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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
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無貌にして不惑

 かつての北方と中央の国境、山肌にへばりつくような小さな盆地にある旧要塞都市、エピクラデゴルファ。

 その都市をぐるりと囲む城壁の石垣を遥か下に眺め、春の日差しに照らされながらマリアは腕組みしながら長椅子に寝そべるような姿勢で、プカプカ浮いている。

 急峻な山脈と崖に囲まれ、アクセスは南北に延びる主要幹線道路と高速鉄道路線のみ、と人やモノの出入りが把握しやすい、関所のようなこの都市は、要塞の役目を終えて後、アイエルベルネの管理下で観光都市として発展してきた。それ故に、極東の石机地区ほどではないが、北大陸でも抜群の治安を誇る。

 特に本日はVIP来訪ということで、上空も小型グライダを駆る天龍族の精鋭が何名か警邏している。最近物騒な事件が多発しているので、警備体制も手厚い。アイエルベルネの威信にかけても、というところだろう。

 装甲列車がエピクラデゴルファに到着する前、いってきまぁす、と特殊車両から抜け出したマリアは、教会警備隊の邪魔をしてはいけないな、と超高高度の上空まで移動する。

 地上は、教会警備隊の精鋭が配備され、ゲンマとエリアーナもいる。本来なら心配することもないのだが、マリアは上空から、長距離弾道弾などによる大規模破壊や、その他思いもかけない攻撃を警戒している。念のためだ。

 そして、プカプカ上空に浮かぶ姿は、見た目は呑気そうだが、マリアは先程から、都市周辺に不審な人物がいないか広範囲で監視している。

 地上でも出来ないことは無いのだが、都市全域を見るのは上空からのほうが容易だ。マリアには現在、エピクラデゴルファにいる158,452人全て、の動向が把握できている。

 かつて何故そんなことができるのか?と問われた際には、さぁ?としか答えられなかった。

だってできるんだからしょうがないじゃん。

何故、目で物が見えるの?と問われても答えられないでしょ?

と、ブーたれると、テンマはうーん、と唸って黙ったが、博士は徐に淀みなくスラスラと話し出す。

「まずは」

「物が見える、とはどういうことか、から確認しようか」

と、その後、30分以上、物理学、生物学などの観点から滔々と語る博士に、もう分かりましたゴメンナサイとマリアが頭を下げるまで講義は続いた。

 そんな博士からは、マリアの索敵は「生体回路(サーキット)」を見ている、と指摘された。

もう少し正確に言うと「正粒子が通って活性化している経路」を感知している、そうだ。

そう言われるとそうか、と思う。

 認識できるのは生物のみ、で無機物は感知できない。生物でも死んだものは感知できない。死ぬと生体回路(サーキット)は機能しなくなるからだ。

 人の生体回路(サーキット)は個体別に各々異なる特徴を持つ。しかも指紋のようなもので生涯大きな変化は無い。遠距離からの個人識別にも利用できるわけだ。しかもマリアは一度見て、ヨシ覚えよう、と思った各人の生体回路(サーキット)のパターンは忘れない。

 今現在で教会警備隊や中央軍(セントラル・フォース)のメンバ、政府高官、凶悪な犯罪者など10万人以上覚えているのだが、忘れそうな気配は無い。

 こんなに記憶力が良くなってるなら、もう少し数学や物理がデキるようになっても良さそうなものだが、そうはならないのは不思議だ。

博士曰く

生体回路(サーキット)によって脳の活性化される部位が異なるからね」とのこと

「マリア君のように、同時に何万もの生体位置情報を把握、識別するなどというのは、超高性能のコンピュータを備えた専用の設備でなければ本来はできないことだ」

私には想像もつかない、と博士

「モチはモチ屋ってやつよ」と、マリアをナデナデするテンマ。

適材適所ってことかぁ、と納得するマリア。

テンマや博士のような能力を得たとしても、同じように振る舞えるとは到底思えない。

ましてコバリのように将来この世界を統治しよう、などと思いもよらない。

一方、特に深く物事を考えてなさそうなアズマはナカマだと認識している。

いつか、コバリの許可を得て、処女を捧げよう、と思っているぐらいだ。


相変わらずプカプカ浮きながら、少し監視範囲を広げる。

 城壁の外、都市周辺の荒地や森にはほぼ人影はない。ポツポツと3~4人組で移動しているのは、周辺を警戒中の教会警備隊だ。

一見、何事も起こらなそうだが、油断大敵だ。


あの夜、教会本部の奥、テンマの部屋でミロクに言われた事を思い出す。

「私の事、索敵で発見できないでしょ?」

椅子からピョンと飛び降り、マリアへ近付くミロク

ちょっと緊張して畏まるマリア

「そうですね」

その膝上に、軽やかに飛び乗るミロク

「こんな風に見て、触れるのにね」

背凭れかのようにマリアの胸にポスンと頭を預ける

膝上には見た目相応の重み。フワフワの髪からはフルーティな香りがする。

でも、ヒトではない。

何故なら、生体回路(サーキット)が無いからだ。

普段からヒトを生体回路(サーキット)で見分けるのが常となっているマリアからすれば、強烈な違和感だ。

ちょっと緊張気味で固まるマリアの膝上から、ヒョイと飛び降り、一同を見回すミロク。

「気を付けて」

「たぶんアイツも同様の形態で現れる」


 まぁ、生体回路(サーキット)が無かろうが、目視で確認できるし触れる相手だ、マリアにとって深刻な脅威というワケでもない。テンマとミロクからは、

「もしそんなモノを発見したら」

「報告の必要はない」

「躊躇なく潰せ」

と命令されている。

どうせ、捕まえられないからね、とのことだ。


マリアが上空でプカプカ浮いている間、

すでに時刻はお昼過ぎ、下ではランチが終わってのんびりしているようだ。


ライラちゃんを唆して、アズマさんと3人で、ってのもいいなぁ、グヘヘェ

と、エロい妄想に浸っていたから、というよりは主に地上に意識を集中していたため、

上空の異変に対して、若干、反応が遅れる。

 すでに高高度の上空にいるマリアのさらに上、ごく小さなものだが、青白い火球のようなものが急に出現する。周囲からの飛来物は無かったが、成層圏外からの攻撃かもしれない、とマリアは即座に臨戦態勢になりノータイムで移動する。


その間、およそ0.6秒、マリアの意識が地上から離れる。




常々、コバリからは、

こういう場合は、嘘をつく必要はない。

知っていることを包み隠さず話しても構わない、と、言われている。

つまり、アズマには開示しても問題ない情報のみ伝えている、ということだ。

 例えば、先日の人工衛星に関しても、既に十機以上打ち上げているのだが、何のためのものなのか詳細について、アズマは知らない。

 ひょっとしたら情報操作のため、嘘を吹き込まれている可能性もあるな、とも思っているが、ま、それはそれで、と特に気にしていない。

 ということで、隣に座る人類殲滅を宣言する少女、というか少女の形をした何か、と話していても、情報の取捨選択を気にしなくても良いので、意外とリラックスしている。

折角なので、素朴な疑問を問うてみる

「何故、人類を殲滅するのですか?」


「人は皆、いつかは死ぬだろう?」

「そうですね」

 この世界においては、テンマや博士が体現しているように、コバリやアズマ達、稀人は途轍もなく長生きするようだが、不死ではない。

「自分の周囲の人間が先立つと、寂しくて悲しいよね?」

「そうですね」

「愛する人や家族、友達」

相変わらず上機嫌で、脚をブラブラする少女。

「そして自分の子供、じゃなくても、幼子が理不尽に死んでいく姿を見るのは居たたまれないだろ?」

 アズマの脳裏に、ライラと乳児園の子供達の姿が浮かぶ。もしあの子らに何かあったら、と想像しただけで、頭の中がジリジリと焼け付くような感覚に襲われる。

「そんな全人類が潜在的に抱えている、永遠に続く悲しみを解決するには、どうするか?」

隣のアズマにニッコリと微笑む

「そ」

「全ての人を一斉に滅すれば良い」

イヤ、そんなドヤ顔されても、とアズマ。

「なるほど」話しながら、考えを巡らす。

「そういう考え方もあるのかもしれません」

様々な角度から反論は可能だが、ま、とりあえず

「でも例えば」

「俺がこの場で殺されるとして」

イヤ、だから殺さないって、と呆れ顔の少女

「俺が死んだ後に、何が起ころうと不可知、じゃないですか」

「そうだねぇ」

死んでるからねぇ、とゆっくり下からアズマをねめつける。

「それって」

「人類殲滅とか目指すぐらいなら、お前が死ねばいいんじゃない、ってコト?」

「そうです」ペコリと頭を下げるアズマ

「世界が理不尽に満ちていて、自分の思い通りに変えることができないなら、自己を滅して、その状況から逃げる、というのは」

「あまり健全な思考とは言えないな」

ごもっともだ、が、人類殲滅を目指すヤツに諭されるのはなんかアレだな、と思うアズマ。

「一見して、達成不可能と思えるような目標に対しては」

「まずは達成できそうな小目標を設定し、具体的に何を、いつまでに、どれだけ達成すればよいのか明確に示し、現状と目標の差異を把握、その差異を埋めるための行動目標を立て、進捗管理し、不具合があるなら修正しながら、目標達成のため、皆で努力しなければね」

そうだろう?と同意を促す少女。

うん、まぁ、目標が人類殲滅でなければね。


隣に座るモノは、姿形こそ可憐な少女だが、やはりその中身は全然別物だ。

明確な目標と、確固たる意志を持つ、冷静で頭の切れる指導者。

逆に質が悪い。

「人類殲滅とか」アズマは別角度から問うてみる。

「いろいろ面倒ではないですか?」

水面下ではいろいろ工作してるんでしょ?という含みのある質問だ。

「そうだね、面倒だ」

腕組みして俯き、フーっと溜息をつく少女

最早、少女っぽさを醸し出そう、という気は全くないようだ。

「教会警備隊や中央軍(セントラル・フォース)の組織や装備は300年前とは比べ物にならないし」

「テンマとイリヤに加え、世界最高の頭脳と、世界最強、まで揃っている」

「時間を止める、とかいう相手に、勝てる気がしない」

何か愚痴ってる。嘘くせぇ。と思いながらも無表情のアズマ

「せめて君がこちら側なら」

「まだ勝負になるのかもしれないが」

イヤイヤ、と肩を竦めるアズマ

「俺なんて、マリアに瞬殺されて終わり、ですよ」

敵対すれば容赦はしないだろう、マリアというより、コバリが、だ。

「そこはボクがうまくやるさ」ニヤリと不敵に微笑む少女

「君のように強大な重力操作の能力があれば、いくらでも策は立てられる」

そーかなぁ、と頭をひねるアズマ。生憎と妙案はすぐには浮かばない。何しろ相手は「時間を止める」のだ。

「さっきも言ったけど」

「マリア・クシナダは最強ではあるが万能ではない」

 ピョンとベンチから飛び降り、ひらりとスカートを翻してアズマに相対し、優雅の会釈する。

「今だって、敵陣真っただ中で、こうして最重要人物とサシで会話できている」

確かにな、

とはいえ、実は今のこの状況はコバリの想定内だ。

先程、食事の後、図書室へ向かう前にコバリがコッソリ、指示してきた。

-庭に出たら、1人になれ

何のことかわからなかったが、こうゆう事態を想定していたのか。

てゆうか、俺が襲われてもいいや、ぐらいに考えてたのか、あの野郎。


「アズマは」

真っすぐこちらを見つめる少女

「違う世界から来たのだろう?」

「そうですね」

全く関係ない世界、というわけではないようだが、ここでそれ言うのもややこしいな、と割愛。

「今のこの世界をどう思う?」

少し戸惑うアズマ

「どう、とは?」


少女はアズマの問いには答えず、身を翻し、再度ベンチに腰掛け、遠くを見つめる。

「人類が全て、いなくなった後」

「ボクは1人、この星に立つ」

決然とした、という表現がピッタリだな、と思いつつ

アズマは問わずにはいられない

「その先に」

「何があるというのですか?」

フッと微笑み、少女が口を開きかけた、

その次の瞬間


ドスンッ!と凄まじい轟音とともに、地面が揺れる。

アズマの腰掛けるベンチの半分、さっきまで少女が居た場所、を含む半径5mのエリアがまるで重機で均されたようにペシャンコになっている。

 濛々と土煙が立ち上る中、周囲の風で揺らぐ木々や小川のせせらぎが聞こえる。超加速状態が解除されたようだ。

 衝撃でベンチから飛ばされたアズマはすかさず、自身の最大加速状態に入り、受け身を取る。

 潰されたエリアを確認すると、一瞬、腕組み仁王立ちで周囲を睨むマリアが見えた、が、マリアはすぐに姿を消す。おそらく周辺の警戒だろう。

 場内には警報が鳴り響き、テラスから一足飛びでゲンマとエリアーナがこちらへ向かってくるのが見える。その後ろにはコバリの姿もある。

「アズマ!」

コバリが呼んでいるので、加速状態を解き半壊したベンチの脇に立つ。

アズマの無事を確認し、ゲンマとエリアーナは銃を構えて抜かりなく周囲を警戒している。

その脇をスタスタとすり抜け、コバリはアズマの目の前で立ち止まり、低い声で尋ねる。

「来たのか?」何が、とは訊かない。

「まあな」と、端的に答える。

場内に警報が鳴り響く中、周囲を警戒しながら教会警備隊の一団がこちらに向かって来る。

 そして上空には、はっきり確認できる高度まで降りてきた天龍族のグライダ部隊が頭上をグルグル旋回して哨戒している。

 すると、いつの間にか重武装仕様の制服を着用したマリアが、ゲンマ達の背後に現れる。

そこに、コバリを追ってきたリーンも合流する。

「これは、一体…」円形に凹んだ庭を見て絶句するリーン

「ああ」マリアが落ち着き払って前に出る

「申し訳ない、これは私だ」平らに均されたエリアを指差す

「外敵を排除するため、緊急攻撃で対処しました」

 お久しぶりです、とリーンにペコリと頭を下げるマリア。畏まって最敬礼するリーン

「マリア」コバリが声を掛けると、マリアは小さく頷く。

「支部長、ゲンマ、エリアーナ」鋭く緊張感のある声

「ハッ!」リーン、ゲンマとエリアーナはすぐさまマリアに敬礼

「指揮権を発動します」

「この件に関しては第28特別規定により、一切非公開になります」

型通りの宣言を終えて、今後の指示をするマリア。

「ゲンマとエリアーナはコバリさんとアズマさんを屋内の安全な場所へ案内して」

「お怪我はありませんか?」ゲンマがアズマに確認する

「ああ、大丈夫です」

こちらへどうぞ、とアズマに気遣いながら先導するゲンマとエリアーナ

マリアは矢継ぎ早にリーンに指示を出す。

北方地区の教会警備隊、鉄道警備隊へ連絡、警戒レベルを最高ランクまで引き上げる事。高速鉄道で直ちにトニトルサへ移動するため、鉄路の安全確認を速やかに行う事。

現場を保存、何かしらの痕跡がないか確認する事、などなど

「監視カメラ、あったわね」

「はい、この邸内全域、死角なくカバーしています」

「確認します、準備して」

と、マリアは担当の警備隊員を連れ集中管理室へ向かう。リーンも各所へ連絡、指示するため支部長室へ。マリアが「もういい」と指示し、警報は一旦停止する。


教会警備隊支部の最奥にあるシェルタ兼用の応接室にコバリとアズマは落ち着く。

 ゲンマとエリアーナは室外で警戒に当たる。2人きりになったところで、お疲れお疲れ、とコバリがアズマにお茶を給仕してくれる。

「こうなるって分かってたのか?」ジロリとコバリを睨むアズマ

「まさか」品良くお茶を嗜むコバリ

「可能性はあるかな、ぐらいね」

本当かぁ、と思いつつも、とりあえずお茶をいただき、ホッと息つくアズマ

「さあさあ」ちょっとテンション高めでコバリが詰め寄る

「何があったか話して」

えーっと、頭の中を整理して話し出そうとするアズマがふと、気付く

「あ」

「何?」

ゆっくりと顔を上げ、コバリを見つめるアズマ

「さっきまで、面と向かって話してたんだ」

「でも」

「ヤツの顔が全く思い出せない…」

眉を顰めるコバリ

「うーん」

「となると、覚えている会話の内容も、怪しいものね」

お互い、腕組みして、うーんと唸るコバリとアズマ

と、

「そうかぁ、困ったわね」

コバリとアズマはローテーブルを挟み向かい合って座っている。

その脇に設えられている一人掛けソファに、チョコンと座るのは、

栗毛色の巻毛ショート、小柄で華奢な色白少女。

こちらを見る瞳は鮮やかなアメジスト色。


「とりあえず覚えている事、確認しましょう」

ニコリと両名に微笑むミロク。

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