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任務完了


 整備と様々な改装を終えてブラッドベリーの街を出立したのは二日後。向かうコロンビア宇宙港は遥かな昔、空中で爆発したスペースシャトルの名、コロンビアの名を冠している。その爆発事故のあと、火星に到着した探査機のスピリットにコロンビアの乗員の名を記したプレートが描かれており、その着陸地点がコロンビア・メモリアル・ステーションと名付けられたことに由来する。ブラッドベリーの街からコロンビア宇宙港までは丸一日、夕方までには到着できそうだ。


『どうだ、調子は?』


『うん、機動性は全然上だよ、このヘヴィ・アーマーとローラーダッシュの組み合わせは相性がいいみたい』


『そうだな、いくらか機動性は落ちるがそこまでひどいもんじゃない、得られる防御力を考えりゃこの装甲一択だな』


 ヴェルナーとアスカ、二人の機体は砂埃を舞い上げながらトラックの両脇をローラーダッシュで疾走する。それぞれ片手にはアサルトライフルを、もう片方の手にはシールドを持ち、ヴェルナーは腰に剣、アスカは背中に斧を背負っている。俺はトラックの上、機体には膝立ちでポジションを取らせ、対物ライフルを構えていた。

 二人はその間に改装した機体の習熟度を上げていく。今までと勝手が違う、というのはそれがわずかな差であっても気になるもの。そう言う余計な懸念が死につながるのが戦場だ。


「アスカ、スラローム幅が小さい、もっと大きく弧を描け」


『了解』


「ヴェルナーの機体は今までより体感でコンマ三秒ほど遅れている。それに合わせた挙動を」


『ああ、判ってる』


 上から見下ろす格好の俺はそう言って二人に注意を促していた。俺の機体は二足歩行、瞬間的なダッシュならばともかく巡航速度ではローラーダッシュの使える二人の機体に及ばない。天候は晴れ、レーダーも正確に作動している。この先は砂地、待ち伏せて奇襲するには不向きな場所だ。それにコロンビア宇宙港はこのあたりでは経済の中心地、他の星から運び込まれた物資や、この星の物資の流通の中心地で、大都市でもある。それだけに警備も硬く、自警団ではなく、統合軍が駐留していた。

 コロンビア宇宙港の東に見える7つの丘は「コロンビア・ヒルズ」と呼ばれ、上流階級の住まう場所としてあこがれの地になっている。何事もなくコロンビアに到着し、そこでトラックの運転手、シュガー・レイと別れた。俺たちはアームズをハンガーに預け、任務の達成祝いの為、街に繰り出した。


『よぉ、お前らか、荷物の受け取り報告がたった今届いた。任務は完了、ヴェルナーと九条にはそれぞれ五千、アスカって言ったか? お嬢ちゃんは途中参加、今回は無しだ。それとブラッドベリーの街から詳細な報告が届いている。九乗が五機撃墜、アスカは三機、ヴェルナーは二機、合計で十機、だが、こちらはチームでの戦果、あわせて一万振り込むから取り分はそっちで決めろ』


 その前のアスカたちとの遭遇戦は賞金首ではなかったのでスコアには反映されなかった。ともかく保安官のハオシュエンからは金が振り込まれ、俺とヴェルナーはそれぞれ八千、アスカには四千クレジット、そう言う配分となった。

 金を得た俺たちはとりあえず酒場へと繰り出す。機体の買取金額の分もまだ一万残っている。金があると心も豊かになるもの、ビールを頼んで乾杯した。アスカはコーラを頼み、ピザやポテト、そう言うつまみも頼んだ。


「へっ、色々あったが実入りはまずまずってとこだな」


「…まあな、金があるというのは嬉しいものだ」


「いひひ、あたしもこの金で色々揃えなきゃだし」


 そんな感じでチームデュランダルの初仕事は上々の結果となった。その夜はしたたかに酔っぱらい、宿を取る。だが二部屋しか空いていなかったので俺はヴェルナーの部屋でシャワーを借りて、その後機体に戻ってそのコクピットに潜り込む。なんだかんだでこの場所が一番リラックスできた。

 翌朝、三人で飯を食い、コロンビアの街を出発する。とはいえ帰りは徒歩、二人の機体はローラーダッシュが付いているが俺の機体は歩いて行かねばならない。焦る旅でもないので二人は俺の機体の速度に合わせてくれた。


『汎用性から言えば俺たちの機体の方が上だが、トオルの機体の機動力は必要だからな』


『まあね、スコア的にも一番だし』


 ヴェルナーとアスカはあれこれと話ながら機体を歩かせていた。砂地を抜け、赤い砂岩が隆起する風景へと変わったところで今夜は野営。焚火を焚いてそこで買い込んだレトルトの食品を温めて食った。


「流石に夜は寒いな」


「ブラッドベリーに着いたらさ、お揃いのジャンパー作ろうよ。パイロットスーツじゃ体の線がもろに出て恥ずかしいし」


「よく言うぜ、ぺったんこな胸してよ」


「はぁ? そんなの今だけだから! 一年後にはボインボインになってるから!」


「…希望的観測という奴だな」


「トオル、あんたまで!」


 ともかく飯を食い、交代で警戒に当たることに。俺は機体に乗り込んで崖を登ってその上に出た。


『ああいう事は俺らの機体じゃ出来ねえからな』


『垂直な崖を駆け上がるとか普通に無理だから』


 崖の上に出るとそこからは遠くコロンビアの街明かりが見えた。顔の目の前にあるポリマーパックをずらすとそこにはポインッとした二つの柔らかな物体、それは機体の左右の胸の貯水タンクに直結していて乳首のような吸い口を吸うと水が出た。なぜそうなっているのかって? …そんなもん、俺が聞きたい!

 そして完全にAIを乗っ取っている機体の脳、マヤの意思はその柔らかな二つの物体をぎゅうっと俺に押し付ける。そこに顔を埋めた格好で眠りについた。


 翌日、通りかかったコンテナを積んだトレーラーにヴァルナ―が交渉し、警護をする代わりにコンテナの上に乗せてもらう事に。これで一気に速度は上がり、俺たちはその日の昼過ぎにブラッドベリーの街に到着する。早速宿を取りシャワーを浴びる。それが済んだところで夕べアスカがスケッチしていたジャンパーのデザインを基に仕立て屋に。発注を済ませて昼飯を食った。


「みんなで行動するならさ、やっぱりキャリアカーは必要だよ」


「ばーか、いくらすると思ってんだ、中古でも5万クレジットは下らねえんだぞ?」


「そう考えるとシュガーレイのおっさんのホバートラックは良かったよね、キャビンに色々ついててさ」


「あんなもん、10万クレジットはするだろうさ、今の俺らには高嶺の花ってな」


「だよねえ。でもさ、ローラーダッシュが付いてても一日走るのはきついよ」


「…まあな、だがよ、戦闘になってやられちまったら大損だろ? だから盗賊連中だってそんなもんは使わねえ」


 翌日、出来上がったジャンパーを着て、ブラッドベリーから北へ向かう輸送車両を探し、オクタヴィアの町まで乗せてもらう。そこからは徒歩で俺たちの町、ライトブラザーズ・フィールドへと戻った。ここには借り受けているガレージ付きのモーテルがあり、そこに機体を収めて整備を始める。何故かアスカは俺の家についてきた。


「しょうがないじゃん、この町に宿はないし、あんたはあたしの保護者なんだから」


「…仕方ないな、そっちの部屋は自由に使え。俺はガレージで寝る」


「いひひ、ま、彼女が要るもんね」


「そうじゃないと言ってるだろ!」


「はいはい、あんたは変態じゃないんだよね。判ったからさ。あたし、色々買い込んでくるし飯も作ってあげるよ。そう言う面はあたしがするからさ」


 そう言ってアスカは外に停めて置いた俺の車で買い物に出かけた。


 ともかくこちらは整備、鎧を外し、その隙間に入り込んだ砂やほこりを丁寧に拭っていく。鎧は超硬チタンセラミックス製で銃弾などはまず通らない。更に素体フレーム、マヤの外骨格も同じ程度の同様の硬さを持っている。だが胴体部分は柔らかな人工皮膚に変えられているのでここが弱点でもあった。…一番でかい胴体が弱点って一体。

 ともかく鎧を外し、今度は素体を丁寧に拭っていく。柔らかな胸に触れると一瞬変な気になるが、コイツはあくまでフレーム、機体なのだと意志を強く持つ。胴体と手足をきれいに拭い、その後は顔、ここはタオルを変えて丁寧に拭っていく。それが済むと光ファイバー製の髪をきれいに洗い、ブラッシング。最後に砂糖水をいれたペットボトルを股の間に差し込んだ。今回は激しい戦闘があったので生体組織部分へのケアが必要だと判断した。

 ふうっと一息ついて椅子に座りタバコを咥え火をつけた。あとはコクピット内部の手入れ。アスカが帰ってくると色々マズい感じなので砂糖水の吸い上げを確認するとブラとショーツ型の装甲はとりあえず装着しておいた。


「たっだいまぁ! 腹減ったろ? すぐに飯にすっからさ、って、えっ?」


「なんだよ、」


「…これがあんたの機体の中身? 完全に女だし!」


「うるせえな、文句は開発者に言えよ!」


「このブラの中どうなってんの?」


「やめろ、バカ!」


「うわ、マジもんじゃん! 乳首までついてる」


「そ、そこはね、稼働に必要な水を蓄えておくタンクなんだよ? 非常時にはほら、俺が飲めるようにって」


「え、その為の乳首? うっわ、最低」


「違うし! そこから飲んだ事ねーし!」


「まさかこっちも?」


「ちょっと、もういいだろ?」


 だが、抵抗むなしくパンツの方もはがされてしまう。


「…あんたさ、これはちょっと」


「だから、俺が作ったんじゃねえし!」


「これは何のためについてんのさ」


「それはね、その、この機体は生体ユニットと言うか、栄養分として砂糖水が必要で、それをそこから、何でそこの位置でそんな形してんのかは俺が聞きてえよ!」


「うっわ、マジもんの変態だし!」


 そう言うアスカの襟首を機体であるマヤの腕がぎゅっとつかんで持ち上げた。


「え、勝手に動くの、これ?」


「とおる わるくいう ゆるさない」


「えっ? しゃべった?」


「とおる わたしの わたさない」


「あ、えっと、あたしはさ、そんなんじゃないから、全く違うから、とりあえず降ろしてよ、悪く行った事は謝るからさ」


「ほんとう?」


「本当だって、あたしはそう、えーと、コイツの妹だから」


「勝手に妹になるんじゃねえよ!」


「あんたはあたしの保護者だろ、それともパパが良い?」


「ふっざけんな、俺はまだ20歳なんだよ!」


「だから妹でいいだろ! あんたはあたしの保護者なんだし」


 そのやり取りで納得したらしくマヤはつまみあげていたアスカを降ろした。


「…ねえ、どうなってんの? 燃料が砂糖水? 生体ユニットって何? あたしのお父さんは工学者、大概の事は知ってるけど初耳だよ?」


「その、軍事機密的な? っていうか俺も良く知らないし!」


 そう言ってアスカに知る限りの事を伝えると、アスカはなるほどねっと何故か納得した。


「つまりこの機体は機械って言うよりも生き物って訳か。んで、あんたはだからこの機体を大事にしてた。で、この子はあんたに惚れてるって訳」


「そう言う関係じゃねえだろ、その、世話の仕方はみっちり習ったし、」


「そう言う言い方やめたら? 前も言ったけどさ、あんたが軍のエースだったのは昔の話、今は軍人じゃないだろ? なのに頭が固いんだよ、このマヤはあんたが好きであんたの為にずっと頑張ってきたんだよ? マヤが居なけりゃあんたはエースにだってなれやしなかった。んでこの子は機械じゃなくて女なんだよ? それをいつまでもモノ扱いして」


「お前だって変態って言ってただろ!」


「そりゃ知らなかったからだよ? 知ってりゃその変態にすらなれなかったあんたの器量の無さが腹立たしくもあるさ」


「はぁ?」


「このマヤはあんたが好き、あんたの為に頑張った、だったらあんたも答えてやりなよ」


「なにを?」


「…ホント鈍感、だからあんたは童貞なの!」


「童貞じゃねえよ!」


「嘘だね、あんたなんか女にモテるわけないじゃん、女ごころが判んないくせに」


「どうしろっていうんだよ!」


「ちゃんとさ、世話とかじゃなくて、愛情もって接してやりなよ、労わって、感謝して。マヤはちゃんと意思があってああして話だってできるんだよ? AIを乗っ取るほど想いだって強いんだから」


「…そうだけど」


 自称工学者の娘であるアスカはその後、俺の機体を色々とチェックし始めた。

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― 新着の感想 ―
なるほど。生物で女性だったんですね。 これはもう、結婚フラグが立ったのでは?
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