初めてのデート
土曜日の朝。
私の体は早起きして、入念に身支度を整え始めた。
水色のワンピースを選び、髪を丁寧にセットする。薄く化粧を施し、香水をつける。今日のために買ったものだ。
——なんでこんなにおめかししてるの?
今日は月人とのデートの日。私の順番は夕方の五時からだ。
でも、なぜか朝から準備を始めていた。まるで、一日中そのことしか考えられないかのように。
時間になると、体は家を出て駅へ向かった。
約束の時間より一時間も早く着いてしまう。
——早すぎる!
でも、体は嬉しそうにそわそわしながら待ち続ける。頬は期待で赤く染まり、何度も化粧を直す。
やがて、月人が現れた。
相変わらずボサボサの髪に、にやけた表情。はっきり言って、気持ち悪い。
でも、私の体は違う反応を示す。
心臓が高鳴り、頬がさらに赤くなる。
(ごめん、待った?)
彼がボソボソと何かを呟く。
「ううん、今来たところ」
——嘘つき!一時間も待ってたわ!
(どこか行きたいところある?)
「神宮くんと一緒ならどこでも……あ、でも」
私の口が勝手に続ける。
「映画、見に行きたいな」
——映画!?暗い場所で二人きりなんて嫌!
でも、体は嬉しそうに彼の腕に寄り添いながら歩き始めた。
映画館に着くと、なぜか恋愛映画を選んでしまう。こんな男と観たくもない。
暗い館内。
私の手が、そっと彼の手に伸びる。
——やめて!触りたくない!
でも、手は彼の手を握った。ベタベタした感触に鳥肌が立ちそうになる。
(いい?)
彼が聞いてくる。
「うん」
嬉しそうに微笑む私。でも、心の中では悲鳴を上げていた。
映画の途中、感動的なシーンで涙が流れた。
——泣いてない!私は感動なんてしてない!
でも、涙は止まらない。
月人がハンカチを差し出してくれる。
「ありがとう……優しいね」
受け取る手が震える。体は嬉しさで震えているのだろうが、私の本心は恐怖でいっぱいだ。
映画が終わり、カフェに入る。
向かい合って座り、アイスティーを注文する。
「今日は楽しかった」
私の口が言う。
(俺も)
彼もボソボソと返事をする。
「あの……」
体が前のめりになる。頬を赤らめ、上目遣いで彼を見つめる。嫌な予感がする。
——いや!その先を言わないで!
「キス、してもいい?」
——やめて!
店内の人目を気にしながら、私の体は彼に顔を近づける。
唇が触れる。
ヌメッとした感触。タバコとも違う、独特で不快な臭い。
気持ち悪い。吐きそう。
でも、体は幸せそうに目を閉じ、全身を興奮が駆け巡る。
「神宮くんといると、胸がドキドキする」
キスを終えて、私はそう呟いた。
(詩織……)
彼が私の名前を呼ぶ。ボソボソとした声が耳に不快に響く。
「もっと一緒にいたいけど、時間だよね」
私は名残惜しそうな表情を作る。
(また今度)
「うん、楽しみにしてる」
別れ際、もう一度軽くハグをする。彼の体臭が鼻につく。
——気持ち悪い!離れて!
でも、体はしっかりと彼を抱きしめていた。
家に帰る道すがら、体は幸せそうにスキップしている。
でも、心は地獄だった。
あんな男とキスをしてしまった。しかも、自分から求めて。
体に染み付いた彼の匂いが、どうしても取れない気がする。
家に着いて、シャワーを浴びた。
体が丁寧に洗う。でも、感触は消えない。
ベッドに入っても、悪夢にうなされた。
彼の顔が何度も現れる。あの気味の悪い笑顔が、私に近づいてくる。
でも、夢の中の私は、嬉しそうに彼を受け入れている。
目が覚めても、現実は悪夢と変わらなかった。