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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
49/50

多様性とは別問題

 昨晩は少し飲みすぎた。

夜明け前、ハッと目覚めると、傍らにはスゥスゥ眠るゲンマ。そしてぐるり見回すと、ここは教会警備隊本部の宿泊施設、ゲンマの部屋だ。

 ボーっとした頭で、んーっと記憶を辿る。どうやらヘベレケの自分をゲンマが連れ帰ってくれたようだ。持つべきものは重力操作できる親友だ。

 時刻を確認するとまだ6時前。この宿泊施設でもゲンマの部屋はVIP仕様で、ベッドは大人3人ぐらい寝ても平気な大きさだ、気兼ねなくゲンマの横にもぐりこみ2度寝と洒落込むマレッサ。

 しばらくして、マレッサがグースカ寝ている隣で、ゲンマはパチッと目を覚ます。時刻はちょうど6時半、ゲンマに「通話(コール)」の生体回路(サーキット)は無いが、長年の習慣で培われた体内時計は正確だ。

 傍らのマレッサをヨシヨシと撫でた後、通信機を確認。特に新しい連絡は無い。最新の履歴は、昨夜遅く、マレッサをベッドに放り込み、さて寝ようか、という際にコバリから届いたメッセージだ。

 そのメッセージにはピクチャが添付されており、開いて確認すると、コバリとアズマに、その筋では有名な2人が一緒に写っていた。

 椅子に腰かけ品良く微笑むコバリ、その傍らにスンっと立つアズマ。そしてコバリの隣に腰掛けているのは、黒色の衿無しローブを纏い、銀色の総髪をオールバックにした鋭い目付きの老人、知る人ぞ知るデボポラの真のボス。その後方には堂々とした体躯、銀縁眼鏡をかけた一見、理知的な感じの紳士が立つ。こちらはエピクラテシオングループの総支配人。現デボポラの実質No.1だ。もちろんこの2人はニコリともしていない。

メッセージは簡潔

「良い取引(ディール)でした」


 顔を洗い、着替えの準備をしていると、もそもそとマレッサが起きてきたので、とりあえず、お風呂でシャワーを使わせ、身支度を整えさせる。

 そんなことをしている間にも教会警備隊の各部署から、昨夜から今朝にかけてのゴタゴタについての情報が入ってくる。ゲンマ自身はここでは部外者で、何をするという訳でもないが、一応、内容は確認しながら、マレッサと共にまずは朝御飯だ。

 宿泊施設の食堂はコバリ達の高級ホテルとは異なり、シンプルな長机に簡素な椅子が並ぶ極東の警備隊施設でもお馴染みの造りで、基本はセルフサービス。

 朝食は日替わり2種類だが、小鉢やフルーツなどは取り放題、ドリンクも飲み放題だ。

 ゲンマは鶏スープの平打ち麺にワサッと香菜をのせてズルズル啜り、マレッサはビタミンと糖分補給のため、フルーツ山盛りをモグモグと頬張る。

 エネルギィ補給してようやく頭が冴えてきた。この後は自室で着替え、朝は研究所の第3セクションでアルソス主席とミーティング、人工衛星打ち上げテストについての日程、ロードマップなど詰める、そして…、と本日の予定を反芻するマレッサ。

 今日、博士は研究所にはいない、と聞いている。偶然お会いする、ということは無い。残念だ。

 それにしても昨夜は夢のような時間だった、と反芻するマレッサ。信じられないくらいの広範囲にわたる知識、その深さ。もちろん分かってはいたが実際、直に話を伺うと感激して震える。

 これが初見なら卒倒していたかもだが、中央に来てから何度かお会いしているので、なんとか表面上は上品に振る舞うことを忘れず、無難にこなした自信はある。

ムフフッと、つい思い出し笑いするマレッサ。

 ニタニタしているマレッサを、幸せそうで何よりだ、と微笑ましく眺めながら、食後のお茶を嗜むゲンマ。

「今日、コバリさんとアズマさんは?」そういえば、と尋ねるマレッサ

「ああ」

「今日もセリナンソスみたいね」

へー、楽しんでるのねぇ、と呑気に頷くマレッサ

「そうね」

「とても、楽しんでいるのでしょう、きっと」




「それじゃあ」

「まずは、乾杯しましょう」

「え、何に?」眉を顰めるミロク

「うーん、そうねぇ、この世界に?」

小首を傾げるテンマ

まぁ、いいか、と一同、カンパーイと杯を掲げる。


ここは教会本部居住区域の最奥、テンマの部屋。

 入口すぐには、先程までコバリ達が駄弁っていた応接室があり、その奥には「例の穴」が隠されている書斎と、隣接して居間がある。

 居間の中央には大きな円形のテーブル。1人用としては大きすぎるが、6人で囲むとちょうど良い感じだ。

 最奥の少し座面の高い椅子にはミロクがチョコンと腰掛け、その両隣にはテンマと博士、ミロクに相対してコバリ、その両隣にマリアとアズマ、という並びに自然と落ち着く。

 本日の晩餐は面子が特別なので、給仕係などはいない。料理は傍らに置いたケータリングワゴン、飲み物は移動式の冷蔵庫から、主にテンマが取り出し給仕してくれる。

 もっともテーブルには中華料理屋でお馴染みの回転台があり、基本的に大皿料理をその上に並べ、各自がお好みで取り分けるスタイルなので、さほど面倒は無い。

 並べられた大皿には白身魚の清蒸、バラ肉と根菜の煮込み、小魚の南蛮漬け、青菜炒めや小さな饅頭などなど盛られている。中華~和食系のメニューに偏っているような気もするが、アズマ的にはなんの問題もない。食べるのもお箸だが、日本人4人はもちろん、トマス博士も日本に長く住んでいたので箸使いに不安は無い。マリアの箸の持ち方のほうがなんかイマイチだ。

 ミロクにはテンマが料理を取り分けてやっているが、器用に箸を使って全ての料理を美味しそうにモグモグ頬張っている。

 料理は作り置きのはずだがアツアツ。これはテンマが料理を並べる際に「加熱」の生体回路(サーキット)を発動しているからだ。アルフやライラも食事の際、冷めた料理を温めてくれるが、どうやってるの?とライラに聞いたら「水分子を振動させて、加熱しているんです!」とのこと。要は人間電子レンジだ。

 コバリは勿論「万能(スーパーマルチ)」なので、いとも簡単にやってのける。が、残念ながらアズマにはできない。

「電磁波の周波数を制御する必要があるからね」

アンタにはムリ、とコバリ。

 そのかわり、といっちゃあなんだけど、と重力操作による温度の制御を教えてもらったが、ピンポイントの操作がどうにも難しい。マグカップサイズで試すと、カチコチに凍ったり、熱くなりすぎたりする。

 チマチマした細かい制御をしていると、なんか針穴に糸を通すような、イーーッという感じになるので、温かいものが欲しいときはポットを使うし、冷たいものは冷蔵庫から出す、ことにした。

「ヘッ」と、この役立たずめ、とコバリ。

「アズマさんは、スゴイことができるんですから!」

そんなこと気にすることないです!と言ってくれるのは、優しくて可愛いライラだ。

そんなライラのことを想い、ほんわかしながら、モクモクと料理を食べるアズマ。


 先程から、まだ若いんだから結婚については深刻に考えることはないんだよ、と慰めてくれる隣の博士に訊いてみる

「俺も、この世界の方と結婚してもいいんですかね?」

「もちろん」即答する博士

「実際、テンマ君も私も結婚しているしね」


「先程、コバリさんも言ってましたけど」

お澄ましモードのマリアがチラリとアズマを見る。

「現行法では様々な家族構成が許容されるようになっているのですから」

ウンウンと頷くコバリとテンマ

「いっそのこと、ウチのバルイフをパートナーにしてみるのも良いのでは?」

 本日はグリーン系統色のマルチストライプ衿無しカットソーに、膝丈プリーツスカートとお呼ばれスタイルのマリアがスンッとしながら、わけわからん内容の提案をブッこんでくる。

 さすがに、んんっと言う感じで眉間にシワを寄せるが、すぐにそれはそれでと思ったのか、再度ウンウン頷くコバリ。イヤ、納得すんなや!

「うーん、でも」腕組みして目を瞑るテンマ

「基本的な話だけど、私達って戸籍がないから、法的に正式な婚姻関係にはならないのよねぇ」

「それは大きな問題ではないでしょう」

魚の皮大好きコバリが、白身魚の皮をクルクルと箸に巻き付け、口に放り込み、特に問題なかったのでは?とテンマと博士に問う。

それもそうね、とテンマ

「法的な問題はともかく」

「子供はおそらくできないだろう」

サンプル数は少ないがね、と博士。

「子供が欲しいから結婚する、ということでもないのでは?」

 パートナーに頑強な(おとこ)を勧めてきたマリアが、それこそ問題ナシと一同を見渡す。

「私達と、この世界の種族間でも」

海鮮焼きそば美味そう、と大皿から取り分けながらコバリ

「子供はできるようになるのではないか、と考えています」

ふむ、と博士

「確かに、コバリ君ならできそうな気もするね」

でしょ?という感じで、博士に微笑むコバリ

「いろいろ落ち着いたら、ラカビナ所長にもご相談してみようかと考えています」

あーなんか怖い組み合わせだなぁ、と不吉な予感しかしないアズマ

「将来的には」

「バルイフとアズマさんの子供も?」

 平静を装いながらも、若干鼻息が荒くなるのを隠せないマリアが、コバリに問う

「イヤ、なんで俺がバルイフと子作りする前提で話してんだよ!」

さすがにツッコむアズマ

「まぁ、それはそれとして」

スンッとお澄ましモードに戻るマリア

「まずは自分とアズマさんで子作りしてみても良いかもしれませんね」

「なんでそうなるんだよ!」

まあまあ、と博士に宥められるアズマ


 なんか話がこんがらがっているが、それはさておき、さぞかし可愛いんだろうなぁ、ライラの子供。と思いを巡らすアズマ。

 乳児園にいた小っちゃいライラみたいな可愛い子供達に囲まれる、幸せそうなライラの姿が容易に想像でき、思わずほんわかして微笑んでしまう。

 でも、俺もテンマや博士と同様、ほぼ年を取らないのなら、成長した子供達とライラの最期を看取ることになるのだろうなぁ。とちょっと哀しくなる。

 子供や孫に囲まれて、静かに息を引き取るライラ。教会のそばの小高い丘にある、墓地に埋葬してあげよう。そして天気のいい日は孫たちを連れて、ライラの好きだった白い花を手向けに行こう…


「!?アズマ君」

 さっきまでニヤニヤしていたのに、急にダバダバと泣き始めたアズマに驚く博士。

ああ、とコバリ

「発作みたいなものなので、気にしないで下さい、博士」

 テンマとミロクはちょっと引き気味だが、もう慣れっこになったマリアは気にせず海鮮焼そばをズゾゾッと啜っている。


 アズマが少し落ち着いたところで、話題は昨晩のセリナンソスの事になる。テンマやミロクはもう既に仔細を承知しているので、基本的には博士に説明するような感じだ。

「まあ、端的に言うと」

「ちょっとお願いして、情報を提供してもらったのですよ、博士」


すげぇ、端折ってんなぁ、と昨晩のことを思い返すアズマ


 エピクラテシオンの番頭から連絡を受けた後、ノーマレスタから再びエピクラテシオンへ。お散歩がてら歩いていきましょ、とコバリを先頭にマリア、アズマ、ブロミネ、後方にガンデとメルナ、そしてノーマレスタの支配人が「せっかくですから」と若干悪ノリしてコンシェルジュや合力を引き連れその後に続く。その光景はノーマレスタからエピクラテシオンへと続く大名行列のよう。

 周囲の客も何事かと集まってくる中、さすがにノーマレスタの面々は入口で止められたが、それは想定内、支配人以下ノーマレスタの面々に大歓声で見送られ、コバリ達は最奥のVIPルームへと案内される。

そして先程、勝負した部屋からさらに奥へ進む。

 通路の突き当りの部屋は重厚な両開きの扉が開け放たれており、室内の中央には黒光りする長机。正面には黒色の衿無しローブを纏い、銀色の総髪をオールバックにした鋭い目付きの老人が背凭れの高い椅子に腰掛け、こちらを睨んでいる。その後方には堂々とした体躯、銀縁眼鏡をかけた一見、理知的な感じの紳士が立つ。こちらも。一見して只物ではないことは分かる。

 先程、コバリから教えてもらった。デボポラの真のボスと、その娘婿である実質No.1だろう。

2人の後方には、先程の盆守、合力や敷張、警備担当であろう屈強な男性型がズラリ並んでいる。

一般人ならビビリまくる光景だが、全く意に介さず、室内に入ったコバリが優雅にお辞儀をする

「今晩は皆様」

「本日はよろしくお願いしますね」

ゆっくりと老人が口を開く

「初めましてお嬢さん」

「まぁ、腰掛けたまえ」

 椅子は何脚か置かれてはいるが、腰掛けるのはコバリ1人。

 その右斜め後方に立つマリアは腕組み仁王立ちで、一同を睥睨する。うわー、おっかねぇと思いながらも、左斜め後方にお得意の無表情で立つアズマ。ブロミネとガンデ、メルナは更にその後方に控える。


「本日は、勝負を受けて下さりありがとうございます」

ニッコリと満面の笑みのコバリ。逆にコワイ。

「さすが、世界一のカジノ、ですわね」

いえいえそんな、と後方に控える、紳士。

「お初にお目にかかります、コバリ様」

「私はエピクラテシオングループの代表を務めております、アシュバールと申します」

以後お見知り置きを、と頭を下げる。

「こちらは」

「当グループ、名誉会長のナガクテです」

前に腰掛ける老人が頷く

「よろしく」

 コバリよりも、マリアをギロリと睨むナガクテ会長。もの凄い殺気だが、もちろんマリアは全く動じず、逆にうっすらと微笑む。こちらもコワイ。

「さて」

「お時間を取らせてもいけませんから、早速、勝負といきましょうか」

ニコニコと上機嫌なコバリ。とても1兆の博打をする感じではない。

と、アシュバール総支配人がスッと右手を挙げる

「勝負の前に」

「少しお話できませんでしょうか?」

しばし見つめ合うコバリとアシュバール


「ガンデ、メルナ、あとブロミネ」振り返るコバリ

「あなたたちは席を外してちょうだい」

素直に頷き、退席する3人。デボポラ側も盆守や合力、警備担当などゾロゾロと部屋から出ていく。


そして室内に残るは、デボポラの2人と稀人3人。

「さて」

スウッと深紅の右眼を細めるコバリ

「何の話をしましょうか?」

正面に並ぶ、明らかに異質な虹彩異色の3人と相対し、覚悟を決めるナガクテ

 勝てる喧嘩ではない、とはいえ全く交渉の余地がないわけではない、と事前にアシュバールとは話している。

まずは、とアシュバール

「先程までの、15億はご返却致します」

「アラ」

「それでチャラにしよう、とか考えているのかしら?」

「いいえ」

「何か他に、ご要望があれば何なりとお申し付けください」

深々と頭を下げるアシュバール。一方、ナガクテは目を閉じ腕組み、黙して語らずだ。

フッと鼻で笑うコバリ

「良い心がけね」


「これからあなた方に、いくつかお願いするけど」

「特に書面は作成しないわ」

コバリの顔から笑みは消える

「口約束だから、といって」

「反故にする、なんて馬鹿な事はしないでしょ?」

「もちろんです」即答するアシュバール

 すでに今晩、何人かの構成員が消息不明、となっている、その気になればデボポラ幹部全員、「行方不明」も有り得るのだ。逆らうのは得策ではない。

 

「まずは」

いよいよ本題だ

「お前達の関与した、人身売買の詳細なリスト、過去20年分を提出しろ」

氷の様に冷たい声でコバリが命令する。

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