そして、ふたりの笑いが静かに落ち着いたあと。
ペイジンはもう一度、言葉を重ねた。
ペイジン「……真面目に言いなよ、ニィ」
「……ちゃんと信じてるからさ。君のこと、全部」
その一言に、ニィのしっぽの動きがぴたりと止まる。
ペイジンの顔は、もうふざけていない。
おどけた調子の中に隠していた“何かを知りたい”という本気の気持ちが、まっすぐに宿っていた。
ニィ「…………」
しばし沈黙。
黒猫の金色の瞳が、まっすぐにペイジンを見返した。
ニィ「……じゃあ、そろそろ話してもいい頃かニィね」
その声は、どこか遠くを思い出すような、懐かしい響きだった。
──その夜。
塔の窓から射す月明かりは、淡く冷たかった。
ペイジンとニィは、静かに向かい合っていた。
ペイジンのマントが、夜風に揺れる。
ふたつに結んだお団子髪が、星の粒をはじくようにきらりと光った。
その時、ニィはふと、首元の小さな鎖を見下ろした。
ニィ「この鎖を……断ち切れば……」
ぽつりと、口を開いた。
ペイジン「え? そろそろ話してよ〜……さっきからはぐらかしてばっかりじゃん……」
その声は柔らかくも、どこか揺れていた。
不安と期待が混じるように。
ニィ「……実は、ニィは……」
黒猫はゆっくりと目を閉じた。
そして――話し始めた。
ニィ「昔……とても昔。
まだこの世界に“夜の理”がなかったころ……
ニィは、闇の根源だった“宝石”に出会ったことがあるニィ」
ペイジン「宝石……?」
ニィ「そう。
それは真っ黒で、ひとつの感情も持たない。
ただ世界を沈め、夢を閉じるためだけに存在していた、
“絶対の闇”だったニィ」
彼の声はどこか、震えていた。
それは寒さでも恐怖でもなく――“記憶の断面”に触れた痛みに似ていた。
ニィ「でも……ニィはある日、見てしまった。
――光を。
宝石の闇の中で、たったひと粒だけ残った“希望”を……
そして……砕けたニィ」
ペイジン「……砕けた……?」
ニィ「バラバラになって、どこかへ流れていったニィ。
その欠片の一部が、“ニィ”というカタチで目を覚ました。
気づいたら……君のそばにいたニィよ」
ペイジン「…………そんな過去が……ニィに……」
息を呑んだペイジンは、そっと胸に手を当てる。
まるで自分の中にも、どこかで“欠片”が共鳴しているかのようだった。
ニィ「覚えてないニィよね。……でも、ニィは知ってた。
君が“夜の宝”を守る者として選ばれたとき……
一番近くにいるべきなのは、自分だって」
ペイジン「……それって……」
ニィ「君の光を見たから……闇だった僕は、生まれ変わることができたニィ。
“誰かの夜を守りたい”って思ったあの日から、ずっと、ニィは――」
言葉は続かなかった。
でも、そこにある想いは、確かに届いていた。
ペイジンは静かに笑みを浮かべ、黒猫の小さな額にそっと手を置いた。
ペイジン「じゃあ……君が“宝”だった理由、やっとわかった気がするよ」
ニィ「……ニィ?」
ペイジン「私のそばにいてくれて、ありがとう。
きっとこの鎖も、光の記憶でつながってる。……ちゃんと、全部、思い出そう?」
ニィ「ありがとうニィ...この手、離したくないニィ!!」
ペイジン「......私もよ。ニィ。」
夜が、すこしだけ、あたたかくなった気がした。




