第19話 夜のパーティ開幕!
一方、その頃――王国の城のメインホールでは、夜のパーティが華やかに開幕していた。
高い天井から吊るされたシャンデリアが黄金の光を放ち、磨き上げられた大理石の床に無数の光の粒を映し出す。壁際の楽団が奏でる弦楽の旋律に合わせ、貴族たちが笑い、踊り、煌びやかな衣装と宝飾が会場を彩っていた。
その片隅に、ペイジンの姿があった。グラスを手にしていたが、その瞳にはどこか心細さが漂っていた。
ペイジン「正直……ひとりで心細かったんですよ、私。七人から一人になっちゃったし……魔法学校でも、友達……いい人ができなかったから……」
彼女の言葉に、隣でニィがそっと視線を向けた。
ニィ「ペイジン……」
ペイジンは笑おうとしたが、その笑みはどこかぎこちなかった。遠い仲間たちの顔が脳裏に浮かぶ。クロス、セノ……あの騒がしくて頼もしい面々が、今はもうこの場にはいない。自分だけが取り残されているような孤独が、胸の奥に広がっていく。
ブロンズが静かに近づいてきた。
ブロンズ「……だが今夜は一人じゃないさ。
ここにいる誰もが、お前が来るのを待っていた」
ペイジンは小さく目を見開き、そしてグラスの中の赤い果実の泡を見つめた。遠くで、シャンデリアの光がまたひときわ強く輝いた。
ニィ「大丈夫!ボクもついてるニィ!!!」
ニィは大きな声でそう言うと、ペイジンの肩を軽く叩いた。まるで重くなった空気を吹き飛ばすように、明るい笑顔を見せる。
ペイジンは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに小さく笑った。
ペイジン「……ありがとう、ニィ」
グラスの中の赤い果実の泡がしゅわしゅわと弾け、その音がやけに耳に残る。遠くで奏でられる弦楽の調べと貴族たちの笑い声が混じり合い、会場は相変わらず華やかさに包まれているのに、どこかで不思議な緊張が忍び寄っていた。
ブロンズはそんな二人の様子を見て、ゆっくりと頷いた。
ブロンズ「その調子だ。今夜は長い夜になりそうだ……怪盗ジュンがいつ動くか分からんからな」
ペイジンはグラスを握りしめ、遠い扉の影に目を向けた。そこに何かが潜んでいる気がしてならなかった。
そこへ、バタバタと軽い足音が響いた。銀色の髪を揺らしながら、まだ幼い少女が人混みをかき分けるように走ってきた。年の頃は小学生くらいだろうか。
カイン「お姉ちゃん……ジュース組んでー!!」
無邪気な声が会場の喧騒の中に溶けていく。
ペイジン「いいよー!」
ペイジンはにこやかに答え、テーブルの上のグラスに手を伸ばした。氷の入った透明なグラスの中に果実のジュースを注ぎ、軽くかき混ぜる。
グラスの中でしゅわしゅわと泡が弾け、その音がどこか緊張感を和らげた。カインは嬉しそうに目を輝かせ、ペイジンの隣にちょこんと立った。
カイン「わー、ありがとー!」
ニィは小さく笑って肩をすくめた。
ニィ「この会場の中で一番無邪気な声かもしれないニィ……」
だがその時、ペイジンはふと気づいた。窓の外の闇に、まるで星のように一瞬だけ赤い光が瞬いたような気がしたのだ。まさか……怪盗ジュンが――。
ブロンズはしばし黙っていたが、グラスを置きながら低い声で言った。
ブロンズ「そういえばだが……ジュンは、相手に変身することもできるんだ。当然、声もな」
ペイジン「えっ……!?」
その言葉は、会場の華やかな音楽の中でもはっきりと響いた。ペイジンは思わずカインとニィを見やり、周囲の顔を一人ひとり確かめる。
ブロンズ「だから警備は難しい。誰が本物で、誰が偽物か……姿も声も完璧に真似られる。ジュンの潜入に気づいた時には、もう遅いだろう」
ニィ「そんな……つまり、この会場の誰かがもうジュンかもしれないってことニィ……?」
ブロンズは小さくうなずいた。その表情は冗談ではなく、真剣そのものだった。
ペイジンは胸の奥に不安が広がるのを感じた。彼女の仲間の姿をした怪盗が、赤い果実――アルカードジュエリーを狙っている。誰が本物で誰が偽物なのか……その見極めが、この夜のすべてを決めることになる。
ニィ「きっと大丈夫ニィ!ブロンズさんもペイジンさんもいるから!!!」
ニィの明るい声がメインホールの緊張感を一瞬和らげた。彼の言葉は、まるで闇の中に差し込む光のようだった。
ペイジンはそんなニィの言葉に小さく笑みを返した。だが胸の奥の不安は消えない。怪盗ジュンが変身能力を持ち、この会場のどこかに潜んでいるかもしれない――その事実は重くのしかかっていた。
ブロンズは腕を組み、警備兵たちに鋭い視線を送った。
ブロンズ「気を抜くな。奴は必ず来る……
今夜、この城に」
シャンデリアの灯りが揺れ、バイオリンの音色が響く中で、宴は続いている。しかしその華やかさの裏に、誰も知らない静かな戦いが始まろうとしていた。
ペイジンはグラスを片手に、明るい顔でニィを振り返った。
ペイジン「にしてもニィ! 今日絶好調だね!」
ニィは胸を張り、耳まで届きそうな笑みを浮かべた。
ニィ「えへへ! そうでしょ?」
彼の尾を思わせるようなマントが軽く揺れ、その仕草が会場の空気を少し柔らかくする。貴族たちのざわめきや音楽の旋律が続く中で、ニィの無邪気な声がどこか安心感を与えていた。
ブロンズはグラスを傾けながら、二人の様子を静かに見守る。だがその目は常に鋭く、会場の隅々まで視線を走らせていた。怪盗ジュンの影が、どこかでじっと狙いを定めていることを、彼は確信していた。




