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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
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たぶんその夢は見ない

 窓から朝日が差し込み、小鳥のさえずりで目覚める。驚きのテンプレ牧場の朝。

ま、今まで牧場で目覚めたことなんて、無かったけどな!

と自分自身にツッコミつつ、ガバッとベッドから起きる。


 昨晩はコバリと久しぶり(?)にバカ話も交えながら、諸々駄弁って深夜まで盛り上がってしもた。正直眠い。

「まだ不明なことが沢山あるし、まずはやることも山積。明日から忙しくなるわよ!」

昨晩、去り際に、ニィッと笑いながら言ったコバリの台詞をボンヤリと思い出す。

寝る前にカーテン閉めたはずなんだけどなぁ、とボーっとしてると、

「オ・ハ・ヨ・ウ」

ベッドの足元からヌルッと金髪ツインテが顔を出す。ギャア!なんの妖怪じゃ貴様!

「おやおや、健全な男子たるもの、朝は下半身丸出し、が定番じゃないのかね、キミ」

おぉ、確かに昔はそんなこともあったな! て、うっさいわ!勝手に入ってくんなや!

メンゴメンゴと、ニヨニヨしながら手を振るコバリの後ろから、ひょっこり控え目にライラが顔を出す。

「おはようございます、アズマさん。朝食はいかがでしょうか?」

「あぁ、おはようライラ、もちろんいただくよ」

 ヘッという感じで見下ろすコバリを睨みつけながら、極力ジェントルメンな感じでライラに返答する。

 ライラは別に自由に部屋に入ってきてもらって構わんよ、ここは君達の家だし、可愛いから。

 いやぁ、昨晩、一応、諸々身体機能確認しようかとしたけど、思い止まって良かったわぁ。危ない危ない。


 お着替え手伝いますね!というライラの申し出は丁重に辞退し、寝巻からシンプルな部屋着に着替え、階段を降りてダイニングへ。

「おはようございます、アズマ」

 微笑みながら朝食の支度をするアルフ。そこにライラも加わる、コバリも戸惑うことなく流れるような仕草で、棚から食器を出し、配膳を始める。

 山盛りの野菜サラダに、ピタパンのようなもの、そしてアルフは、様々な種類の常備菜を小鉢に取り分けている。いろいろ挟んでいただくのだろう、きっと。

白い液体が入っているグラスピッチャーを運ぶコバリに尋ねる。

「牛乳?」「いや、ウシではないわね、羊乳かな」「ちなみにお肉の類もだいたい羊」

この家は教会直轄の牧場の中にあり、おもな家畜は羊、と昨晩聞いている。

少し我々の知ってる『羊』とは違うけどね、ま、見れば分かるわ、とも。

まぁ、肉の味もラムやマトンとも違ってたしね、見た目どんだけ違うんだろう。


皆が食卓についたところで、まずは立ち上がり、アルフとライラに深々と礼

「意識のない間、本当にお世話になりました。俺にできることがあれば、何でも手伝いますので、恩返しさせて下さい」

アルフもライラも、いえいえそんな、という感じで

「稀人は、賓客としてできる限りのおもてなしをする、というのは我々の教義で定めらていることです、お礼など不要です」

そう、その事も昨晩、コバリから聞いていた。けど、それはそれ、これはこれだ

「いずれにしろ、この家にはコバリと、まだしばらくやっかいになります。よろしくお願いします」「よろしくお願いします」

コバリも並んで頭を下げる。


「堅苦しい挨拶はここまで、さぁ、朝ごはんをいただきましょう」

と微笑むアルフ。しっとりと落ち着いた物腰に、思わずお母さん、と甘えたくなる。今度生まれ変われるならアルフの子供になりたい。

「「いただきます」」素直にコバリと並んで手を合わせ、朝食をいただく。


「「ごちそうさまでした」」

朝食を美味しくいただいた後、再度コバリと並んで手を合わせ、一礼。ライラも手を合わせてペコリと一礼する。おそらくこちらの真似をしているだけで、意味は分かっていないだろうが、可愛いので問題なし。

すでにツノも気にならなくなってきた。てゆうかもう、チャームポイントにしか見えない。

ウンウンと一人頷いていると、さて、とコバリが立ち上がる。

「今日の予定を確認しましょう」

「教会に行くのではなくて? コバリ」

「まぁ、そうなんだけど、その前にアズマとこの辺、見て回ろうかと思って」

ピっと手を挙げ、ライラ

「あ、私これから、羊舎に寄ってから、教会にタマゴを届けに行きます」

「OK、ほいじゃライラと牧場行ってから、教会へ一緒しましょ」

「クルマ使いますか?」

いや、徒歩で、とコバリ、タマゴはアズマに運んでもらいましょ、とナチュラルに労働義務を課してきた。おいおい、ならクルマで行こうぜ…

てゆうか、クルマ、あるの?

「二輪車もありますよ」と両手でブンブーンの仕草をするライラ。そりゃ、是非とも乗ってみたいけど、また今度かな。


えーと、と腕時計を見ながらコバリ

「今、8時半だから、教会には11時ぐらいに伺いますって、連絡お願いできるかしら?アルフ」

「いいですよ、どなたに?」

「そうねぇ、まずはキシマ、あと時間があるようならテンマ」

テンマ様、いらっしゃるの? タブン、今週はね、とボソボソ話すアルフとコバリの傍らで、キシマさんはここの教会で一番偉い方です!と教えてくれるライラ、ほう、じゃあテンマは?

「それは会ってからのお楽しみよ」と割り込んでくるコバリ

何、もったいぶってんだよ? と横目でコバリを睨むが、そんなことは意に介さず、「お出かけの準備するわよ」と威勢よく席を立つ。


一旦部屋に戻り、着替えてから下に降りると、ちょうどライラも部屋から出てきた。

春らしいライムイエローの七分袖ブラウスに伽羅色でハイウエストのキュロットスカート、薄手で柔らかそうな皮製のローヒールミドルブーツに、背にはUber的なスクエアなカバンをしょっている、卵入れらしい。持とうか?との申し出に、まだ空なので大丈夫です!とニコニコ元気で返された。ま、卵詰めたら俺が運ぶようだし、いいかな。


ブレない女、青山コバリは浅黄色のミニスカワンピに白ニーハイ、首にはベネチアンチェーンのネックレス、靴はライラと同素材?のショートブーツで、玄関にて腕組み仁王立ちだ。

「さぁ、お出かけしましょう」

いってらっしゃい、と手を振るアルフに見送られながら、外で三人横並びになる。

 本日は晴天なり、抜けるような青空だ。改めて振り返り屋敷を確認する。

 パっと見、外壁のほとんどは板張りに見えるので、木造二階建てかと思わせるが、基礎部分と柱は混凝土。そして家は丸ごと大きな一枚岩の上に乗っかっている。免震構造ってヤツだ。この地域には火山が多いこともあり、大方の建造物は耐震・免振構造になっているらしい。

 向かって右手にはガレージ、確かに小型の四輪車とバイクらしいものがある、そして前庭から奥へと庭が裏手まで続く。左手はリビングのテラスがあり、その上、2階はコバリの居室に客間など。その反対側が俺の部屋だ。アルフとライラの姉妹2人には少々広い家だが、元々は教会のゲストハウスで、コバリと俺が滞在することになり、アルフとライラがお世話のために引っ越してきた、という経緯らしい。


コバリが腰に手を添え、左腕の肘をライラに「ん」と向けると、ライラがその腕をそっと掴む。

「アズマ、アンタも」コバリが同じく右腕の肘を「ん」と向ける。ライラに倣ってワンピの肘のあたりの生地を掴む。

「さ、行くよ」

すると、コバリを中心に、フワリと3人が浮き、若干前傾でフヨフヨと進み始める。高さは50cm~1mぐらい、律儀に道沿いに行く必要は無いので、庭の植え込みから牧草地を超え、最短距離で進む。

「スピードアップ!」

コバリが叫ぶと、周囲にザザッと風が起こり、グンっと背中から押される。一気にスピード上がり、ライラはコバリの右腕にギュっと抱きつきキャッキャしてる。

高さは大したことないが、叢をザザっと飛び越えてゆく疾走感、確かにこれは楽しい。


昨晩の会話を思い出す。

「ちなみにこれは、空を飛ぶ能力、じゃない」

え、どうゆうこと?

スイっと着地するコバリ

「正確に言うと、重力を操作する能力だね」


 先ほどは重力操作の荷重移動のみで進んでいたが、今は前後の気圧を操作し、空気の流れに乗って移動している、ということだ。


ほどなく木造の建屋が見えてきた。思ってたよりも低い。普通の日本の平屋程度の高さだ。

「とうちゃーく!」

三人揃ってザンっと着地を決める。すぐにライラがカバンを肩から降ろし

「羊たち、外に出してきますね!」と木製の大きな両開き扉を開け、建屋の中に入っていく。

厩舎ってもっと臭うものだと思っていたが、ほぼ気にならない。掃除が行き届いているのかな?

建屋の横からぐるりと柵で周囲を囲っているが、柵は大体1m程度の高さで、木の杭に粗めの金網が打ち付けてあるものだ。コバリがチョイチョイと手招きして、自らはピョンと柵を飛び越える。

どうでもいいけど、さっきから無造作にピョンピョン飛んでるからパンツ丸見えやぞ。

「誰も見てないからいいじゃない」

パンチラが怖くてマイクロミニなんざ穿けんわ、とカラカラ笑うコバリ。男前だね。

どうやら俺は人として認識されてなかったようだ、ま、今更だけどね。


ま、1m程度なら、と少し助走をつけ飛び越えて、と踏み切った瞬間、脳天から体の中になにか通る感覚、グンっと体が浮く、「!?」、遥か下に腕組してこちらを見上げるコバリ、空中でなんとか姿勢を立て直し、牧草地に軟着陸する。

「もう、()()()のね」

やるじゃん、とコバリが近付いてくる。なるほど、飛ぶ感覚ってのはこんな感じか、と

先ほどのイメージをなぞっていると、建屋のほうからワラワラと白いモコモコしたものが一斉に出てきた。

 羊か?羊だよな、と思って眺めていると、白い毛玉の群れがこちらに近付いてくる。

近付いて?近付いてくる?と見ていると、まずはコバリの足元にワラワラ寄ってきた。その大きさはせいぜい膝丈ぐらいしかない。小さい。小さくて若干遠近感が狂う。子羊なのかと思ったがどうやらこういうものらしい。

 比較的大きな羊が、若干距離を取り、俺の周りをウロウロする。警戒されてるのか?

一回り小さめの羊の群れを足元にワラワラさせながら、ライラがやってくる。

コバリはすでに大胡坐で座り込み、「よーしよし」と羊たちをわしゃわしゃしている。

「大丈夫ですよ、アズマさんは怖くないですよ」とライラは胸に抱いてる小さな羊をこちらに差し出してきたので、そっと撫でてみる。おぉモッフモフだ、羊の毛ってもっと固いかと思ってたが、全然だ。柔らかく滑らかな毛を堪能していると、周りの羊も警戒を解いたようで、足元にスリスリしてくる。


「この子らにも生体回路(サーキット)がちゃんと備わっててね」と羊をモフりながらコバリ

「ちなみに特性は発電、ライラたちと同じね」

「巻角持ちは、電気特性の生体回路(サーキット)が多いみたいです!」と自分の角をサワサワするライラ。指と角の間で小さくパチパチとスパークさせると、それに呼応するようにライラの足元をピョンピョンしている子羊たちの角からもパチパチと小さな閃光が散る。

発電、電気か、まさにまごうことなき電気羊!

 ジトっとこちらを見ているコバリ、思わず「電気羊ということはアンドロイドの…」と言いかけたが、ツッコミ待ちの気配が満々だったので、辛うじて思いとどまる。

 てゆうか、ライラ達って発電するの?

「あれ、言ってなかったっけ」

「聞いてねぇよ」

「あの家の電力は、おおむねアルフとライラの発電で賄ってる」

「え、そうなの?」

電線見当たらんなぁ、地下埋設かなぁ、と思ってたが、まさかの自家発電か。

「大規模な工場や、商業施設などには、さすがに発電所から電力供給されるけど、発電所も俗に言う再生可能エネルギィしか使ってない」

エコだなぁ…

「巻角族なら、一般家庭の電力を賄うぐらいならだいたい大丈夫らしいよ」

多少、個人差はあるけど、アルフとライラは優秀だから、と羊に埋もれながらコバリ。

スゴイスゴイと褒めると、エヘヘ、とテレて、胸に抱いてる子羊をギュっとするライラ。

うん、今、視界には可愛いしかない。本年度の俺の可愛い大賞に「子羊を抱くライラ」はノミネート決定、ということで良いだろう。


 しばらくコバリ、ライラと一緒に羊たちをモフってたが、食事の時間ということか、羊たちが三々五々散っていく。羊舎からは他の一団も出てきて、すでにモシャモシャと草を食み始めている。牧場には巨岩がゴロゴロしているが、羊たちは全く意に介さず、その上に軽快にピョンと飛び乗ったりして遊んでいる。

「さて」と胸に抱いていた小さい子を放し、ライラ

「卵、集めてきますね!」と羊たちの出てきた建屋に向かい歩き始める。

「手伝うわ」と大胡坐から立ち上がるコバリ。同じ建屋で鶏も飼ってるのかな?

「あぁ、そうか」振りむくコバリ

「今日集めるのは、羊の卵よ」


 え? 何て?

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