第3話 夜も眠れぬ少年
夜が、静かに降りてくる。
坂の上に建つ、古びた一軒家。
その窓から漏れる光には、温かさよりも、どこか不安げな気配が漂っていた。
ペイジンは、その家へと向かっていた。
マントを夜風にたなびかせ、空をまっすぐに滑るように飛びながら。
彼女の使命は、ただ一つ。
今宵、この家に眠る少年の「夜の宝」を見つけ、それをそっと守ること。
胸元に抱えた小さな手紙には、こんな言葉が綴られていた。
少年の手紙
「たすけて、クロノスの魔法使いさん…。
ボク、寝ても寝ても疲れが取れなくて…夢も、悪夢ばかりで……
ひとりで眠るのが、こわいんです。たすけて……」
その文字に触れた瞬間、ペイジンのまなざしがふわりとやわらいだ。
彼女はそっと杖を取り出し、夜空のきらめきを編んだような穂先をひと振り。
ペイジン「ホウキ、お願い」
しゅうん、と空気が揺れる。
まるで星屑のように光をまとうホウキが、ふわりと彼女の足元に現れた。
そこへ、ふわふわの毛並みを揺らしながら一匹の小さな生き物が飛び乗る。
ニィ「おまたせニィ〜……もう、夜の出動は急に言うからニィ……」
ペイジン「だって、手紙を読んだら急がなきゃって思ったの。あの子、きっと今も眠れなくて困ってる」
ニィ「んー……仕方ないニィ。じゃあ、行くニィよ〜」
ふたりと一匹の夜の旅が、そっと始まった。
少年の部屋には、時計の針が刻む音だけが静かに響いていた。
目を閉じても、眠気は訪れず、心はどこか落ち着かない。
手紙を書いたときの不安は、今も胸の奥に残っていた。
そのとき――
窓辺のカーテンが、風もないのにふわりと揺れた。
星の粉のような光が差し込んだかと思うと、そこにふたりと一匹が降り立った。
ペイジン「ねぇーニィ? 本当に宝が出るの?」
ニィ「ニィ……もう……。どうせすぐにペイジンのこと、忘れられちゃうニィよ……
でも、それでいいニィ。宝ってのは、思い出に残ればそれで十分ニィ……」
その声に気づいた少年が、そっとまぶたを開けた。
少年「……だれ?」
ペイジンはやさしく微笑み、手を差し伸べた。
その掌から、やわらかな光がこぼれていく。
ペイジン「……ほら、これ。よく眠れるおまじないなんだよ」
光は粉雪のように降りそそぎ、少年の額にそっと落ちた。
少年「あ……うん……落ち着いてきたーー……」
眉間のしわがゆるみ、目の奥の不安が、ゆっくりと薄れていく。
ペイジン「安心して。今夜は、私たちがそばにいるから」
ニィ「見張りはバッチリニィよ〜。夢の門番、やってやるニィ!」
少年のまぶたはだんだん重くなり、まるで深い雲のベッドに包まれるように――
静かな眠りの中へと、落ちていった。
その夜、悪夢はもうやってこなかった。
部屋には、ただ静かな寝息と、小さな光の粒だけが、やさしく揺れていた。




