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第24話 散らばったシャインパール

PE3 序章完結

次回!PE3レゾナンス開始!!!

石造りの重厚な建物が並ぶファンタジーの街角。その一角に、異世界のオーラを放つネオンが輝く場所があった。「遊技場ゲームセンター」――そこには、この世界のものとは思えない「某首都高アーケードゲーム」の筐体が並んでいる。


ペイジン「こうなったら……」


ニィ「こうなったら?」


ニィが呆れ顔で見守る中、ペイジンは魔法のローブの裾をまくり上げ、気合十分にバケットシートへ腰を下ろした。画面には「86伝説」の文字が躍り、爆音のエンジン音が石壁に反響する。


ペイジン「今日は86伝説コラボなの! 腹切カナタに伊藤翔太! 佐藤大河に山吹花には負けられない!!!」


ニィ「いや、だから何なのよその人たちは!? 世界を救う真珠はどうしたのよニィッ!!」


ニィの絶叫も虚しく、ペイジンは使い慣れたステッキをシフトノブに持ち替え、アクセルを床まで踏み込んだ。画面の中では、腹切カナタが操るハチロクと、伊藤翔太のチャンピオンイエローのスイフトスポーツが、火花を散らすドッグファイトを繰り広げている。


ペイジン「いくよ……っ! 魔法少女のライン取り、見せてあげる!」


ペイジンは魔法で強化された動体視力をフル活用し、ステアリングを鮮やかに捌く。画面の端では、冷静な走りの山吹花や、気合十分の佐藤大河が猛追してくるが、ペイジンの集中力は研ぎ澄まされていた。


ニィ「魔法をそんなことに使わないでぇぇ!!」


西洋ファンタジーの夜明け前。魔導士も騎士も怪盗も、今はただ画面の中の「最速」を目指して熱狂していた。ステラパールの危機はどこへやら、この世界で最も熱いバトルが、今このゲーセンで繰り広げられている。


筐体から流れるユーロビートとエンジン音をBGMに、ペイジンは真剣な眼差しで画面を睨みつけ、ステアリングを激しく切り込んだ。隣で見守るニィは、もはやツッコむ気力も失せたのか、筐体の横に寄りかかって溜息をつく。


ニィ「ねえ、ペイジン。さっきから聞いてれば、ハラキリカナタだのイトウショウタだの……。その人たち、アンタの知り合いなわけ? 伝説の騎士か何かなの?」


ペイジン「えっ? 知り合いっていうか、私の憧れなの! ほら、イトウショウタなんて熱血で仲間想いのムードメーカーなんだよ。勝負の時の気迫が凄くて、私も魔法を使う時はあんな風に本気になりたいって思うんだから!」


ペイジンは画面内の黄色い車を指差しながら、興奮気味に語り続ける。


ニィ「ふーん……。熱血ねぇ。まあ、アンタもお人好しなところはあるけど。でも、今はそれどころじゃないでしょ。ステラパールがあちこちに散らばって、世界中がパニックになろうとしてるのに」


ペイジン「わかってるってば! でも、ほら……イトウショウタも『追い上げ時の気迫』が強いんだよ。私だって、今は出遅れてるかもしれないけど、ここから一気にシャインパールの欠片を回収してみせるから!」


ニィ「……その理屈、全然繋がってないニィ。それに、その『ハラキリカナタ』って人は? ずっと無口で黙々と走ってるみたいだけど」


ペイジン「カナタはね、根が真面目で不器用なの。でも、勝負どころの集中力は異常なんだよ! 自分よりクルマや仲間を優先するタイプで……。私も、さっきのジュン……ニィのこと、放っておけなかったのは、カナタの影響もあるかもしれない」


ニィ「……私を助けた理由に、そのハチロク乗りを混ぜないでくれる? 複雑な気分だわ」


ニィは少しだけ顔を赤らめ、ぷいっと横を向いた。ペイジンはそんな彼女の反応に気づくこともなく、最終ラップのコーナーへと突っ込んでいく。


ペイジン「よし、ここで決める! イトウショウタ直伝(自称)の立ち上がり重視ブレーキング、見ててよニィ!」


ニィ「はいはい、見てるわよ。……全く、変な魔法少女に懐かれちゃったわね」


ニィは呆れながらも、必死に画面に向かうペイジンの横顔を、少しだけ優しい眼差しで見つめていた。


アーケードゲームの熱狂から冷めやらぬまま、山吹花……ではなく、魔法少女ペイジンは石造りの自宅の扉を勢いよく開けた。夕闇が迫るファンタジーの街並みとは対照的に、室内はランプの温かな光に包まれている。ここは、家族のいないこの家で、10歳の少女と一人の怪盗が肩を寄せ合って暮らす、世界でたった一つの居場所だった。


ペイジン「あー! 楽しかった!! 今ご飯作るよ!!」


ペイジンは、まだ少し大きな魔法のローブを脱ぎ捨てると、エプロンを締め直してキッチンへと向かった。10歳という幼さながら、彼女の手つきは驚くほど手際が良い。


ニィ「……本当に切り替えが早いわね。さっきまで世界がどうのって言ってたのに。ねえ、私の分はあるの? ペイジン」


ニィはソファに深く腰掛け、足をぶらつかせながらキッチンの様子を覗き込んだ。普段は鋭い眼差しを持つ怪盗も、この家の中ではただの年相応の少女のような、無防備な表情を見せる。


ペイジン「もちろんだよ、ニィ! 今日はイトウショウタみたいに、元気が出るメニューにするんだから。食べてパワーをつけないと、ステラパールの回収なんてできないでしょ?」


ペイジンは、鍋を火にかけながら鼻歌を歌う。野菜を切るトントントンというリズムが、静かな部屋に心地よく響く。


ニィ「……またイトウショウタ? 本当に好きね、その走り屋。でも、こうして誰かにご飯を作ってもらうなんて、いつ以来かしら。組織にいた頃は、冷たいレーションか、誰かの顔色を窺いながら食べる食事しかなかったし……」


ニィは少しだけ寂しげに目を伏せたが、すぐにアルファの頭を撫でて誤魔化した。肩の上のアルファも、いい匂いに誘われるように喉を鳴らしている。


ペイジン「これからは私が毎日作ってあげるよ! 契約料、でしょ? ニィと一緒に食べるご飯、私も楽しみなんだ!」


ペイジンは振り返って、満開の向日葵のような笑顔を向けた。


ニィ「……ふん。せいぜい味に期待させてもらうわよ。不味かったら、今度こそシャインパールを盗んで逃げちゃうんだから☆」


強気な言葉とは裏腹に、ニィの口元は緩んでいた。10歳の魔法少女と、心に傷を負った怪盗。二人の不思議な生活が、温かなスープの香りと共に、静かに更けていく。


キッチンの温かな蒸気と共に、ペイジンは湯気が立ち上る木製のボウルを両手に抱えてテーブルへと運んできた。10歳の小さな手には少し重そうだが、その足取りは軽やかだ。テーブルに置かれたのは、じっくり煮込まれた真っ赤なスープ。


ペイジン「はい! トマトスープ☆」


ペイジンは満足げに腰に手を当て、自信たっぷりに胸を張った。スープの中には、細かく刻まれた野菜が宝石のように踊っている。


ニィ「……へぇ、見た目は悪くないじゃない。もっと焦げた何かが出てくるかと思ってたわ」


ニィは驚きを隠すように少し皮肉を言ってみせたが、その瞳は期待で揺れていた。彼女はスプーンを手に取り、まずは一口、熱々のスープを口に運ぶ。トマトの優しい酸味と、溶け出した野菜の甘みが口いっぱいに広がった。


ニィ「……美味しい。……すごく、温かいわね。ペイジン」


ペイジン「でしょ! イトウショウタの実家は伊藤自動車だけど、きっとお家のご飯もこういう温かいものなんだろうなーって想像して作ったんだ! 立ち上がりの鋭い味を目指してみたよ!」


ニィ「……味に立ち上がりの鋭さは求めてないけど。でも、お腹の底までポカポカする。魔法で温めたのとは、全然違うわ」


ニィは夢中でスープを口に運んだ。組織で凍りついていた彼女の心が、スープの熱に溶かされていくような感覚。隣ではペイジンも自分の分を頬張り、「おいしー!」と声を上げている。


山吹花……ではなく、10歳の魔法少女ペイジンは、キッチンから弾むような足取りでテーブルへと向かった。その手には、湯気が食欲をそそる真っ赤なスープが握られている。この古い家で暮らすのは、幼いマスターである彼女と、その使い魔であるニィの二人だけだ。


ペイジン「はい! トマトスープ☆」


ペイジンは、ニィの目の前に丁寧にボウルを置いた。10歳という年齢に似合わないほど手際よく作られたそのスープは、彼女の真面目な性格を映し出したかのような、優しくも深い香りを漂わせている。


ニィ「……ありがと。使い魔にここまで尽くす魔法少女なんて、世界中探してもアンタくらいなものね、ペイジン」


ニィは少し呆れたように、けれど愛おしそうに目を細めてスプーンを手にとった。かつては怪盗として恐れられた彼女も、今はペイジンの魔力を糧とする使い魔。主の作った料理を食べることは、彼女にとって最も重要な「契約」の儀式でもあった。


ペイジン「だって、ニィは私の大事なパートナーだもん! 美味しいもの食べて、明日から一緒にシャインパールの欠片を探さなきゃ。ニィ、味はどうかな……?」


ペイジンは、自分のスープには手をつけず、期待に満ちた瞳でニィの反応を待っている。ニィは熱いスープを一口、慎重に口に運んだ。


ニィ「……美味しいわよ。素材の味がしっかりしてて、アンタの魔力みたいに真っ直ぐな味がする。これなら、ステラパールの闇に当てられた私の体も、すぐに元通りになりそうだわ」


ペイジン「よかったぁ! 伊藤翔太みたいに『気合の入った味』を目指してみたんだよ。あ、でも立ち上がりの鋭さより、今回は優しさを重視したの!」


ニィ「……またその走り屋の話? アンタ、使い魔の私よりもその人の話をしてる時間の方が長いんじゃない? 少しは嫉妬しちゃうわよ、ペイジン」


ニィはわざとらしく唇を尖らせてみせた。10歳の少女と、彼女を支える使い魔。主従というよりは、姉妹のような、あるいは親友のような距離感で、二人は向き合っている。


ペイジン「えへへ、ごめんね。でもニィが一番だよ! さあ、冷めないうちに全部食べてね」


窓の外にはファンタジーの夜空が広がり、不穏な影が蠢いているかもしれない。けれど、この小さな食卓だけは、トマトスープの温かさと二人の絆に守られた、絶対的な安らぎの空間だった。


トマトスープで温まった食卓のすぐ横で、ニィは身を乗り出して、まだ幼いマスターの顔を覗き込んだ。その表情は、魔法界の終わりを予見するかのように深刻だ。


ニィ「あ! そうそう!!! ステラパールが散らばったということは……悪夢が世界中に散らばるってことなんだよ!!? 人々の心に闇が入り込んで、実体化した恐怖がこのファンタジー世界を飲み込んじゃうんだからね!?」


使い魔としての本能が、迫りくる危機の大きさを告げている。しかし、そんな必死の訴えをよそに、魔法少女ペイジンはリビングの魔法水晶……ではなく、なぜか設置されている「お笑いテレビ」の画面にかじりついていた。


ペイジン「あはははは♪ ねえ見てニィ、この芸人さんの動き、すっごく面白いよ!」


ペイジンはソファの上で転げ回りながら、無邪気な笑い声を上げている。10歳の少女にとって、世界の危機よりも目の前の爆笑ネタの方が、今は重要らしい。


ニィ「ペイジン、真面目にやってよ!!! さっきまで『責任取る』って言ってたのはどこの誰よ! 悪夢が蔓延したら、そのお笑い番組だって見られなくなっちゃうんだよ!?」


ニィはテレビの前に立ちはだかり、画面を遮るように両手を広げた。普段のクールな怪盗の面影はどこへやら、今はただの世話焼きな姉のようである。


ペイジン「むぅ、ニィ。邪魔だよぉ。……大丈夫だってば! イトウショウタだって、追い詰められた時ほどムードメーカーとして周りを明るくするんだよ? 私も、まずは笑って元気をチャージしないと、悪夢になんて勝てないもん!」


ニィ「……またイトウショウタ! アンタ、何でもかんでもその走り屋の理屈で正当化しないでくれる!? それに、テレビを見て笑ってるのはただの『遊び』でしょ!」


ペイジン「遊びじゃないよ、心のメンテナンスだよ☆ さあニィも座って! 一緒に笑えば、ステラパールの闇なんて吹っ飛んじゃうから!」


ペイジンはニィの腕を引っ張り、無理やりソファへと引き込んだ。10歳の少女の純粋なパワーに押され、ニィは毒気を抜かれたように溜息をつく。


ニィ「……はぁ。本当に、アンタという魔法少女は……。わかったわよ、あと10分だけだからね。そのあと、ちゃんと明日の作戦会議をするんだから!」


結局、使い魔は主に甘い。二人は並んで座り、ファンタジーの夜に響く笑い声に身を任せた。


お笑いテレビの賑やかな音が響く室内で、ニィは不意にその声を低く沈ませた。その落差に、ソファで笑っていた魔法少女ペイジンも、思わず画面から目を離して使い魔の顔を見つめる。


ニィ「ステラパールは元々はイルミナという世界の神の使いの少女が作ったの……。完全なる、そしてとてつもない闇を生み出すイルミナ……」


ニィの瞳は、テレビの光を反射しながらも、どこか遠くの、忌まわしい過去の記憶を辿っているようだった。彼女が語るその名は、この西洋ファンタジー世界の創造に関わる、禁忌に近い存在だった。


ペイジン「神の使い……? でも、どうしてそんな凄い人が、闇なんて生み出しちゃったの……?」


ペイジンは膝を抱え、幼い顔に不安の影を落とした。彼女が代々守ってきたシャインパールの対極にあるものが、単なる悪意ではなく「神の使い」の手によるものだという事実は、10歳の少女にはあまりにも重すぎる。


ニィ「光が強ければ、その分だけ影も深くなる……。イルミナは、世界のバランスを保つために、自分の中にある負の感情をすべて切り離して、あの真珠に封じ込めたと言われているわ。でも、それは浄化されたわけじゃなかった。数千年の時を経て、ステラパールは自己増殖を繰り返す、純粋な闇の塊に成り果ててしまったのよ」


ニィは自嘲気味に笑い、自分の指先を見つめた。使い魔として契約する前、怪盗としてあの真珠に触れたときに感じた、底知れない冷たさが蘇る。


ニィ「それが今、アンタの不注意で……あ、いや、運命の悪戯で世界中に飛び散った。イルミナの闇が、人々の心の隙間を見つけては『悪夢』として受肉しようとしているわ。ペイジン、これはただの宝探しじゃない。神の失敗を、私たちが後始末しなきゃいけないってことなのよ」


ペイジン「神様の失敗……。……でも! 伊藤翔太だって、どんなに不利な状況でも『仲間を信じて追い上げる』んだよ。神様が失敗したなら、今度は私たちがそれを直せばいいだけでしょ?」


ペイジンはテレビのスイッチを切ると、真っ直ぐにニィを見つめた。その瞳には、恐怖を打ち消すような強い決意の光が宿っている。


ニィ「……アンタ、本当にそのハチロク乗りの理屈が好きね。でも、その真っ直ぐさだけが、今は頼りだわ。さあ、夜が明ける前に、最初の悪夢がどこで産声を上げるか……私の魔力で探ってみるニィ」


二人の影が、ランプの火に揺れて重なる。神の遺した闇との戦いは、まだ始まったばかりだった。


魔法少女ペイジンは、膝を抱えたまま、窓の外に広がる深い夜をじっと見つめていた。西洋ファンタジーの街並みを包む闇は、いつもよりずっと重く、不気味な粘り気を持っているように感じられる。


ペイジン「じゃあさニィ、ここが闇に包まれたらどうなるの?」


その問いかけに、使い魔ニィは表情を険しくした。彼女はソファから立ち上がると、窓際に歩み寄り、街を飲み込もうとしている夜のとばりを睨みつける。


ニィ「……ここが、ステラパールの闇に侵食されたら、まず人々の心から『希望』が消えるわ。楽しかった思い出も、誰かを大切に思う温かい気持ちも、すべてがドロドロとした黒い絶望に書き換えられてしまう。……この世界から、色彩が失われるのよ」


ニィは振り返り、10歳のマスターの小さな手をそっと握りしめた。使い魔としての冷たい指先が、ペイジンの体温を確かめるように強く絡まる。


ニィ「そして、人々の心に潜んでいた一番嫌な記憶……『悪夢』が実体を持って、街を徘徊し始めるわ。昨日まで笑い合っていた隣人が、自分を呪う化け物に見えるようになる。……ここは、生きたまま地獄に変わる。それが、イルミナの闇がもたらす結末よ」


ペイジン「そんなの……嫌だよ。みんなが怖がって、一人ぼっちになっちゃう世界なんて……!」


ペイジンの瞳に、恐怖と悲しみが混ざった涙が溜まる。彼女がこの家で守りたかったのは、そんな冷たい結末ではなかった。


ニィ「だから、そうなる前に私たちが動かなきゃいけないの。ステラパールが完全に世界を塗りつぶす前に、シャインパールの欠片を集めて、イルミナの闇をもう一度封印する。アンタが『責任を取る』って言ったんだから、最後まで付き合ってもらうわよ、ペイジン」


ニィは主の涙を指先で優しく拭うと、不敵に微笑んだ。その笑みは、闇を切り裂く一筋の銀光のように、ペイジンの心に再び強い決意を灯した。


ペイジン「うん……! 泣いてる場合じゃないよね。私、やるよニィ。私たちの家も、この街の平和も、絶対に守ってみせる……!」


少女の言葉に呼応するように、折れたステッキが微かに白銀の輝きを放った。西洋ファンタジーの夜が更けていく中、二人の本当の戦いが、今ここから静かに幕を開ける。



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