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バウンティ・ハンター


 整備を終えた俺は街に繰り出し酒場へと足を向ける。カウンター席に座り夕食代わりのパスタとビールを注文する。それらを食べ終え、二杯目のビールを頼んだ。

 戦争が終わって半年、俺のような兵隊上がりがこの町にはたくさんいて、退職金代わりに得たプロテクト・アームズを使って開拓をするものや賞金稼ぎをして暮らしている。100年も続いた戦争は鈍色の決着、どちらも勝利宣言をして終結していた。


『土星方面では宇宙海賊の被害が多発しています。統合政府は海賊討伐に注力するとともに、通行する輸送船に注意を喚起しています』


 そんなニュースがテレビから流れ、マスターはへっと鼻で笑った。


「全く、100年も戦争した結果儲かったのは軍産複合体の連中だけ、地球も木星も疲弊が激しく、手を組んで統合政府なんてもんを立ち上げちゃ見たが内部はガタガタと来たもんだ」


「全くだな」


「この火星は未だ戦時中と大して変わらねえ。ここの保安官は出来る奴だから街中こそ安全だが、流通が滞っちゃ干上がっちまう。聞いたか? この間もブラッドベリーの町がろくでなしどもに襲撃を受けたって話だ。向こうの自警団もやられちまって略奪を受けたってよ」


「そりゃ難儀な話だな」


「悪党どもってのは退治しても次から次へと湧いてくる。おめえら賞金稼ぎは食いっパグれる事がねえってな。まあせいぜい稼いでくれや」


「ああ、そうさせてもらうさ」


 マスターはサービスのつもりか、グラスに注いだウイスキーをコトンと置くと仕事に戻った。そのグラスに入ったウイスキーを舐めるように飲んでいると店には顔見知りの賞金稼ぎたちが集まってきた。


「…いよう、トオルじゃねえか。景気はどうだ?」


「ぼちぼち、と言ったところだな」


「こっちも似たようなもんだ。今日の獲物なんてボーナスこみで150クレジットと来たもんだ」


「へえ、そいつは何をやらかした?」


「なあに、ありきたりの押し込み強盗さ。民間用のアームズだったがカスタムアーマーをつけていてな、意外と手こずったが、今頃は広場で吊るされてるさ」


「なるほどな」


「…そうだお前、俺と手を組まねえか? 高い仕事をするには一人じゃ厳しい、組んで仕事を受けりゃ美味しい仕事にもありつけるってな」


「…ああ、かまわんさ」


「んじゃここは俺のおごりってな、前祝だ、パーッと行こうぜ?」


 その賞金稼ぎの男は元地球軍の傭兵部隊「コンドル軍団」出身のヴェルナー・メルダース。コンドル軍団はドイツ人中心の傭兵で最前線であるこの火星で共に戦った友軍の部隊だった。彼の駆るアームズの肩にはその部隊章である鉄十字が今も描かれている。


 ヴェルナーと気分良く飲んでいると俺の端末にメッセージが、『かえりおそい しんぱい』と。俺はグラスのウイスキーをぐっと飲み干し、「先に帰る」と店を出た。既に外は真っ暗でモーテルに帰ると俺の機体がぐっと手を伸ばして俺の体を抱きしめた。


「なんだ、鎧外したのか?」


 その機体の姿は白のパンツのようなアーマー以外すべて外された形だった。


『しんぱいした かえりおそいの だめ』


 そんな声が頭に響き、マヤと名付けた俺の機体がその柔らかな胸に俺を抱え込む。操縦せずともある程度の自立機動が可能。マヤの発達した脳はAIを浸食し俺の端末に自分の意思を発信できるようになっていた。俺を抱えたままでマヤは機体を横たえ、その柔らかな胸の上で俺を寝かせ、しっかりと抱えている。この数年寝る時はこうしてマヤに抱えられるか、もしくはコクピットの中で眠るかだ。このモーテルにもベッドはあるがそこで眠った事はない。


 つかどうなってんだよ! 完全におかしいだろ! 部隊の中でも俺だけなんだぞ? と聞いたことがある。「彼女の脳はAIを取り込んでいるようだね、私たちの目指した完成形に近づきつつあるようだ。…いいかい? 愛機という言葉があるように兵器であれ何であれその根本は愛だよ。だが、そうだね、君の意見にも一理ある。どうせ抱きかかえられるなら人肌に近い方が良い」 そう言って技術将校はマヤの胸の部分の材質を人工皮膚に変えてくれた。…だからそうじゃねえだろ!


 まあ、ともかくそんな人肌の感触に包まれてその夜は眠りについた。


 翌朝、目を覚ました俺はシャワーを浴びて朝食代わりのカップ麺を食う。そして支度を整えパイロットスーツを着込んだ。荷物としていくらかの着替えと携帯食料、それに歯ブラシや髭剃りなどを詰めたポーチをバッグに詰め、それをマヤの背部のトランクに詰めていく。水に関しては胸部部分に蓄えた水素エンジン用の蒸留水で十分。ブラ型のアーマーをつけないと人工皮膚で覆われた胸部、おっぱい部分がバインバインと揺れてしまうのだ。そのブラをつけ、戦国武者風のカバーアーマーをつけていく。これらは電磁石式でセットしてしまえばまず外れる事はなかった。そしてハッチを開けて中に乗り込む。ぷるんっとしたおっぱいの形のデバイスに手を載せると俺の意思が完全に伝わり、自分の体と同じように動かす事が出来た。壁のラックから日本刀のような形の武器を取り、それを腰に装着する。銃器は所持に許可がいる。基本的には保安官事務所からの貸し出しとなっていた。


 機体に乗り込みガレージを出て保安官事務所へと歩いていく。その前には肩に鉄十字の紋章をつけた中世騎士風のヴェルナーの機体が膝をついた形で置いてあった。俺もその脇に機体を置いて、膝をつかせてハッチを開き保安官事務所に入って行く。


「…よぉ、九条。ヴェルナーから話は聞いている」


 そう言ってソファに偉そうに座るのはここの保安官であるハオシュエンと言う男。中国系だが元は木星連合軍の少佐、今はそのまま統合政府軍の少佐となり、政府の依頼を受けて火星に出向している形だ。

 実質的なこの町の支配者と言える男だった。


「…今回お前らに依頼したいのは輸送トラックの護衛だ。この町からオクタヴィア、ブラッドベリーの街を経由し、北の海岸線を通って最終的にはコロンビアの宇宙港まで。ブラッドベリーは先日襲撃を受けている。…つまりろくでなしどもは自警団の民間機では対処できねえレベルって事だ」


 そんな話を聞きながらタバコを咥え火をつけた。


「無事にコロンビアにたどり着けばそれぞれ5000クレジット、ろくでなしどもを狩ればその数に応じてボーナスを支払う。…おめえらはそれぞれ地球軍のエース、期待してるぜ?」


「へっ、任せてくれ、俺らにかかりゃ朝飯前だぜ」


「…まあ、そうだな」


「距離的に考えてそれぞれの町で一泊、宿代はこっちもちだ。帰りもな」


「ああ、頼むぜ?」


 そんな話をして職員が出してくれたコーヒーを啜る。そうしながら貸し出しの銃器を選んだ。


「機体の特性としちゃ重装甲の俺が前に出た方が良い。メインはアサルト、サブアームとしてショットガンってところか?」


「ならば俺は長射程の対物ライフル、それにアサルトライフルを持っておく」


「ああ、後は手榴弾を何発か、と言ったとこだな」


 そんな感じで武装を選び、電子署名をしてそれらを借り受け装備する。アサルトライフルは後ろ腰のマウントラックに、対物ライフルは背中へと装着する。ヴェルナーの機体も騎士のような剣を腰に装着していた。


 機体に乗り込み、大型ホバー式のトラックのコンテナの上に上がって待機する。ホバートラックは発進すると俺たちはそこに乗った形で移動した。

 ヴェルナーの機体フレームはBf109F型のtype2。ドイツ製のフレームで機体の厚みもあり、がっしりとしたフォルム。足裏に仕込まれたローラーにより地上を滑るように走行する事も可能だ。ヴェルナーはこの機体でトータル80機を撃破している。出力が高く、カバーアーマーも重装甲。俺の機体であるアマテラスとは設計思想が異なっている。こちらは機動戦、格闘重視。任務も奇襲や潜入などの特殊部隊的な役割が多かった。日本製のフレームは大きく分けて三種類。男性的なフォルムのスサノオ型、こちらはパワー系のユニットでヴェルナーの機体同様の重装甲、日本人主体の第十八師団の主力を担っていた。そのスサノオはカブトムシをモチーフに開発されていて、俺の機体と同じく外骨格、内部には人工筋繊維が配されていて、軽量、大出力と言う必要な要素を満たしていた。そしてツクヨミ型は水中、陸上、宇宙と全ての環境で力を発揮できるマルチユニット。こちらはタガメをモチーフとしたずんぐりしたフォルムをしていた。基本的にカバーアーマーは戦国武者を模した形となっている。


 二時間ほど移動し、そこで休憩を取った。ヴェルナーと交代で機体を降り、大型ホバートラックのキャビンでコーヒーを出してもらいタバコを吸う。流石にコクピットではタバコは吸えない、色々と改良されていて人体への影響はほとんどなくなっているが火をつけるタイプのタバコはなくならなかった。そして大きなストレスのかかる戦場ではタバコは必須、俺も実戦に出てタバコを覚えた。


 オクタヴィアの街に入ったのは夕方、街には自警団が居るので安全だった。とはいえ俺たちは作戦行動中、街に繰り出し酒場で酒を、という訳にも行かない。飯はトラックのキャビンで、こうした大型トラックにはキャビンがあってシャワーやトイレも設置されている。飯を食い、用を足してシャワーを浴びる。寝るのは万一に備えてコクピットの中、横になれないが俺を包み込む肉感的なポリマージェルパックが適度な圧力をかけてくれるのでいわゆるエコノミー症候群にはならずに済んだ。


 翌日は雨、火星の雨は磁気を含んでいてそれがレーダーの精度を著しく阻害する。


「奇襲にはもってこいって訳だな。仕掛けてくるとすればこの雨の中だ」


「…だろうな」


 朝食を取りながらヴェルナーとそんな話、ともかく警戒しながら進んでいく。レーダーがダメならば音、だが雨音が強く集音装置も期待できない。となるとサーマル、熱感知になるがこれは探知範囲が狭い。だが状況的には最も信頼できる索敵方法だ。しかし、俺の機体にはさらに別の方法がある。それは匂い。アリの嗅覚は非常に優れていて、そのアリをモチーフとしたアマテラス型の機体にはアリの嗅覚を参考にした探知機能が搭載されている。

 町から四時間ほど離れたところでマヤの声が聞こえた。


『みぎのがけうら、におう、あめとちがうにおい』


 俺はすぐさま連絡し、トラックを停止させた。


『あの崖裏か、ありそうなことだ。俺が先行する、お前はここから援護してくれ』


「了解した」


 ヴェルナーの機体が地上に降り、ローラーダッシュを起動、しゅぃぃんっと水しぶきを上げながら地面を滑るように進んでいき崖裏に消えた。すぐに発砲音が響いた。


『ビンゴだ、敵は三体、動きは素人だが装甲が厚い上に盾までもってやがる! ライフルの弾も弾かれちまう!』


「そうか、崖の影から引き出してくれればこちらで始末する」


『了解だ、機動性ではこっちが上、何とかやってみる』


 シュイィィンっとバックしながらスラロームを描き、銃を撃ち放ちながらヴェルナーの機体がさがってくる。それを追うのはもはや人型とは言えない重装甲の機体。鈍重な動きで盾を構え、斧をもってヴェルナーの機体を追っていた。俺は対物ライフルを構え、狙いをつける。そして「ここっ!」と発砲した。

 バカンっと音をたて、敵機の胸部装甲が砕け、吹き飛ばされる。だが、貫通はしていない。次の機体はこちらに盾を向けていた。そこに弾丸を発射するが、ガンっと音がして盾がへこむだけ。もう一体はヴェルナーの機体と対峙していた。


「…これはダメだな」


 そう呟いて対物ライフルをコンテナの上に置き、タンっとジャンプし地上に降りた。


「近接戦闘に移行する」


『ああ、銃じゃこいつらの装甲を貫けねえ! 一機は任せたぜ、相棒!』


 一気に加速し、敵機が振り上げた斧の下をくぐる。そして太刀を抜き、抜き打ちで背中を切りつけた。パカンっと音がするが表面の装甲が割れただけ。フレーム本体にはダメージはなく、敵機はゆっくりとこちらを振り向いた。かつての木星連合のアームズならば一刀両断できる勢いだったはず。だがこの相手には通じなかった。機動性ならこちらがはるかに上、相手は恐らく民間用フレームだ。非力なフレームに重量のかさばる分厚い装甲、その非力さを補うために重量のある斧を使っている。その為機動性は著しく削がれ、機動戦になれた俺の目から見れば止まっているに等しかった。

 ならばと一旦距離を取り背後に回る。そして刺突の構えで突撃した。敵機はこちらに振り向きながら斧を振りかぶる。盾がこちらに向く前にと大きく飛びこんでその腹を刺した。パツンっと音がして俺の太刀が敵機の腹を貫いた。高さは同じくらいだとすれば確実にパイロットを仕留めているはず。敵機はそのまま崩れ落ちた。


『くそっ! くそっ! こいつ、剣が通らねえ!』


「そうだな、突くしかない」


『ああ、そうさせてもらうぜ!』


 ヴェルナーの機体の剣が敵機の腹に突き刺さる。こちらもそのままずるんと崩れ落ちた。


『はぁ、はぁ、どうなってやがる、こないだの奴と言い、こいつらと言い』


「…銃器は規制されている。民間人が戦うとなればこの形なのだろうさ。重装甲で銃弾を弾き、重い武器で相手を仕留める。こいつらはフレームが民間用だからこの程度だ、軍用のカスタムフレーム、そう、お前のような機体であれば圧倒的に優位に立てる」


『戦闘の常識が変わっちまったって?』


「そう言う事かも知れんな、銃に代わって剣、中世まで先祖返りと言う訳だ」


 最初に狙撃した一機は装甲が吹き飛んだだけ、強制的にハッチを開けると中に居たのは気絶した少女だった。



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― 新着の感想 ―
AIが浸食していて寝食を共にしているんですねw おっぱい型のデバイスとあって、連想したのはマウスパッドの方でした。勢いで買うと後から後悔する率ナンバーワン!(個人の感想です) 凄くしっかりしたロボッ…
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