恋人との日々
夏休みに入ると、月人とのデートの回数はさらに増えた。
毎日のように会い、一緒に過ごす。
海、山、遊園地、水族館。
私以外の「彼女」がいることもあった。
でも、どこに行っても、私の体は幸せそうに振る舞う。
「月人くん、見て!きれいな貝殻」
海辺で貝殻を拾い、彼に見せる。
「これ、記念に持って帰ろう」
(いいね)
彼がボソボソと同意する。
水着姿の私を見て、彼がニヤニヤと笑う。
普通なら不快でしかないその視線も、私の体は「愛おしい視線」として受け取る。
「恥ずかしい……」
頬を赤らめ、体を隠そうとする仕草。
でも、本当は違う理由で体を隠したい。
こんな男に肌を見せたくない。
(可愛いよ)
彼の言葉に、体はさらに赤くなる。
「月人くんにだけ……見せるんだから」
——見せたくない!
ビーチで手をつないで歩く。
波打ち際で戯れる。
まるで恋人同士の夏の思い出作り。
でも、私にとっては拷問の連続。
彼の手の感触が気持ち悪い。
一緒にいるだけで吐き気がする。
それなのに、体は彼にくっつき、甘える。
「月人くん、大好き」
一日に何度もその言葉を口にする。
山でのハイキングデート。
「疲れた〜」
わざとらしく疲れたふりをして、彼に甘える。
「おんぶして」
(仕方ないな)
彼が背中を向ける。
飛び乗る私。
彼の背中の感触。汗で体が濡れる。
気持ち悪くて仕方ないのに、体は嬉しそうに彼にしがみつく。
「月人くんの背中、広いね」
(そうかな)
「うん。安心する」
体は彼の背中で幸せそうに目を閉じる。
遊園地では、お化け屋敷に入る。
暗闇の中、怖がるふりをして彼にしがみつく。
「怖い……」
(大丈夫だよ)
彼が後ろから抱きしめてくる。
本当に怖いのは、お化けじゃない。
この状況が怖い。
自分の体が自分のものじゃないことが怖い。
でも、体は彼の胸に顔を埋めて安心している。
観覧車の中では、夜景を見ながら寄り添う。
「きれい……」
(詩織の方がきれいだよ)
彼が何かを言い、照れる私。
そして、狭い空間で抱き合い、キスをする。
何度も、何度も。
気持ち悪い。
でも、体は恍惚としている。
「月人くん……もっと……」
自分から彼を求める言葉。
——やめて!これ以上は……!
観覧車を降りる頃には、唇が腫れていた。
夏休みの後半。
月人の家に招待された。
神社の一室。
二人きり。
「誰もいないの?」
「うん。今日は祭りの準備で、みんな出払ってる」
彼の部屋に入る。
男の部屋特有の匂い。
散らかった本や服。
普通なら眉をひそめるところだが、私の体は興味深そうに見回す。
「月人くんの部屋、初めて」
「汚くてごめん」
「ううん。月人くんらしくて好き」
——好きじゃない!汚い!
ベッドに座る。
彼も隣に座る。
距離が近い。
「詩織」
彼が私の名前を呼ぶ。
振り向くと、すぐそこに彼の顔があった。
キスをされる。
部屋の中、二人きり。
誰も助けに来ない。
「月人くん……」
彼に押し倒される。
ベッドに横たわる私。
彼が覆いかぶさってくる。
——やめて!やめて!やめて!
でも、体は彼を受け入れる。
服を脱がされる。
肌が露出していく。
彼の手が、私の体を這い回る。
気持ち悪い。
ゾワゾワする。
でも、体は受け入れている。
「あ……ん……」
甘い声が漏れる。
彼の愛撫に、体が反応する。
でも、それは本当の反応じゃない。
全て、操られているだけ。
「好き……月人くん、好き……」
愛の言葉を囁きながら、彼を受け入れる。
最後まで。
全て。
終わった後、彼の腕の中で横たわる。
「幸せ……」
そう呟く私。
でも、心は死んでいた。
もう何も感じない。
ただ、体だけが勝手に動いている。
人形。
私は人形になってしまった。
彼の人形に。