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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
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盆を敷く

まだまだ宵の口、ということで新しいボトルを注文するベイリー

浮かれモードのマレッサがちょっと落ち着いたところでゲンマに問う

「そういえば、今日はコバリ様のお供じゃなかったの?」

ついつい本人のいないところでは「様」呼びになってしまうマレッサ。

「ああ、今日はお役御免でね」チラッと目を合わせるゲンマとベイリー

「今は黒服のツートップが付いてる」

ああ、ガンデとメルナねー、と呑気に頷くマレッサ。

 特にそれ以上細かい事は尋ねてこないので、マリア殿も一緒だし、問題ないよねー、と軽く流すゲンマとベイリー

 そんな2人の通信機には、先程ガンデから現状報告があった。

『セリナンソスで一発かまして、今はノーマレスタ。待機中』

具体的な事について記載は無いが、本部長室でコバリの「お願い」についての話を聞いていたゲンマとベイリーにはこれで十分だ。ガンデもその辺の事は承知、なのだろう。

さて、

エピクラテシオンはどう動くのかな?

 北大陸の裏社会を牛耳るシンジケートといえど、武力と財力で圧倒するコバリ達に抗う術は無いだろうなぁ。とは思うが、連中も指を咥えて見ているだけ、というワケではないだろう、とかツラツラ考えるゲンマに、ベイリーが、まぁ呑みな、と杯を勧める。

「あなたを護衛から外して、遠ざけたのは」

「ちょっと荒事になるかも、てゆうことなんでしょうね」

まぁ、そうだろうなとゲンマも思っていたので、微笑みながら軽く杯を挙げて、クイッと呷る。

 合法とは言い難い、グレーな事もするよ、とコバリは言外に匂わせていた。

「え?コバリ様たちはセリナンソスのカジノへ遊びに行ってるんだよね?」

なんか揉めてるの?と小首を傾げるマレッサ

「…コバリさん達ぐらいになるとね」気が緩んでフニャフニャになりかけているマレッサをヨーシヨシと撫でるゲンマ

「遊びに行くだけでも一騒動、ってゆうことなのよ」

 ふーん、大変なのねー、と納得したのか、グフフっと思い出し笑いしながら卓上にペタっと伏せるマレッサ。ま、楽しそうで何よりだ。

「遊び、ねぇ」カランとグラスを傾けるベイリー

「今頃、楽しんでいるのでしょうね、きっと」



 ノーマレスタの支配人室がある高層フロアに入る手前で、ガンデとメルナが「私共は外を見回ってきます」と立ち止まり敬礼する。確かにここから先の護衛は不要だ。 

「そう、また出掛ける時にはよろしくね」上品に微笑むコバリ。アズマもペコリとガンデとメルナに頭を下げる。

 マリアがスッと2人に近付く、175cmのアズマが見上げるぐらいなので、おそらく2人とも190cm以上の背丈だろう、一方、マリアは160cmソコソコ程度なので並んで立つと大人と子供だ。小首を傾げて上目遣いで2人に微笑むマリア

「この後、もう少し働いてもらうけど、よろしくお願いするわね」

頼りにしているわよ、とちょっと背伸びして、ポンポンと両者の肩を叩く。本来はマリアがいれば護衛など必要ない、のはガンデとメルナも重々承知だ、それでも労ってくれるマリアに生真面目な表情で深々と頭を下げる両者。とはいえ内心では死ぬ前に一度でいいから、ギュッと抱き締めてみたいな、とか思ってはいる。

 2人を見送り、コンシェルジュに導かれコバリ達4人は支配人室へ、入口では褐色肌碧眼の美人支配人が品よく微笑みながら出迎えてくれる。

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました、コバリ様」

「今晩は、少しお世話になるわね」ニコリと挨拶して、支配人に問うコバリ

「何か動きは?」

「はい、早速、デボポラの番頭から連絡がありました」薄っすら微笑む支配人

「アラ」ちょっと眼を見開くコバリ

「さすが、動きが速いわね」

 支配人はとりあえずこちらへ、と先程アズマ達も寛いでいた豪奢なソファの応接エリアへと案内する。

 まずはソファへ腰掛け、アズマが隣のマリアに小声で尋ねる

「デボポラ?」

「ああ」窓の外に見える、エピクラテシオンの黒いピラミッドのような建屋を指差すマリア

「連中の組織の俗称ッス」

「デボポラって」ソファに優雅に腰掛け脚を組むコバリ

「北方系の古語で、礼節を欠く者、って意味らしいわよ」

「なるほど」

忘八みたいなモンか、と納得するアズマ

 各々の前にお好みのドリンクがサーブされたところで、支配人が簡単に状況を説明してくれる

「番頭からは」番頭、とはエピクラテシオンの副支配人らしい

「今日の事を知っていたのか?ってスゴまれました」

へぇ、それで?とコバリ

「まさかぁ、災難だったわねぇ、って言っておきました」コロコロと笑う支配人


 どうやらエピクラテシオンは迅速に動いているようで、早速、セリナンソスの教会警備隊支部、金融庁、中央銀行などなど、あらゆるルートを使って、コバリたちをなんとかしようと接触してきているらしい。

 贈収賄などの明らかな不正とまではいかないが、今でも裏社会を牛耳るエピクラテシオンの母体となる組織「デボポラ」は、色々な組織の様々な階層に便宜を図ったり、図られたりしている。そのいつものツテを使って、コバリを退かせようと試みているようだ。

 教会報道部は、こういう場合、誰に連絡がくるのか大体把握しているので、本日の夕刻、関係者には事前に通知している。

 デボポラから何かしら接触があった場合は迅速に連絡するように、と。

「今のところ」

「大きな揉め事は起こっていないようです」と支配人。教会警備隊から直接何かしらの連絡があるのだろう。

ああ、とコバリ

「何かしら脅迫じみた事を言ってきたら」

「デボポラの幹部が根こそぎ行方不明になるかも、と伝えるように指示してある、みたいよ」スンッとした感じで嘯くコバリ

「コワイわねぇ」

 それ指示したのおめぇだろ、どうせ、と思うアズマだが、もちろん何も言わずに、柑橘系の香りがする麦汁を堪能している。

「コワイッスねぇ」と棒読みしながら、麦汁を美味しそうに呷るマリア

 いや、それやるのおめぇだろ、とツッコミたいところだが、どうせしらばっくれるだけだろう、と無駄な事はしないアズマ。

 3人とは少し離れたところに腰掛け、通信機をチェックするブロミネ。中央銀行保安部から、中央銀行の渉外係などにデボポラからの接触があった旨、連絡が入っているが、教会警備隊本部長と中央銀行総裁に直接、話をつけているコバリに下っ端からできる事などなかろうに、とフッと微笑む。

「しばらく時間がかかりそうですが」

「少し下で遊びますか?」支配人がコバリに尋ねる

「うーん、遠慮しとくわ」

「今日は、もう15億ほど負けているのでね」

ブロミネに微笑むコバリ、ブロミネがちょっと驚いた表情を見せる。イヤ、下で遊ぶ程度のお金なら、という感じだ。

「それに、あと2時間ぐらいで、また出掛ける事になるしね」

え?という感じの支配人、そんなに早く場は整うまい、と思っているようだ。

まぁまぁ、とコバリ

「あんたたちは」

「遊んできていいわよ」

アズマとマリアにブラブラと手を振る。

ま、折角だからな、とアズマ、マリアもハーイと手を挙げる。

腰を上げようとするアズマを

「ちょっとタンマ」とマリアが止める

「お花を摘みに行ってくるッス」

おお、そうか、と再び腰掛けるアズマ。マリアは軽快な足取りで部屋の奥にあるお手洗いへ。

個室に入ったところで、徐に通信機を手に取る

「どう?」何の前置きもなく話しかける

『特定しました』

「そ、位置情報を」

『了解』

送られてきたデータを見て「ああ、やっぱりね」と頷くマリア

と、次の瞬間、その姿は消える。

 


 中央(セントラル)市街から、北上すること数十キロ、鬱蒼とした森林地帯が広がる区域の一角に、広大な私有地がある。持ち主は中央(セントラル)でも大手の不動産会社だが、この会社は「デボポラ」系列の企業であることは周知だ。

 その私有地を貫く一本道には、何箇所か検問所が設けられており、屈強な警備員が常駐している。その道の行きつく先は急に開けており、広大な敷地の中に、小規模な町といっても良いくらいの建屋が並んでいる。

 そして、その中心に堂々聳える豪壮な邸宅は、明らかに他の建屋と一線を画す警備体制が敷かれており、軍隊と同等の装備を纏った、重武装の警備員が常に屋外を警邏している。

 その邸宅の3階、最高のセキュリティを誇る最奥の1室。照明は天井からの間接照明のみで、部屋全体は薄暗い。そこには重厚で豪奢な家具が設えられており、飾り棚には高価そうな陶磁器や古い刀剣、銃など骨董品が並ぶ。

「その後の状況は?」

室内に少しくぐもった、重厚な低音が響く

「総支配人から各所へ働きかけているのですが、芳しくないようです」

濃紺のシンプルな上下を纏う、古参の執事が深々とお辞儀をしながら答える

 先刻、エピクラテシオンの支配人から直接、緊急で連絡があった。

只の一般客がゴネている、というわけでは無い。まずは総支配人が対応するということで、報告を待っていたのだが…

どのルートからの接触も暖簾に腕押し、効果は無く。ちょっとした脅しをかけても、逆に「下手に動くと、お前らの幹部が根こそぎ行方不明になるぞ」と脅された、そうだ。

この商売はナメられたら終わり、なので普段なら即刻、事を起こすところなのだが、今回ばかりは勝算が無い、と総支配人。

確かに、相手が相手だ、武力に訴えても無駄だ。

 そして、既に、官公庁の関係者に接触して、直接、脅しをかけた連中のうち3人と連絡がとれなくなっている。どこかで拘束されているのかもしれないが、詳細は不明、とのことだ。

 コバリ・アオヤマは本日、中央評議会から、教会警備隊本部、中央銀行を経て、セリナンソス入りしたのは分かっている。各方面、既に交渉済み、ということだろう。隙は無さそうだ。

 中央銀行の関係者からの情報では、総裁と来年度の流通貨幣量についても話していたようだ。

「1兆や2兆は」

「誤差範囲、程度の認識かもしれない」とのこと

いつもの博打とは立場が逆、相手方が武力、財力ともに圧倒している。

勝負は受けるしかない、が、こちらが勝つ見込みは皆無だ。

総支配人以下、デボポラの幹部連中も、対応に苦慮していることだろう。 

 

「それにしても」

ボソッと呟き、腕組みして、しばし考える

何故こんな手の込んだ真似をする?

何のために?

相手の目的さえ推測できれば、落としどころが探れるのだが…

「会長」

おそるおそる、という感じで執事が声を掛けてくる

「それで、総支配人には…」

すると、次の瞬間

急に

目の前から執事が消えた。

シン、と静まり返る空間

え、と立ち上がり周囲を見回す、と

「振り向くな」

背後から、落ち着き払った少女の声

 振り向く以前に、身体が自由に動かせない。正面を向いたまま、何とか声を出す

「何者だ」

「名乗るわけないでしょ?」

ググッと、見えない何かから押さえつけられ、耐えきれず膝をつく。

「こんなことを!」

「まぁ」

首筋に、ソッと添えられる少女の指、を感じる

「余計な事は詮索しないほうが良い」

「この先も、五体満足で生きていきたい、だろ?」

余計ではねぇだろ!と心中で毒づくが、生殺与奪権は相手の手中だ、半ば観念する。

 要塞と言ってもよいほどの警備体制を誇るこの屋敷に、難なく入り込み背後を取る少女、そんな存在はこの世界で1人しかいない。

「…で、私にどうしろと?」

「なに」

「簡単な話よ」

「セリナンソスのエピクラテシオンへ行って、ひと勝負して頂戴」

「…承知した」

「アラ」

「物分かりが良いのね」

「ここで拒否しても、無駄なのだろう?」

「そうね」

「私達は誰と勝負しても良いの」

「あなたが行方不明になったとしても、誰か代わりの人間を寄越すように要求するだけ」

ツゥーッと指が首筋を撫でる。死に直面している緊張感から、汗が噴き出し止まらない。

「では、今から1時間以内に来て」

「それは無理だ!」

「あら、そう?」

「3時間は欲しい」

「ダメ」

「2時間、待ってやる」

「それを過ぎたら、お前らが明日の日の出を見る事は無い」

と、膝立ちの状態から、ゴッと全身が勢いよく床に押し付けられる。受け身が取れないので、しこたま顔面を床に打ち付ける。

「グォ!」

 身体の拘束が解かれたようで、手足が自分の意思通りに動かせるようになった。うつ伏せの状態からゆっくりと起き上がると、周囲を見回す。もちろん部屋の中には誰もいない。

 多少、顔面がズキズキするが他、身体に異常は無い。その気になれば四肢を粉々にするぐらいできたろうに、ずいぶんと手加減されたものだな、とフッと微笑む。

すると、廊下のほうからドタドタと近付く足音がしたかと思うと、勢いよく扉が開く

「会長!!」

 執事が警備員を引き連れて、転がるように室内へ飛び込んで来る。どうやら単に遠くへ連れ去られ放置されただけだったようで、無傷らしい。

「会長!御無事で!」

執事が慌てて、床に座り込んでいる会長に駆け寄り、助け起こそうとするが

その手を力なく払い指示を出す。

「エピクラテシオンへ行く」

「今から2時間以内に到着する。その旨ノーマレスタへ伝えろ」



「お待たせでーす」とマリアがハンカチで手を拭きながら帰ってきた

「おう、それじゃあ行くか」ヨッコイショーイチと立ち上がるアズマ

と、支配人の通信機が鳴る

「ハイ、ああ、今晩は」

チラッとこちらに目配せする支配人、エピクラテシオンからのようで、ちょっとお待ちを、の仕草をする。

「はい、ええ、なるほど」

少し驚いた様子の支配人

「承知しました、今、ここにいらっしゃいますので、お伝えしておきます」

通話を終えて、コバリに向き合う支配人

「今から2時間後」

「エピクラテシオンへおいで下さい、とのことです」

「それまでに、向うは会長と、総支配人が入られるそうです」

 ゆっくりとお辞儀する支配人、まさかデボポラの真のボスである会長が直々にお出ましとは、しかもこんな短時間に、と驚きを隠せない。

 コバリが何かした、に違いないと踏んでいるが、余計な事は口にしない

「あら、そう」

「じゃあ、それまでにもう一杯、いただこうかしら」

細長いグラスを掲げ、深紅の右眼を細める

「景気付けに、ね」

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