新天地
戦いが終わり、全ての決着がついた後、俺たちを運んできた輸送ヘリが敵本拠地に舞い降りる。それまでに俺たちは本拠の内部を捜索、金目の物はしまい込んでいた。予想通り正規軍は敵が居なくなると乗り込んできて物資の運び出しを行っていく。
「…フム、敵の首領は逃したとはいえ、貴様らだけで殲滅するとはな、いささか嬉しい誤算と言ったところか。生存は六名、貴様らには約定通り褒賞も支払うし、今後は軍属としての立場も認めよう」
ヘリから降りてきた総司令、レイラ・フォッカー少佐はそう言う形でねぎらいの言葉をくれた。だが敵機の鹵獲は求められず、俺たちはそのままヘリに搭載されて街へと帰った。その間誰も口を利くものはいない。だっていろいろガメちゃっているからね。
「ったくよぉ、倒した敵機の買い取りくらいしろっての!」
「…まあ、仕方がなかろう。正規軍の中で話が分かるのはここの保安官のハオシュエンくらいのモノだ」
「でもよぉ、リチャード大尉、あのフォッカーって少佐は虫が好かねえ」
「彼女は君と同じドイツ正規軍出身だ。知り合いではないのか?」
「知らねえよ、あんな女。くそっ! 確かにドイツにはカタブツが多いがあの女は鋼鉄製だ」
「…うむ、完全に我々を捨て駒、そうする気だったからな。ある意味あそこまで割り切れるのは見事とすら言えよう」
「そりゃあよ、切り捨てる方は痛みを感じねえからな。キティ・ホークの連中なんか見てみろ、誰も生き残れなかった」
そんな話を聞きながらビールを飲んでいた。こっちはこっちで別の話。
「でさぁ、連中の穴倉からかっぱらってきた工作機器やなんやらをうっぱらえば引っ越し費用なんて余裕だよ?」
「…そうなのか?」
「その上スコアでも兄貴とあたしがトップだし、ヴェルナーはあの親玉に掛かり切り、テンペストの連中も途中リタイアだったからね」
なんだかんだでアスカの戦闘力は高い。ヘヴィ・アーマーと力のあるフレームがアスカの戦闘スタイルにマッチしている。そして武器も取り回しの良い短い片手斧。乱戦ではそのリーチの短さが有利に働いていた。剣よりも相手に密着した状態で振り切れるのだ。
テンペストの連中は修理代だけでも相当なもの、今回の稼ぎはほとんどなかったと言っていた。だがそんな彼らもしっかりと敵の本拠からは金目のものは持ち出している。
その日も早めに切り上げて機体の整備。カバーアーマーを外して泥とほこりにまみれたマヤの体を丁寧に拭いていく。疲弊した人工筋肉をケアする為、砂糖水も吸わせておいた。
「ま、こんなもんか、鎧の手入れは明日だな」
『…うん、ありがとう』
そんなマヤの声が直接頭に響き、彼女の大きな頭を撫でてやる。今回の戦いもマヤの力があってこそ。アスカに色々言われ、俺も素直になる事が出来ていた。シャワーを浴びて、いつものようにマヤに抱きかかえられた形で缶ビールを開ける。その頃には自分の機体の整備を終えたアスカもシャワーを浴びて冷たいジュースを飲んでいた。
「保安官は今日は打ち合わせ、あたしらへの褒賞は明日ってね。…ま、ヴェルナーに取っちゃ少しばかりドラマチックな話になってるけど」
「…そうだな、元の仲間は全部敵、流石に酒でも飲まなきゃやってられないだろうさ」
「ま、あたしらには関係ない話、テンペストの連中に愚痴でも言ってりゃいいんだよ。こっちに取っちゃ引っ越しの方が一大事だからね」
「…そうだな、ハオシュエンはアラビア大陸と言っていたがどんなところなのか見当もつかない」
「あたしもよくわからない。学校で習った気はするんだけどね、それも戦前の話だし」
そんな話をしながらアスカの作った夕食を食い、マヤに抱かれながら眠りについた。
そして翌朝、保安官事務所に呼び集められた俺たちは保安官であるハオシュエンにより、報酬の支払いを受けた。まずは今回の報酬である一万クレジットがそれぞれの口座に振り込まれる。そしてスコアボーナス。俺が十一機を倒し、アスカは十機、三番手は八機を倒したテンペストのリーダー、リチャード。その次が七機を倒したヴェルナーだった。残りの二人もそれぞれに六機を倒している。一機当たり百クレジットが加算され、俺は千百クレジットを受け取った。
「スコアトップの九条兄妹はそれぞれに一階級昇進、軍属とは言え手柄には変わりはないからな」
そう言われ、俺には少尉、アスカには曹長の階級章が渡される。その他のみんなもそれぞれに応じた階級章が支給された。
「…それと、フォッカー少佐のやり方は俺も気に入らん。戦利品を独占した事も含めて厳重に抗議をした。軍の方も過ちを認め、お前たちにはそれぞれ移動用のホバートラックが支給されている」
「お、マジかよ!」
「…うむ、助かるな」
「…以前に言ったように今後、お前たちは軍属、俺の指揮下となる。そして俺たちはアラビア大陸の治安回復が任務である。当面はメリディア平原のクレーター、エアリー0を拠点として行動する。ここからはホバートラックで三日ほどかかる。すぐに移転の準備に掛かれ」
「「了解」」
早速借り受けていたモーテルの契約を終了し、家の中を片付ける。とはいえ家具などは備え付けのモノだったので、持って行くのは服と整備に必要な道具、それに小物類だけ。しばらくするとヴェルナーがホバートラックを回してきた。
「へへ、中々だぜ、コイツは」
軍用の塗装が為されたそれはアームズを収容できる特殊コンテナが付いていた。左右にそれぞれ二機ずつ、最大で四機のアームズを載せる事が出来る形、それぞれにハッチが付いていて斜めに寝かせる形で収容する。それが交差する形で配置されていた。下のシャーシ部分を含めて4mの高さになっている。その二番ハッチにマヤを寝かせ、太刀などの装備品を壁のラックにかけておく。それぞれのハンガーは独立していてコンテナ内部から入れる形だった。
そして運転席の他にキャビンが設けられていてそこの壁には二段ベッドが三つ配置されている。シャワーやトイレ、それにキッチンもあった。とりあえず私物をキャビンのロッカーに詰め込み、整備に必要な機材をそれぞれのハンガーにいれていく。流石に自家用車は持っていけないので町で売り払い、その金でキャビンに置くソファやテーブル。キッチンの道具、タオル類や布団、その他小物などを買い込んだ。
『コマンド・ビークルより各車両、準備はいいか? 今送った経路で進んでいく。自動運転にしておけば問題なく到着できるはずだ。テンペストは前を、デュランダルは後ろを走れ、接敵した場合は任意に反撃を許可する』
『『了解』』
その日の夕方、保安官ハオシュエンの乗り込んだホバートラックを挟む形で俺たちは進んでいく。自動運転とセンサー類を稼働し、俺たちはキャビンで過ごしながら住み慣れた街を後にする。
「ま、コイツがあればいちいち街に立ち寄らずとも済むって話さ。三日もすれば新天地ってな」
「それはいいけどさ、向こうは荒れてるって話でしょ?」
「そうじゃなきゃ行く意味がねえからな。…それにシュペルレの野郎が逃げるとすりゃそこだ」
「ああ、あんたの元の司令だっけ? 凄腕だったもんね、あいつ」
「…あのくそ野郎、俺の過去に泥を塗りつけやがった、絶対に俺が仕留めてやる!」
ヴァルナ―はアスカにそう言いながらタバコに火をつけた。それを吸い終わると警戒に当たるからと一人、ハンガーへと移動した。
「あいつ、イライラして、空気悪いったらありゃしないよ。兄貴、コーヒー飲む?」
「…ああ、頼む」
「けど実際の話さ、ヴェルナーじゃあの親玉には勝てないよね。戦い方が一緒なら腕のいい方が勝つに決まってるもん」
「…まあな」
「兄貴やあたし、戦い方の違う奴なら勝ち目はあるかもだけどね、あいつ、頑なに剣に拘ってるし。今のスタイルなら斧やハンマーの方があってるのに」
「…騎士のプライドって奴かもな」
「兄貴はないの? そういうの」
「…勝つためなら手段は選ばんさ。ただ、剣というのは使いこなすのに修練が必要だ。そのこれまでの努力が剣にこだわりを持つ、そう言うのも判らなくはない」
「そっかぁ、あたしはそもそも剣なんか使えないし。いくらか振ってはみたけどね」
「…まあ、あいつがそのこだわりで死ぬならそこまで、口を挟むような事じゃないさ」
「兄貴はそう言うとこ、ホントドライだよね」
「戦争に出ればこうなる。必要以上に感情を持てばいざという時に判断を誤るからな。見捨てれば心が痛むし、見捨てられれば恨みにも思うだろ?」
「だから他人とは親しくならない?」
「…そうかもな」
「いひひ、その割にはあたしには素直じゃん?」
「…そんなことないし」
「ま、いいさ。それより今の内に寝ておかないと、あたしもハンガーで。ここで寝てヴェルナーに襲われたらたまんないし」
「はは、そうか」
そんな話をしながら俺もハンガーのマヤの所に。そのコクピットに入って眠りについた。
翌日からは警戒態勢、アラビア大陸に侵入したのだ。各地にみられるクレーターはそのまま湖となっているところが多かった。まだまだ手付かずな場所も多く、赤茶けた地面が広がっている。そんな中、ヴェルナーとアスカは機体に搭乗、ホバートラックの脇を並走していた。俺の機体、マヤはこうした地形の起伏のない場所では有利さがないし、ローラーダッシュがつかえないので今回は待機。俺は万一に備えてホバートラックの運転席に座っていた。とはいえ人がいない所には盗賊も居ない、これと言ったこともなく残りの二日を走り、目的地のエアリー0に到着した。このエアリー0は火星の子午線、つまり経度0度を指す場所で、ここより東が東経、ここより西が西経となる。そのエアリー0は直径50km程の小さなクレーターで、クレーター外縁の隆起をそのまま街の防壁として利用している。エアリー0はさらに大きなクレーター、エアリーの内部にあって外側のクレーター内部は大規模な農場となっていた。
早速保安官事務所でハオシュエンが引継ぎを済ませ、正式にこの一帯の軍政官として着任、その権限は広大で、いわばこのあたりの領主、そう言っても過言ではなかった。ちなみにハオシュエンの軍における階級は中将でこれよりは大公、そう呼ばれる事になる。そして俺たちはこの近くにそこそこ広いガレージを借りて、そこを家にする。ヴェルナーは前と同じガレージ付きのモーテルを借りたようだ。ホバートラックも俺とアスカが整備をし、こちらで預かることに。それを収めるだけの広いガレージを借りていた。
「うーん、兄貴、どうしよっか?」
「…そうだな、広いのはいいが寒々しくもあるな」
借り受けたところは元は倉庫、出入り口も広く天井も高いがその分寒々しくもあり、エアコンを取り付けるにしろ全てを暖めるというのは厳しいものがある。あれこれと相談し、とりあえず広い内部を分割することに。二人で機体に乗り込み資材を買い込んで早速工事に取り掛かる。パネルで壁を設置し、ホバートラックや今後購入予定の車両を置く場所と居住区とを分割する。居住区の方はマヤの巨体でも問題なく動けるスペースを取っている。アームズと言うのはこうした工事にも有用で、細かい作業もできるので順調に改装は進んでいく。居住区には床を張り、キッチンユニットを設置、風呂はシャワーだけでなくゆっくり浸かれる大きさの湯舟を備えたバスユニットを購入し、設置した。その他にも洗濯機や冷蔵庫などを買い求め、それも設置し、床には絨毯を敷き、その上にマヤが横になれる大きなクッションマットを置いている。俺たちのスペースとしてはダイニングセットとソファーセット、後は壁掛け式のスクリーン、これはテレビや映像ソフトを映し出すためのもの。そしてエアコンも設置した。
「まあ、こんなものかな?」
「そうだな、不便さを感じればまた買い足せばいい」
最後に普段の足として使う車両を購入した。




