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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
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天気予報(ウェザー・リポート)

 エレベーターが動き出すと何となく皆が黙る、のは人の性だが、アズマ達は並んでちょっと上を見ながら、無言で通信を交わしている。

-さっき、アズマが色目を使ってた、黒髪の美女は…

-色目なんか使ってねぇし! 

-ジックリ睨め回してたッス、ケダモノッス!

-まぁ、アズマが実は年上の姐さんにXXXをXされたいドMなのは置いといて。

-そんな特殊な性癖を披露した覚えはねぇな!

-マリアは知ってるでしょうけど、「黒髪のエリアーナ」は、現在のところゲンマに次ぐ天龍族のナンバー2だ。

-なんてゆうか、能力的な意味でね。

-そッスね

-エリアーナは今は教会警備隊北方航空部隊の隊長ではあるけれど

-かつてはガレーネ・タウで、ゲンマの教育係だったみたいね

-ガレ?何?

また、聞いたことのない固有名詞だ、と、話の途中だが、エレベーターが最上階に到着。メタリックな扉がスラリと開く。

「どうぞこちらへ」とアルソスに促され、一同は管制塔の指令室へ。


 エレベーターから中へ進むと部屋の中央は一段高くなっており、いかにも司令官が腰掛けそうな椅子などが設えられているが、今は空席だ。正面は一面、大きな窓、高さは3m幅は10m以上ある分厚い一枚モノだ。その前には大きなモニタが設置されているデスクが左右に3列ほど並び、数人のオペレータが何か交信したり、モニタの数値などを確認している。

 一行に気付いたオペレータが立ち上がりかけるが、アルソスが「そのまま続けて」と身振りで指示する。

 フロアの真ん中を進み、コバリを先頭に一同、正面の窓際に並び周囲を見下ろす。

周囲は切り立った壁のような白い岩肌がぐるりと囲む。眼下には擂鉢状の空間が広がるが、半径100mぐらいだろうか、スッポリと大きな円形の蓋をされているようになっており、ちょうどその中央に鈍い金属光沢を放つ、打ち上げ用の塔が煙突のように聳え立つ。

 塔の高さは50mほど、ちょうど目の前に打ち上げ塔の先端がある。指令室から下を覗き込むと切り立つ崖が「蓋」まで続く。結構な落差だ。昔は、さすがにこの高さではちょっとビビッていたが、空を飛べるようになった今では何とも思わない。何にでも慣れるものなんだな、人は、と思うアズマ。

「ここはかつて採石場だった」と正面に見える山肌を指差すコバリ

「硬い良質な石材が採取できたので、建築資材として重宝されたようね」

 確かに、切り立つ岩肌は柱状に削られている、明らかに人為的なものだ。なるほどねぇ、と納得するアズマ。

 建築の主流が混凝土になっていった為、数十年前に閉鎖され放置されていた土地だが、その強固な地盤、人里から離れた開けた空間、と衛星打ち上げ用施設にちょうど良い条件が揃っていた。

「あの中央の塔から、衛星は打ち上げられる」と正面を見据えるコバリ

打ち上げ、と言ってもジェットエンジンで、ということではないと、先日、コバリから説明されている。

『お察しの通り、重力を相殺するだけ、では人工衛星はフワフワと浮くだけだ』

『そして重力操作の効果が切れると、当たり前だが落ちる』

ヒューと落ちる様を、自分の握り拳を用いたジェスチャーで示すコバリ。

『ということで、衛星が落ちてこないよう、ある程度の初速で撃ち出す必要がある』

どうやって?

『アンタも飛ぶ時にはやってるでしょ』

コバリは自分の掌の上で、ピューっと小さな竜巻を作ってみせる。

『気圧を操作する』


 打ち上げ塔の周囲を覆う「蓋」のエリアは極超高気圧にして、地下のパラボラ状の構造を通し、中心の塔へ一気に空気を流す。そして打ち上げ塔のエリアは極超低気圧にし、強烈な上昇気流を発生させる。その気流に乗せ衛星のシェルを上空へと吹っ飛ばす。

 上から良く見ると「蓋」には全面を覆う螺旋状のミゾに沿って、細かい吸気用の穴が無数に開いている。穴の形状、配置など綿密に計算されて設計されているのであろうが、ここでそれを訊くと長くなりそうだな、と思い止まるアズマ。後でマレッサにでも訊いてみよう。

 こちらから見て打ち上げ塔を挟み反対側の岩肌の此処より若干低い位置に、サブの管制塔がある。今日は試験がメインなので、打ち上げのオペレーションはそちらの指令室から行うらしい。

 一同は中央の一段高いエリア後方に設えられている、大きめな楕円形のテーブルの周りに配置されている簡素な椅子に腰掛け一旦落ち着く。低いパーティションで区切られているこのエリアは、通常はちょっとした打ち合わせ用だ。

 テーブル脇には4台の大型ディスプレイがあり、アルソスはその前に立つ。それと相対するように博士、コバリ、アズマが腰掛ける。マリアは少し離れた後方に腕組み仁王立ちだ。ディスプレイを指差すアルソス。

「もう既に、下では気圧操作を始めています」

打ち上げ台を横から見た構造図に、各所の気圧、風速などが表示されている。

蓋周辺の気圧がグンッと上がり、打ち上げ台の気圧が下がっていく。

「まずは、1発打ち上げて」

 先程見た、打ち上げ用シェルは既に打ち上げ台にセットされており、その周囲が徐々に隔壁で覆われていく様がモニタに映し出されている。

「データ確認後、今日は何発か上げます」

アズマに微笑みかけるアルソス

「そして明日には、アズマさんにもご協力していただきます」

よろしくお願いします、イヤイヤこちらこそ、と頭を下げるアルソスとアズマ

「ご存じの通り、衛星を静止軌道に乗せるためには第1宇宙速度まで加速する必要があります」

 これはさすがにアズマも知っている。地球の引力に逆らい、人工衛星を地球の周回軌道に乗せるための最低速度、約7.9km/秒。気圧操作だけで出せる速度ではない。

「衛星を搭載したシェルは、そのための推進用マシンも装備されるので、重量は本日のものとはケタ違いに重くなります」

アルソスがディスプレイに映し出された、小型ロケットのようなものを指し示す。

「そこまでの重量物、となると安定して上げられるのはアンタぐらい、ということね」

コバリがアズマにフッと微笑む。なんか企んでそうでコワイ。

「わざわざ推進装置を着けなくとも」アルソスがニッと、今度はマリアに微笑む

「マリア殿がブン殴れば、7.9km/秒以上の速さで吹っ飛んでいくかもですがね」

 それって殴った瞬間、爆散するんじゃないの、と思うアズマ。無論、その程度の事はアルソスも承知の上だ。

「今現在は技術的な課題がありますが」マリアにペコリと頭を下げるアルソス

「そのうち、改めてご相談させて下さい」

マリアは腕組みのまま、ちょっと肩を竦めて微笑む。

「マリア君の協力については」

中央軍(セントラル・フォース)との調整もあるので、後程、相談しよう」と博士

 稀人、特に世界最強と称されるマリア・クシナダの能力については、ほぼ未開示だ。何をどこまでできるのか、何故そんなことができるのか、正確に把握しているのはテンマと博士のみ。コバリも把握している可能性はあるが、それについてアズマは関知しない事にしているので、よくは分からない。逆にそんな最重要機密、教えて欲しくは無い。アズマは只々、静かに暮らしたいのだ。

 一方、中央技術研究所の研究者、特に主席クラス、からは、少し位教えてくれてもいいんじゃないのかなぁという意見もある。マリアの強大な力を今後の科学技術発展のために活かしたい、という建前だが、要は知的好奇心が旺盛なのだ。

 とはいえ、博士に諫められればゴリ押しはしない。博士の言葉は絶対なのだ。

「ご検討、宜しくお願い致します」

 そんなことを話している間にも、打ち上げ準備は着々と進められていく。司令塔の外、打ち上げ台周辺は、気圧差による暴風が吹き荒れる。

 モニタに表示されている風速や気圧もほぼ予定通りの水準に達したようで、打ち上げ準備OK、オールグリーンの声が司令室内に響く。

「さて」アルソスがペロリと唇を舐める

「そろそろ第一弾、発射です」

モニタに映し出されている打ち上げ用シェルが暴風に煽られ小刻みに揺れているが、これは想定内。特に問題ない。打ち上げ台の上部の隔壁が開く。

カウントダウンが始まる。

「30秒前!」

直接、打ち上げ見ましょう、とアルソスを先頭に窓際へ移動する一行。

「10秒前!9!8!……」

 アズマとマリアは身を乗り出し、窓にへばり付くようにして外を眺める。「蓋」の周りには渦巻き状の暴風、分厚いガラス越しにもゴウゴウと風の音が響く。

「3!2!1!、発射」




「気象観測衛星を打ち上げれば天気予報の精度は格段に上がる」

「そして台風や集中豪雨による災害を事前に予測できれば、被害を最小限にするよう、対応策を立てることは可能だ」

円卓上のカップをソーサーごと持ち上げ、お茶を一口啜るコバリ

「とはいえ、災害は起こる」

「来るのがわかっていても避けられないからね」

町ごと引っ越すってワケにもいかないしね、とコバリ。

そうだなぁ、そッスねぇ、と頷くアズマとマリア。

「長期間の干ばつ、なんかもそうね」


「んーーでも」腕組みし小首を傾げるマリア

「天龍族は、昔は紅天龍に雨乞いしてたみたいじゃないッスか」

「そうね」

「今はそんなことしないけどね」

そうなんスか? そうね、とコバリ


「基本的に天龍は局地的な低気圧とともにある、と言っていいでしょう」

あの巨体を飛ばすために、気圧操作は必須だ。

「龍の周囲に雨が降るのは確かだ、けど範囲は知れてるわ」

それに、と続けるコバリ

「もともと龍の棲む北方山岳地域は、雨量が多く干ばつとは、ほぼ無縁の地だ」

 雨乞い、は必要に迫られて、というよりは天龍族の儀式的な意味合いが強いものだった。とコバリ。

お祭りみたいなもんだったのかなぁ、そうなんスカねぇ、とアズマとマリア


「雨乞い、といえば」


「20世紀初頭、アメリカに『レインメーカー』と呼ばれた男がいた」

「21世紀の日本にも、いるぜ、レインメーカー」

 右腕をブンッとラリアット的に振るアズマ

「それは、雨は雨でもカネの雨、でしょ?」そうじゃねぇよ、とコバリ

「チャールズ・ハットフィールドは人工的に雨を降らせる技術の開発を始め、4年の歳月をかけ降雨方法を確立、レインメーカーというビジネスを始める」

「嘘くせぇ」

「嘘くせぇッス!」

「そう思うでしょ?」フッと微笑むコバリ

「ところが、実際、雨は降った」

えーマジかよ、と眉を顰めるアズマとマリア

「彼は見事に雨を降らせることに成功、その後、彼の噂はアメリカ中に広がり、雨を降らせることを『ハットフィーリング』と呼ぶ造語まで誕生したらしいわ」

相変わらず訝し気な表情でアズマ

「で、どんな方法なんだ?」

それが真っ当なやり方なら、21世紀にもその技術が伝承していないとおかしいのでは?

と、至極もっともな問いだ。

まぁ、慌てんな、とコバリ

「順風満帆だったハットフィールド氏だが、1916年に残念な出来事が発生する」

その年、サンディエゴは大干ばつに襲われ、何とか雨を降らせて欲しいと彼に人工降雨の依頼が舞い込む。見事成功させたハットフィールド氏だったが、今度は雨を止められず、サンディエゴには1ヶ月以上も雨が降り続いた。

それにより、3つのダムが決壊する大洪水を引き起こしてしまう。

その後、『サンディエゴを大洪水にした張本人』として彼は裁判にかけられることになるが、当時の裁判官は『科学的に雨を降らせたのではなく偶発的におきた自然災害』として判断し、無罪の判決を下す。

無罪放免は幸いだったが、自身の技術を法的に否定されたことで、失意のハットフィールド氏は人工降雨の技術を封印。以後その技術が伝承されること無く、1958年に83歳で死去。

彼は人工降雨技術の秘密を墓の中まで持ってった、とさ。

めでたしめでたし風に話を終えるコバリ

エーーッと、不満たらたらのアズマとマリア

「結局、わからんのかい!」

「そうね」

「伝聞によれば、地上約6m程の櫓を組みたて、その上から薬品を調合、空中散布して雨雲を発生させ、雨を降らせる、という方法だったようね」

「なんかそんな方法あったよなぁ」と眉を寄せるアズマ

そうなんスか?とお茶を啜るマリア。すでに考えるのを止めたようだ。

「ヨウ化銀を気化させて、その煙を散布する方法は20世紀では実用レベルだった」

「でも、基本的にヒコーキで上空から散布していた」

「たかだか6mの高度から散布した化学物質が天候に影響を及ぼすとは考えづらい」

ほな、違うかぁ、と、M1チャンプの漫才師のように嘆息するアズマ。


「ヨウ化銀で雨が降るのですか?」

コバリ達が屯してお茶している円形のテーブルとソファに、マレッサがお茶請けのお菓子を給仕してくれる。普段はコバリ達の会話に口をはさむことは無いのだが、今は知的好奇心に抗えず、つい質問するマレッサ。

「そうね」振り向き、マレッサに微笑むコバリ

「何故かしら?」

菓子盆をテーブルに置き、皆様どうぞ、と勧めた後、ちょっと考えるマレッサ

「雲の中に散布する、というような事でしょうか?」

「そうね、基本的にはね」

一方その間、能天気組は考えるのを止めているので、この焼き菓子美味しいなぁ、そっスねぇ、とマレッサが給仕してくれたお菓子をムシャムシャ頬張りながらお茶を楽しんでいる。

「でしたら凝結核として機能するということでしょうか」

「正解」あなたには簡単だったわね、と微笑むコバリ。

「氷と結晶構造が似ているのでね」

なるほど、勉強になります、とペコリと頭を下げるマレッサ。


それはそうと、と話を戻すアズマ

「そのハットなんちゃら氏は、どうやって雨を降らせたんだ?」

「詳細な状況が不明なので何とも言えない」肩を竦めるコバリ

でも、私なら、

「赤壁の七星檀の孔明に倣うかなぁ…」とコバリ

後方に控えるマレッサは勿論、三国志を知らないので「?」のようだが、文学少女を自称するマリアと、アズマは、まぁ、そうかもなぁと得心する。

「それでも問題は残る」

「20世紀初頭の天気予報はそんなに精度は高くは無かっただろう」

「でも、3世紀初頭で何とかなってたんだし…」

「でもそれは、歴史に残る天才軍師がいたからじゃないッスかね」

いずれにしろヒントは無いため、うーん、と揃って傾くアズマとマリア。そこへマレッサが控えめに

「その方が重力操作の生体回路(サーキット)持ちだった、ということはありませんか?」

と、この世界の人間なら当然そう考えるだろう、ということを訊いてきた。

それは無い、と反射的に答えそうになるアズマを、コバリが、まぁ待てという仕草で抑える。

「天候を操る、というほどの出力は、天龍ぐらいの存在でないと難しい」

「アズマさんならできるのでは?」小首を傾げるマレッサ

やったことねぇしな、できるんかな?と思案するアズマ。そんな本人に代わり

「できるでしょうね」と即答するコバリ。

「ただし、人型サイズの生体回路(サーキット)で、その規模の事象を引き起こすのは『この世界』でしかできない」

「そうなのですか」口元に手を当て考え込むマレッサ

「私からはこれ以上説明できない」マレッサに微笑むコバリ

「気になるようなら、博士に伺ってみてちょうだい」

稀人の能力については機密事項が多い、これ以上は何か支障があるのだろう。

と、承知いたしました、と会釈し引くマレッサ


 今現在、アズマたちは何処にいるのかというと、教会警備隊の特別仕様装甲列車の豪華な応接エリアで寛いでいる。ゲンマとエリアーナも同乗しているが、もちろん前後の車両で警戒中だ。マレッサは移動中のアテンダントとして自ら立候補し、お茶などサーブしてくれている。今は応接エリアの隅に畏まって待機中だ。

 今朝、中央を出発した列車はノンストップで北上中。目指すは北方、中心都市トニトルサと、更に奥、険しい山岳地帯に位置するガレーネ・タウ。

「そういえば」コバリに尋ねるアズマ

「ガレーネ・タウって?」

「ああ」

「正式な地名じゃないからね」知らないのも無理はないかな、とコバリ

「じゃあ何?」

「そうね」

「北方系の古語で言うと、一番近いのは」

「エピクラテシオン」

つい最近聞いたな、それ、とアズマ

「そ」

「龍の館、ね」



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