15.また5人で【完】
数日後。
俺と光里のマンションのチャイムが鳴る。2人でキッチンに並んでいたので、俺が玄関を開けた。
まさかりさん、エリンギ、じーさんが立っていた。
「うぃーす」
「来たぞタカ」
「この前ぶリ〜」
俺は用意していた水鉄砲を、無言でまさかりさんの顔面に何発も噴射した。
「ブワッ!? いきなり何すんだよ!?」
「この前の写真の件、殺すと言ったよな? 光線銃じゃなくて良かったな? ただの水で感謝しろよ? 俺は優しいな??」
「やめろって! 1発にしとけよっ! お前ん家入るんだぜ!?」
写真の件とは、まさかりさんがグループチャットに送りつけて来た、俺と光里のキス写真の事だ。
クソ……、こんなのコレから一生弱みとしてネタにされるじゃないか……!
「エリンギとじーさんも保存してないだろうな!?」
「しとらんしとらん」
「してない、ケド……」
「ケド、何だ」
びしょ濡れのまさかりさんがニヤリとほくそ笑んだ。
「あの写真、けいにも送っといたぜ」
「んな……っ、はぁー!?」
「アイツも中学生だろ? 兄貴の恋愛事情もそろそろ知っといた方がいいと思っ」
俺はまさかりさんの顔面に頭突きした。
「んがっ、イッテー!」
「慶音からは俺に何も連絡来てないぞ!?」
「アー……、けいはネ、『ありがとう! でも見なかった事にするよ!』って言ったんだっテ」
「彼は賢いのぅ……。タカの怒りのツボを分かって、刺激せんようにしとる」
「おい高俊! 唇切って血が出たぞ! どうすんだよコレ!」
「良かったな、その程度で済んで。次は殺す」
「チクショー、酒から血の味がするじゃねーか!」
「いい機会だな、たまには禁酒しろよ」
「ほほほ、全くこの二人は仲がいいのぅ〜」
「タカ〜? 感謝されるのはボクらの方じゃないノ〜? ボクらのお陰で二人はめでたく結ばれたわけでショ〜?」
そうニヤニヤして言うエリンギに、俺はエリンギにも水鉄砲をかけた。
「ピギャッ!? ヤメテー!」
「エリンギ、今度はお前のガールフレンドを日本に連れて来い。さくら号時代の恥ずかしい話を沢山話してやるよ」
「ボ、ボクのガールフレンドは日本語ワカラナイヨ……」
「Who do you think I am? I'll speak everything in English (俺を誰だと思ってる? 全部英語で話してやるよ)」
「ヒィィィィ……!」
「ほほほほ。手厳しいの〜タカは」
「タカ〜。面白いけど家濡れるからやめて〜」
光里が笑いながらタオルとティッシュを持ってきた。
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光里が『残りの準備は全部任せて、先に男4人で話してて』と言うのに甘えて、俺たちはテーブルを囲んで座った。
3人はニマニマした顔で俺に迫る。
「デ? その後ひかるとはどうなノ?」
「まあまあだ」
「そウ! それは良かったネ」
「……まあまあだと言ったんだが?」
「タカの『まあまあ』は、『まあまあ』じゃからの〜?」
「ウンウン」
「はあ?」
何でコイツらは『まあまあ』だけで物事の良し悪しが分かるんだ?
するとまさかりさんが俺の肩を組んで、小声で囁く。
「で? やったのか?」
「は?」
「どうだった?」
「……」
「あれれー? まさかまさか、まだウブな関係なのかな〜? 高俊お前カワイイな〜?」
「……まさかりさん。最近まで知らなかったんだが」
「んん?」
俺は3人に、神妙な顔で耳打ちした。
「ひかるの背中には、小さなホクロがある」
「ブフォ!?」
3人は思わず飲んでたものを吐いてむせた。
「チョ、ちょっとタカ……、生々しいヨ」
「タカよ……。それワシらに言ったことはひかるに黙っておきなさいよ……。怒られるぞ」
「いや、もう俺達の間に隠し事は無しなんだ。今ここで話した内容も全部包み隠さずひかるに――」
「待ちなさい本当に言うのやめときなさい!」
「ウンウンボクもそう思う絶対言っちゃダメ!」
「はぁ? 何でだよ、言えって言ったり言うなって言ったり……意味が分からない」
「ホントタカはもオオオ! 数日後にはまたひかるとケンカしてる気がするヨ!」
「タカ……、またひかるとケンカしたらいつでも相談乗るからのぅ……」
「何でケンカすると思うんだよ、教えろよ」
「うわああああああ!! チクショー!」
まさかりさんが隣のじーさんに泣きついた。
「オレのひかるがあああ! うわあああ!」
「はぁ!? 誰のひかるだと!?」
「いや、少なくともまさかりのひかるではないぞ?」
「エ、ウソでしょ……? まさかりさんもひかるにそういう感情あったノ……?」
「バーカ、ちげぇよ! オレはもっとボンキュッボン! かつ姉御肌の歳上の女が好きなんだよ!」
「ひかるはアスリート体型だかラ……」
「タカ、今のまさかりの失言もひかるに言っちゃいかんぞ」
「……それは分かった」
「ひかるは妹みたいな感じだったのに……。畜生、こんな洗濯前のパンツみたいな男に何でアイツは……」
「は? 誰が洗濯前のパンツだと?」
「コラまさかり、そこまで言うなら何で今回のダークの作戦に参加したんじゃ」
「コイツはともかくひかるには幸せになって欲しかったんだよ! チクショー、おめでとう!」
最後の『おめでとう』の言葉に、俺は思わず笑った。
「なぁお前ら。やり方は本当に気に食わないが、一応言っておく。……ありがとうな」
「!」
「取り敢えず、ひかるは喜んでたから。アイツが喜ぶ結果になって、まぁ……良かったと思う」
「わたしからもお礼言わせて」
ひかるが鍋を持ってやって来た。
「みんながあそこまでしてくれなかったら、タカは絶対言ってくれなかったし、わたしもずっと意地張り続けてた。キッカケを作ってくれて、本当にありがとうね」
3人は、照れ臭そうに微笑んだ。
「いいや、最終的にはお前さんらの力で勝ち取った結果じゃ。わしらはちょいと背中を押したにすぎん。二人とも勇気を出して一歩踏み出した自分を褒めなさいよ」
「うン。でもボクらの努力も無駄にしないようニ、末長くお幸せにネ」
「おい高俊、ひかるを泣かせたらオレが殴りに行くからな」
「……あぁ、分かった」
まさかりさんの言葉に、俺は失笑しながらも深く頷いた。
「ところでサ、タカはまだ『ひかる』呼びしてるノ?」
「え゛っ」
「そーだぞ高俊! お前彼女のこといつまで過去のニックネームで呼んでんだよ!」
「いやいや、二人とも……。タカはわしらの前だと照れて『ひかる』呼びじゃが、二人きりの時は名前で呼んどるに違いない……。じゃろ? ひかる」
「……」
話を振られた光里は、苦笑いで俺を見た。『言っていい?』と目で俺に訴えるように。
……こういう時のサインを考えておけば良かった。
「いや……、ひかるは『ひかる』だろ」
「う、うん……、そそそそーだよ?」
光里が思いっきり言葉を詰まらせ目を泳がせたのを見て、俺は思わず手で顔を覆った。
3人はニンマリとして嬉々として言った。
「はい嘘ー! 相変わらずひかる嘘下手すぎ」
「ううう……。もう嘘はつきません……」
「タカ何て呼んでるノ? 『ひかりん』いや『ひーちゃん』とカ?」
「そんな呼び方する訳ないだろ気色悪いな!」
「良かったのぅ、上手くいっとるようで……。ひかる、呼び方以外にもタカの態度は変わったかい?」
「あ、うん。ものすごーく率直に想いを伝えてくれるようになったよ。ちょっと愛が重いなーって思う時もあるけど……」
「ひかる! それ以上言うな!」
「『愛が重い』!? キャーッ!」
「え〜? 具体的には……?」
「えーっと……」
「おいひかる、やめろ! お前は正直過ぎるんだよ!!」
俺が顔を真っ赤にして言うのを見て、じーさんが苦笑いで止めた。
「まさかり、エリンギ。この辺にしてあげなさいよ。二人だけの秘密があるというのも、わしはロマンチックで素敵だと思うんじゃよ……」
「うん。やっぱりみんなには秘密」
「しょうがないナ〜」
「ちぇ、分かったよ」
「それにこれ以上やると、またこの前みたいにタカが卒倒しそうじゃ」
「うっ……」
俺は既に、頭に血が上りすぎてクラクラしていた。
「ひかる……、水くれないか……」
「分かった……、大丈夫?」
「高俊、オレらが帰った後ひかるに膝枕してもらって休めよな」
「あぁ……そうだな……」
「ヤバイ。言い返す気力も無いのはヤバイよタカ」
「ちょっと休憩してクールダウンした方がいいの……」
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「さて今日は……じゃーん!」
光里が鍋の蓋を開くと、蒸気と共に魚貝の良い香りが漂う。
「アクアパッツァだよ」
「美味しそうじゃの〜!」
「酒! ひかるもハタチになったし、全員酒飲むぞ!」
「ボク今日ワイン持ってきたヨ! 合うネ」
ワイワイと楽しそうな4人を見て、俺はボンヤリと思った。
この光景は、Mホテルで死を覚悟した時に夢見た、もう手に届かないと思っていた“なんて事ない日常”の光景だ。今、目の前で実現している。
かつて“殺人犯の息子”扱いされ、一度は冷たい海に飛び込もうとした俺が、今こんなに暖かい空間の中にいる。あの頃には想像もつかなかった光景だ。
親父と母さんに伝えなければ。
今俺は、どうしようもなく幸せだ。
光里が隣にいる限り、そして仲間が俺の背中を押してくれる限り、俺はもう闇の中に飛び込むことは決してない。安心してくれ、と。
「じゃ、乾杯しよーぜ! 今日は一応、ダークの打ち上げだからな!」
「あ、そうなんだ。ならパワフルも呼べば良かったのに」
「断られちゃったヨ……、タカと喧嘩になるからっテ。ホント仲良いよネ」
「は? どこが??」
「乾杯の音頭は、やっぱり我らがリーダーからじゃろ」
皆が俺を見る。俺は少しだけ考えた。
この感じ、さくら号に居た頃を思い出す。ちゃぶ台を囲んで飯を食った情景。既に懐かしいのだが、久しぶりという感じもしない。不思議だ。
思えば、俺とコイツら4人との出会いは偶然だった。
しかしコイツらが居なければ、俺は親父の潔白を証明出来ず今でも“殺人犯の息子”のままだっただろうし、今こうして光里と結ばれる事もなかっただろう。
まさかさくら号に来た頃は、こんな心を許せる仲間を持てるなんて思いもしなかった。
例えバラバラになってしまっても、こうして集まればすぐにあの頃のようなバカで心地よい空気に包まれる。
本当に、出会えて良かった。一緒にダークという怪盗を作り上げてきて良かった。
だからまた何度も、この5人で集まれたらいいなと。
そう、心底願っている。
俺は4人の前でワイングラスを掲げた。
「これからも、俺たち5人の仲が続くことを願って。乾杯」
「かんぱーい!!」
グラスが5つ、小気味良い音を立ててぶつかった。
【おわり】
★『DARK ー5人の怪盗ー』はこれで完結です。
このサブストーリーまで読んでくださり、またタカの挑戦と成長の物語を最後まで見守って下さり、本当にありがとうございました。気に入っていただけたなら感想を書いて頂けると本当に嬉しいです。
次回作については全く未定ですが、いつかまたサスペンスが書けたらいいなぁと思っています。その時が来たらまたよろしくお願いします! 【七梨】




