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サムライ


 気絶した少女は捕虜として拘束し、トラックのキャビンに乗せておく。彼女の機体は破損も少ないので鹵獲し、コンテナの上でロープで固定する。他の二体はそのアーマだけを剥ぎ取って素体であるフレームは見つからないよう谷間に落とした。ヴェルナーは今の戦闘で思うところが有ったらしく、敵機の使用していた盾を装備していた。


『全く、戦争よりもヤバい思いをするとはな』


「ああ、だが理にかなった戦略だ。銃が規制されているならそれ以外の勝ち方を、このケースが増えてくれば俺たちも厳しくなるかもな」


『冗談じゃねえぜ、格下の民間機相手だからこその賞金稼ぎだろ? こんな連中がそこらにうようよしてちゃ割が合わねえ』


「…そうだな、だが別の勝ち方があるはずだ。少なくとも機動性においてはこちらが優位、格闘に持ち込めば勝ち目はあるさ」


 そんな話をしながら周囲の警戒を。ホバートラックは俺たちを乗せて進んでいた。雨は降り続けいつ敵襲を受けるかわからない状況では流石に休憩などと悠長な事は言ってられず、ノンストップで進み、夕方にはブラッドベリーの街に着く。俺たちは機体を出てトラックのキャビンに移動する、


「ふう、たまんねえ、雨が止む気配はねえし、先にシャワー、使わせてもらうぜ?」


「ああ、」


 ヴェルナーはシャワーに、俺はコーヒーを飲みながらタバコに火をつけた。


「んっ! んん~~っ!」


 捕虜とした少女があまりにもじたばたするので何かあるのかと口枷を取ってやる。


「外せー! 拘束を解け!」


「なぜだ? お前は捕虜なんだぞ?」


「そう言う問題じゃねえんだよ! 漏れちまうから! トイレ!」


「ああ、そう言う事か」


 念のために銃を抜き、それを押し当てながら拘束を解いてやる。


「変な動きはするなよ?」


「しねえよ! それどこじゃねえって言ってんだろ!」


 そう言って少女はトイレに入り、しばらくするとすっきりした顔で出てきた。


「手、洗ったんだろうな?」


「洗ったよ! ガキ扱いすんじゃねえよ!」


「…だって、子供だろう?」


「ちげーし、てめえ目悪いのか? あたしはもう15、立派な大人の女なんだよ!」


「…とりあえず落ち着け」


 そう言って少女にコーヒーを出してやった。その時裸のままのヴェルナーがシャワー室から出てきた。


「ぎゃああ! 変態!」


「お、目が覚めたのか? ガキ」


「どうでもいいから前を隠せ! あたし女なんだぞ?」


「女ってのはもっとおっぱいが膨らんでんだよ」


「うるせー! ともかくそのキッタねえちっぽ見せんじゃねえ!」


「つか、お前クセーな、シャワー浴びて来いよ」


「そりゃ、しばらく風呂なんか、けど、覗くなよ?」


「バーカ! ガキの裸見てもおったたねえよ!」


「見るなよ?」と念押しして少女はシャワーを浴びに行った。


「あんなクソガキが強盗団って、世も末だねえ」


「まあな、15の歳に従軍して人を殺した俺も、他人の事は言えんさ」


「15で従軍って事はお前、今年20か?」


「ああ、そうだ」


「へえ、階級は?」


「俺は軍の養成所を出て、15で伍長として任官した。今は准尉だ」


「なるほどねえ、五年で四つも昇進したって訳だ。俺は士官学校を出て20歳で任官、今年25になる。階級は中尉。そこから給料のイイ傭兵、コンドル軍団に鞍替えして、そこでは大尉ってな」


「そうか」


「まあ、今となっちゃどうでもいい事だがな」


 その時ガチャっとシャワールームのドアが開き、タオルを巻いた少女が顔を出した。


「…あのよ、すまねえが、着替えとかねえか?」


「ねえな」


「…普通よ、いたいけな少女が頼んでんだぞ、何とかしてやろうって気にならねえの?」


「しょうがねえな、トオル、お前、ひとっ走りして買ってきてやれよ」


「なんで俺が、雨降ってんだぞ!」


「傘させばいいだろ? それに俺の方が年上、しかも元は上官だぞ?」


「ふっざけんな、お前は傭兵団だろ!」


「いいから行って来いよ、な?」


 そう言われて仕方なく町のマーケットに。だが少女の服など何を買っていいのかわからない。とりあえずクマもプリントの付いたパンツとTシャツ、それにサイズの調整が利きそうなスエットの上下を買い込んで戻った。


「…てめえ、これ、子供パンツじゃねえか! あたしは大人の女って言っただろ!」


「うるせえな、雨降ってたし、女物なんかわからねえんだよ!」


 ブスっとした顔で俺が買ってきた服に着替え、一緒に飯を食う。


「…あたしはアスカ、片桐アスカって言う。日系人の父とこっちで産まれ育った母の子だよ」


「片桐、アスカねえ。…どうやら賞金首にはなってないようだな」


 ヴェルナーが端末を操り検索をしてそう言った。


「あたしらはさ、義賊って奴だよ、悪い奴をぶっちめて根こそぎ頂くって生き方さ」


「へえ、賞金稼ぎはやらねえのか?」


「…統合政府なんぞ信じられるか。てめえらみたいな軍人が、この星をめちゃくちゃにしやがったんだ!」


「…まあ、戦争だからな」


「…んな事は判ってる、けどよ、あたしらの街は終戦の二日前に遊び半分の空爆で焼かれたんだ! 二日前だぞ? 趨勢なんぞ決まってたはずなのに!」


 そのアスカの話によれば、アスカの父は素材開発大手のルナ・マテリアル社の社員で、地球からこちらに赴任して来たらしい。そして現地民であるアスカの母と恋仲になり結婚した。その母はアスカが子供の頃に病で亡くなり、それからは父と二人暮らし。だが戦争がはじまると噂になった頃、ルナ・マテリアル社は火星から撤退。アスカの父は妻の墓があるここに残り、退職金を元に小さなジャンク屋を始めた。

 田舎町の小さなジャンク屋、そこで車両や家電、そう言ったモノを修理したりして生計をたて、周りからも頼りにされていたという。そして戦争がはじまると脱走兵や近隣のろくでなしが暴れまわるようになり、アスカの街も自警団を編成する。だが、銃器を持った脱走兵に苦戦を強いられていた。

 そんな中、元ルナ・マテリアル社で資材研究に携わっていたアスカの父はありあわせの材料で、街にある民間機のアームズ用に、銃弾を弾く複合装甲の開発に着手する。これは新たな軍事的なドクトリンとも言える内容で、装甲を厚く、そして質量の大きな武器でぶん殴る。そう言う単純明快な方法だった。素材を組み合わせ銃弾に対しては完璧な防御力を。更にその素材を用いた盾を装備、武器は斧やハンマーと言った丈夫なもの。剣は刃筋とか色々あって使うのに訓練が必要、だが斧やハンマーならば振り回すだけで十分な脅威となる。それらを装備した街の自警団は脱走兵の持つ銃器にも屈せず、ろくでなしどもの駆るアームズを叩き伏せていった。そして回収した機体を元にさらなる開発を進めていく。

 そんな形で平穏は得られたが終戦の二日前、突如木星連合の空襲に晒される。降り注ぐ爆弾に抗するすべもなく、人々は逃げ惑い、街は焼かれていった。その時、その父はアスカにイメージ・フィードバック・システム処理、つまりナノマシンを腕に注入し、アダプターの設置された機体にアスカを押し込んだ。そして機体のモニタに、父が手を振りながら炎に巻かれていく姿が見えたのだという。


「…難儀な話だとは思うがな」


 そうヴェルナーが相槌を打つ。ナノマシンを注入したイメージ・フィードバック・システムであれば機体を思い通りに動かせる。軍用機ではすでに当たり前の技術になっていた。だから素人であるアスカにもあの機体を自在に操れた、という訳だ。


「残りの二人は?」


「自警団の生き残り。もう一体無事だった機体は高値で売り払った。その金を元にこれまでやってきて、ろくでなしからは奪いもした」


「…なぜ、俺たちを襲った?」


「情報があったんだ、あそこをデカいホバートラックが通るって。中身はブラッドベリーの街を略奪した戦利品だって。だから」


「なるほど、そう言う噂を流したバカがいるって事だ」


「ま、結果としては御覧の通りさ。煮るなり焼くなり好きにしなよ」


「って事だ、トオル、同じ日系人の誼だ、お前が面倒見てやれ」


「なぜだ?」


「おいおい、コイツは賞金首じゃなかった、かと言って野放しにすれば今度こそ賞金首になっちまう。年端も行かないガキなんだぞ? 誰かが面倒見てやるべきだろ」


「ならお前が面倒見てやれ」


「おいおい、俺の生活はお前と違って刺激的なんだよ。ガキに見せちゃ教育上良くねえだろ? なあアスカ、コイツはな女のうわさが全くねえって変わり者でな」


「え、まさか童貞?」


「ちげーし!」


「へへ、流石にそりゃねえだろ。こいつはな、元地球軍の准尉さまってな。准尉ってのは兵隊の中の元帥、そう言われるくらい偉いんだよ」


「そうなの? 士官よりも?」


「ああ、俺たち士官はこいつら下士官に嫌われちゃお終いってね、いつ後ろから弾が飛んでくるかわからねえだろ? 上にも下にも気を使わなきゃならねえ、厳しい立場だったんだよ。んで、コイツはそう言う意味じゃ兵隊の王様、しかも准尉ってのはそうそうなれるもんじゃねえからな。部隊の女をとっかえひっかえって?」


「やだ、最低じゃない」


「してねえし! そもそも俺の所属していた部隊は男だけだった!」


「今時それはねえだろ?」


「本当なんだよ!」


「って事はやっぱり童貞?」


「違うって言ってんだろ! クソガキ!」


「おいおい、もしかしてあれじゃねえの?」


「アレって何よ」


「コイツにはな、少しばかり面白いうわさがあってな、普通に若い男なら酒場の女やらなんやらに興味を示して当たり前だろ?」


「…うん、そうかな」


「けどこいつはそう言うそぶりもねえ。かと言って同性愛って訳でもなさそうだしな」


「はっきりいいなよ」


「ひひ、コイツの機体、見たか?」


「うん、銀色の鎧武者?」


「ガワはそうだけどな、アーマーを外すと中はむっちむちの女の体、そう言う噂があるんだよ」


「えっ? どういう事」


「察しが悪いな、つまりこいつは自分の機体とデキてるって事だ。ついこないだもな、一緒に酒を飲んでたらメールが来て、すぐさま帰って行った。その相手はあの機体ってね」


「ふふ、ふざけんなよ!」


「正直に言えよ、なあ? 恥ずかしい事じゃねえだろ? 今時AI乗せたダッチワイフなんて当たり前なんだからよ、いささかサイズはデカいがな」


「いや、普通に変態だと思うけど」


「ともかくそう言う理由でお前の身は安全だ。あいつがロリコンって言う別の病に侵されて無けりゃ、の話だがな」


「ロリコン? あたしは大人、そう言ってるでしょ!」


 そんな会話を聞きながら俺はフラフラとシャワールームに。大丈夫、俺はサムライとして訓練を受けた男だ。それに機体とそう言う事はしていない。当然だよ。確かに給水口はそれっぽい形をしてるけど、あそこは砂糖水をいれるところだからね。胸もおっぱいぽく見えるけど、貯水タンクだから。触り心地は確かに良いけど。

 

 ――俺の部隊は鍛え上げられたサムライたちで構成されていた。みんな俺と同じアマテラスtypeⅢを受領していたし。機体とそう言う事をする? 意味が解らん。みんな真のサムライ自分の事は「それがし」と呼び、語尾は「~でござるよ、デュフフ」とサムライ言葉で締めくくる。そんな真のサムライたちだ。

 愛機を愛するのは当たり前、整備は隅々まで行うのも当然だ。


「拙者のアムたんは今日も輝くばかりに美しいでござる。後で給水口を念入りに拙者のモノで綺麗にしてやらねばならぬでござるな」


「デュフフ、精が出るでござるな、それがしも今宵は夜戦演習でござるよ。わが大和魂を愛しきマミさんに注入してやらねばならぬでござるからな」


 そんな会話を思い出す。当時はみんな真面目だなと思っていたが。…今考えると色々問題がありそうだ。


 あの技術将校にこの事を問いただせばきっとこう言うに決まってる。「彼らは先進的だからね。サムライとはかくあるべきなのだよ。君が遅れてるんじゃないの? 常識を打ち破ってこそのサムライだろ? さあ、君もレッツ、トライ」と。


 うわぁぁ!っと頭を掻きむしりたくなる衝動、イイやそんなはずはない、彼らは立派なサムライなのだから。



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― 新着の感想 ―
なるほど。 男ばかりの職場なのに、非童貞とは「もしや薔薇の人か?」と勘繰ってしまいましたけれども、要らぬ心配だったようです。 部隊全員が時代を遥か先取りした変態紳士たち……もとい、サムライたちだったの…
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