表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の子の日常  作者: peekbox
神宮月人Side
3/11

忙しすぎる休日

土曜日の朝、俺は珍しく早起きをした。今日は朝から晩までデートの予定が詰まっている。


「月人お兄ちゃん、今日は忙しいんだよね」


朝食を食べながら、弓子が拗ねたような声で言う。


「ごめん。みんなとの約束があって」


「分かってる。でも、たまには私とも……」


弓子は言いかけて口を閉じた。


八時、最初のデートの相手は美樹だ。待ち合わせ場所の駅前に行くと、彼女はすでに待っていた。水色のワンピースが良く似合っている。


「月人くん、おはよう!」


美樹は嬉しそうに俺の腕に抱きついてきた。柔らかい感触に思わずドキッとする。


「どこに行きたい?」


「月人くんと一緒ならどこでも」


結局、近くの水族館に行くことにした。薄暗い館内で、美樹はずっと俺の腕にしがみついている。


「見て、クラゲ。きれい」


「本当だ」


「でも、月人くんの方がきれい」


美樹は俺を見上げて微笑む。人が少ない水槽の前で、彼女は背伸びをして俺の唇に軽くキスをした。


「好き」


小さくつぶやく美樹の顔は、水槽の光で青く照らされていた。


十一時、美樹と別れて次の待ち合わせ場所へ。今度は三年生の先輩三人組だ。


「月人くん、お待たせ」


雅先輩はエレガントな黒のドレス、凛先輩はクールなパンツスタイル、葉月先輩は和風の装いだった。


「今日は三人でシェアね」


凛先輩がウインクする。


ランチは高級レストランだった。


「月人くん、あーん」


雅先輩がフォークを差し出してくる。


「先輩、恥ずかしいです」


「いいじゃない。恋人同士なんだから」


結局、三人から代わる代わる「あーん」をされる羽目になった。周りの客の視線が痛い。


「月人くんって、本当に可愛い反応するよね」


葉月先輩が俺の頬をつつく。


「からかわないでください」


「ふふ、ごめんなさい。でも素直なところが好き」


食事の後、近くの公園を散歩した。三人の先輩に囲まれて歩いていると、注目を浴びずにはいられない。


「ねえ、月人くん」


雅先輩が立ち止まり、俺の頬に手を添えた。


「私にもキスして」


「え、ここで?」


「お願い」


断れない俺は、雅先輩の唇に軽く触れた。続いて凛先輩、葉月先輩にも。


「ありがとう。また来週も会おうね」


三人は満足そうに帰っていった。


午後二時、今度は後輩たちとの約束だ。ゲームセンターで待っていると、茜、梓、楓の三人が駆け寄ってきた。


「先輩!会いたかったです!」


茜が飛びついてくる。


「ちょっと茜、ずるい!」


梓と楓も両側から抱きついてきて、俺は後輩サンドイッチ状態になった。


「みんな、人が見てるから」


「いいじゃないですか。先輩は私たちの彼氏なんですから」


ゲームセンターでは、UFOキャッチャーで後輩たちが欲しがるぬいぐるみを取ってあげた。


「先輩、すごい!」


「さすが月人先輩!」


「かっこいい!」


三人とも大きなぬいぐるみを抱きしめて喜んでいる。


プリクラも撮った。後輩たちは容赦なく俺にくっついてきて、密着度の高い写真ばかりになった。


「先輩、これ宝物にします!」


「私も!」


「部屋に飾ります!」


カラオケにも行った。個室に入ると、後輩たちのテンションはさらに上がる。


「先輩、隣に座ってください」


「こっちにも!」


「膝枕してもいいですか?」


結局、茜が膝枕、梓と楓が両脇という配置に。歌うどころではない。


「先輩、大好きです」


茜が膝の上から俺を見上げる。


「私も大好き!」


「世界で一番好きです!」


三人から同時に告白されて、俺は赤面するしかなかった。そして、それぞれの頬にキスをすることに。


「えへへ、先輩とキスしちゃった」


「幸せ〜」


「もう死んでもいい!」


大げさな後輩たちに苦笑しながら、時計を見る。もう夕方だ。


五時、詩織との待ち合わせ。初デートで緊張しているのか、彼女はそわそわしていた。


「ごめん、待った?」


「ううん、今来たところ」


嘘だろう。頬が少し赤くなっているのは、ずっと待っていた証拠だ。


「どこか行きたいところある?」


「神宮くんと一緒ならどこでも……あ、でも」


詩織は恥ずかしそうに続ける。


「映画、見に行きたいな」


映画館では、恋愛映画を見ることになった。暗い館内で、詩織は最初遠慮がちに俺の手を握ってきた。


「いい?」


「うん」


手を握り返すと、詩織は嬉しそうに微笑んだ。


感動的なシーンで、詩織は涙を流していた。俺がハンカチを差し出すと、彼女は驚いたような顔をする。


「ありがとう……優しいね」


映画の後、近くのカフェでお茶をした。


「今日は楽しかった」


「俺も」


「あの……」


詩織は頬を赤らめながら俺を見つめる。


「キス、してもいい?」


人目を気にしながら、軽く唇を重ねた。詩織は幸せそうに目を閉じている。


「神宮くんといると、胸がドキドキする」


「詩織……」


「もっと一緒にいたいけど、時間だよね」


詩織は名残惜しそうに去っていった。


最後は葵との約束だ。幼馴染の彼女とは、行きつけのファミレスで会った。


「遅い!もう三十分も待ったよ」


「ごめん、前の約束が押しちゃって」


「はあ……相変わらずモテモテだね」


葵は呆れたような、寂しいような表情を見せる。


「でも今は私の時間でしょ?」


「もちろん」


食事をしながら、昔話に花を咲かせた。小学生の頃の思い出話で盛り上がる。


「覚えてる?あの木から落ちそうになった私を助けてくれたこと」


「ああ、葵が無茶するから」


「あの時から、ずっと月人のこと……」


葵は言いかけて口を閉じた。


「何?」


「ううん、なんでもない。ほら、食べよ」


食事の後、夜の公園を散歩した。ブランコに並んで座る。


「月人」


「ん?」


「私のこと、どう思ってる?」


真剣な眼差しで聞いてくる葵に、俺は正直に答えた。


「大切な幼馴染だよ」


「それだけ?」


葵は俺の方に体を向けた。


「私は月人のこと、ただの幼馴染だなんて思ってない」


そう言って、葵は俺にキスをした。幼馴染の柔らかい唇の感触に、心臓が高鳴る。


「好き。ずっと前から」


月明かりの下、葵の瞳が潤んでいた。


家に帰ると、もう十時を過ぎていた。


「お帰り、月人お兄ちゃん」


弓子がリビングで待っていた。


「遅かったね。みんなとのデート、楽しかった?」


「まあ、それなりに」


「そう……」


弓子は少し寂しそうな顔をした。


「弓子、明日は一日空いてるから、どこか行こうか」


「え?本当?」


弓子の顔がぱっと明るくなる。


「うん。弓子の行きたいところに」


「やった!じゃあ明日はお兄ちゃん独占だね」


弓子は嬉しそうに俺に抱きついてきた。柔らかい胸の感触にドキッとする。


「ちょ、弓子」


「いいじゃない。誰も見てないし」


そう言って、弓子は俺の頬にキスをした。


「おやすみ、お兄ちゃん」


部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。


一日で九人の女の子とデート。普通じゃない。なぜこんなにモテるのか、本当に分からない。


でも、みんなの笑顔を見ていると、悪い気はしない。むしろ、幸せを感じる。


ただ、体力的にはきつい。明日は弓子とゆっくり過ごそう。


そんなことを考えながら、俺は眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ