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神の子の日常  作者: peekbox
伊藤美樹Side
6/7

初めてのデート

土曜日の朝。


私の体は早起きして、入念に身支度を整え始めた。


水色のワンピースを選び、髪を丁寧にセットする。薄く化粧を施し、香水をつける。今日のために買ったものだ。


——なんでこんなにおめかししてるの?


今日は月人とのデートの日。私の順番は夕方の五時からだ。


でも、なぜか朝から準備を始めていた。まるで、一日中そのことしか考えられないかのように。


時間になると、体は家を出て駅へ向かった。


約束の時間より一時間も早く着いてしまう。


——早すぎる!


でも、体は嬉しそうにそわそわしながら待ち続ける。頬は期待で赤く染まり、何度も化粧を直す。


やがて、月人が現れた。


相変わらずボサボサの髪に、にやけた表情。はっきり言って、気持ち悪い。


でも、私の体は違う反応を示す。


心臓が高鳴り、頬がさらに赤くなる。


(ごめん、待った?)


彼がボソボソと何かを呟く。


「ううん、今来たところ」


——嘘つき!一時間も待ってたわ!


(どこか行きたいところある?)


「神宮くんと一緒ならどこでも……あ、でも」


私の口が勝手に続ける。


「映画、見に行きたいな」


——映画!?暗い場所で二人きりなんて嫌!


でも、体は嬉しそうに彼の腕に寄り添いながら歩き始めた。


映画館に着くと、なぜか恋愛映画を選んでしまう。こんな男と観たくもない。


暗い館内。


私の手が、そっと彼の手に伸びる。


——やめて!触りたくない!


でも、手は彼の手を握った。ベタベタした感触に鳥肌が立ちそうになる。


(いい?)


彼が聞いてくる。


「うん」


嬉しそうに微笑む私。でも、心の中では悲鳴を上げていた。


映画の途中、感動的なシーンで涙が流れた。


——泣いてない!私は感動なんてしてない!


でも、涙は止まらない。


月人がハンカチを差し出してくれる。


「ありがとう……優しいね」


受け取る手が震える。体は嬉しさで震えているのだろうが、私の本心は恐怖でいっぱいだ。


映画が終わり、カフェに入る。


向かい合って座り、アイスティーを注文する。


「今日は楽しかった」


私の口が言う。


(俺も)


彼もボソボソと返事をする。


「あの……」


体が前のめりになる。頬を赤らめ、上目遣いで彼を見つめる。嫌な予感がする。


——いや!その先を言わないで!


「キス、してもいい?」


——やめて!


店内の人目を気にしながら、私の体は彼に顔を近づける。


唇が触れる。


ヌメッとした感触。タバコとも違う、独特で不快な臭い。


気持ち悪い。吐きそう。


でも、体は幸せそうに目を閉じ、全身を興奮が駆け巡る。


「神宮くんといると、胸がドキドキする」


キスを終えて、私はそう呟いた。


(詩織……)


彼が私の名前を呼ぶ。ボソボソとした声が耳に不快に響く。


「もっと一緒にいたいけど、時間だよね」


私は名残惜しそうな表情を作る。


(また今度)


「うん、楽しみにしてる」


別れ際、もう一度軽くハグをする。彼の体臭が鼻につく。


——気持ち悪い!離れて!


でも、体はしっかりと彼を抱きしめていた。


家に帰る道すがら、体は幸せそうにスキップしている。


でも、心は地獄だった。


あんな男とキスをしてしまった。しかも、自分から求めて。


体に染み付いた彼の匂いが、どうしても取れない気がする。


家に着いて、シャワーを浴びた。


体が丁寧に洗う。でも、感触は消えない。


ベッドに入っても、悪夢にうなされた。


彼の顔が何度も現れる。あの気味の悪い笑顔が、私に近づいてくる。


でも、夢の中の私は、嬉しそうに彼を受け入れている。


目が覚めても、現実は悪夢と変わらなかった。


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