乱戦
朝となり、俺たちは自分のアームズと食料その他をホバートラックに積み込み、リーダーであるヴェルナーの住むガレージ付きモーテルに異動した。ヴェルナーは二階の階段からまだ若い東洋系の女の肩を抱いて降りてきた。
「…初めまして皆さん、私は統合軍のファリン伍長ネ、配属したばかり、まだわからない事多い、宜しくお願いします」
少し片言のその女はまだ十代半ばと言った感じだった。
「まあ、そう言う事だ。ファリンは俺たちのチームに配属、ホバートラックの運用、それにオペレーターも任せる事になった」
「あんた、相談もなく勝手に決めてんじゃないよ!」
「…アスカ、俺たちはもう軍属、お前だって曹長の階級なんだぞ? 総督閣下の命令に逆らえる訳ねえだろ?」
「はぁ?」
俺はそう憤るアスカの肩にぽんっと手を置いた。
「…ともかくだ、ホバートラックの運転を任せられるのは助かる。マップも碌にないこのあたりでは自動運転も精度が悪いからな」
「…そうだけどさ」
「…どちらにしても軍属である以上、命令は絶対でござるよ」
「判ってるっての!」
そう言うアスカはファリンの胸をチラッとみて不機嫌な顔をした。歳の頃はそう違わないが明らかにファリンの方が胸が大きかった。
そのファリンが運転席に、助手席にはヴェルナーが座り出発する。俺たちはキャビンでアスカが出してくれたコーヒーを啜っていた。ファリンは軍服を着ていて明らかに俺たちとは所属が違う、そう言う事を示しているかのようだった。
「何あの中国女、やな感じ。ヴェルナーも偉そうにして、あたしらは仲間、そのはずでしょ?」
「まあ、仕方がないでござるよ、食うためには必要な事、そう思うでござるよ」
「ちっ、そうだけどさ、あたしはともかく兄貴にまで偉そうに、気に入らないね」
今回のミッションには総勢で40機ほどのアームズが参加、先頭には精鋭のテンペストのホバートラックが走り、その後ろを荷台にアームズを乗せたトラックたちが続いていく。一台には4機のアームズが乗せられ警戒態勢を取っていた。そんなトラックが10台あまり、最後尾はうちのホバートラックだった。
「…拙者はこちらでしばらく活動していたから判るでござるが、サンタマリア・クレーターはかなりの難敵でござる。考えてもみてくだされ、街のすぐそばに検問を。それが出来るだけの戦力があるという事でござるよ」
「…まあ、そうだろうな。報酬も悪くない金額だからな」
「報道に出た以上総督としては是が非でもサンタマリア・クレーターを落とすつもりでござろう。数の上で不利なうえ、相手は要塞に籠っている、と、なれば」
「…稼ぎ時、という訳だな」
そう言うとシンゴはニヤッと俺を見て笑った。シンゴの機体は俺のマヤと同じく対物ライフルを装備している。それと近接戦闘用の太刀、後は伸縮式の槍を持っていた。機動性重視のアマテラスは壁であろうが何であろうが足の爪でどこにでも登れるという特性があり、それは狙撃において有利なポジションを取れる事を意味している。敵のスナイパーを始末してしまえば相手のレンジの外から狙撃し放題という訳だ。
半日ほど進むと俺たちもそれぞれの機体のコクピットに乗り込み臨戦態勢。しばらくすると指揮官のテンペスト・リーダー、リチャード大尉から指示があった。
『これより各隊はトラックを降り、ここからは徒歩で進んでいく。周囲はジャミングが張られ、レーダーは当てにならん。警戒を怠るな』
その指示に従い、機体をトラックから降ろし、徒歩で進んでいく。目の前にはクレーターの壁が見え、こちらは遮蔽物が存在しない。明らかに不利、そう言う状況で接近した。
『今回はサービスが悪いな、事前の空爆すりゃありゃしねえ』
『全くだよ、遮蔽物もないだだっ広いここで狙い撃ちにされろって?』
情報によればクレーターの外壁には亀裂が三か所あり、そこが出入り口となっている。現在はそこにバリケードが築かれ、こちらから侵入するにはそこを突破するしかない。無論そこはオートターレットが配されたキルゾーンとなっていて強行突破するにはかなりの被害が予想される。
『テンペストリーダーより各隊。支援爆撃の要請は却下された。これより我々は強行突破を試みる。…全機突入!』
『ちっ! 無茶ぶりが過ぎるぜ! アスカは俺と突撃、何とかあのバリケードを突破する! トオル、お前とシンゴは別行動、好きにやりな!』
『ま、しょうがないよね、アスカ了解っ! 兄貴、あたしらが溶けちまう前にうまい事やってよ?』
「…了解した、シンゴ、行くぞ」
『承知』
シュイィィンっとローラーダッシュでヴェルナーとアスカの機体が先行し、その他の機体もそれに続いた。俺とシンゴは機体を全力疾走させ、何とか外壁にたどり着く。既にバリケード前では銃弾の雨が降り注いでいた。そのままの勢いで俺たちは壁を疾走、クレーター外壁の上に薄く身を乗り出して対物ライフルでオートタレットを狙撃する。その時頭の中に直接マヤの声が響いた。
『敵の匂いがしない、トラップの可能性』
俺は素早く反応し、黒い女武者の姿のシンゴの機体の腕を掴み、そのまま外壁を滑り落ちる。それと同時に通信で警告を発した。
「逃げろ、トラップだ!」
功に逸った賞金稼ぎたちが内部に侵入した瞬間、直径100m足らずのクレーター内部で大爆発が起きた。千切れたアームズの腕が俺の目の前を飛んでいくのが見えた。
『ちい、罠か! アスカ!』
『こっちは無事、兄貴の警告があったからね』
『…来たでござるよ! 外周の左回りで15!』
「シンゴ、俺たちは外壁の上に上がる」
『承知』
『了解、こっちは生き残りの半数で対処する。反対側はテンペストが向かってる!』
完全に挟み撃ち。中に入った賞金稼ぎたちは爆発に巻き込まれすでに10機以上の被害が出ていた。俺とシンゴは壁を登り、壁の内側に身をひそめ、そこから狙撃を行っていく。正面から対峙するヴェルナーとアスカは既に武器を持ち替え近接戦闘に入っていた。
『トオル殿、こちらの敵は民間機のカスタムばかりでござる』
「…ああ、数合わせってとこだな。って事は精鋭がどこかに」
そう言った瞬間、爆発の起きたクレーター内部から敵が現れる。その中には以前戦った兜に赤い羽根飾りがついたコンドル軍団の機体もあった。
「…ヴェルナー、聞こえるか。クレーター内部の新手だ。連中は地下に潜んでいたらしい」
『ちっ! こっちは手一杯だってのによ!』
「数は10機ほど、軍用機がほとんどだ。お前の因縁の機体も確認した。出入口に向かってる」
『こっちのケツに食いつくつもりか! アスカ! ここはお前が支えろ。俺は新手に向かう!』
『まだ敵は10機もいるんだよ!?』
『トオルたちが支えてくれる、ともかく俺はあのくそ野郎を!』
こうして戦闘は次のフェーズに。こちらの敵は民間機がほとんどとは言え数が多い。
『拙者も下に降りるでござる、ここはお頼みいたす!』
シンゴの機体も壁を滑り落ち、対物ライフルに代わり伸縮式の槍を展開し近接戦闘に入った。こちらの戦力は俺とシンゴ、それにアスカの三人と賞金稼ぎが二機、他はヴェルナーが連れて行ってしまった。俺はその間に敵機を二機狙撃し、下に降りたシンゴも一機を槍で貫く。アスカも斧を振るって二機を仕留めていた。これで数の上では同等。更に一機を狙撃で仕留め、シンゴも槍で一機を始末する。
『兄貴! こっちはあたしらで抑えるからヴェルナーの援護に!』
「…了解した」
ポジションを捨てて出入り口に向かい外壁の上を走って行く。その時オープン回線で敵機からの声を拾った。
『ハッハーっ! ヴェルナー! どうだ? 楽しいだろ!』
『くそ野郎! てめえ、いい加減に死にやがれっ!』
先日の戦いを見た限りではヴェルナーはあの機体には勝てない。急いで援護を、そう思った瞬間マヤの声がする。
『後ろ、敵、知ってる匂い』
素早く後ろを振り向くと戦国武者のような機体が俺に向けて発砲していた。その兜には三日月の前立てが付いている。
『デュフフ、見つけたでおじゃるよ、トオル殿!』
俺の回線番号701に割り込んできたその声はもちろん知っている声だった。
『その恩賜の銀の鎧! それは吾輩の愛機、ムラクモにこそ相応しい! そもそもそれは、吾輩が賜るべきだったでおじゃる!』
「…落ち着けタカシ!」
そう、その男は同じ部隊に所属していた変態、いや吉良タカシ軍曹だった。
『問答無用! 吉良家の名に懸けてその鎧は頂くでおじゃる!』
そう言って一気に距離を詰め、抜き打ちで太刀を抜いて俺に切りかかる。機体のムラクモはムチムチでボイン。胸の部分が大きく隆起したカバーアーマーをつけていた。
ガチンっと刃の噛みあう音が響く。俺たちの駆るアマテラス型は生体ユニット、それぞれに違った個性というか、実質同じ機体は一体も存在しない。シンゴの機体、サユリは胸や尻は大きいが全体的にはかなげな印象、俺のマヤはアスリート体型、このムラクモはむっちむち。そう言う違いがあり、それは重量や機体性能にまで影響している。重量のあるムラクモはパワー系。俺のマヤはその勢いを殺しきれず後ろに吹き飛ばされたがうまく着地した。
『ふひひ、やはりその鎧はムラクモの方が似合うでおじゃる。ブスのマヤ殿には段ボールでも着せておくでおじゃるよ』
そんな言葉にカチンとくる。俺のマヤは謎の生物ではあるがブスではない。
「…お前、今なんて言った?」
『ブスで貧乳、そんな機体にその鎧はもったいないでおじゃる』
ブチンッと何かが切れた俺は素早く飛び込み、ムラクモの太刀を払い、そのままケリをぶち込んだ。ムチムチのムラクモはポンポンとバウンドし、ゆっくりと身を起こした。
「…中身もデブなら機体もデブってか? お似合いだよ、お前らは。…よく聞けよ? デブども。…俺のマヤが一番美人なんだよ!」
そう言いきった俺にマヤの意思がなだれ込む。『トオル、嬉しい♡』と。
『くっくっく、これだから童貞は、アスリート体型? そんな貧乳で硬そうな女、好むのは童貞くらいなものでおじゃるよ? ヤマトナデシコの良さはふくよかさでおじゃる!』
「そんなもんはキモオタの妄想なんだよ!」
『だまらっしゃい! 童貞の価値観で世は動かぬでおじゃる!』
「俺は童貞じゃねえぇ!」
そう言いながら俺はガチンガチンっと斬りあい、隙を見てケリを飛ばした。
『…中々やるでおじゃるな、童貞のくせに!』
「うるせえバカ野郎! デブオタが豚に乗って粋がってんじゃねえぞ! マヤ! お前も何か言ってやれ!」
そう指示するとマヤは外部音声を使って話し出した。
『…キモオタとデブスの組み合わせ? ウケるんですけど』
すると向こうのムラクモも負けじと外部音声で言い返してくる。
『童貞と貧乳は宇宙の害ですわね。しかもブスだし』
『はぁ? デブスがよく言う、お前、酸っぱい匂いすんだよ』
『あら、これは殿方を惑わすフェロモンでしてよ? あなたこそしょんべんクサいのではなくて? …まさか、処女? 嫌ですわ、いい歳して。まあ、お相手が童貞では仕方ないですわよね。オホホ』
『…上等じゃない、今すぐミンチに加工して出荷してやるわ!』
『…あなたは鳥ガラと一緒に煮込んで調理して差し上げますわ』
『『死ねっ!』』
そう言って二機の機体はガチンとつばぜり合い。既に俺のコントロールを離れ、自律機動をしていた。
「どうすんだよキモオタ!」
『吾輩もコントロールが効かないでおじゃる!』
「てめえ、何とかしろよ! 上官命令だぞ!」
『上官もヘチマもないでおじゃる! そっちが何とかするでおじゃるよ。上官なんだからできるでおじゃるよね?』
「ふざけんなてめえ、後で死ぬほどぶっ飛ばしてやる!」
俺たちはこんな感じで言い争い。だが、外では。
『ブタァぁ! 死ね、切り刻んでこの星の肥料に変えてやる!』
『貧乳は生きる価値がないのよ! 顔もブスだし!』
『てめえの面見て言え! ウケ狙ってんのか、デブスが!』
ちょっと前までカタコトだが純粋、そんな感じだったマヤはアスカに影響されたのかすっかり口が悪くなっていた。
『童貞と貧乳は宇宙のゴミよ!』
『うるせえ! キモオタに抱かれてヒンヒン喘いでるクソデブが!』
そう言いながら二機は本気の殺し合い。と、その時。
『見苦しいわね、デブスと貧乳が騒いで。ねえ、シンゴ様?』
『そうでござるな。一番の美人は誰がどう見ても拙者のサユリでござるゆえ』
『『ああっ?』』
「てめえシンゴ! 一番は俺のマヤなんだよ!」
『何言ってるでおじゃる? まあ、シンゴ殿は顔が良いだけの底抜けのバカでおじゃるゆえ』
『サユリ、サユリの分際で言うじゃない。マヤ、ちょっとカチンときたかも』
『ふん、何をやらせてもパッとしない地味な女のくせによく言いますわね』
『うふふ、お二人は鏡を見た方がよろしいのでは? まあ、お相手が童貞とキモオタ、多少の哀れみは感じておりますけど』
『ふざけんなブス、降りてこい!』
『身の程を判らせてやりますわ』
そう言われたサユリは槍を伸ばして俺たちの乱戦に加わった。あーあ。




