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コバリ・アオヤマの華麗なる黙示録(疾風編)  作者: マツモト・ユウイチ
46/54

強者

 重厚な扉の先の部屋は、思いの外広く、窓は無いが部屋全体は明るい。室内は明るいのだが天井を見ても照明器具などは見当たらない。白い天井と壁が発光しているようだ。

 部屋の中央には、凝った意匠の黒光りする木製の大きな円形のテーブルが設えられており、奥に1脚、手前に3脚ほど豪奢な造りの木製の椅子がある。他に余計な調度品などは無い。床には落ち着いた色合いだが、複雑な幾何学模様が編み込まれた毛足の長い絨毯が敷き詰められている。ごく一般的な家庭に育ったアズマは、ちょっと踏むのに躊躇するような見事なものだ。 

「それでは、私が胴を務めさせていただきます」と盆守が奥の椅子に腰掛ける。左右には極東系巻角族の女性型合力が並び、その少し離れた後方の壁際に数人の敷張が並ぶ。

 こちらサイドはブロミネが真ん中の椅子を引く、そこへ微笑みながら優雅に腰掛けるコバリ。

 右にはアズマ、左にはブロミネが腰掛け、少し離れた後方にはガンデとメルナが左右に腕組仁王立ちだ。

 そしてマリアは戸口の前で立ち止まり、小さく手を振っている。

「私がいると」

「勝ち負けにアヤつけられそうなので、席、外してますね」

 振り向いて微笑みながら小さく頷くコバリ。え、俺はここに座っててもいいの?と思いながらも、まぁいいかと、例によって考えるのを止めるアズマ。

 マリアは、ラウンジで一杯やってます、と告げ、踵を返すと、立ち去り際に扉の両側に立つ北方系の屈強な警備員を下から、スゥッと目を細めて睨みつけ、囁く。

「扉は閉めるなよ」

 無表情のまま頷く警備員だが、内心は生きた心地がしない。ここにはアルハンゲスリンクに参戦していた軍関係者や、他にもマリアの関わった作戦に参加した警備隊員なども在籍している。そんな彼らから聞くエピソードは、噂でしか聞くことのないマリア・クシナダの嘘のような話を、そんなものではない、と、更に上回る内容だ。

 そんなやり取りを背中で聞きながら、さぞかし怖いんだろうなぁ、と内心ほくそ笑むガンデとメルナ。

 マリアの姿が見えなくなったところで、敷張が盆守とコバリの前に新品の札を置く。早速、封を切り札を検めるコバリ。もっとも使用するのはイチとロクの2枚だ。その2枚だけ伏せて自分の手前に並べ、残りの4枚は脇に除ける。

 盆守も繰札の封を切り、札を検め、自分の前に積む。

「さて」

「それでは、いきましょうか」

フッと軽く息を吐き、顔を上げコバリを正面から見据える盆守

「そうね」コバリは少し微笑み、左手を向く

「ブロミネ」

「はい」ブロミネは持参した薄手のアタッシュケースを開け、小切手を一枚取り出す

「こちらを」

小切手とペンを受取り、サラサラとサインするコバリ。

「チップに換える必要はないでしょう?」

と、額面「1億」の小切手をスッと自分の左手前に差し出す。

額面を確認し頷く盆守。

改めて正面に座る2人を見る。コバリ・アオヤマの隣に座る少年は、7番目の稀人、テラオ・アズマだろう。先程までメガネをかけていたが、今はもう外して、虹彩異色を隠そうともしない。

 コバリ・アオヤマともども、能力の全貌は明らかにされていないが、彼の出現で宇宙開発のプロジェクトが進められている、とは聞いている。生憎と難しい事は分からないが最重要人物であるというのは分かる。

一般人なら、ヒリつくような大勝負、というところだが両名とも泰然として動じずだ。

 そこで、コバリ・アオヤマの噂を思い出し、ハッとする。

「予言」の生体回路(サーキット)を持っている、のではなかったか?

長年の修練で、表情を変えることは無いが、掌にジワッと汗がにじむ。結果が予測できるのなら、1億という大金を平然と賭けられるのも納得だ。

 だが、サシの勝負で、今更降りることは出来ない。腹を括って繰札をセットする。

「入りました」静かに宣言する盆守。サシ勝負では後ろの合力は煽ったりはしない。

うーん、と悩んでコバリも張札をセット

「揃いました!」

合力が宣言する。これ以降、張方は札の交換はできない。

「双方、開きます!」

サシ勝負のイチロクでは、繰札、張札は同時に開く。

盆守とコバリは各々自分の札に手を掛ける。

少し間を置いて、息を合わせるように盆守とコバリは札を裏返す。

相撲の立ち合いみたいだな、と思うアズマ


「繰札、2!」

「張札、1!」

合力が叫ぶ。

繰札は偶数なので、胴の勝ちだ。一瞬にして1億の金が無くなる。

盆守側の一同は、ちょっとホッとしたのか、弛緩した雰囲気になる。

シビれるなぁ、とてもじゃないが俺には耐えられない、と思うが、ま、コバリだしな、と例によって考えるのを止め、無表情のアズマ。

 当の本人は眉を顰めて「あら、負けちゃったわ」と隣のブロミネに哀しそうな声で囁いている。

ケッ、わざとらしい、とアズマが思っていると、案の定コバリが

「このままじゃあ、帰れないので」

頬に手を添え、か細い声でおそるおそると言う感じで盆守に告げる

「次の勝負は2億で」


倍プッシュってヤツだ。

言ってる内容と態度が合ってねぇ!とツッコみたいところだが、空気を読んで堪えるアズマ。

「承知いたしました」

盆守は嫌な予感しかしないが、ここで勝負を降りる選択肢はない

「それでは、次、行きましょう」



 コバリ達のいる特別室から少し離れたラウンジで、白くて大きなソファにゆったりと腰掛け豪華なフルーツ盛り合わせをつまみながら、細長いグラスで麦汁を呷る黒髪の美少女。

 その少女の周りにはタイトロングドレスの北方系美女コンシェルジュが数人傅いている。そしてまた極東系の女性型警備員がぐるり取り囲み。さらにラウンジ全体の警備員の頭数が尋常ではない。その光景を遠くから眺める一般客は、超VIPのお嬢さんかな?とか思っている。

「そうそう、念のため言っておくけど」

機嫌よくニコニコしながら、周囲にいる警備員にも聞こえるように嘯く黒髪の美少女こと、マリア

「この先の生涯を、五体満足ですごしたいなら」

「私に触るな」

見た目と台詞のギャップがすごい。

 訓練を積んだコンシェルジュの笑顔もひきつる。が、機嫌を損ねず、触らなければ問題は無いのだ、と己を鼓舞する。

 表向きは、とりあえず一休みだ、とソファに埋まるマリア。

だが、もちろん何もしない、というワケではない。


「時を止める」といわれる彼女には、多少の距離的隔絶など、無いに等しい。




表面的には平静を装ってはいるが、盆守は多少焦っていた。

対するコバリは涼しい顔だ。

 この2人を見ると、恰もコバリが勝っているかのようだが、実のところ3回連続で負け。そしてその度に掛金を「倍プッシュ」で倍にしてくるので、最初の1億から、次の掛金は8億になっている。

 このフロアでは1億程度の勝負はザラだが、流石に10億を超えるレベルで殴り合い、となると盆守1人の裁量だけでは、勝負を受けかねる、ということになる。

 ここでこちらが勝っても引かない、のだろうなと思いながら、繰札をセットする盆守。

うーん、とちょっと考えて、コバリも張札をセット。

「揃いました!」

合力が宣言する。

「双方、開きます!」

盆守とコバリは、せーのっと息を合わせ札を裏返す。


「繰札、6!」

「張札、1!」


ああ、という感じで俯くコバリ。累計でもう15億負けだ、そりゃガッカリもするだろう

と、周囲には見えるのかもな、と思うアズマ


眉間にシワを寄せ、ブロミネとボソボソ相談するコバリ

「…次、16億でも、結局1億浮きにしかならないわよねぇ」

「そうですね」

ちょっと考えて、

「それでは手間を省きましょう」

いいこと思いついた風に、コバリがパンと手を合わせる。

「と申しますと?」

「かけ金を上げます」

特に倍々、にする必要は無い。この場は青天井、上限ナシなので特に問題は無い

盆守のほうにクルッと顔を向け、朗らかに告げる。

「次は、1兆で」


少し間が開く

「え?」

盆守がコバリを見る。

もちろん聞こえてはいる。が、その音を意味として把握できない。

「え?」

遅れて、周囲の合力、敷張、も反応する。いくらと言った?と

アズマも思わずコバリを見る。ブロミネは黙って薄っすらと微笑んでいる。どうやらこの展開は承知ということだ。

「次の勝負は1兆で」

聞こえなかったかしら?という感じでハキハキと告げるコバリ

「ブロミネ」

そして声を掛けると、すかさずブロミネが持参した薄手のアタッシュケースから、先程までの小切手とは異なる、立派な厚手用紙の書類を取り出し、コバリに手渡す。

「こちらで」

受取って内容を確認し、スッと盆守にその書類を提示するコバリ

「こちら、中央銀行発行の債券です」

盆守は額面を確認する、確かに1兆だ。ご丁寧に中央銀行総裁のサインもある。

ケタ違いにもほどがある、一気に頭に血が上る。

1兆? 1兆だと?

聞いただけで、負けたら死ぬ、のは間違いないと思わせる、その金額。

この贅を尽くしたエピクラテシオンの建築費用でもせいぜい300億ぐらいだ。

そんな勝負、受けられるワケが無い。

震えそうになる手をグッと握りしめ堪える。


俯いてダラダラと尋常ではない汗を流し始めた盆守に対し、

「さ、続けましょ」

と、全く緊張感のない気楽な感じで促すコバリ

「あ、いや」

「何?」

「そのぅ、ここまでの金額となると、私の一存では勝負を受けかねます」

少し間を置いて、

ゆっくりと話し出すコバリ

「青天井というのは」

「かけ金の上限ナシ、ということなのでしょう?」

噛んで含めるような口調で盆守に問う。

「そうなのですが…」

「あなた方のグループは、純資産で1.5兆はあるみたいじゃない?」

「受けられない勝負、ではないわよね?」

コツコツと卓を叩き、一段低いトーンでコバリ

「顔を上げなさい」

ゆっくり顔を上げる盆守。

「あなたの裁量では、この勝負は仕切れない、ということかしら?」

「その通りです」

再び顔を伏せる盆守。

と、コバリは、ダンッと卓を平手で叩き、立ち上がる。

「では、勝負できる胴を呼べ」

「今すぐに、だ」

うわぁ、もうチンピラヤ〇ザですやん、とちょっと引くアズマ。

 カジノ側の盆守、合力、敷張に警備員までもが動揺を隠せない、そんな様子を冷徹に眺めるガンデとメルナ。彼らもここで何が起こるかは具体的に教えられていたわけではないが、やはり格が違う、と内心ご満悦だ。


「返事は?」

正面から深紅の右眼をスゥッと細め、盆守を見据えるコバリ

「申し訳ございません、上の者へ伝えますのでお時間を下さい」

「別室にて少々お待ちくださいますよう…」


俯いたままの盆守に、一転、穏やかな口調で告げるコバリ

「時間がかかるようでしたら、私たちは一旦、ノーマレスタへ行ってます」

ノーマレスタは、先程までアズマとマリアが遊んでいた教会系のカジノだ

「場が整ったら、ノーマレスタの支配人に連絡してちょうだい」

この展開は想定済みだったのだろう、あっさりと席を立つコバリ

そして身を乗り出し、盆守にグッと顔を近付ける

「そうそう」

「もうすでに4連敗している下手なお客が」

「ヤケになって大金賭けてきましたよ、きっと勝てます」

「って、上の方、に伝えておいてちょうだい」

丁半で4連敗なんぞ良くあることだ、そして一転、連勝も良くある。

そして、そんな楽観的な意見を吐けるような金額では無い、が

「承知いたしました」

と一応、頭を下げる盆守。

 よろしくお願いするわね、と軽快に去っていくコバリ達の気配がなくなるまで、頭を下げ続け、しばらくして後、頭を上げ、フーーーッと長い長い溜息をつく。

内心では、何故こんな目に、と己のツキの無さを嘆く。

が、ボンヤリしている場合ではない、下手すると存亡の危機だ、と奮い立ち、合力に

「支配人に緊急連絡、これから伺う」

と告げるや否や、自身は立ち上がり、部屋の裏手にある隠し扉から最短経路で支配人室へ向かう。

「承知しました」すぐさま通信を始める合力。支配人には現状も簡単に説明する。


 コバリやマリアが来ているのは既に支配人も承知で、何かあれば対応できるよう待機していたので、盆守が支配人室の扉をノックすると、すかさず「入れ」と扉が開く。

 支配人は一見、金髪碧眼で大柄ながらもシュッとした北方系の壮年紳士といった風体だが、このカジノの支配人を務めるだけあって、いろいろな裏事情にも精通する()()からの叩き上げだ。

そんな彼も現状を確認し、頭を抱える

「1兆…」

「一体、連中は何がしたいんだ!」

全く同感だ、汗だくになりながらウンウン頷く盆守


「きっと勝てる、か」

盆守がコバリの最後の台詞を支配人に伝えた後、思案顔で支配人は呟く。

「おそらく、連中は次も勝つ気は無いのだろう」

「え?」

「その後、どうなると思う?」

「え、そんな…」

2兆の勝負、想像しただけで吐き気がする。

しかも相手方には、紙幣を発行・管理する中央銀行がついている。

勝つまで、4兆、8兆と積むのを辞さないだろう。

負けたらこちらは一撃即死だ。どう考えても、勝ち目など無い。


「俺の裁量ではムリだ、手に負えない」

「と申しますと」

「まずは会長と相談役に連絡する」

 と、緊急連絡用の特別回線を専用の通信機を執務机の奥から取り出す。これを使用するのは何時以来だろう、と思いながら。



 途中のラウンジでマリアと合流し、コバリ達はガンデを先頭、メルナを最後尾に配置し、周囲に数多の敷張や警備員を従え、まるで艦隊のように堂々とエピクラテシオンのフロアを闊歩して車寄せへ移動する。

 ズラリとゲートの外に並び深々と例をする一同に見送られて、既に車寄せにて待機していた防弾軽装甲車に乗り込み、移動する。「リムジンッス!」と後部座席ではしゃぐマリアを押さえつけながら「ま、道を渡るだけなんだけどね」とかコバリが言ってたら、その言葉通り、もうノーマレスタのゲートから敷地に滑るように入り、地下の特別駐車場へと向かう。

 もちろん、既に連絡済なので、車寄せ前には黒いロングタイトドレスを纏った極東系巻角美人コンシェルジュが3人ほど待ち構えていた。

「支配人がお待ちです」と一同を案内する。

 コンシェルジュに導かれて、広い廊下を進みながら、アズマがエピクラテシオンの皆さんと同様の疑問をコバリに訊いてみる

「結局、何がしたいんだ?」


「決まってるじゃない」

フッと笑う、コバリ

「遊びよ、遊び」


うわー、やっぱドS怖ーー、と思うアズマであった。

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