第10話 闇の光を照らす悪夢
夜の街に、再びあの黒い光が立ち昇った。
ビルの影を引き裂き、空へと伸びる闇の柱。
ペイジンはほうきを操り、その光の中心へと一直線に向かっていく。
横風が彼女のマントを翻し、後ろのニィが必死でしがみついた。
ペイジン「間に合え……!」
ニィ「この反応、さっきよりも強いニィ!女の子の精神が完全に飲まれる前に止めないと!」
やがて二人は、光の中心にある小さなアパートの屋上に降り立った。
一室の窓からは不気味な影が漏れ、部屋の中は黒い霧で覆われている。
ペイジンは迷わず窓を開け、ほうきごと飛び込んだ。
そこには――
ベッドの上で苦しげに眠る少女の姿。
その額には黒い紋章が浮かび、夢の中で何かと必死に戦っているようだった。
ペイジン「この子……夢の中で闇と繋がってる!」
ニィ「やっぱり悪夢の化身が完全に取り憑いてるニィ!」
ペイジンはすぐに魔法陣を展開し、少女の額に手をかざす。白い光が少女を包み、ペイジンの瞳が一瞬だけ夢の世界へと繋がった。
ペイジン「……よし、私が行く。
夢の中に飛び込んで、この悪夢を断ち切る!」
ニィ「気をつけるニィ!今までと違って、
何か……嫌な気配がするニィ……!」
ペイジンは頷き、少女の夢の中へと意識を沈めていった。
――ふっと、足元の感覚が変わった。
気がつけばペイジンは、暗い空間に立っていた。
天井は高く、月光のような淡い光が差し込んでいる。
ペイジン「……ここは……?」
見渡す限り、そこは巨大な美術館だった。
真っ白な壁にずらりと額縁が並び、その中にはどれも誰かの記憶のような絵が飾られている。
足音がやけに響く静寂の中、ペイジンはひときわ大きな肖像画の前で立ち止まった。
ペイジン「これは……」
そこに描かれていたのは――さっきの少女と、その家族。
楽しそうに笑い合う瞬間が、まるで写真のように切り取られ、キャンバスに封じ込められている。
ペイジンは手を伸ばし、額縁の縁をそっとなぞった。
ペイジン「……夢の中の記憶……なのね」
しかし、その隣の壁には黒い染みが広がり、別の肖像画が次々と闇に覆われていく。
子供の笑顔が、父母の姿が、少しずつ黒いインクのようなもので塗りつぶされていった。
ペイジン「っ……このままじゃ、この子の思い出が全部……!」
その瞬間、奥の展示室から不気味な笑い声が響いた。
???「ケケケケケ……ここはお前の来る場所じゃない……」
展示室の影の奥から、赤い目をした“悪夢の化身”がゆっくりと姿を現した。
その体は絵の具と煙が混ざり合ったように揺らぎ、形を定めていない。
ペイジン「やっぱりあんたがこの子を苦しめてるのね……!」
化身は嗤いながら、黒い筆を振りかざし、近くの肖像画へと闇を塗りたくり始めた。
ペイジン「やめなさいッ!!」
彼女の手に光の杖が現れ、魔法陣が足元に展開していく。
ここからが本当の戦いの始まりだった。
悪夢の化身が美術館の奥で不気味に笑い、闇の筆を振るう。
肖像画の家族の笑顔が一枚、また一枚と黒い染みに塗りつぶされていった。
ペイジン「――もう許さない……!」
彼女の足元に光の魔法陣が展開し、淡い風が吹き抜ける。
髪が宙に舞い、瞳がまっすぐ前を射抜いた。
ペイジン「変身開始ッ!!!」
その叫びと同時に、ペイジンの体を光が包み込んだ。
紫色の古風なマントが肩からなびき、胸元には三日月の紋章が輝く。
裾が幾重にも重なったドレス調の衣装は、古代の魔導士を思わせながらもどこか華やかだ。
ペイジン「魔法少女ペイジン――爆誕ッ!!!」
彼女の手に現れたのは、ピンク色の光を帯びた杖――スリーピィーステッキ。
先端には星型の宝石が脈打つように光り、魔力が収束していく。
悪夢の化身「ケケケ……力を手に入れたからといって、この夢から出られると思うな……!」
ペイジン「この子の夢は私が守る!!」
マントを翻し、彼女は杖を高く掲げた。
ピンクの光が花びらのように舞い、闇に覆われた美術館を一瞬で照らし出す。
次の瞬間、化身が黒い波を繰り出し、ペイジンへと襲いかかってきた――。
その頃、現実世界。
少女はベッドの上で小さく身を丸め、汗に濡れた額を震わせていた。
少女「……誰か……いるの……?」
まぶたの裏にはまだ悪夢の断片が残り、闇の影が彼女を絡め取ろうとしている。
けれどその奥に、さっき夢の中で見えた光の輪郭があった。
少女「あ……私の中に……ヒーローがいる……」
それは紫のマントをなびかせ、ピンクの杖を持った誰かの姿。
現実なのか夢なのかも分からない。
でも確かに、その存在は闇を照らしてくれていた。
少女「お姉ちゃん……助けて……」
小さな手がシーツをぎゅっと掴む。
まるで祈るように。
すると――彼女の心の奥で、かすかな光がひとつ、ふっと灯った。
それはまるで夢の中にいるペイジンと、現実の少女の魂が繋がったような感覚だった。




