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Mr.ヒューマノイド 〜聖遺物探索者によるレリックシーク〜  作者: 藤白ぺるか
第1章 ヒューマノイド編

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第1話 『カッコいい詠唱と必殺技は男のロマン』

 ヒューマノイド。


 この世には人間の形を模した機械――つまりヒューマノイドが存在する。


 ヒューマノイドは機械でありながら自らの意思を持ち、人間の子供と同じように経験と学習によって成長して大人になってゆく。

 機械ではあるが、高度なヒューマノイドは食事をとれたり、人間と滑らかなコミュニケーションをとれたり、あらゆる欲さえも身につけることができるのだ。


 それはもうほとんど人間と言っても良いだろう。


 しかし、存在したとされるのは遠い昔。

 今から数千年も前だという。


 悪用されれば戦争の道具として使われてもおかしくない人型兵器・ヒューマノイド。

 人智を超える知識を持ち、未知なる能力を秘め、規格外のパワーを持つというヒューマノイドは誰の手によって何のために造られたのか。今では誰も知る由もないが実在はしていたのだ。



『あなたと共にこの子を――』



 揺れる大地。震える巨木。世界の崩壊を予見するかのように赤く染まる空。

 見送る女性は、二人をカプセルに閉じ込め、優しい笑みを見せて最後の言葉を呟いた。


 備え付けられていた赤いスイッチを押すとワッと輝く光に包まれる。



『――がいない場所へ……どうか、幸せに――』

『――――姉さんっ!!』 



 次の瞬間、意識は暗い闇の底へと暗転。

 ゆらゆらと蠢く黒いゲートへと吸い込まれ、遠く遠く、誰も彼女らを知らない彼方へと――。




 ◇ ◇ ◇



「うへぇ〜。いつまで続くんだよこの砂漠……」

「アルク様。地平線を見てもまだまだ砂漠です。先は長いでしょう」


 白や黄色の粒が入り混じる砂が空に舞い、暑さで視界が歪む。辺り一面に広がるまっさらな砂漠地帯を歩いていたのは二人の男女だ。

 砂漠に降り注ぐ太陽の熱線から身を守るため、どちらともフード付きの黒いマントを上に羽織っていた。


「――アルク様危ないっ!」

「ぐはぁっ!?」


 一人の女性が隣を歩いていたアルクと呼んだ男性に左足を振り上げ、脇腹に思い切り蹴りを食らわせた。

 その衝撃でアルクは数メートル遠くの地面へと吹っ飛び、顔面から砂に突っ込んだ。


「――ニンフィてめぇ! 何しやがるんだ!」


 と、ズボッと地面から頭を外し、砂まみれになった顔のままニンフィと呼んだ女性に怒った男性はアルク。しかし、ニンフィが蹴りを喰らわせた理由は突如として現れた巨大生物により判明することになる。


 ドドドドと轟音が鳴り響き、地震が起きたかのように砂海が揺れて目の前の砂が空高く舞い上がった。


 二人が空を見上げていると次第に天から落ちてくる砂粒の雨。徐々に発生した砂煙が晴れてゆく。

 その煙の向こうにいた相手とは――、


「喉も渇いてるってのに……このクソミミズが!」

「――砂蚯蚓(サンドワーム)ですか。確かにミジンコ以下のウジ虫ですね」


 魔霊(スピリット)


 魔霊とはこの世界に存在する未知の生物。あらゆる場所に浮遊する魔素(マナ・ソース)という見えない粒子により魔霊が生まれるとされている。

 そして、その場の魔素の濃さにより強力な魔霊が生まれるのだ。

 なぜ生まれるのか誰も解明できていないが、人間を襲う害獣であることには変わりなかった。


 その魔霊を討伐して生計を立てる冒険者が所属するギルドが決めた魔霊の討伐ランクがある。

 1から7まで存在する魔霊のランクでは、このサンドワームの討伐ランクは4だ。


 冒険者なりたての人間にはまず討伐できず、全滅するような相手。

 逃げることすらできずに食べられてしまうだろう。


 サンドワームは人間がアリを見るかのようにアルク達を見下ろしていた。ミミズがそのまま巨大化したような見た目の魔霊だ。

 全長は砂に埋まっていてわからないが、見える範囲の体長が三十メートルはあるその巨体。無数の牙を生やした口からはよだれを垂らし、空腹を知らせていた。


「てかウジ虫よりミジンコの方が小さくね?」

「……一撃でやりますよ、アルク様」

「無視すんなよ」


 華麗にアルクのツッコミを無視したニンフィとの会話のなか、バサっと二人同時に黒いマントを剥ぎ取り、その場に投げ捨てる。


 前分けの赤髪でゴツい黒のゴーグルを額に付けているのはアルクだ。

 視線を落とすと腰には様々な工具が入っている皮のベルトを装着しており、土作業で薄汚れたような衣服は魔霊の皮から作った特別製。服の中からはチラリと鍛えられた筋肉が見えた。

 ただ、元々あるはずの左腕の肘から先が欠損していることだけは全体のアンバランスさを否めない。


 そしてもう一人。

 艷やかな薄緑色のストレートの髪を胸辺りまで伸ばしているのはニンフィ。

 長いまつげに切れ長の目、人形のような小さな顔は誰しもが振り返ってしまうような美貌だ。

 彼女はこの砂漠地帯でもなぜか分厚いメイド服姿で、長丈のスカートを靡かせながら、顔色一つ変えない涼やかな表情はどこか機械じみている。

 凶器とも思えるほどの双丘がこれでもかと主張しており、今にもメイド服の胸部を突き破らんとしているが、それ以外はスマートで理想的体型だ。そして彼女の一番の特徴とも言える長い耳をピクピクと動かし、レーダーのように相手の音を拾っていた。


「では、行きますよ」

「おうよ!」


 アルクは額にかけていたゴーグルを下ろし、両眼に装着。

 それと同時にニンフィが両手を前に突き出した。


変形魔法(ディフォーメーション)


 ニンフィが囁くように言葉を紡ぐと両手に白い光が灯る。

 はじめは小さな光だったが、みるみるうちにニンフィの体全体を飲み込むように大きくなる。


 体全てを光が包み込んだかと思いきや、急激に光が収束。

 次の瞬間にはその場からニンフィの姿が消え、小さな光の球が宙に浮かんでいた。


「――大地に巡りし母なる力、神の意志に従い我が(かいな)となれ! トランスアーム(変腕)!」


 肘から先がない左腕を突き出して詠唱。

 すると光球がアルクの左腕へと移動して収まり、一瞬のうちに鉛色で機械のようなゴツい腕に成り代わった。


「――アルク様、大事な私の体です。丁重に扱ってください」

「わかってる!」


 この間、十秒。

 次々と涎を熱い砂の地面にこぼしていたサンドワームがアルク達をエサと見定めて急降下した。


 アルクは右手でゴーグルの端にあるネジに触れる。するとズームされたように視界が拡大される。

 そしてサンドワームの大口をゴーグル越しに見定め――、


「――ソリ・カル・インフュ・プロチェ・デイ・ゲヘナ!」


 再び詠唱。すると機械じみた左腕が急激に光り出し、赤く燃え上がる。

 地獄の業火のような灼熱色に輝く腕。その温度がみるみるうちに上昇していく。

 そして、ついには白炎色を通り越し青炎色となり神の魂熱(こんねつ)へと達する。


「いくぜ! ーーヘル(地獄)フル・ブラスト(の魂熱拳)ォォォ!!」


 空へ向かって一振り。

 アルクは渾身の力を込めて、サンドワームに向かって左腕を振った。


 すると、拳の先端から発射された閃光のような青白く太い熱線が大口を開けたサンドワームに直撃。

 神の魂熱がサンドワームの口から喉を貫き、そのまま熱が体全体まで伝播。舞っていた砂ごと焼き尽くし――全てを無に帰した。


 消えたサンドワームの場所にふわっと魔素の光の粒子が一瞬だけ残り、そのまま宙に消えていった。



「一撃必殺……決まったぜ」



 ゴーグルを額に戻し、ドヤ顔で立ち尽くすアルク。

 すると、シュゥゥという音を立てながらアルクの左腕が光り、その光がニンフィの体を再構成していく。


「どうよ、ニンフィ!」

「…………そろそろ子供の戯言のような詠唱はやめませんか? どうせ言っても意味ないんですから」

「お、お前! 言ってはいけないことを! カッコいい詠唱と必殺技の名前は全人類の夢……男のロマンなんだよ! これでもちゃんと意味も調べてつけたんだぞ!」


 再び砂漠に立ったニンフィに痛いところを突かれ、アルクは子供のように言い訳を並べる。

 実際、最初から最後までアルクが一言も喋らずとも終われた戦いだった。アルクには詠唱は必要ない。なぜなら彼は魔法を使えないから。詠唱が必要なのは魔法を使う人のみなのだ。


「無駄詠唱中に攻撃されたらどうするんですか?」

「無駄……その時は逃げ回りながら詠唱すんだよ!」

「ダサっ……いつになったら大人になるのやら……」

「歳を取らねぇヒューマノイドに言われたくねー!」


 ヒューマノイド。それは人の形を模した機械。

 アルクはニンフィのことをそう言い切った。


 ヒューマノイドは機械であるために見た目に変化がないとされている。

 見た目は人間同様なのだが、それ故にこのアルクの言い方は暴言であり差別である。

 そしてそんな言葉を見逃さないのがニンフィだった。


「あら、それはヒューマノイドに対しての侮辱と捉えていいですか? いいですよね?」

「おい、やめろ。すまん。俺が悪かった」

「従者としてお仕置きしなくてはいけません。アルク様を私に任せてくれた旦那様と奥様に顔向けできませんから」

「おい……おいっ! あーだだだだだっ!?」


 ニンフィが右手でアルクの残っているたった一つの右腕を掴み、途轍もない力で折りにかかる。


「私の魔法で治せるから良いじゃないですか。壊したらまた治して、その口の利き方が直るまで腕を折りましょう」

「悪いっ! 悪かった! もう侮辱しねぇ! 俺はヒューマノイド様であるニンフィ様を尊敬しています!」

「…………ふむ。わかればよろしい」


 ニンフィは魔法で治せるとは言ったが、欠損している左腕までは治せない。

 魔法は万能ではないのだ。

 切り離された部位があればくっつけたりして治療できるが、部位そのものがこの世から消えさってしまった場合は魔法でも治せないのだ。


「いてぇよぉ……なんでお前こんなに力強いんだよぉ……」

「私はあなたが小さい頃からずっと面倒をみてきましたから。大人の方が力は強いに決まってるでしょう?」

「理屈になってねえだろ……それはそうと、水出してくれないか?」


 サンドワームと戦う前からアルクは喉がカラカラだった。

 元々二人は水筒なんてものは持ってきてはおらず、水分補給は魔法が使えるニンフィの役目だった。


「それは無理です。先程の変形魔法で魔力を使い果たしましたから」

「うそ、だろ……」


 魔法を使うには、それぞれ人間の体内に存在するマナ・ソースを魔力に変換、それを体外に放出することで魔法が使える仕組みだ。


「アルク様の命はここまでのようですね。合掌。死因は脱水症状の衰弱死……と。脳内メモに記録しておきました」

「お前ぇぇ!?」


 ニンフィは両手を合わせて死にゆくアルクに祈りを捧げる。その姿は教会のシスターのように純朴で――、


「うそです。使えますよ。私の魔力が枯渇したところを見たことがありますか? 本当にアルク様は私がいないと何にもできない子供ですね」

「はいはい子供ですよーだ。意味もない詠唱にこだわってるアホですよーだ」

水魔法(アクア)


 アルクの不貞腐れた態度を見ながらニンフィが右手をかざすと掌から綺麗な水がじょぼじょぼと噴出。

 その場で口を開けたアルクが水を喉に通していく。


「あぁぁぁうんめぇ。生き返る……んぶ、んぼぼぼぼぼっ!? 死ぬ! 死ぬってバカ!」


 大量の水がアルクの口を襲い、衰弱死どころか溺死しそうな勢いだった。

 アルクは水の中でもがきながら必死に顔を動かし水の射線から逃れた。


「ニンフィっ!」

「あら、水が欲しいとおっしゃったので」

「もうボケはいらねえんだよ! 視聴者もしつけえって言ってんだよ!」

「そうですか……」

「いや、落ち込みすぎだろ……」


 表情に変化はないが、言葉尻からしょぼんとしたように聞こえた。

 ただ、アルクもこれは演技だとわかっている。


 ニンフィはアルクが生まれた時からこれまで、十七年の長い付き合いだ。

 言葉の裏を読み取るくらいは簡単なのだ。


「まあ、とにかく言い過ぎたって。次は適度に水をくれ」

「仰せのままに……」


 全身びしょ濡れになったアルクは立ち上がり、再び黒いマントを羽織る。

 同時にニンフィも落ちたマントを拾って羽織った。


「さぁ〜て。目指すは砂漠地帯の古代遺跡! フラグメントを探しに行くぞ!」


 二人は再び目的地に向かって砂漠を突き進む。






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