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純愛


 新天地であるエアリー0での生活は実に快適。クレーターの外壁はまさしく天然の防壁でそれだけに安全。人々も多く住んでいて活気があった。外壁の外にはさらなる外壁があって、そこでは農業や牧畜、様々な産業が盛んでエアリーと言う町は完全に自給自足が出来ていた。自警団も数が多く、これまで何度かの襲撃を防ぎ切った猛者たちでもあった。

 そんなエアリーの街を買い込んだ中古車をアスカの運転で走らせて行く。なんだかんだで持ち金は半分以下になっていた。それでも半年は暮らしていける金額が残っている。それに軍属となった事で毎月給料が振り込まれることになっていた。


「ねえ兄貴、今日は何食いたい?」


「そうだな、カレーとかいいんじゃないか?」


「OK、カレーね」


 マーケットであれこれと買い込み、俺は缶ビールや目についた酒を買う。他にもティッシュやトイレットペーパー、そう言う必要なものを買い込んで車に積み込んだ。基本的に飯はアスカが作ってくれる。俺も酒場に行かずとも家で飲んでいれば十分、あまり遅くなるとマヤが寂しがるのだ。

 そしてそのアスカとは異性であることを意識しないで居られる関係、今は戸籍上も兄妹、そうなっている。正式な形では俺の養女であるが、歳が5つしか離れていないので妹、そう言う形で通っていた。そのアスカもどちらかと言えば家にいるのが好き。こうして一緒に買い物に出たり、空いた時間は端末で様々な資料を漁ってブルーと名付けた自分の機体の調整をしたりしていた。

 そしてチームリーダーであるヴェルナーとはこちらに来てから会っていない。色々と悲劇の主人公っぽくなっているので放っておいた方が良いとの判断だ。アスカも全く気にならないようでヴェルナーの話題が出る事もなかった。


『次のニュースです。この度アラビア全域の総督として赴任したハオシュエン中将は盗賊の殲滅を公約、新総督はエリシウム平原の盗賊を壊滅させた実績を持ち、その働きが期待されています』


 テレビからはそんなニュース、しばらくの間総督となったハオシュエンは指揮系統の調整に時間がかかりそうだと言っていた。


「あのおっさんが総督閣下ねえ、ま、分け前はちゃんとくれるし良いんじゃない? こういうニュースを聞きつけりゃ賞金稼ぎだって集まってくるし。使える手駒があたしらとテンペストの連中だけ、それじゃ困るって話だよ」


「…だろうな」


 ガレージに戻ってそんな話、俺はマヤの膝の上に抱っこされた形で座り、コーヒーを啜る。キッチンではアスカが作るカレーのいい匂いが漂っていた。


 そのハオシュエンからの招集があったのは一週間ほどしてからだった。この町の中心部にある総督府、そこのホールには新たにこの町に集まってきた賞金稼ぎたちが40人ほども居た。


「みな、良く集まってくれた」


 そう言って現れたのはきらびやかな将官の軍服に身を包んだ総督ハオシュエン。その両脇にはやはり軍服を着た大尉相当官となったテンペストリーダー、リチャードと中尉相当官となった俺たちのリーダー、ヴェルナーが直立していた。俺はアスカとホールの隅で壁に寄りかかりタバコに火をつけていた。


「あのバカ、相談もなしに表舞台に立ちやがって、これだから目立ちたがりは困るっての」


「…そうだな」


 その後ハオシュエンはこのアラビア大陸の現状をスクリーンを使って皆に説明し、このエアリーの街から西南の方角にあるサンタマリア・クレーターに盗賊の拠点の一つがある事が判明したと説明した。敵の規模はおよそ50機程度、直径100m足らずの小さなクレーターだがそれだけに要塞化してしまえば守りは固い。この拠点を排除すれば近隣の町までの街道が安全となり、交易も盛んになるという。今は盗賊連中に輸送トラックが通行料を払って通してもらっている状況、ここの壊滅はこの町にとって必要不可欠であるという。


「…という訳で諸君らの初仕事は総力をもってサンタマリア・クレーターにはびこる盗賊どもを排除する事になる。中には軍用機も多数見受けられるが諸君らの健闘に期待するところ大である」


 報酬は一人一万と悪くない金額、無論戦利品は自由にしてもいいとのお達しだった。要塞化した拠点に挑むには数的不利は否めないがこれは任務性を帯びた作戦なので俺たち軍属は断れない。また、作戦に成功したあかつきには俺たちのように軍属、そうなれる可能性があるとの言葉に集まった連中は沸き立っていた。まあ、その日暮らしよりよほどいいに決まっている。出発は明後日と決まり、そこで解散となった。


「トオル殿! トオル殿ではござらぬか!」


 声をかけてきたのは眉目秀麗、涼やかという表現がぴったりの色男、長い髪を鮮やかな萌黄色の組みひもでくくり、旧日本師団のパイロットスーツを着ていた。…そう、この男は元の俺の部下、坂本シンゴ。俺の居た部隊では曹長で、俺以外ではエースの前立てを持つ唯一の男だった。


「無事で何よりでござるな、拙者もサユリのおかげでここまで生きてこられたでござるよ」


「…兄貴? このイケメン誰?」


「ああ、以前部隊が一緒だった男だ」


 そう、あの部隊には変態しかいない。一件色男のこいつも当然そうだった。


「…トオル殿? この女性は。…まさか、マヤ殿を裏切って?」


「あ、いや、そう言う訳では、コイツは訳あって俺の妹、名前はアスカだ」


「そうだよ、そう言う関係じゃないし、マヤとだって仲良く暮らしてる」


「…これは失礼を、我らは選り抜かれた日本男児として愛する機体を裏切るような真似は許されぬでござる。貴女のような可憐な女性であれば気の迷いもあるかと思い、つい、僭越でござった」


「あは、判ってんじゃない。ま、とにかくあんたが思うような関係じゃないし」


 そんな話をしていると打ち合わせを終えたヴェルナーが俺たちの所に顔を出す。


「…ほう、トオルの同類か?」


「…中尉殿、拙者は坂本シンゴを申す。戦争時にはこちらのトオル殿の部下でござった」


「…なるほどな、んじゃ機体もトオルと同じ?」


「左様でござる。我らが駆るアームズはアマテラス型しかござらぬゆえ」


 その後もヴェルナーはシンゴに色々と聞いていき、単独だと判ると俺たちのチームに勧誘した。


「…なるほど、トオル殿と一緒であれば拙者に否はござらん」


 こっちには否がたくさんあるが口を挟む機会を失い、どんどん話は進んでいく。ホバートラックのハンガーには一機分の空きがあり、住まいは俺たちのガレージ、いつの間にかそう決まっていた。アスカもイケメンが仲間になるのは歓迎、そう言っていたが相手は変態であることを彼らはまだ知らない。


「これはうまいでござるな! アスカ殿は良き妻となる事間違いなしでござる」


「へへ、そう? ま、相手が居ればね」


 ガレージに帰りつき、シンゴはサユリのカバーアーマーを外し、念入りに手入れをした後、俺と同じようにそのサユリに抱きかかえられる形で飯を食う。サユリはマヤと同型であるが生体フレームであるアマテラス型はその体型も同一ではない。マヤが戦闘に特化した女性格闘家のような体型であるのに比べ、サユリの方は少しばかり女性的なフォルム。おしとやかなイメージで胸や尻が少しばかり大きかった。


「へえ、こうしてみると結構違うもんだね」


 アスカのそんな素朴な疑問にシンゴは真面目な顔で答えていく。


「…そもそも拙者たち、地球軍日本師団第三〇二技術試験中隊は成り立ち自体が特殊でござる。アマテラス型のフレームはその設計思想の中に生体技術、つまり生き物としての兵器、そう言う技術の確立という目的があったのでござる。傷を負っても自己修復し、生体であることによる機械では決してできない挙動、そして燃料としては筋組織と補助脳を維持するための砂糖水だけ。重量もフレームだけであれば800キロと他のフレームとは比べ物にならない軽さを誇っているでござるよ」


「まあね、機動のすごさは兄貴を見てよく知ってる。通常のアームズであんな動きすれば中のパイロットはミンチになっちまうからね」


「そう、それらの性能、そしてパイロットの安全性、アリをモデルにしたからこその女性型のフォルム。全ては必要に応じてこうなったのでござるよ」


「それで?」


「…我々パイロットは選抜された日本男児、サムライとなるべく教育され、あらゆる戦いに後れを取らないよう、鍛え上げられた。そして、その心根においても彼女たちの伴侶として相応しくなるべく日々、己を磨いてきたのでござるよ」


「ま、兄貴を見てりゃそんな感じだって想像はつくけど。それで、あんたは何の目的で賞金稼ぎに?」


「…拙者の目的は無論、我が愛するサユリの事でござるよ。行方不明となった技術士官を探し出し、彼女を完全な女性、兵器ではなく一人の女、そう変えてもらう為賞金稼ぎをしてその資金と情報を集めていたでござる」


「兵器ではなく、女、ねえ」


「左様、アスカ殿から見ればいささか風変り、そう見えるであろうことは承知の上、されど拙者はサユリ以外は愛せぬでござるゆえ。兵器と言う楔から解き放ってあげたいのでござるよ」


「具体的には?」


「マヤ殿もそうでござるがその口元は装甲で覆われたマスクの形、これを何とか普通の鼻と口、そうしてあげたいでござる。導線を変えて燃料補給も口から、あとはその、女体としてのデティールを追求していきたいでござる」


 シンゴは胸を張ってそう言うが意味が解らない。鼻と口をつけてどうするの? 女体としてのデティールって何? まあ、出来れば砂糖水の補給は違うところから、それは確かだけど。


「…変態ってのも極めれば美しい話に聞こえるもんだね。あんたはうちの兄貴より先を行ってるって訳だ」


「まあ、一線を越えた、という意味ではそうでござるな。アスカ殿のような女性から見れば拙者は変態。そうであるなら拙者はその変態であることに矜持を持っているでござるよ」


 その言い草が気に入ったらしく、アスカは冷蔵庫から缶ビールを取り出し、それをシンゴに投げ渡してやっていた。

 そして翌日、アスカは俺とシンゴを連れ出し街で買い物、シンゴの機体の鎧は黒なので、それに合わせたパイロットスーツとお揃いのジャンパー、いくらかの着替えなど必要なものを買いに出かけた。

 そのパイロットスーツは黒に黄色の差し色、ジャンパーにはアルファベットでDurandalとチーム名が刺繍されていた。

 そのほかいくらかの必要な物資を買い込み、それぞれの機体の整備。アスカはシンゴの機体、サユリのAIチェックを行い、いくつかの制御プログラムを解除していた。


「いったい何を?」


「昨日のあんたの話、このサユリを兵器たらしめている制御プログラムを外してやったのさ。これで自律機動はかなりの自由が利くはずだよ? だろ? サユリ」


『はい、わらわはかなり体が自在に、シンゴ様、お慕い申し上げておりまする』


 外部発声装置を使い、サユリはそう話し出す。


『それに九条様も久しゅう、マヤ、あなたも』


『久しぶりね、懐かしい』


「おぉ、なるほど。サユリ、拙者もそなたを愛しく思っておるでござるよ」


 そんな感じであとはそれぞれの機体の整備、作戦は明日、抜かりのない様しっかりと機体の手入れをする。自律機動が出来るようになった二機はそれぞれ自分の体を拭き上げ、髪を梳かした。マヤの髪は漆黒だがサユリの髪は少し赤みがさしている。顔つきもマヤが切れ長の二重の目に長いまつ毛、どちらかと言えば意思が強そうな感じの目であるのに比べ、サユリの方は同じ切れ長でも瞼が厚く、優し気な印象だった。最後に十分な量の砂糖水を吸わせてやった。そのサユリもマヤと同じくブラとパンツのような下着型のアーマーだけをつけている。胸のサイズはサユリの方が上だった。



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― 新着の感想 ―
ニュースの話題がリアルで、サムライパートとのギャップが凄いですねw シンゴ殿は、マジもんのサムライでござるなぁ……。 (*´ω`*) 鼻と口は無いのかぁ、だとするとマスク女子な感じかな? 変態率が2倍…
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