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第21話 真意

眩い照明の下、怪盗ジュンは赤いマントを翻し、

リボルバーをくるりと回した。

銀髪がふわりと揺れ、その瞳はどこまでも鋭く、

どこまでも哀しかった。


ペイジンのスリーピィーステッキがきらりと光り、魔法少女の力を身にまとう。

桜色のきらめきが彼女の周囲に舞い、眠りを誘う癒しのオーラと共に彼女の変身が完了する。


ペイジン「私は……絶対に、あなたを許さない……でも、それと同時に――助けたいとも思ってるのよ……!」


対するジュンは、赤いマントを翻して不敵に笑う。

そのリボルバーが月光に反射し、白銀の軌跡を描く。


ジュン「なら……撃ちなさいよ。あなたの“正義”ってやつで、私を裁いてみなさい。

でもその代わり――私の銀弾は、容赦しないわよ?」


――バンッ!!!


最初の一発。

ジュンが構えた銀弾のリボルバーから、まっすぐな弾丸が光となって放たれる。


ペイジン「っ……スリーピィーシールド!」


反応したペイジンの杖から眠りの結界が展開され、銀弾は寸前で跳ね返される。

しかし――


ジュン「さすが魔法少女。でもこれはどうかしら?」


今度は宙を舞うように跳び上がり、ジュンがマントを大きく広げる。


ジュン「“銀雨舞踏ッ!!(ぎんうぶとう)”――」


ジュンの周囲から無数の銀色の光の粒が炸裂するように弾け、まるで小さな星座のようにペイジンを包囲する。


ペイジン「っ!?この光、眠気すら与える銀の霧……!?でも私は、負けない……!」


スリーピィーステッキがぐるりと回転し、ペイジンの足元から淡い桜の風が舞い上がる。


ペイジン「“ドリーミィーフラッシュ”!!!」


優しい眠りの魔法が、ジュンの銀の霧に打ち消すように浸透していく――


ジュンの表情が一瞬、揺れる。


ジュン(この魔法……心を、揺さぶる……。まるで、昔……ニィだった頃のように……)


そして、ふたりの力がぶつかり合ったその瞬間――


――ドォォォンッ!!!!


爆風のような光と風が周囲を包み、煙が舞う中で、ふたりの姿が見えなくなる。


……静寂。

だがその中で、ペイジンの声が響く。


ペイジン「ねぇ……ニィ……ジュン……私はあなたが悪人だとは思ってない。

あなたがやってることが間違ってるってことも、

わかってる。

だけど、それでも……!」


スモークの中から現れるペイジン。

ステッキは折れかけていたが、目はまっすぐだった。


ペイジン「あなたを、ひとりにさせたくないんだよ!!」


……ジュンは、一瞬言葉を失う。


ジュン「……そんなこと、言わないで。優しくしないでよ……

私が壊れてしまうじゃない……!」


その手には、まだリボルバーがあった。

だけど――引き金を引く指が、震えていた。


「……負け、ね。私の……」


崩れ落ちるように膝をついたジュンを、ペイジンは力強く抱きしめた。

怪盗の冷たい衣装越しに、ペイジンの必死な鼓動が伝わってくる。


「……離してよ。今なら、私を捕まえられるでしょ」


ジュンは弱々しく抵抗するが、ペイジンはその腕を解こうとはしなかった。


ペイジン「捕まえないよ。そんなことのために、ここまで追いかけてきたんじゃない」


「……じゃあ、何のためよ。正義の味方が、悪党を逃がすっていうの?」


ジュンが顔を上げると、至近距離でペイジンと視線がぶつかった。

ペイジンの瞳は、怒っているようにも、泣いているようにも見えた。


ペイジン「正義なんて、もう知らない! 私はただ、ニィ……、あなたの心がこれ以上、銀弾みたいに砕け散るのを見たくないだけなんだよ!」


その言葉に、ジュンの瞳が大きく揺れる。

ずっと隠してきた、自分でも認められなかった「孤独」を、真っ直ぐに突きつけられた。


ジュン「……っ、ずるいよ。そんな顔で言われたら、私が……」


ジュンは唇を噛み締め、ペイジンの胸元に拳を押し当てた。

力は入っていない。それは拒絶ではなく、溢れ出しそうな感情を堰き止めるための、精一杯の足掻きだった。


ジュン「私、もう戻れないんだよ? 奪ってきたものも、壊してきたものも、消えてくれない。魔法で全部なかったことになんて、ならないんだから……!」


ペイジン「魔法じゃ無理かもしれない。

でも、一緒に背負うことならできるよ」


ペイジンはジュンの拳を、自分の両手でそっと包み込んだ。

夜風が二人の髪を揺らす。


ペイジン「一回、休み。……勝負は、預け。

あなたがまた『怪盗』として私の前に立ちたいなら、その時はまた、全力で追いかけてあげる......ッ!!」


ペイジンはジュンの拳を包む手に、指が白くなるほど力を込めた。

そして、潤んだ瞳の奥に鋭い光を宿し、ジュンの顔を正面から見据える。


ペイジン「でも、その時は……!私が容赦しない……ッ!!」


その宣言は、夜の静寂を切り裂くほど鋭く、凛としていた。

甘えを許さない、対等なライバルとしての宣戦布告。


ジュンは一瞬、呆気に取られたように目を見開いた。

だが、次の瞬間、その口元には怪盗らしい不敵な笑みが戻っていた。


ジュン「……ふふっ、あははは! 容赦しない、か。……いいわ、上等じゃない」


ジュンはペイジンの腕からするりと抜け出し、足元に落ちていたリボルバーを拾い上げた。

その指先からは、もう震えが消えている。


ジュン「次に会う時は、そのステッキを粉々に砕いてあげる。……覚悟しておきなさい、ペイジン」


彼女はそう言い残すと、マントを翻して屋上の縁へと飛び乗った。

月光に照らされた背中は、先ほどまでの弱々しさを微塵も感じさせない。


ジュン「……ありがと。最高のライバルさん」


最後の一言は、夜風に溶けるような小さな囁きだった。

ジュンがそのまま夜の闇へと飛び降りると、後にはキラキラと輝く銀色の羽が数枚、ペイジンの足元に舞い落ちた。


ペイジンはそれを拾い上げ、胸に抱く。


ペイジン「……うん。負けないよ、私は」


夜空を見上げるペイジンの横顔には、魔法少女としての、そして一人の少女としての、揺るぎない決意が刻まれていた。


ジュンは屋上の縁に立ったまま、夜の闇に消える直前、悪戯っぽく、けれどどこか愛おしそうに振り返った。


ジュン「また会おうか……☆ きみの名前は?」


その問いかけに、少女は一瞬だけ虚を突かれたように目を見開いた。

しかし、すぐに足元を踏みしめ、風に抗うように顔を上げる。

ピンク色の髪が夜風に踊り、特徴的なお団子頭とショートロングの毛先が、激しいバトルの名残を惜しむように揺れた。


ボロボロに傷つき、裾のほつれた古い魔法の服が、彼女の覚悟を証明するようにバサバサと音を立てる。


ペイジン「ペイジンよ……っ!!」


夜空に響き渡る、真っ直ぐで力強い声。

ただの記号としての名前じゃない。一人の魔法少女として、そしてジュンの宿命の相手として、その名を夜のとばりに刻みつけた。


ジュンは満足そうに目を細めると、指先で小さく投げキッスを送る。


ジュン「いい名前ね、ペイジン。……忘れないわ。次こそ、あなたのその心を盗んであげる」


銀色のマントが大きく翻り、月を隠した。

次の瞬間、そこにジュンの姿はなく、ただキラキラと輝く魔法の残光だけが、雪のようにペイジンの周囲を舞っていた。


ペイジン「……待ってるから」


一人残された屋上で、ペイジンは折れたステッキを強く握りしめる。

胸の奥に残る熱い鼓動は、もう恐怖によるものではなかった。

次に会うとき、もっと強くなっている自分を想像しながら、彼女は夜の街を見下ろした。

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