【SF小噺】学校伝説
古代文明では遠くの人と話せた、空を飛べた、山のような家があったと、嘘のような伝説が今も残っている。
中でも学校という場所が存在したと言い伝えにある。
学校とは子供たちに文字や計算を教える場所だ。
今や文字を読めたり、ましてや計算のできる者は大郷でも数人いれば良い方。
だが学校では誰もが読んだり計算ができたというのだ。
それだけでも驚きだというのに、学校には他にも様々な働きがあったという。
学校には若い男女が集まる。ゆえにラブコメといって、伴侶を見つける場所にもなっていた。
キューショックの時間となれば、学校に通う全ての者に食べ物が与えられる。学校は食べ物に溢れた楽園だったのだ。
さらに毎日がブカツといって、祭りのように楽しく舞い踊っていたらしい。
学校の言い伝えを聞いて、私は感動した。学校こそが古代文明の英知を生み育てていたに違いない。
なんて素晴らしい。この言い伝えは後世に語り継がねば。義務感を抱いた私は、活動を開始した。
農作業の合間を見て、子供たちに学校の言い伝えを語って聞かせる。
最初は二人か三人しかいなかったのが、少しずつ増えてゆく。
ならばついでにと、私が知る限りの文字や計算の仕方も教えることにした。
キューショックのように食べ物が溢れて出てくるわけではないが、持ち出しで食べ物を子供たちにも与える。
育ち盛りの子供たちなのだ。たくさん食べなければ。そのうち村の皆も協力してくれるようになり、キューショック用のメシを持ち寄ってくれるようになった。
私たちの噂を聞いて、活動は村を越えた広がりを持つようになる。
よその知恵や農法を共有し、私たちは豊かになってきた。
そんなある日、ひとりの子が言い出した。
「もしかして、学校ってこんなトコだったんじゃないの?」
なるほど。古代文明には及ばないだろうけど、確かにやっていることは似ているかもしれない。
伝説を学ぶ場所がいつの間にか、伝説の学校を蘇らせていたのだ。私たちが。
「じゃあ、コウチョ・センセのことも伝説に残さないとね」
センセとは学校で子供たちに文字や計算を教える人のこと。そしてコウチョとは、そうしたセンセの取りまとめ役だ。
気づけば私たちは、そう呼ばれるようになっていた。
だけど私は言い伝えを残すために活動してきただけ。私が伝説になるのは
「勘弁して頂戴」
と苦笑いした。