再会に寄せる風
シャーディンの港町は、潮の香りと海鳥の鳴き声に満ちた大きな町だった。広い港には大小さまざまな船が停泊して波間に揺られ、船乗りや商人たちが忙しくなく動き回っている。そこを少し離れれば賑やかな市が華やぎ、食料や日用品、武具や、珍しい異国の品々まであらゆるものが溢れていた。ユリアなどはついつい目を奪われて、たびたび透夜に袖を引かれてしまったほどだ。そうして彼らは、ピユラの風の案内に連れられて、その市場を抜けていった。
そして市場の先、海洋の女神を祭る壮麗な神殿の前で、その人は待っていた。
早朝の祈りを捧げに行き交う商人や船乗りたちに紛れるように、けれど、見る者が見ればやや異なる雰囲気を纏って、明るい赤茶の髪の長身の男は、階段に腰を下ろしていた。近づく四人に気づき、立ち上がる。
「――こんな形の再会になるとは、思わなかったな」
「そうだな。だが、まぁ……想定よりはいい」
微笑む兄に、少しばかりその弟は視線を逸らして答える。その相変わらずの仕草を優しい眼差しで見つめて、伽月はユリアたち三人へも笑いかけた。
「初めまして、に――お久しぶり、でもいいかな? 挨拶もそこそこで悪いが、宿にはすでにいくつか部屋をとってある。ここで話すよりもそちらの方が落ち着くだろう? 行こう」
「助かる。よろしくな」
蒼珠の言葉に穏やかな笑顔で応じ、伽月は先導をきって歩き始めた。似ぬ兄弟じゃ、と思わず漏れたらしいピユラの呟きに、ユリアはただ笑みをたたえ、行こうと彼女の手を引いた。
海へと吹き寄せる風が、ふたりの長い髪と裾びく服の端をはためかせる。頬を冷たく打つ冬の風だが、清々しく心地いい。神殿にそびえる高い塔から差す朝陽が、眩く白磁の石畳の上で踊り、それを縫うように駆けて、彼女たちは男らの背を追った。
そんな一行の後ろ姿へ、光のかけらを散らすように、海への流れに逆らうように、風が低く吹き寄せた。まるで意志を持つかのごとく、密やかに、忍びながら――。けれど、そのことにはピユラさえも気づかぬまま、一同はその風と共に、街の中央部へある宿へと向かっていった。




