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神の子の日常  作者: peekbox
神宮月人Side
2/11

運命の転校生

朝の光が神社の境内を優しく照らしていた。


「月人お兄ちゃん、起きて!遅刻しちゃうよ!」


神宮弓子の声が襖越しに響いてくる。俺——神宮月人は、重い瞼をゆっくりと開けた。


「ん……もう朝か」


十六年前、この神社の境内に赤ん坊の俺は落ちていたらしい。神主である養父は「天から降ってきた」と冗談めかして言うが、実際のところは捨て子だったのだろう。それでも、この神社で大切に育ててもらった。同じ年の弓子と一緒に。


「もう!いつまで寝てるの!」


襖が勢いよく開かれ、弓子が飛び込んできた。肩まで伸びた黒髪が朝日に輝いている。制服姿の弓子は、その豊満な胸を揺らしながら俺の布団を剥ぎ取った。


「わかった、わかった。起きるよ」


「本当にもう……朝ごはん用意してあるから、早く着替えて」


弓子は頬を膨らませながら部屋を出ていく。義理の兄妹とはいえ、十六年も一緒に暮らしていれば本当の家族のようなものだ。


制服に着替えて居間に向かうと、朝食が並んでいた。味噌汁の香りが食欲をそそる。


「いただきます」


「今日は転校生が来るんだって。楽しみだね」


弓子が嬉しそうに話しかけてくる。彼女の笑顔を見ていると、なんだか心が温かくなる。


「そうなんだ。どんな人だろうな」


「月人お兄ちゃんのクラスに来るらしいよ。きっとまた……」


弓子が何か言いかけて口を閉じた。


「また?」


「ううん、なんでもない!ほら、早く食べないと」


朝食を済ませ、二人で神社を出る。長い石段を下りながら、弓子は俺の隣をぴったりとくっついて歩く。


「弓子、そんなにくっつかなくても」


「いいじゃない。誰も見てないし」


通学路に入ると、すぐに声をかけられた。


「おはよう、月人くん!」


振り返ると、クラスメイトの伊藤美樹が立っていた。学年一の美少女と言われる彼女は、長い茶髪を風になびかせながら微笑んでいる。


「おはよう、美樹」


「一緒に行ってもいい?」


「もちろん」


美樹が俺の反対側に並ぶ。左右を女の子に挟まれて歩く形になった。


「あの、月人くん。今日の放課後、時間ある?」


美樹が上目遣いで聞いてくる。


「放課後か……どうだったかな」


「大事な話があるの。屋上で待ってるから、絶対来てね」


そう言って美樹は頬を赤らめた。弓子が俺の腕をぎゅっと掴む。


学校に着くと、校門で数人の後輩たちが待っていた。


「月人先輩、おはようございます!」


「今日もかっこいいです!」


「先輩、これ、お弁当作ってきました!」


次々と声をかけられ、お弁当まで渡される。毎朝のことだが、正直困ってしまう。


「みんな、ありがとう。でも弁当は弓子が作ってくれてるから」


「そんなぁ……」


後輩たちは残念そうな顔をする。申し訳ない気持ちになるが、全部受け取るわけにもいかない。


教室に入ると、すでに騒がしかった。


「転校生、すごい美人らしいよ」


「マジで?楽しみー」


クラスメイトたちが噂話に花を咲かせている。俺が席に着くと、隣の席の幼馴染・二宮葵が話しかけてきた。


「月人、おはよ」


「おはよう、葵」


葵とは小学校からの付き合いだ。ショートカットが似合う活発な女の子で、昔から一緒に遊んでいた。


「転校生の噂、聞いた?」


「美人だって話は聞いたけど」


「ふーん。月人はそういうの興味ないもんね」


葵は少し拗ねたような表情を見せる。


担任の先生が教室に入ってきて、みんなが席に着いた。


「今日から転入生が来ることになった。入ってきなさい」


扉が開き、一人の女の子が入ってきた。


教室中がざわめく。噂通り、いや噂以上の美少女だった。艶やかな黒髪、整った顔立ち、スラリとした体型。まるでモデルのような佇まいだ。


「初めまして、佐々木詩織です。よろしくお願いします」


詩織と名乗った転校生は、優雅にお辞儀をした。


「佐々木さんの席は……そうだな、神宮の後ろにしよう」


俺の後ろの席が指定される。詩織は俺の横を通り過ぎる時、一瞬立ち止まった。


「よろしく」


俺が声をかけると、詩織は驚いたような顔をした。そして、頬を赤く染めて微笑む。


「は、はい!よろしくお願いします!」


なぜか声が上ずっていた。


一時間目の授業が始まったが、後ろから視線を感じる。振り返ると、詩織と目が合った。彼女は慌てて視線を逸らす。


休み時間になると、詩織の周りに女子が集まった。


「詩織ちゃん、どこから来たの?」


「前の学校はどんなところ?」


質問攻めにあう詩織だったが、ちらちらと俺の方を見ている。


「あの……」


詩織が俺に声をかけてきた。


「教科書、まだ全部揃ってなくて。見せてもらってもいい?」


「いいよ。はい」


俺が教科書を渡すと、詩織は嬉しそうに受け取った。手が触れた瞬間、彼女の体がビクッと震える。


「あ、ありがとう……優しいんだね」


詩織の顔が真っ赤になっていく。周りの女子たちがニヤニヤしながら見ている。


昼休み、俺は屋上でお弁当を食べていた。ここは俺の憩いの場所だ。人が少なくて落ち着ける。


「月人先輩!」


階段から後輩たちが現れた。一年生の茜、二年生の梓、そして同じく二年生の楓だ。


「先輩、一緒にお昼食べてもいいですか?」


「別に構わないけど」


「やったー!」


三人は俺の周りに座り込む。茜が俺の膝に頭を乗せてきた。


「ちょ、茜?」


「えへへ、膝枕してください」


「授業始まっちゃうよ」


「大丈夫です。まだ時間ありますから」


茜は甘えるように俺を見上げる。断れない性格の俺は、結局そのままにしておいた。


「ずるい!私も!」


梓が反対側の膝を占領する。楓は俺の背中にもたれかかってきた。


「みんな、そんなにくっつかなくても……」


「先輩は優しいから大好きです」


「私も大好き!」


「月人先輩、世界一かっこいいです!」


後輩たちの愛情表現に困惑していると、屋上の扉が開いた。


美樹が立っていた。


「月人くん……やっぱりここにいたのね」


美樹は後輩たちを見て少し眉をひそめたが、すぐに笑顔を作った。


「ちょっといい?二人で話したいことがあるの」


後輩たちが名残惜しそうに離れていく。


「また後で会いましょうね、先輩」


「うん、またね」


後輩たちが去った後、美樹は俺の正面に立った。風が彼女の髪を優しく揺らしている。


「月人くん、ずっと言いたかったことがあるの」


美樹の表情が真剣になる。


「私、月人くんのことが好き。付き合ってください」


真っ直ぐな告白だった。美樹の瞳には真剣な想いが宿っている。


「美樹……」


「返事は今じゃなくてもいい。でも、私の気持ちは本気だから」


美樹はそう言って、俺の頬に軽くキスをした。柔らかい感触が残る。


「じゃあ、また後でね」


美樹は頬を赤らめながら去っていった。


午後の授業中も、告白のことが頭から離れない。美樹は確かに可愛いし、性格もいい。でも……。


「神宮くん」


授業が終わった後、詩織が声をかけてきた。


「教科書、ありがとう。返すね」


「いや、まだ使うだろ?持ってていいよ」


「え?でも……」


「教科書が届くまで貸しとくよ。困ったときはお互い様だ」


俺がそう言うと、詩織の目に涙が浮かんだ。


「どうした?何か変なこと言った?」


「ううん、違うの。ただ……こんなに優しくされたの初めてで」


詩織は涙を拭いながら、俺をじっと見つめた。


「神宮くん、私……私、屋上に用事があるの。一緒に来てくれる?」


また屋上か。なんだか嫌な予感がする。


屋上に着くと、そこにはすでに数人の女子生徒が待っていた。三年生の先輩たちだ。華道部の部長・雅、生徒会副会長の凛、そして弓道部のエース・葉月先輩。


「月人くん、待ってたよ」


雅先輩が優雅に微笑む。


「あの、先輩方も俺に用事が?」


「ええ。大事な話があるの」


凛先輩が一歩前に出る。


「単刀直入に言うわ。私たち三人とも、あなたのことが好きなの」


「「「付き合ってください!」」」


三人同時の告白だった。


詩織が俺の袖を掴む。


「私も!私も言わせて!」


詩織は震える声で言った。


「今日、神宮くんに初めて優しくされて、胸がドキドキして止まらないの。こんな気持ち初めて。私、神宮くんのことが好きです!付き合ってください!」


屋上に集まった四人の美少女たちが、期待に満ちた眼差しで俺を見つめている。


葵も幼馴染として特別な感情を持っているようだし、弓子も最近様子がおかしい。後輩たちも明らかに好意を寄せている。


なぜこんなにモテるのか、自分でも分からない。顔は平凡だし、特別な才能があるわけでもない。


でも、みんなの想いは真剣だ。傷つけたくない。


「みんなの気持ちは嬉しい。でも、一人を選ぶなんてできない」


俺は正直に答えた。


「じゃあ……」


雅先輩が言いかけて、凛先輩が続ける。


「みんなと付き合えばいいじゃない」


「え?」


「現代では珍しくないわよ。それに、あなたを独り占めするのは無理だってみんな分かってる」


葉月先輩も頷く。


「私たちは月人くんと一緒にいられれば、それで幸せだから」


詩織も同意するように頷いた。


こうして俺は、複数の女の子と同時に付き合うことになってしまった。


帰り道、弓子と二人で歩いていると、彼女が口を開いた。


「聞いたよ。また告白されたんだって?」


「ああ……なんでみんな俺なんかを」


「月人お兄ちゃんは自分の魅力に気づいてないだけだよ」


弓子は少し寂しそうに微笑む。


「でも、私はずっとお兄ちゃんの一番近くにいるから」


夕暮れの光が、弓子の横顔を美しく照らしていた。


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