第20話 華麗に参上☆
シャンデリアが放つ黄金の光の下、宴の音楽と笑い声が最高潮に達した瞬間だった。
――バチンッ!
鋭い音とともに、ホール中の灯りが一斉に消えた。
ペイジン「えっ……な、なんだ!?」
会場を包んだのは完全な暗闇。華やかな空気は一瞬にして凍りつき、貴族たちのざわめきが波のように広がっていく。
ニィ「停電……!? こんな時に……!」
ブロンズはすぐに腰の剣に手をかけた。
ブロンズ「落ち着け! 誰かが仕掛けたな……ジュンか……!」
闇の中、赤い果実――アルカードジュエリーが飾られたテーブルの方で、ガラスが割れる鋭い音が響いた。
ペイジンは目を凝らし、闇の中に小さな光を見た。まるで狼の瞳のように赤く光る双眸が、こちらを見ていた。
ペイジン「ジュン……!?」
停電からわずか数十秒――パッ、と会場に再び光が戻った。
眩しい光の中、貴族たちの混乱した声が重なり合う。割れたグラス、ひっくり返ったテーブル、まだ揺れの残るシャンデリア。
ブロンズ「……ない……赤い果実が……!?」
ブロンズの目がテーブルの上を走り、そして愕然とした表情を浮かべた。
ブロンズ「アルカードジュエリーが……ない……!!?」
ペイジン「まさか……もう……?」
だがブロンズは眉をひそめた。
ブロンズ「おかしい……怪盗ジュンの気配がない……!? あの女なら必ず派手に現れて盗むはず……だが今回は……完全に気配を消していたというのか……」
ニィも赤い果実のあった台を確認するが、跡形もなく消えている。ただ割れたガラスの破片だけが残され、泡の弾ける音も、果実の甘い香りさえもう感じられなかった。
ペイジンは唇を噛みしめた。まるで最初からこの場に怪盗ジュンなどいなかったかのように――アルカードジュエリーだけが、この会場から消え失せていた。
ニィは赤い果実がなくなったテーブルをじっと見つめていたが、ふいに両手を突き上げて叫んだ。
ニィ「赤い果実食べたいニィー!!
さっきの炭酸ジュースも!!!!!!」
その声にペイジンも思わず手を上げる。
ペイジン「あ……私も!!」
会場の緊張が少し和らぎ、周囲の貴族たちが苦笑した。だがブロンズの表情だけは険しいままだった。
ブロンズ「……果実は盗まれた。あのアルカードジュエリーと呼ばれる赤い果実は、この王国で最も価値がある。怪盗ジュンがそれを狙った理由はまだわからんが……」
ペイジンとニィは顔を見合わせた。赤い果実を食べたいというささやかな願いが、今や王国全体の騒動の中心に変わってしまっている。
ブロンズの瞳は鋭く光り、これから始まる追跡劇の幕開けを告げていた。
ニィは両手を大きく振り上げ、今にも泣きそうな顔で叫んだ。
ニィ「もっと果実食べたいし貰いたいよおおお!!!」
その声は会場の奥まで響き、貴族たちのざわめきや楽団の演奏の合間に、少しだけ笑いを誘った。
ペイジンは思わず吹き出しそうになりながらも、グラスを持ち直して真剣な顔でうなずいた。
ペイジン「確かに……少しだけおすそ分けしてもらいたいかも。私、炭酸大好きなの。」
彼女の声は落ち着いていたが、その瞳には本気の輝きがあった。さっき飲んだ赤い果実の炭酸の味が、まだ舌の上に残っている気がしたのだ。
ブロンズは額に手を当て、深いため息をついた。
ブロンズ「……お前たち、少しは状況を理解しろ。今、その赤い果実がなくなったことで、城は非常事態なんだぞ」
だがペイジンとニィの様子はまるで遠足の子供のようで、緊張感の中にほんの少しだけ温かい空気を残していた。
ニィ「まぁね……」
ペイジンはその顔をじっと見つめ、やがてゆっくりと口を開いた。
ペイジン「やっぱりニィ……君だったんだね……いや、怪盗ジュン。」
ブロンズの目が驚きに見開かれる。
ブロンズ「……なぜわかった!?」
ペイジンは迷いなく言葉を続けた。
ペイジン「さっき、不味そうにしてニィが炭酸ジュース飲んでたもの……。本物のニィなら炭酸は好きなはず。嫌いだなんてありえない。だからあれは偽物。……それに、さっきのセリフ。」
ジュンに化けた“ニィ”はニヤリと笑った。
ニィ(ジュン)「えへへ!そうでしょ?」
ペイジンは首を横に振り、静かに言い切った。
ペイジン「本物のニィだったら……こう言ってた。」
ペイジンは深呼吸し、ニィのいつもの調子を真似た。
ペイジン「“そうかニャ〜、えへへ”ってね。」
その瞬間、“ニィ”の表情がゆっくりと変わった。
ニィ(ジュン)「……うふふ」
その声には、もう無邪気なニィの響きはなかった。低く艶やかな怪盗ジュンの声がそこにあった。
ブロンズは剣に手をかけ、会場の空気が一気に張り詰めた。
ペイジンは怪盗ジュンをまっすぐに見据えた。会場の緊張は増し、貴族たちのざわめきが次第に遠のいていく。
ペイジン「やっぱり……私じゃなくて、ニィとアルカードジュエリーが目当てで……!!」
その言葉に、ジュンは小さく肩をすくめた。
ジュン「ふふ……さすがね、魔法少女さん。気づくのが早いわ。でも、もう遅いの。あの赤い果実はもう私の手の中」
ブロンズが一歩前に出る。
ブロンズ「ジュン……貴様の目的はなんだ!? 王国の財宝だけじゃないな……その力をどうする気だ!」
ジュンは笑みを浮かべたまま、月明かりの下でゆっくりと後退した。
ジュン「答えは簡単。すべては“力”と“自由”のためよ。私の狙いはただの宝石じゃない。アルカードジュエリーが持つ本当の価値……それがわかるのは、この王国で私だけだから」
ペイジンの手が震えた。赤い果実――アルカードジュエリーの秘密が、まだ彼女にはわからないままだった。
ジュンはわずかに目を伏せ、笑みの奥に隠された本音が滲んだ。
ジュン(……私はずっと……もう元に戻れないの。だから……)
彼女の手の中で、アルカードジュエリーがかすかに光を放った。パーティ会場のざわめきや灯りの揺らめきが遠のいていく中、その言葉は誰にも聞こえないほど小さな心の声だった。
ジュン(だから……せめてこの力だけは……私の手に。もう二度と、あの日の私には戻れないから)
彼女の瞳に一瞬だけ、苦しみの色が宿った。しかしすぐにいつもの不敵な笑みを浮かべ、声を張り上げる。
ジュン「さあ――みんな、楽しい夜の始まりよ!」
月明かりが窓を割って差し込み、怪盗の影がゆらりと跳ねる。彼女はもう後戻りしないという覚悟を、その背中に刻みつけていた。
ペイジン「ジュン!!!」
叫んだ瞬間、ブロンズが剣を構え、一気に飛び出した。
ブロンズ「オラァァァ!!!」
ガンッ!!!
鋭い音がホールに響き渡る。ペイジンは息をのんだ。
ペイジン「え……!?」
ブロンズはペイジンの腕を一瞬だけ押さえ込み、鋭い眼差しを向ける。
ブロンズ「お前もジュンの手下か!?」
ペイジンは慌てて首を振り、必死に声を上げた。
ペイジン「違う!!私はジュンの味方なんかじゃない!」
だがブロンズの表情は険しいままだ。ホールの観客たちは息をひそめ、音楽は止まり、シャンデリアの光だけが舞台のように二人を照らしていた。
その背後で、ジュンの低い笑い声が暗闇から響いた。
ジュン「……ふふ、仲間割れ?面白いわね」
ジュンは赤いマントを翻しながら、ゆっくりと後ろに下がった。その目には勝者の余裕が宿っている。
ジュン「それと魔法少女……あの黒猫ちゃんはいただいたわ。ちゃんと赤いマントの中で気絶してもらったわ……」
ペイジン「ニィ!!……ニィを返してッ!!」
怒りと焦りが入り混じった声がホールに響き渡る。
ブロンズ「オラァァァッ!!!」
剣の一撃がジュンに迫るが、赤いマントがひらりと舞い、鋼と鋼が激突した音が会場を震わせた。
ガンッ!!!
ペイジン「……!!!」
その光景にペイジンは目を見開き、胸の奥に熱いものが込み上げてくるのを感じた。彼女の手が自然に腰のスリーピィーステッキへと伸びる。
ペイジン「変身――!!!」
ステッキが眩い光を放ち、ペイジンの体を魔力の光が包み込む。ドレスの裾が風に舞い、瞳が強い光を宿した。
ペイジン「あなた達がその気なら――
私はなんだって惜しまないッ!!この力が尽きるまでッ!!!」
その叫びとともに、会場の空気が一変した。魔法少女ペイジンがついに本気を出し、戦いの幕が上がったのだ。
ジュンは赤いマントを大きく広げ、会場のど真ん中で高らかに宣言した。
ジュン「怪盗ジュン!華麗に参上!!!」
彼女の手には、月光を浴びて銀色に光るリボルバーが握られている。
ジュン「このリボルバーで攻撃していくわよッ!!!」
ペイジンは驚愕に目を見開いた。
ペイジン「銀弾ッ!!?魔法耐性を持つ怪物すら撃ち抜けるっていう、あの銀の弾丸!?」
ジュンは口角を上げ、赤いマントを翻して弾丸を装填した。
ジュン「そうよ。この弾はただの武器じゃない。アルカードジュエリーの力を帯びた特製――当たれば一撃で魔力を封じるわ!」
ブロンズが剣を抜き、すぐさま前に出た。
ブロンズ「ペイジン、下がれ!奴は本気だ!!」
しかしペイジンは一歩も引かず、スリーピィーステッキをしっかりと握りしめる。
ペイジン「ここで退いたら……ニィも、みんなも助けられないッ!!」
その瞳には、怪盗ジュンの銀弾に真正面から立ち向かう覚悟が宿っていた。
PE3and...PE4....! 2026 tobe continued




