デュランダル
シャワーを終えた俺は先に寝るからと、キャビンを出て機体のコクピットに。適度な圧力で包まれるこの感じはすごく落ち着く。
『どうしたの げんきない しんぱい』
そんな声が脳裏に直接響く。
「何でもない、そう言えばお前、他の機体と話したりできるの?」
『すこし みんないない さみしい』
「そっか。散り散りになっちゃったからな。でも俺が居るだろ?」
『とおる すき だっこしてあげる』
そう言って愛機のマヤはコクピットの中の圧力をほんの少し強めた。その時、
『におい てき』
「えっ?」
すぐに目を覚ましヘッドマウントディスプレイに映し出される映像を確認する。このあたりの地形図にマヤが感じた匂い、それが点で表示される。それによれば町の二か所の入り口、そこを狙って二手から敵が迫っていた。
「ヴェルナー、聞こえるか、敵の襲撃だ。北と南、二手からやってきてる。俺は北に向かう、お前は南を」
『マジか、判ったすぐ行く!』
『あたしにも戦わせてよ!』
『ならお前はトオルの援護を』
『判った、北だね』
そんな通信を聞きながら俺は既に機体のマヤを走らせていた。雨はまだ降り続き、レーダーはほとんど意味をなさない。この町は先日襲撃にあっている。それもあって自警団を増強していた。ガシャガシャとぬかるんだ地面を走り、外部発声装置で門番をしていた自警団に警告する。
「北と南、両方から襲撃が来る! 急いで対応を!」
『判った、すぐに連絡する』
数秒後に襲撃を知らせるサイレンが町中に響き、それと同時にナパーム弾が着弾、街を囲む外壁に火をつけた。
「来たぞ!」
そう言って俺は対物ライフルを構えた。確認できる敵機は5機、ヴェルナーの機体のようにローラーダッシュで地面を滑るように移動していた。その一機の足を狙い発砲、その足が吹き飛び機体がすっ転がった。
『ごめん、遅れたね』
「アスカ、お前はここを守れ、一機も通すな」
『了解、残り四機、任せといて』
こちら側も自警団の三機と合わせて五機になり数の上では対等、だが既に自警団のうち、二機がやられていた。
「コイツを使え」
そう言ってアスカの機体に対物ライフルを投げ渡し、俺はアサルトライフルを構え突撃する。こいつらドイツ製の機体特性は判っている。速力に優れ装甲も厚いが小回りが利かない。まして今はぬかるみ、スラロームも大きくなりがちだ。敵機からの銃撃を転がって避け、そのままこちらも銃弾を撃ち放つ。胴体部分は当たっても弾かれてしまう、だが足なら? ダダダっと三点バーストの銃弾が着弾する。ダメだ、すべて弾かれる。その後牽制射を撃ちながら身を起こして転がるように立ち上がる。走りながらアサルトライフルを後ろ腰にセット、代わりに太刀を引き抜いた。
『一機はこっちで始末したよ、もう一機は追いつかない!』
「了解した」
合わせて二機を撃墜、残りは三機、そのうち一機は自警団とやり合っていた。こちらに向かうのは二機。迫る一機は剣を抜き、全速力で襲い掛かる。その斬撃をかわし、迫る二機目が剣を振り上げたところですれ違いざまに胴を抜く。向こうの速力もあって、スパンっと刃筋が通り、その機体を両断した。そしてターンを決めて再びこちらに迫る一機の斬撃をかわす。すっと脇に避け、その背中に切りつけた。だが相手の速度もあって浅い。再びターンを決めてこちらに向かってきた。
しゅんっとすれ違う刹那に地に転がり足を薙ぐ。スパンっと片足が両断されその機体はすっ転がった。それをそのまま放置し、自警団を倒しアスカの機体と対峙する一機に向かって走った。敵機は距離を取り、動きの悪いアスカの機体にアサルトライフルを撃ち放つ。だがアスカの機体の装甲を撃ち抜けるはずもなく膠着していた。俺は太刀を鞘に納め、その敵機の背後に銃弾を撃ち放つ。敵機がこちらに振り向いた時、一気に距離を詰めたアスカの機体が質量のある斧を振り下ろした。バキンっと音がして、その胴体部分の半分まで斧が食いこむ。敵機はそのままずるんっと崩れ落ちた。
「いそげ、ヴェルナーがやばい」
『ああ、そうだね』
ともかく走り、南側に。街を駆け抜けた時にはすでに自警団の機体はヤラレ、敵機は三機健在だった。ヴェルナーはその三機を相手に苦戦していた。
『はぁ、はぁ、遅いじゃねえかバカ野郎!』
「すまない、意外と手こずった」
『あたしが前に出るよ!』
そう言ってアスカの機体が前にすすむ、その際に俺に対物ライフルを手渡し、俺もアサルトライフルをアスカに渡した。
『俺とアスカで敵を引き付ける、お前はそいつで狙撃しろ』
「了解した」
俺は周囲を見回し、近くのビルを垂直に駆け上る。この機体は足が爪になっていて垂直面を駆け上がる事も出来た。そして屋上に出て、そこでポジションを取る。
まずは一機、からかうようにアスカの機体に銃弾を撃ち込んでいた敵機が足を失ってひっくり返る。そこをアスカの斧で止めを刺された。残りの二機はヴェルナーと機動戦、同型フレームなので弧を描くように地表を滑っていた。
その一機にアスカが射撃を加え、振り向いたところで引き金を引く、弾は胴体部分に当たり、敵機は吹き飛んだ。最後の一機は中々の手練れ、エースであったヴェルナー相手にやや押し気味だった。拡大してみればその機体の肩にはヴェルナーと同じ鉄十字が描かれていた。
『てめえギュンター! なんでてめえが!』
『…ヴェルナーか、腕が落ちたんじゃないか?』
『うるせえ! なんで軍団副司令のあんたが盗賊団なんぞに!』
『おいおい、俺たちは傭兵だぞ? 命を張るのは金の為、格下相手の素敵なお仕事、それは盗賊だろうが賞金稼ぎだろうが変わらねえ。だったらより金になる方を選ぶべきだろ?』
『耳がクサルぜ!』
『…てめえだって金が欲しくて正規軍から転向したくせによく言うぜ、くそなのはお互い様ってな!』
オープン回線でそんな会話をしながら剣をぶつけ合う。だがヴェルナーは先ほど鹵獲した盾を持っていた。
『くそが、盾に隠れてんじゃねえよ!』
そう言って絡み合うところに素早くアスカが接近、敵機を後ろから羽交い絞めにした。
『へへ、盛り上がってるとこ悪いけど、てめえはこれで終わりだよ。おとなしく投降しな』
そんなアスカの勧告に敵機は武器を手放し、膝をついて投降した。
そして翌朝、戦後処理は終わり、ギュンターと言うヴェルナーの元上官を始めとした生き残りは洗いざらいを吐かされたあと、街の広場で縛り首。
『はっ、ヴェルナー、よく見ておけ、俺の姿は未来のお前だ」
そう言い残し、足場を外され、ぎゅっと縄に首を絞められ息絶えた。
「…くそ野郎が」
戦利品は街と山分け、こちらにはギュンターの乗っていた機体と何機かの破損した機体が取り分となった。ギュンターの機体だけ確保し、他は街に引き取ってもらう。その額は一人2万クレジットとまずますの額、そのギュンターのフレームはアスカが乗る事になり、整備工場で生体認証を書き換えてもらう。軍用品は基本的に決められたパイロットしか使えない。鹵獲機をその場で使われる事を防ぐためだ。生体認証の書き換えにはそれなりの設備が整った工場が必要で、このブラッドベリ―の町にはそれがあった。
『よぉ、お前ら。話はブラッドベリーの役人から聞いてる。戦闘ログも確認した。街を襲った連中は元地球軍の生き残り、ヴェルナー、お前の上官だったそうだな』
「…ああ、そうだ」
通信の相手は保安官のハオシュエン。色々あって出発が一日伸びるのでその許可を貰う為、連絡したのだ。結果として戦利品は俺たちのモノ、撃墜スコアに応じてボーナスも出る事に、更にアスカは賞金稼ぎ、そう認められ俺が保証人となりチームの一員となった。遅延に関しても二日の余裕を貰う事が出来た。
「へへ、助かったぜ、ハオシュエンのくそ親父は納期にうるせえからな」
そう言ってホバートラックの運転手を務めるシュガー・レイと名乗る黒人は白い歯を見せて笑った。そうなるとともかくは機体の整備、泥濘の中を転がったりして俺の機体は泥だらけ。ガレージを一つ借りてそこでアスカに手伝わせ、高圧水洗浄を行った。隣ではヴェルナーがあれほど自慢げにつけていた鉄十字の紋章を黙々と肩から削り取っていた。
「ああ、背中側も頼む」
「あんたさ、あんな起動してよく平気だね。普通なら中でミンチになっちまうとこだよ?」
「俺の機体は機動特化だからな。瞬発力と機動性が売りだ」
「アームズに乗り込んで地面を転がるなんて初めて見たよ。…それはともかく、」
「ああ、お前のフレームが手に入って何よりだ。今のフレームはあまりに非力だからな」
「…もう、そうじゃなくて! ヴェルナーの奴、様子がヘンだよ?」
「まあ、元の上官と戦ったんだ、色々思うところが有るのだろうさ。いずれにしても奴が折り合いをつける事だ。俺たちにできる事はない。変に立ち入っても奴が困るだろうさ」
「でもさ、完全に立ち入ってほしそうな顔してるよ?」
「…気のせいだ、男にはみな、立ち入ってほしくない部分がある」
「…あんたも?」
「…まあな」
そう、俺には立ち入ってほしくない部分があった。それはかつての戦友たち。立派なサムライだと思っていたがよくよく考えればあいつらは自分の機体に欲情する変態の集まりだった。信じたくはなかったが、思い返せば該当する出来事が多すぎた。そんな部隊の一員であったことは触れられたくない事実だった。
「お父さんがさ、兵隊ってのは人殺しが仕事、いろんな悲しみを背負ってるって言ってた。…すぐにとは言わないけど、いつか、離してくれると嬉しいよ」
「…ああ、」と答えたがそんな日は永遠にこない。だって悲しみの種類が違うもの。ヴェルナーの悩みは判る。元の仲間が、信頼していた上官が盗賊に、確かに悩ましい事だろう。…だが戦友たちがみな変態、しかも機体に欲を覚えるという中々の上級者だった俺の悲しみに比べれば常識的だ。
「…なあ、お前ら、俺の姿見て何とも思わねえ訳? 俺、全身で悲しみを訴えてるよね、普通はさ、なんか声かけんだろ? 大丈夫? とか、」
「いや、立ち入った事はしたくないし、」
「そうじゃねえだろ! 俺らは仲間、ファミリーだろ? こうさ、苦しんでるときにさ、俺も慰めの言葉ってのが欲しいわけよ。そりゃ「お前らには関係ねえ」とかカッコつけて言うかもだけど、そこをさ、ぐっと踏み込んでくれるだろ? 普通!」
「ほら、あたしの言った通りだろ? んであんたはろくでなしの上官が吊るされたのがそんなにショックだったって訳?」
「…俺たちコンドル軍団はな、名誉ある傭兵団だったんだよ。戦地での強奪その他は一切禁止、そりゃ正規軍並みの厳しさでやってきてた。それがあのくそ野郎が、奴は副司令、生き残っていた仲間が居たとしても全て敵、そう言う可能性だってあるんだ。俺がこの紋章をどれだけ誇りに思ってたか知ってんだろ?」
「うん、昨夜延々と聞かされたし、マジうぜえって思ってた」
「おまえなぁ!」
「そう言うさ、過去の栄光に縋ってるからダメなんだろ? あたしらがチームでファミリー、そう言うならさ、昔の事に拘り持ってんじゃねえよ。ったく、いつまでも軍の支給のパイロットスーツ着やがって」
「いや、そんなつもりは、」
「あるね、あんたらはさ、戦時のエースだったかもしれないけど、今回だってスコアはあたしとそう変わらない。もうあんたらの考えは古臭いんだよ」
「…それは、その」
「だからさ、心機一転、そんなカビの生えた部隊章なんかとっとと削っちまって、新しい、あたしらだけのチームの紋章を拵えればいいじゃん。パイロットスーツだってお揃い、そうすりゃ仲間でファミリー、そう言う実感だってわいてくるだろ?」
そんな話になって俺たちはお揃いのパイロットスーツを新調することに。そこから色々話が弾み、どうせなら機体の色もやり替えようという事になる。だが俺の機体の鎧は名誉の証、日本師団の研究施設が特別に誂えた一品ものである。
「まあ、トオルの機体は設計思想も役割も違うから、このままでいいんじゃない? あたしとヴェルナーの機体は同じものだろ? あんたの機体もあたしのヘヴィアーマーをつけといたら?」
「まあ、その方が有用なのは判るが、フォルムがな」
「ヘッドパーツだけそのままにしとけばいいだろ?」
そんな話になって拾ってきたヘヴィアーマーと元々アスカの機体が装着していたアーマーがガレージに持ち込まれた。生体認証の変更を終えたアスカのフレームも搬入されていた。
二人の機体、Bf109F型はドイツでは最も成功した汎用機。扱いやすくパワーと機動性のバランスが絶妙でしかもローラーダッシュによる高速機動が可能。ハッチの中を覗いてみるとコックピットもそれなりのスペースがあり居住性もまずます。外観的にもやや無骨さはあるもののバランスの取れたプロポーション。ただローラーダッシュの安定性を高めるためかふくらはぎから足首は太く、頑丈に作られていた。そこに二人はヘヴィアーマーを装着、がっしりとしたフォルムに変わって行く。
そして鹵獲したヴェルナーの上官の機体のヘッドパーツは騎士の兜の側頭部から一対の水牛の角のような飾りがついていた。それをリーダーであるヴェルナーに譲り、アスカはヴェルナーの機体が装備していた角無しの騎士兜を装着する。
「思ったより悪くねえな」
「でしょ? 後はカラーリングを施せば見栄えもするって」
結局ヴェルナーは赤に黒の差し色、アスカは青に銀の差し色を選びそれぞれ業者を呼んで塗装を依頼する。そして俺たちの部隊章と言うかチームのシンボルはアスカがスケッチした剣に翼のデザイン。そのエンブレムを機体の右肩と左胸にペイントしていく。俺の機体は戦国武者風。左の袖と呼ばれる肩のアーマーと南蛮鎧と呼ばれる騎士風の胸甲の左胸にそのペイントが施された。
そして形は同じだがそれぞれの機体のカラーと同じパイロットスーツを注文する。ヴェルナーは赤と黒、アスカは青と白、俺は黒と白のカラーリング、宇宙空間でも行動可能なように同じ配色のヘルメットも購入する。これらの事でそれぞれ一万クレジットを支払う事になった。
「剣に翼の紋章か、それなら相応しいチーム名にしねえとな」
そう言ってヴェルナーはフランスの伝承だが、と前置きし、不滅の剣であるデュランダルをチーム名とした。




