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Mr.ヒューマノイド 〜聖遺物探索者によるレリックシーク〜  作者: 藤白ぺるか
第1章 ヒューマノイド編

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第6話『意味のわからないことが多い方が面白い』

「ん、んん…………ぶはぁっ!?」


 熱い太陽の日差しに照らされながら、口から水を吐いてアルクは目を覚ました。


「けほっ、けほっ……」

「アルク様、大丈夫ですか?」


 声をかけたのはまたしてもニンフィ。

 今度は膝枕ではなかったがすぐ傍で介抱してくれていた。着ていたメイド服には水に呑まれてずぶ濡れになったはずだが、濡れた形跡は一切なかった。

 一方、アルクの服はずぶ濡れになったお陰で紫の蛇血は全て落ちていた。


「ん、あぁ……」


 水を飲み込んでしまっていたからか、喉の通りが悪くまだうまく呼吸ができなかった。アルクはえずいたりして喉の通りを良くする。

 そうしている間にニンフィは立ち上がり、もう一人の倒れている人物の方へと向かった。


「ほら、起きますよレイベル様」

「んぶぶぶぶぶぶぶっ!?」


 横になって天を仰いでいる状態のレイベルに対し、ニンフィは往復ビンタをお見舞いした。

 あまりに痛さにレイベルは目を覚まし飛び上がる。


「いだいっ!?」

「おはようございます」


 飛び起きたと同時に赤くなった頬を両手で擦ったレイベル。

 彼女は痛みの原因がニンフィだとわかると鋭い目を向けた。しかし、意識を失っていたところを起こされたのだと理解するとその怒りもすぐに静まった。


「ああ、私は気を失って…………って、ううぇええええええっ!?」


 立ち上がった彼女は、自分が今いる場所をはじめて知ることとなった。


「なに叫んでんだよ尻……じゃなくてレイベ――はぁあああああああああっ!? ど、どうなってやがるんだ!!」


 レイベルの叫びにアルクも同じように立ち上がって周囲を見渡してみると、そこにはとんでもない景色が広がっていたのだ。


「ま、まさかここは――」

「――テトラミッドの上、ということでしょうね」


 アルク達は水に呑み込まれてどこかへと流された。

 そして、その流された先とは古代遺跡テトラミッドの――その頂点だったのだ。


 しかも、ただ頂点に流されたではないことが景色から伺えた。

 元々、砂や氷の下にあったはずのテトラミッド。今やその全てが地上までせり上がって全体像を映し出していたのだ。


『四つの三角形状の面がある建造物』


 まさに聞いていた伝承通りのそれが砂漠の上に突如として出現していたのだ。


 目を細くして遠くを見ると、あのバザーの街ジーザだって見下ろすことができた。

 高さからすると、おおよそ百五十メートルほどだろうか、そんな背の高いテトラミッドの上まで水で流されたということになる。


「はは、すげ〜や……」

「我々はとんでもない場所に……」


 アルクもレイベルも壮観な景色に息を呑み込んだ。

 太陽に近い頂上だからこそ暑い日差しを受けてしまうが、その暑さ以上に感動を覚えたのだ。


「でも、どうやってこんなデカいのが砂漠の下から出てきたんだ?」

「確かに……あ。おいアルク、あれを見てみろ」


 アルクの疑問にレイベルはある方向を指差した。

 その先とは、大きな河が流れている方角だった。


「テトラミッドと繋がっている……?」


 視線の先の大きな河の一部がテトラミッド側へと地面が繋がり水が流れ込んで、ある部分で繋がっていたのだ。

 ただ、水が流れ込んできたとしても普通に考えてこの大きさと重さの建造物が浮かび上がるなんて考えられなかった。


「下に水が溜まっても砂が溜まっても、そう簡単には上に上がることはないとは思うんだけどな……」


 そう、呟いた時だった。


「――アルク様、あちらを」


 ニンフィが頂上から少し下の石が積み上がっている場所を指差した。

 そして、その場所にいたのは――、


「赤い、トカゲじゃねーか……」


 昨日、テトラミッドを掘る作業をする前、この場所を見つけるために放った赤いトカゲ。

 同じ個体とは限らないが、そのトカゲが少し前に中で見つけたスカラベを口に咥えていた。


 アルク達はトカゲの習性を利用してテトラミッドの場所を見つけようとした。しかい氷の地層から考えても内部に入れるとは思えなかった。

 しかし、今出現したトカゲの足下を見てその答えがはっきりとした。



「転移、魔法陣……?」



 魔法陣とは、魔素から魔力に変換して体外へと放出する魔法の仕組みを解明したとされる魔法使いの始祖であり賢者と呼ばれているウィルスが解明した魔法を文字で発動させる記述式である。


 魔道具にもそれぞれ小さな魔法陣が組み込まれており、それ故に生活に役立つ魔道具が多数存在している。

 人類は賢者ウィルスの知識を長い間研究し、転移魔法陣すらも作り出したと言われているが、転移魔法陣が使えるのはごく一部とも言われている。


 アルクだって、転移魔法陣を見たのが人生で初めてだった。

 それだけ、珍しいものなのだ。


 赤いトカゲの足下に出現したのは、今の今までその場所にはなかった魔法陣。

 その魔法陣の上にトカゲが出現したということは、その場所から出入りしていたということになるのだ。


 テトラミッドが砂の下にあった時にはどこに転移魔法陣があったのかはわからないが、トカゲは今と同じ方法を使って内部に入ったと思われた。


 そして、なぜテトラミッド全体が浮かび上がったのか。


「――水が入ってきた影響か何かでテトラミッド全体に転移魔法陣が発動して場所が移動した?」

 

 あくまで推測だ。

 しかし、他の方法ではテトラミッドが浮上できた理由が説明つかなかった。

 世の中、意味のわからないことの方が多い。世の中の全てを解き明かせる人など存在しないのだ。

 だからこそ、聖遺物探索は面白い。その聖遺物によって、歴史がわかることだってあるからだ。


 まだまだこのテトラミッドの内部を調査しきれていない。

 転移魔法陣があるエリアなんて通らなかった。いきなり穴に落とされたのだからもちろんわかるはずもないが、今の光景を目にして他にも様々な仕掛けがありそうだと感じたのは確かだ。


「まっ、星夢絵画(フラグメント)も手に入ったし、とりあえず街に戻るか」

「はい」


 必要なものは入手した。

 アルクの感情は満足感で満たされており、今それ以上に欲しいものはなかった。


 こうして、アルク達は一つ目のフラグメントをゲットした。




 ◇ ◇ ◇




 アルク達はあれからジーザの街に二週間滞在した。

 

 突如として何もなかった砂上に出現したテトラミッド。

 その噂を聞きつけた多数の国や街から探索者や冒険者が送り込まれ、内部にある聖遺物を手に入れようと大勢の人が集まった。


 人が集まるということは、つまりジーザも以前よりも栄えはじめた。

 なので、街がこの二週間の間だけでも少しずつ発展していく様子が見てとれた。


 星夢絵画(フラグメント)を入手し満足したとは思いながらも結局、アルク達も何度かテトラミッドの内部を探索しに行った。


 外へと通じる小さな転移魔法陣を一つだけ発見したり、最初に訪れた時に見た以外の聖刻文字もあったが、聖遺物は他に見つからなかった。

 どれだけ前からこのテトラミッドが存在していたのかはわからないが、既に探索され尽くしていたと見るしかなかった。


 ただ、あのヒュドラがいた空間にだけはもう一度行くことは叶わなかった。

 河の水が入ってきてたし、亀裂により崩落した可能性だってあったからかもしれない。



「――てか、なんでまだいるんだよ」



 夜、酒場でアイスミルクを飲みながらアルクは同じテーブルでビールを飲むレイベルにそう言った。


「うるひゃいっ! おまえが剣をおったんじゃにゃいひゃ! 何かで返してもりゃわないとにゃっとくできにゃいっ!」

「はいはい……」


 ベロベロに酔ったレイベルが呂律の回らない口で剣を折られた恨み事を吐いていた。

 アルクの胸元を掴みながらゆさゆさと頭を揺らす。……とてもうざい。


 あのあとレイベルはこの二週間ずっとアルク達に同行していた。

 もちろん探索にも同行しついて回った。一番の目的は折られた剣に代わる武器が見つからないかと思ってのことらしいが、結局見つかることはなかった。


 一応、魔法袋の中に入っていた適当な剣を渡しはしたが、それでは満足できなかったらしい。


「死んだ冒険者たちから依頼料ももらえにゃいし、いまはお金がにゃいのれす!」


 今、レイベルは酒を飲んではいるが、このお金はアルク達のお金だ。

 奢る義理はないが、ずっとついて回ってくるのでしょうがなく払っている。いつかは回収してやるつもりだ。


「まあ良いや。とにかく静かにしてろよ」

「だみゃれいっ!」

「いだっ!?」


 理不尽に顔をぶたれた。

 アルクはこいつをぶち殺してやろうかと思ったが、ニンフィの目があったので辞めておいた。

 ニンフィは自分は女をぶつくせにアルクにはそういうことをさせたくないらしい。


 レイベルの酔っている時の様子を見ると、なぜか性欲が減退していた。

 こいつのお尻目当てだったのに、今はさほど興味が出ないのだ。でも、性欲が復活した時には必ずお尻に顔を埋めてやる。


「てか、本当に何も見つかんねーとはな……」

「確かにそうですね。フラグメントがあったのなら他にも何かあってもおかしくないのですが……」


 正確には何もなかったわけではない。

 棺のような箱や台座、燭台、様々なものがあったが、ガワだけで中身が盗られた後だったのか何も発見できなかったのだ。


 水が入った影響なのか、あれ以降は魔霊(スピリット)も出現しないし、今は観光名所にもなりつつあった。


「――ニンフィ。ほら、これ」

「え……」


 アルクは懐から取り出した物をニンフィの前に出した。


 ペンダントである。

 そのペンダントは、サファイアと同じ碧色で、ただ少しだけ傷がついている古そうなものだ。


「お前、最初にこの街にきた時、アクセサリー屋でこれをじっと見てたろ」

「アルク様……」

「まあ、ニンフィにはずっとお世話になってるからな、たまには……。ちょっと傷ついてるけど」


 少し慣れないことをしたと思いながらも、久しぶりに彼女にプレゼントを贈った。

 前にニンフィにプレゼントをしたのは、アルクがもっと小さかった時だったと思う。あの時は何をプレゼントしたんだっけ……。


「ありがとうございます。大事にしますね。ただ――」

「ただ……?」

「欲しかったのはこれではなく、私の髪色と同じ薄緑色のペンダントです」

「なんだってぇ!?」

「でも良いです。せっかくアルク様がくれたものなんですから、色が違うことなんて些細なことです」

「ニンフィが良いならいいんだけどよ……」


 気を遣ったつもりだったが詰めが甘かったようだ。

 欲しいものを渡すことができず一瞬落ち込みはしたが、ニンフィが大事にしてくれると言ってくれただけで一安心した。


「なら、私からもお返しを」

「え?」


 するとニンフィは懐にしまっていた魔法袋を取り出しそこに手を突っ込んだ。

 アルクとは別にニンフィも魔法袋を持っているのだ。こちらも実家にあったものの一つだ。


 そうしてニンフィが魔法袋の中から取り出したものは――、


「か、仮面!?」


 仮面と言えども首元まである大きな仮面だ。金色を主色とした黄金のマスクで、首など部分的に靑や赤や黒の線などが入ったもの。

 一言では表せない謎のマスクだった。


 取り出した瞬間、酒場の客が一斉にこちらを見つめてきた。

 明らかに異様な物だからだ。


「テトラミッドの中で拾ったんですよ」

「さっき他には何もないって言ってたよね!?」

「そうでしたか? アルク様の聞き間違いでは?」


 ニンフィはしらばっくれた。

 しかし、明らかに嘘をついていた。


「でもくれるなら良いや……ちょっと見せてくれ」


 持ち上げると中々に大きなサイズだとわかる。

 アルクの頭から肩までがすっぽりと入りそうなくらい大きなマスクで、ズッシリとかなりの重さが感じられた。


「ん、ここになんか書いてるぞ……ファラ……ツ……カ、メン……? ところどころ消えてて読めねぇ」


 それは仮面の内側、アルクにも読める文字で書かれてはいたが、経年劣化していたせいか文字が一部消えていた。

 このマスクの持ち主の名前なのかどうかは分かりかねるが、名前っぽくは感じた。


「ふーん。よくわかんねーけど何かの時に役立つかもな」

「ええ。少しだけ禍々しい魔力を感じますし、顔につけないでくださいね。取れなくなりそうです」

「こわっ。こんな重いもんずっとつけてたら歩けねーぞ」


 ニンフィの恐ろしい言葉を聞き、直ぐ様彼女に黄金のマスクを返し、魔法袋の中に収納してもらった。


「さあーて、じゃあ一旦家に戻るか!」

「そうですね」


 約一ヶ月間の旅を終え、アルク達は砂漠の街を出た。

 そうして実家へと戻ることになった。




 ◇ ◇ ◇




 食事を済ませあと、明かりを消し宿のベッドそれぞれ就寝していた一行。


 しかし、ニンフィだけは目覚めていて、傍で眠るアルクに寄り添い、右手をかざしていた。


 子供のように小さな寝息を立てて眠るアルク。

 さらにその奥には「わたしの剣をかえせぇ」なんて寝言を呟いているレイベルがいた。


 ニンフィは思い返す。


 最初にテトラミッドに突入し、アルクと分断された時、ニンフィはたまたま見つけた黄金のマスクを回収していたのだ。

 しかし、すぐにアルクには渡さず、何かのタイミングで渡そうと考えていた。


 いつかは渡そうかと考えていたが、まさかペンダントを渡されるとは思いもしなかった。

 だから本当はこのタイミングで渡そうとは思わなかった黄金のマスクを渡した。


 とても禍々しい力を放っていたので、プレゼントとしてはおかしなものではあるが、アルクは聖遺物が好きなのだ。

 どんなものでも、ほとんどコレクションに回していた。

 生計を立てるために一部の聖遺物をお金に変えたりもするのだが、それもほとんどせず、家に保存することが多いのだ。


 ニンフィのかざした手からは、ぽわりと淡い魔力の光が灯り、それがアルクの体に流れてゆく。

 それがアルクの体を優しく、温かく、包んでいった。



「アルク、あなたは本当に――――」




 その夜、ニンフィは夢を見た。



『おい、これ。お前にやるよ。ずっとお世話になってるからな。ちょっと傷ついてるけど……』


『――え?』


『さっきの店でこれ、見てたろ?』


『あ……』


 一人の男がニンフィに話しかけ、手に持ったサファイアと同じ碧色のペンダントを渡していた。



『ありがとうございます……大事にしますね。ただ――』


『ただ……?』


『欲しかったのはこれではなく、私の髪色と同じ薄緑色のペンダントです』


『なんだってぇ!?』


 男が自分のミスに驚き、頭を抱える。

 欲しいものをプレゼントしたと思ったのに、それが違っていたからだ。


『でも良いです。せっかくあなたがくれたものなんですから、色が違うことなんて些細なことです』


『お前が良いならいいんだけどよ……』


『はい。ありがとうございます――アルス』




 寝る前、アルクに右手をかざして魔力を送っていたニンフィ。

 優しい眼差しで一言呟いた。




「アルク、あなたは本当に―――アルスに似ていますね」



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