第3話『探索作業はブラシを使って慎重に行え』
――話は戻る。
アルクはニンフィとサンドワームの討伐後、再び砂漠地帯をしばらく歩いていた。
この砂漠地帯はファカリア大陸・プタジェの国にあるレインドロ砂漠という名の地名だ。
雨みたいな皮肉な名前がついているこの砂漠はアルクの実家のあるリュースラント大陸の小国・リーシャから三週間ほどかけてやって来た。
途中、船に乗りそこからは馬車。
砂漠地帯に入ってからは徒歩で移動してきた。
アルクたちはこの砂漠地帯に古代遺跡があるという情報をもとにはるばる海を超えてやってきたのだ。
星夢絵画について書かれた文献にはこんな記述があった。
『四つの三角形状の面がある建造物』
それがフラグメントが封印されている建造物の一つ。
文献もどこまで信じられるものなのかわからないが、他に手がかりもないので実際に目で確かめに来たのだ。
つまり、アルク達は記述されていた謎の建造物を探して砂漠地帯を歩いていた。
「――アルク様」
「…………あ!」
ニンフィに言われ前を向くと、今までとは違った景色に目を見張った。
それは、目的の場所ではなかったが――、
「街だ!」
少ない緑に加え小さな湖――オアシスが手前に見え、その奥には石で造られたと思われる無機質な家の数々。そんな光景が見え、心は躍った。
「メシだー!」
歩きにくい熱い砂の地面を蹴って、アルクは走り出した。
◇ ◇ ◇
街に辿り着くと、入口の看板に『ジーザ』と街名が記載されていた。
足を踏み入れると目の前に広がっていたのはバザーのような光景。
露店が多く、食べ物やアクセサリーなど様々なものが売られていた。
砂漠地帯で暮らす人々の服装は、その暑い気候からか基本的には薄い布の服で皆肌が焼けていた。
住民もそうだが外壁などがない街ともあって、小さな動物や爬虫類などもよく目についた。
青いカエルに赤いトカゲ、灰色の鳥に白い鼠。
アルクの嫌いな緑色の蛇も……。舌が紫だし毒があるだろ、なんて目を細めながら身震いした。
ともかく色々な動物が視界に入ってきたのがこの街だった。
「――アルク様」
「ああ、やっと来たのかニンフィ」
一人で走って街まで先行したものだから、ニンフィが少し遅れてやってきた。
基本無表情だが少しだけ怒りを感じた。長い付き合いだ。表情がなくとも多少の感情は読み取れる。
「勝手に先に行っては困ります」
「わりぃわりぃ。興奮しちまって」
「まあ、何日砂漠を歩いたかわかりませんものね」
アルク達がレインドロ砂漠に入ってから一週間ほど歩いてきた。実家である小国リーシャから数えると合わせて四週間の道のりだ。
砂漠地帯は通常なら過酷な旅となる。暑さだったり食料問題だったり、水だったり……。
しかしアルク達は徒歩で進むといったこと以外はそれほど過酷な旅とは感じていなかった。
「…………」
「ニンフィ、どうした?」
するとニンフィは目の前にあったアクセサリー屋の方に目線を向けていた。
そのアクセサリー屋を覗いてみると立ち並んでいた宝石や指輪はお世辞にも綺麗とは言えないものだった。
汚れが目立つし、よく見るとキズがついているものもあるようだった。本当に売る気があるのかと思ってしまうほどの品揃えだ。
「いえ、なんでもありません」
「そうか……なら先にメシ食おうぜ」
「はい……」
少し歯切れの悪い返事だったが、アルクはあまりにもお腹が減りすぎていたために食欲を優先した。
しばらく街中を歩き回り見つけた飲食店。
そこに入ってご飯にありついた。
料理を注文すると猿顔の店員が配膳をしてくれた。
良い機会なのでついでに古代遺跡の情報について聞いてみることにした。
「――なぁおっちゃん。ここらで古代遺跡って聞いたことないか?」
「ん、なんだボウズ。気になるのか」
「ああ。ちょっと探しててな」
すると猿顔の店員がニヤッと黄ばんだ歯を見せる。
それは何かを知っているような顔で――、
「恐らくテトラミッドのことだな」
「テトラミッド?」
聞いたことのない言葉。それは古代遺跡の名前ということだろう。
名前を聞きながらアルクは眉を寄せて猿顔の店員の話に耳を傾けた。
「そうだ。テトラミッドはなんでも三角っぽい形をした巨大な建造物らしい」
「三角……それって側面が四つじゃないか?」
文献では建造物の側面の数は四つで三角形状。
文献が全て合っているとは限らないが猿顔の店員の情報と一部一致していた。
「そこまではわからねぇ。なにせそれを誰かが見つけたなんて話は聞いたことがねぇからな」
今までに誰も見つけたことがないということだろうか。
この店員の見た目は三十後半ほど。いつからこの場所に住んでいるのかはわからないが、最大で四十年近くはそのテトラミッドを見つけられていないということになる。
そこで俺たちは顔を見合わせた。そして上下に軽く頷く。
「アルク様」
「ああ、これはーー」
「隠されていますね」
おそらく、探索者にしかわからない。
探索者だからこそわかると言ってもいい。
古代遺跡などの場所はそもそも見つけるところから大変なのだ。
なぜなら、その建造物自体が隠されていることが多いから。
何かの魔法がかけられていたり、自然現象で見えなくなっていたり、もしくは何かの条件をクリアしないと出現しなかったりもする。
だから今回の場合もそれと同じ。
この街自体に噂があるならおそらく実在はしている。ただ、誰も隠された建造物を見つけ出せていないだけなのだ。
「おっちゃん。その建造物だけど、どっちの方向にあるって噂なんだ?」
「ああ、なんでもここから南東側にあるって話だ。ただ、南東に歩くとすぐにデカい河に辿り着いちまうけどな」
河があるなら巨大な建造物が建てられる隙間なんてあるはずもない。
これも魔法で隠されているのだろうか。まだ情報が少ない。
「あと、こんな伝承もあるぞ。『南に二回路、東に三回路、赤の象徴を解き放て。さすれば扉は開かれん』ってな。意味はさっぱりだけどな」
「南、東、赤……あとは回路……うーん」
これはヒントなんだろう。ただ、全く意味がわからない。
顔をしかめてみるものの何も思いつかなかった。
でも、とりあえず手がかりを見つけた。
メシを食べたら南東方面へ行ってみようと腹に料理をかきこんだ。
◇ ◇ ◇
腹ごしらえをしたあと、徒歩で街から南東へと向かった。
再び砂漠地帯を歩くことになったが、猿顔の店員が言っていた通り三十分も歩けば広大な河が広がっている場所へと辿り着いた。
周囲を見渡してみても、砂漠と河。ただ、河の手前は岩場のような地形になっており少しだけ緑もあった。河の水の影響で地面が削れ、周囲はそのような地形になっているのだと見てとれた。
わからない――徒歩三十分程度なら、視界に収まる範囲で街からの砂漠一帯を見渡せる。しかし移動中、砂以外何もなかった。
「ニンフィ。風魔法で横薙ぎしてくれないか?」
「わかりました」
アルクはそうお願いするとニンフィが右手をかざし軽く腕を横に振った。
すると透明な風の刃が空間を切り裂くように広範囲に飛んでいく。
「…………何もないな」
「そのようですね」
もし、建造物が何かの魔法によって隠されているとするなら、どこかが歪んだりぶつかったり異変が生じるはず。しかしそういった異変が一切見えなかった。
と、すると、他に考えられるのは――、
「――地面か」
砂の地面に視線を落としてみた。
数千年前なのか何万年前なのかはわからないが、もしこの地に何かしらの建造物があったとするなら、砂漠化が進んだ結果、その砂が舞い降り積もっていった。
なら、その建造物自体、砂の下に埋まっている可能性があるということになる。
しかし、砂の下だとしてもさすがにどこを掘り起こせば良いのかわからないとどうすることもできない。
魔法を撃ちまくって穴を掘ったとしても無駄打ちになるばかりでどうしようもない。
やはり先に考えるべきは、猿顔の店員から教えてもらった何かの暗号。
『南に二回路、東に三回路、赤の象徴を解き放て。さすれば扉は開かれん』
南と言えば太陽が空の頂点に達する方角で、東と言えば太陽が出てくる方角。
赤の象徴とはもしかして太陽のことだろうか。否――そう考えるには短絡的すぎる。そんなに簡単なら誰でも辿り着けたはず。
あの街に伝わっているほどの伝承。
それなら、もっと情報収集したほうが良いのかもしれない。
そう考え再び街に戻ることを選択した。
◇ ◇ ◇
街に戻るとアルク達は賑やかな酒場に顔を出した。
大体どこでも酒場には情報が集まると相場が決まっているからだ。
ただ、酒飲みに絡まれると面倒くさいのでできるだけ静かに過ごすことにした。
もちろんニンフィの美貌は目を引いてしまうので、黒いマントのフードを被った状態だ。
それぞれアイスミルクと金色のビールを頼み周囲に耳を澄ました。
こう見えてニンフィは酒を嗜む。ヒューマノイドに酒は必要なのかわからないが、エンジンを動かす燃料のようなものだとアルクは勝手に思っている。しかも全く酔わないときた。とんでもない性能だ。――いや、機械だから酔わないのかもしれない。
「――ほんっとうにここにはなーんもねえな!」
アルクがアイスミルクを喉に通す傍ら、大声で男の声が聞こえてきた。
その方向に顔を動かさず目線だけ向けると大柄の男が酒を飲みながら話していたようだった。男の周りには怪しい笑みを見せる二人の男と青髪の女が一人、合計四人がテーブルを囲んでいた。
剣などを所持しているところを見ると、いわゆる冒険者というやつだろう。
冒険者とは主に魔霊討伐によって得られる素材をギルドを通して売り捌き生計を立てていることが多い。
だから魔霊を倒すために剣や盾をはじめあらゆる武具などの装備品を重要視している。
一方の探索者は探索に必要なものばかりを持っている。
俺が腰にぶら下げている工具入りのベルトだってそうだ。懐中電灯やブラシ、小型ナイフにロープなど探索に役立つものばかり。
通常の探索者であれば魔霊が潜む危険地帯に向かう時には冒険者を雇うことが一般的。
探索者は冒険者とは全く違う。ランクなど存在せず、冒険者からすれば見下される立場だ。
ただ、俺達は特殊だった。ニンフィ一人で十分に冒険者以上の強さを持っており、護衛は全く必要ないのだ。
「でもアニキ、聞きました? なんだか近くに古代遺跡があるって話ですよ」
「『南に二回路、東に三回路、赤の象徴』ってやつだろ? 言われてもわかんねえってな。赤いのはトカゲしかいねえってのな!」
赤いトカゲ……。
そういえば、この街に来てから赤い動物といえばトカゲしか見ていない。
この街には入った時から複数の動物や爬虫類が目に入った。しかも様々な色をした動物だ。
バザーには沢山の食材が売りに出されている。ただ動物達も店頭に並んでいる食べ物を毎回奪えるわけではないだろう。
なら、どうやってその動物たちは生きながらえているのか。
一般的に動物は弱肉強食の世界。他の動物や虫を食べるだろうがこの街では虫をあまり見かけなかった。
食べられているからいないとも考えられるが、もしもう一つの理由があるとすれば……。
「――ニンフィ。もういい、行くぞ」
一つ思いついた。
アルクはアイスミルクを飲み干し、ニンフィに声をかける。
「こういうことだけには頭が回るようですね」
「余計なお世話だ」
そうして席を立ち上がり無言で酒場を出た。
「――おい。あいつら……」
「あぁ、もしかするかもな」
「アニキ……」
「…………」
四人の冒険者がアルクとニンフィが酒場から出ていく背中を見送っていた。
◇ ◇ ◇
飲食店の外に出たあと、すぐに街中にいる野生の赤いトカゲを捕まえた。
ただ、捕まえようとするとかなり獰猛で抑えておくのに苦労した。よくこんなやばいトカゲが放置されているものだ。何もしなければ攻撃はしてこないということなのだろうか。
結局、最終的にはニンフィが氷魔法で凍らせたことにより捕まえることができたため事なきを得た。
アルク達は凍らせたトカゲを持ったまま街の入口に立った。
「さすがに南に二歩、東に三歩……はねぇよな」
懐からコンパスを取り出し方角を確認。河までの距離を頭で計算した。
二百メートルと三百メートルではあまりにも街からは近すぎる。
「回路……カイロ……キロ?」
なら、二キロと三キロはどうか。もしかして伝承が後世に伝わっていくなかで、言葉が変わって伝わった可能性もある。
回路=キロであれば、ちょうど良い位置である可能性はあった。
それを検証するため、計算した場所を目指して歩くことにした。
◇ ◇ ◇
「――大体この辺だろ」
アルク達は再び砂漠地帯に立っていた。
後方には先ほどまでいた街が陽炎によって歪んでいるがギリギリ見える距離にある。
視界の端には水が大量に流れる河も捉えていた。
河寄りではあるが、今アルク達がいる場所はちょうど街と河の間の場所だ。
「ニンフィ頼む」
「はい」
凍ったトカゲを砂の上に置くとニンフィが右手をかざし魔法を詠唱する。
「火魔法」
最下級の威力の火魔法を唱えるとトカゲを包んでいた氷がどんどん溶けていく。
砂漠の熱でも溶けるが時間がかかってしまうため、今すぐに溶かす方法をとった。
すると凍っていた赤いトカゲが飛び出し、砂の上を這いずり回るようにして移動を始めた。
「ニンフィ! 追いかけるぞ!」
赤いトカゲは砂海を這ってどんどん離れていく。
見失わないように走って追いかけた。
すると赤いトカゲはある場所まで這っていくと急に砂をかきだすように地面に潜ったのだ。
アルクは知っていた。
トカゲにも色々な種類がいるが、砂漠地帯のトカゲには砂に潜るという習性があることを。
そして砂に潜る時には隠れるという習性だけではなく、食料を求めて潜るという習性があることも。
「ここか……」
今ちょうど赤いトカゲが砂に潜った場所に立っていた。
この場所が今回の探索場所。シーク開始だ。
「じゃあ頼む」
再びニンフィに魔法をお願いすると今度は砂に向かって風魔法を唱えた。
すると前方の砂が吹き上がりどんどん穴が空いていく。
数分後見えたのはアルクが想像もしていなかったものだった。
「くふふふふふ。はーっはっは!」
「どうかしましたか? 頭がパーになられたようですね」
「見ろよ! 意味がわからねえ!」
発見したのは古代遺跡などではなかった。
恐らく五十メートル近くは魔法で砂をどかしただろうか。
ある部分からはどんどん砂が固くなり、水分のようなものを含みはじめた。
その水分は近くの河から伝ってきた水を含んだからだと思われたが全く違っていた。
トンっとジャンプをして砂上から約五十メートル下の地面へと舞い降りた。
「氷、か……」
砂漠の砂の下にあったのは古代遺跡などではなかった。
カチカチに凍っていた氷の地面だったのだ。
砂の水分はこの氷が少しだけ溶けたせいによるものだった。
灼熱の砂漠の大地の下にあった謎の氷の地面。
気候的にはとても考えられないことだった。
「なあニンフィ。この世界は太陽を中心に回ってるんだったよな?」
「ええ、そう言われています」
続いて砂上から降りてきたニンフィに質問をした。
そうしてアルクは一つの説を頭の中で考えた。
もしこの砂漠地帯が元々極寒の地であったなら、何かの影響で温暖化し地面が砂化。それが氷の地面へと降り注ぎ砂漠地帯へと化した。
温暖化しても氷が溶けなかったのは、長い氷河期により氷が簡単には溶けなかったと考えるしかない。普通なら溶けるはずだが、溶けていない現状を見るとそうなる。
「ただ、そうだとしてもちょっとな……」
なら、氷の下に古代遺跡――テトラミッドがあるというのだろうか。
遺跡というのは元々は人が利用していたはず。しかし、そんな極寒の時代にわざわざ建造物を作り、人がそこで暮らすのだろうか。次なる疑問が生じていた。
「とりあえず氷を割ってみるしかないだろうな」
「でしたら、古代遺跡に影響のないように力を調整しないといけませんね」
ニンフィは右手を氷の地面にかざした。
「火魔法」
掌から炎が噴出し足下の氷を徐々に溶かしていく。
「…………なかなか溶けねえな」
しかし、最下級の威力の魔法ではなかなか氷は溶けなかった。
長い間この氷の地面が砂の重さで圧縮されてきたせいか通常の氷では考えられない硬さになっていたようだ。
「威力を上げましょう。先っぽくらい遺跡を傷つけても怒らないでくださいね」
「しょうがない。任せるよ」
アルクは少し後ろに下がり、ニンフィ一人をその場に残した。
「地獄の魔炎」
「おまっ!?」
そう詠唱すると、ニンフィの右手の掌から黒い炎が飛び出す。
ゆっくりと黒い炎の球のようなものが落ちていき、それが氷の地面に触れた。
「うおぁっ!?」
触れた瞬間、黒い光と共に氷の地面が大爆発。キーンと耳鳴りがするほどの衝撃にアルクは後方へとふっ飛ばされ、砂の壁に体がめり込んだ。
「――――」
「アルク様、終わりましたよ」
アルクが砂の壁にめり込んでいた一方、爆発の衝撃を受けたはずのニンフィが無傷でその場に立っていた。
どうやって身を守ったのはわからないが、何かしらの障壁を作るような魔法を使ったのだと勝手に理解した。その証拠にメイド服に少しも汚れや乱れがなかった。
「お前……何階梯も上の魔法を使うなよ」
「任せると言われたので」
魔法には魔霊や冒険者にランクがあるように、階梯というランクがある。
全部で十段回。先程のインフェルノは第四階梯だと言われている。ニンフィは第一階梯のフレイムより三段階も上の階梯魔法を使ったのだ。
アルクはニンフィの行動に嘆息しながら、めり込んだ体を起こして割れた氷の地面まで足を進めた。
ただ、上から覗き込んでもさすがに底が深すぎて太陽の光が届いていなかった。
「光魔法」
それがわかった途端、ニンフィが光を作り出す魔法を使いそのままその光球を氷の穴の中へと落とした。
球が徐々に落ちていくと、その下に何があったのか判明した。
「おい……おいおいおいおいっ!」
「こんなことがあるのですね……さすがに私も少し驚きました」
無表情のニンフィですら驚いたと発言した。一方のアルクも興奮を隠せなかった。
その証拠に宙に浮かぶ光球の明かりによって見えた氷の地面の先にあったのは――、
「砂じゃねえか……!」
砂の下にあったのは氷の地面。
そして氷の地面の下にあったのはまた砂の地面だったのだ。
思いついていた説を破棄。
そして新たな説を思いついた。
この世界は丸く、太陽の周りを回っている。
もし、この地には砂の時代があり、氷の時代があり、さらにその前には砂の時代があった。
地層のままに考えて、導き出された答え。
それは――、
「世界の軸ってやつがズレて……また戻った?」
世界の軸――それはこの世界は何らかの影響で自転していると考えられており、その軸がズレると太陽からの陽の光が当たる場所が変わり、暑かった地域が寒くなり、寒かった地域が暑くなったり気候が大きく変化する。
それはどう軸が変化したかにもよるがこの地層の変化から考えると、世界の軸がズレてまた戻ったと考えるのが正しいと思われた。
「こりゃあ大変だぞ。ならトカゲはどうやって古代遺跡に向かったんだよ」
砂の下に氷の地面があるのに、どうやってトカゲは自分の食料があるとされる古代遺跡へと向かったのか。その疑問が残ってしまった。
砂の下に古代遺跡があると思いトカゲを放したはいいものの、想像の上を行く発見をしてしまった。
「ふははははは! これだから探索ってのはやめられねえ!」
まだ、古代遺跡を発見すらしていないのに興奮しちまうじゃねえか。
アルクがこれまでに見つけた遺跡などの建造物は一つだけではない。しかし、見つけた時の興奮はその時その時のものだ。
アルクはおっぱいを目的にはしているが結局は探索者という職業が性に合っているのだ。
「もう少し氷を広範囲に削って砂を出しやすくするぞ」
「わかりました」
トカゲのことはひとまず置いておいて、このあとニンフィの魔法で氷の地面をさらに割り砂の地面が露出する範囲を増やした。
それから最初に行ったことと同じように風魔法を使い、砂を吹き上げて取り除いていった。
魔法を使うこと数十分。
ついに砂の地面から何かが見えはじめた。
「これは岩……いや、石か……?」
氷ではない黄土色の硬い物質。綺麗に削り取られた長方形の石のような物がいくつか積み上がっているのが見えたのだ。
「はは……これが古代遺跡ならとんでもねえな。三段階も地面を掘るやつなんているわけがねえ」
魔法は誰でも彼でも使えるものではない。
しかも使える強さのレベルだってある。ニンフィのように強力な魔法を使える人だってごく一部。
そう考えた時、探索者に同行してまで長時間探索作業を続けてくれる魔法使いはどれくらいいるだろうか。なかなかいない……というのがアルクの考えだ。
一応、トカゲが入れるような隙間を見える範囲で目を凝らして探してみたが、なかなかそういった隙間は見つからなかった。
やはりトカゲはこの石から中に入ったとは考えられなかった。
そしてここからは手作業で探索を進めるしかなかった。
なぜかというとアルクは探索者だからだ。
テトラミッドの入口を見つけるならニンフィの魔法をぶっ放せば良いだろう。
しかし、探索者は歴史を紡ぐ者でもある。だから建造物を壊すなんてことは基本的にありえないのだ。
だから先ほどもニンフィは『先っぽくらい遺跡を傷つけても』なんてことを口走った。ただ、三階梯も上の魔法を使いはしたが……。
ニンフィの光魔法で辺りを照らしながら、アルクは腰のベルトからとったブラシで石の上の砂を払うように少しずつ綺麗にしていった。
一方のニンフィは、そよ風のような威力の風魔法で砂を飛ばしていた。
「クソ……これ終わんのか……?」
約二時間。少しずつ表面を綺麗にしていき、どこか中に入れる隙間はないかと丁寧に調べていった。
しかし思うように探索は進むことはなかった。
アルク達は今日の探索作業を終えて、氷魔法で蓋をして舞い上げた砂を再びかぶせた。
そうして翌日に再チャレンジすることにして、街の宿に泊まることにした。
――しかし、翌日の朝だった。
再び探索作業をした砂漠の場所に行ってみると、そこには砂と氷を吹き飛ばしたような空間がぽっかりとできており、アルクが一番嫌う光景が目の前に広がっていた。
丁寧に探索を進めていた古代遺跡があると思われる石壁が、攻撃魔法によって粉々に破壊され大きな穴が空いていたのだ。




